Takuanismさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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途中の一歩(上)
雫井脩介 / 幻冬舎文庫
迷うなら動く、それが一番
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やろうか、やるまいか、人生で悩むことは多い。
特にこの手の悩みは、踏ん切りをつけるかつけないか、と言った具合の重大な決断を伴うものが多いと思う。まぁたまに特売品を買いだめするか否かなどのレベルもありう…る訳だが…
それはさておき、本書は独身男性同士の、なかなかリアルな臭い漂う呑み会から話が始まる。自分の呑み会議事録かと思ったが、自分は漫画家ではないので他人事だと気づくレベルのリアルさである。
書籍説明にもある通り、出てくる人物は女性も多い。が、ほぼ男女比は等しく揃えられている。どのキャラも歳相応な不満なり不安なりを抱えていてるが、ただ鬱っぽく嘆いている人々ではないのが好印象だ。
男は揃いも揃って「変わった人」(略さないのは同性としてのプライド)ばかりだが、キャラは一人ひとりよく立っていて、スラスラと読める。肝心の恋愛プロセスも、男目線としては嫌な汗をかく感じで大変良い。
生半可に恋愛一辺倒に描写がかたよる訳ではなく、日々のこと=仕事にも良く焦点が当てられ、いかに独身社会人が出会いにくいのか・結ばれにくいのかを婉曲に炙りだしている構図も好みだ。
……まぁこの点については個人の資質にも依るのだが。
やろうか、やるまいかと迷い悩むのなら、「やってみなはれ」の心意気でやってみる方が人生は楽しめると感じさせる、良作だと感じる。上巻を読み終わったらすぐ下巻を購入・読了したので本レビューは上下巻のものとなる。
ま、読むべきか読まないべきか悩んでいるなら…… 読んだ方が良いよと、老婆心ながら申し添えておきます。
続きを読む投稿日:2015.05.11
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黒い家
貴志祐介 / KADOKAWA
満員電車で倒れるかと思った
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生理的嫌悪感、の一言に尽きる。あまりの生々しい描写に、貧血で倒れそうになってしまった。
面白い。土石流の如く物語は展開するくせに、その光景からまったく音がしないかのようなアンバランスさが不気味。
あ…りがちな、「台詞的にはOKなんだけど、実際、現実にこんな喋り方するか?」的なセリフ回しがほとんどなく、
それがまたこの作品全体の持つ不気味さに奥行きを持たせているように思う。作者の方は余程の観察力をお持ちなのだろう。怖気がわくほど生々しい。
読んでる脳がノンフィクションを読んでるものと錯覚したのでは? と思うくらい、吐き気をもよおすほどのリアルな恐怖感が丁寧に描かれているので、
怖いもの好きの方には是非とも強くオススメいたしたい。 うぇゲロゲロ…… 続きを読む投稿日:2015.06.09
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舟を編む
三浦しをん / 光文社文庫
情熱は才能か?
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辞書作りに邁進する人々の物語。情熱をもって仕事をこなせるなんて、羨まし過ぎる人々の話でもある。
とはいえ、皆が皆、才気あふれるキャラクタな訳ではない。しかしそんなキャラクタたちさえも、ただ事ではない情…熱に触発され、変わっていく。
もし何か自分の人生がつまらないなぁと思うのであれば、一度この一冊をお読みすることをお勧めしたい。
情熱とは人を動かす原動力だ。情熱は才能ではなく、自らの欲求の根源なのだと思う。何かをやり遂げたい、何かを始めたいと思わせてくれる。
確かに読んだだけで自らの人生がばら色に変わるものとは思えないが、情熱をもって何かに臨む面白さを思い起こさせてくれるだけでも、読む価値はあるだろう。
とはいえ、某カップルのくっつき方があまりにもテキトーなので、その点は減点させて頂いた。まぁ恋愛小説ではないから良いとは思ったが、これはちょっと…笑 続きを読む投稿日:2015.06.20
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吉田茂-尊皇の政治家
原彬久 / 岩波新書
歴史の岐路に立った宰相
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一国の宰相に求められる決断は、他の何よりも重い責務があるものと思う。
世界史上、類を見ない大戦争の終焉を迎えた、敗戦国の宰相となった男は何を考え行動していたのか興味があった。
吉田茂その人は日本史上…、欠かさざるべき逸材であったことは本書を読まなくとも解りきっていることだが、
その思想背景を知れば知るほど、なるほど歴史により育てられた人物であったことが良く解った。
帝国主義瓦解の時代から米ソ冷戦に至るまでの間に外交官・政治家として生き抜いた男が持つ考えは、
一重に日本という国を守るという意志から生まれでたものばかりと感じる。ひとりの国民として感服する思いがあった。
国家存亡の際にあって、このような(国際)政治的バランス感覚を持った人間がトップに立ったことは、日本にとって幸運だったと言える。
★四つにしたのは、最後がやや駆け足だったからだ。反吉田体制における吉田の記述が乏しく、希薄な印象を受けたからである。とはいえ、本当は4.5くらいの気持ちなのだが……
余談だが、鳩山一郎の(主に九条に関する改憲を標榜した)憲法調査会の下りと、吉田自身、九条はあくまで敗戦国としてその武力放棄を一時的に定義したのみという解釈は面白かった。
半世紀以上前の政治家たちの考えと、現政権の目指すべきところと合致しているところがまた興味深い。やはり歴史は繋がっているということだ。
極東国際軍事裁判にも国際政治学的に興味がある為、今後はそれら関連書籍にも手を伸ばしていきたい。とまれ、本書は万人に良く読まれることを勧められる教材だと思った次第。 続きを読む投稿日:2016.02.10
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ヨーロッパ鉄道旅ってクセになる! 国境を陸路で越えて10ヵ国
吉田友和 / 幻冬舎文庫
西へ
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なんと旅情を感じさせる一冊だろう。文章から香る著者の旅行愛は相当である。
書籍説明はものすごく簡素な書かれ方をしているが、ページをめくれば異国情緒のオンパレードで、
次へ次へと読ませる軽快な文体と相…まって、さながら旅行に同道している気分になってくる良作。
特にワタクシのような、欧州への旅を夢見るだけのサラリーマンにとってすれば、中々にグッと来る内容だ。
旅行気分とはいえ、幸不幸もあるもの。旅先で感じた喜怒哀楽を余すことなく表現していることは特筆に値する。
旅慣れているからこそ、その時々の感情を冷静に書けるのかな、とも思った。
平たく言えば、旅先でありがちな「いやなこと」もしっかり描かれていることは、単なる「旅行オススメ!さぁ皆さんもどうぞ!」的な本ではない…… と思う。
なので、尚更著者の行動に一喜一憂(?)しながら読むのを止めることが出来なくなるのであった。
面白かったです。旅したいわ…… 続きを読む投稿日:2016.02.25
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世界一周デート 怒濤のアジア・アフリカ編
吉田友和, 松岡絵里 / 幻冬舎文庫
これが原点の原典?
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G.W.に友人二組の結婚式2連続に出席し嬉しながらも疲弊した、こどもの日。あまりにも良い天気の中、あぁどっか行きたいなぁとぼやく男は閃いた。
これは… 吉田さんだなと。吉田さんの著作で”旅行”しようと…。そういやソニーさんからG.W.限定ポイントも貰ってたなぁなどと思い、吉田さん旅行記を検索。
ヨーロッパと台湾は読んだから今度は他の地域かなーなどと思いつつ見つけた「世界一周デート」の文字。なんと前後編となる壮大な記録とのことで、期待に胸を膨らませながらポチる。
おや? 奥様も著述家とのことで、その情感溢れる文体は旦那さんのそれよりもやや辛口かつ哲学的な雰囲気。夫婦で同一イベントを描く手法は中々興味深い。
どの地域の内容も体感した感想を素直に書かれているようだが、若い頃合いのものだからか、表現もセンシティブで一期一会を感じさせるものが多かったように感じる。
しかし何故だろう、もっと食を、食の描写を! と思ってしまう。いや、結構食べてるんですけどね。カレーとか、カレーとか。爆笑しましたココらへんの下り。
5時間ぶっ通しの読書感想文は以上。後編に続く。 続きを読む投稿日:2016.05.05