クラフト★ビア★マンさんのレビュー
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愚行録
貫井徳郎 / 東京創元社
なぜインタビュー形式にしたのか思い知らされる怪作
6
斉藤孝の「読書力」という本に、「読書の醍醐味は、実際には会いたくないような癖の強い人に会えること」とあったが、本作はまさにそんな嫌~な人間、人間のネガティブな側面を、インタビュー形式の独特のスタイルで…紡いでいく。
「いやー、めんどくさいおばさんだな」
「自分勝手で友達になれそうもないやつだな・・・」
「他人を手段のように扱いすぎだろ・・・」
と心の中で突っ込むこと多数。
なんというか、自立していないというか、どこかまっとうな大人になりきれていないような、後味の悪い人々。
そして、そのインタビューの合間に挟まる、謎の兄妹の不気味な会話。
本の最初には、一家殺害の事件の真相をあぶりだすためのインタビューが始まる前に、何の関係があるのかわからない児童遺棄殺害のニュース。
読み始めは、物語の構造がつかめず混乱する。
半分程度読んだところだろうか、次第にどこに向かっているのか見え始めるが・・・・ああ、やられた。緻密に計算された見事な構成に、なぜインタビュー形式で物語を編む必要があったのか思い知らされる。
物語の構造を追いかけたくなり、思わず、読み終わった後に人物相関図を書いてようやく納得できた。
立場の異なる人それぞれの心理が非常によく書けていて、特に被害者と加害者の価値観の乖離の激しさに、「人間は話し合っても分かり合えないことがある」と絶望的な気分にされます。
読む価値のある本だと思います。 続きを読む投稿日:2014.07.01
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BIOMEGA 1
弐瓶勉 / ウルトラジャンプ
”シドニア”作者の本当の姿が見える超ハードSF
8
最近「シドニアの騎士」のアニメを毎週楽しみにしてます。
売上もじわじわ伸びているようで、リーダーストアで目にする機会も増えたなぁと思います。
そのシドニアの作者、弐瓶勉さんの本当の姿が見える、超ハード…SFが本作「バイオメガ」です。
設定、ストーリー、作画、セリフすべてがまったく読者に媚びず突っ走りまくり、超パースのきいた構造物の描写にしびれます。
何度か読んだのですがどんな作品か人に説明する自信がありません・・・。
(説明文読むだけでも設定の複雑さが伝わると思いますが・・・世界観はシドニアと共通点あり)
シドニアよりだいぶ前に読んでいたので、シドニア読んだときは同じ作家と思えませんでした。
シドニアは、作画もストーリー展開も全く違い、かなり大衆寄りというか、わかりやすさをとりこんだなあと。
バイオメガを読むと、まさかこの作者がハーレム描写とかラブっぽい描写を書くとは全く思えない・・・(笑)
正直誰でも楽しめる作品ではないので、SF小説とかSF映画とかに耐性がある人か、どれだけぶっ飛んだ作品なのか怖いもの見たさで試したい人、
弐瓶勉という作家を深く知りたい人にお勧めします。
(内容は他に見ないすごいものですが、一般受けしないという意味で星は3つで。好きな人は5つけるのじゃないかなぁ。) 続きを読む投稿日:2014.06.19
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独断流「読書」必勝法
清水義範, 西原理恵子 / 講談社文庫
今の感覚で読んでも面白い過去の名作たち
3
私はほとんど国語の教科書で名作とされていた小説を読んでいない。
夏休みの課題図書に指定されるような本は文章が古かったり、なんかいやな気分になるやつが出てきたり、何がいいたいのかよくわからず、のめりこめ…なかった。
夏目漱石、川端康成、三島由紀夫、谷崎潤一郎、志賀直哉、ドストエフスキー・・・
どれもこれも中学生、高校生の時もダメで、本棚に置いたままにされてしまうことばかり。
そんな人間だからか、
「文学史に燦然(さんぜん)と輝く20作品を、シミズ博士のウンチクとサイバラ画伯の過激なマンガで大胆に解釈」
という紹介文に惹かれ、ざざっと名作の説明がされているのなら読んでみるか(サイバラ結構好きだし)、ということで本書を手にした。
ポイントは2つある。
1つはシミズ博士の歯に着せない正直な書評と、現代の私たちから見たときにおける名作の価値の発見
2つはサイバラの時にはレビューすべき本を読まないで作家のイメージだけで文句をいったりする型破りのマンガ
シミズ博士の博識でありながら平易な文章で、本をそれほど読まない人でも名作と呼ばれる所以がしっかりわかる解説はすばらしく、敬遠していた本もむしろ敬遠するがゆえに楽しめるのだと感じさせる。中学生のころに感じていた違和感や生理的な気持ち悪さそのものが文学の味なのだと説く。
大人になったからかもしれないが、紹介されていた泉鏡花「高野聖」を読んでみると(青空文庫でリーダーストアで無料で読める!)、なるほど不気味さが類を見ない文体で表現されており、のめりこみ過ぎて電車を乗り過ごしてしまった。これには驚いた(汗)久々に読書にのめりこむ体験を味わった。
サイバラのマンガは面白いと感じられるところ(泉鏡花の名前が気持ち悪いから読みたくない、とか)と、お前さすがにもうちょっと仕事しろ、と思う乱暴すぎるところがあったが、よいスパイスになっているかな?
新しい本に手を出したいけど何を読んでよいかわからない人、普段マンガばかりで本をあまり読まないけど名作を読んでみたい人にはとてもよい本です。
紹介されている本が気になったら、検索すると青空文庫でたいていでてくるので、無料ですぐダウンロードして、解説と本編を行ったり来たりしながら読めるのは電子書籍のうまい使い方だと思いました。
続きを読む投稿日:2014.06.09
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僕だけがいない街(4)
三部けい / ヤングエース
今度はうまくいってるっぽい・・・
5
再びの子供時代。
覚悟を決めた主人公に呼応するように味方が増え、不気味さはところどころに垣間見えつつも物語はどんどんと好転していく。
本巻は前3巻と比べると全体的にうまくいっていて、逆にこの先が不安に…なります。
続きを読む投稿日:2014.06.09
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亜人(4)
桜井画門 / good!アフタヌーン
亜人テロリスト佐藤の暴走で新たな局面へ
4
主人公のキャラクターが恐ろしく非人間的になってきていて、そこを批判しているレビューが目立つ亜人。
4巻はさらに不可解さが増して、ギョッとさせられます。
人間と亜人のはざまで揺れる、人間味を失いたくな…い主人公・・・なら、寄生獣、東京グールと同じ構造なのだが、そこはまったく違う方向に振っている。
gantzの泉・・とも少し違うし、驚くほど厭世的。
と、つかみがたい主人公はおいておいて、亜人テロリスト佐藤の暴走がとどまることを知らず、物語は大きく動き始めます。
gantzの新宿編のテロ表現も空恐ろしく読んでましたが、また違う角度からの恐ろしさ。
亜人同士の考え方の違いも見えてきて、物語は複雑さを増してます。
賛否両論ある作品ですが、絵は大友克弘を思い起こさせるような正確さと動きのある表現が素晴らしく、デビュー作なのにすでに100万部超えしているのも納得できます。
アラも目立ちますがそれはおいておいて、まだまだ先が楽しみなマンガです。
(本編関係ないけど中表紙のイラストは寄生獣のオマージュなんだろうな・・・劇似) 続きを読む投稿日:2014.05.13
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ガダラの豚 I
中島らも / 集英社文庫
題材は重たい。なのにスカッとした中島らもらしいエンタメ小説
19
つい最近、村上春樹が地下鉄サリン事件を取材したドキュメンタリー「約束された場所で」を読みました(残念ながら電子化されてない)。
オウム真理教信者がどういう経緯で入信し、地下鉄サリン事件をどうとらえてい…るか、ということが非常によくわかる良著で、入信に至る経緯を見ていると、理由は様々であるものの、私から見ると「いわゆる普通の人」という感じから少し逸脱していて、どこか空虚な人生を送っているように読めました。
本作も、奥さんが空虚がゆえに新興宗教にはまっていっていく描写はまさにそれで、どう考えてもオウム真理教をモチーフにしているのだろう(紙書籍の発表年度を見てもそう思える)、マインドコントロールの手段も同じだった。
このあたりの描写は、読んでいて空恐ろしくシャレにならないのですが、中島らもが描く、圧倒的に現実離れしていているのにどこかにいそうな主人公のおかげで、小説全体は気軽に読める物語として、きちんとエンターテイメントしています。
ちょっとやそっとの問題は、もっと大きな問題を抱えているから笑い飛ばせる、みたいな変に生きる力に満ち溢れている人物造形は中島らもの得意分野だなぁと。
こんな人物が、「約束された場所で」に出てきた人たちにも身近にいたら、あんな悲劇は起こらなかったのに。
なんてことも思ってしまった。
第2部はまさかのアフリカ編で、こちらもぜんぜん違う面白さ。おすすめです 続きを読む投稿日:2014.04.14