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仲達
塚本青史 / 角川文庫
司馬懿仲達という人
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三国志演義を知っている人にとって、司馬懿仲達とは演義後半の重要なキャラクターであり、孔明のライバルであり、孔明の凄さを強調するためのやられ役でおなじみだと思います。本書では、敵役として出ることが多い司…馬懿を主人公に据えた物語です。が、劉備への義を貫き、無謀とも思える北伐を繰り返した孔明と比べると、キャラクターとしては少し弱いように感じました。
司馬懿は司馬懿で、魏という国を支えているのですが、どうしても孔明と比べると悲壮感がない。まあ、これはしかたがないのかもしれませんが。
ただ、物語として面白いかどうかと言われれば、面白いです。はじめは魏VS蜀・呉という国同士の戦いであったものが、やがて魏国内の権力争いに重点が置かれていきます。このようなものをきちんと描いた物語はなかなかないため、非常に新鮮な気持ちで読めました。
また、蜀がとても不気味な国として描かれます。妙な薬(麻薬?)を製造し、兵士の怪我の治りを早めたり、あの君主の変貌の原因になったり・・・。物語の中では、蜀国内の状況がまったく描かれず、伝聞のみで語られるのがそれに拍車をかけています。
本書は仲達の死で閉じられますが、個人的には、魏の滅亡・晋の統一まで描いてほしかったなと思いました。 続きを読む投稿日:2014.10.21
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Self-Reference ENGINE
円城塔 / ハヤカワ文庫JA
なんだこれ? わけわかんない! でも面白い。
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ジャンルとしてはSFになるんですよね。確かにSFだなあというお話もあるのですが、それよりも、なんだか高尚な「与太話」を聞かされているような気分になります。(実のところ、円城さんの本を読むと、どれもそん…な気分になります)
何言っているのか(私の頭では)理解できない。それでも、言葉のセンスと不思議な描写の魅力でなんだか読めてしまう。そしてわからないのに、読後感はすっきりして、なんだか得した気分になる。何言っているのか分からないかと思いますが、そんなお話です。
ここまで言っておいてなんですが、好き嫌いのはっきりする作家さん(作品)だと思いますので、合わない人は「こんなのつまらないよ!」とお怒りになるかもしれません。もし読んでからそう感じたらゴメンナサイ。責任は取れませんが。 続きを読む投稿日:2014.05.23
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沈みゆく帝国 スティーブ・ジョブズ亡きあと、アップルは偉大な企業でいられるのか
ケイン岩谷ゆかり, 井口耕二, 外村仁 / 日経BP
アップルへの幻想と現実
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ビジネス書ということで、取っ付きにくい、読みにくい本かと思っていたら、思いがけず引き込まれた。文章もわかりやすく、ある部分では小説でも読んでいるような感覚になる。あまりビジネス書に慣れていない人にもお…勧めできる。
本書の中で出てくるのが、アップルはソニーのような「偉大な」企業から単なる「良い」企業に変わってしまうのか? という問いかけだ。こんなところでソニーの名前を見るのは日本人として非常に悲しいものであるが、作者の言っていることはもっともだと思う。ソニーを始めとする日本企業が、アップル、グーグルだけでなく、サムスンやファーウェイのようなアジアの企業相手にも苦戦しているのも、ある意味しかたのないことなのかもしれないと感じる。
サムスンとの特許戦争や、サプライヤーとの問題、フォックスコンのひどい労働環境なども詳しく記載されていて興味深い。しかし、このような問題を持って、「アップルは悪だ」とは必ずしも作者は言っていない。そのような問題は、他の企業も抱えているものだからだ。ただ、アップルは良くも悪くも目立つため、異常なほどの攻撃にさらされてしまう。(もっとも、アップルの姿勢にも問題はあるのだろうが)
また、この本では必ずしもジョブズを神格化しすぎてはいない。ジョブズにも失敗はあった。iphone4のアンテナ問題がそうだし、7インチサイズのタブレットは売れないと判断したこともそうだ。そもそも、アップルが今抱えている問題はジョブズがいた頃からあったものだとはっきりと書かれている。ただ、ジョブズ亡き後は新しいイノベーションを生み出せなくなったために、批判を浴びやすくなっただけだ。
アップルが今後どうして行くべきなのかはわからない。まあ、答えがわかっていれば、日本の家電産業も苦しむことはなかったのだろうが。Macとipad、iphoneを持つ身としては、また新たなイノベーションをアップルが起こしてくれることを期待するだけである。
それにしても、アメリカ人がもつアップルの幻想は凄まじいものだと感じた。本書では「アップルは人々に新たな価値を与える存在」だとアップル自身が言い、アメリカ人たちもそれを信じている節がある。自社の利益ではなく、顧客を喜ばせることを第一にしている存在だと。
だからこそ、サプライヤーや特許、税の問題でアップルが利益を追いすぎているとバッシングされている状況が描かれている。
私のような1アップルユーザーの感覚では、「利益追求なんて当たり前じゃないの? 大企業ならどこでも黒い部分くらいあるでしょ」と思ってしまうので、アメリカ人の持つ「アップル=善」のイメージには驚かされた。 続きを読む投稿日:2014.10.21