casualjさんのレビュー
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密航定期便
中薗英助 / 文庫コレクション 大衆文学館
「黄金を抱いて翔べ」との共通点
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このあいだ井筒和幸監督の「黄金を抱いて翔べ」を見たら、海峡をわたって韓国に逃走する計画、左系出版社の皮を被ったテロリストなどが出てきて、ふとこの小説のことを思いだした。
原著発表は1963年というから…、えらく昔の作品に思えるが、自分が読んだのはそう昔でもなく、その時点でもあまり古さを感じなかった。乾いた文体のおかげかもしれない。対馬で起きた在日朝鮮人の事件と韓国における当時の朴正煕クーデター問題が絡む筋立てで、スピーディーかつ骨太な良作である。
映画「黄金を抱いて翔べ」自体、全体的に少し昔の日本の雰囲気を出そうとしていたが(携帯電話が出てくるから実際は現代)、そこに映し出される映像は、まさにこの「密航定期便」の雰囲気によく似ている。ただ、それが井筒監督の発想だったか、原作の高村薫が中薗英助の影響を受けたからなのかは、原作版「黄金を抱いて翔べ」を読んでないのでわからないのだけど。 続きを読む投稿日:2013.09.24
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I【アイ】(1)
いがらしみきお / 月刊IKKI
答えの出ないことに答えを出そうとする真面目な宗教マンガ
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宗教ないしは信仰について描かれたマンガ作品。かなりの部分が「出たとこ勝負」で描かれたのだと思う。といっても、思いつきを並べたということではない。全くの推測だが、おそらくこの作者は、当初考えていた筋書き…を相当捨てながら描いたはずだ。こう来たらこうなる、というような発想を脱臼させる展開が多く見られる。
全3巻を通して、主人公は少年ふたりである。途中からは、ほとんど片方しか出なくなる。彼らの子供時代から大人になり、片方が死ぬところまでの話なのだが、起きるエピソードの何がどうして彼らがこうなったのかが、明確に説明できない。神を見たとか、超能力的なものを発揮したようなしなかったような、そういうことが起きる。力を発動したきっかけらしきものも描かれている。しかし合理的には理解できない。
なお、最終回の最後の最後に、一応の「答え」が出る。
これに納得する人もいるだろうが、自分は首を傾げた。もっとはっきり言うと、「それは違うんじゃないの」と思ったのだ。そういう意味で、自分がこの作品から受け取ったメッセージは作者が言いたかった結論とは違うかもしれないのだが、「合理的でないこと、答えを持たないことこそが神とか信仰というものなのだ」というような理解をしている。 続きを読む投稿日:2015.04.03