
七王国の玉座〔改訂新版〕(上)
ジョージ・R・R・マーティン,岡部宏之
早川書房
アメリカのTVドラマGame of Thrones原作第1巻
ものすごい緊張感のある作品。ファンタジーだからといって夢と冒険、あるいは勇気と友情などを想像してはいけない。 ここにあるのは陰謀と殺戮と裏切り、そして死と恐怖です。これぞダークファンタジー。 緻密に設定構築された世界は、暴力的で薄汚れており下品さを感じますが、その世界観こそがファンタジー作品とは思えない恐ろしい程の緊迫感とリアリティーを生み出しています。 多数の登場人物たちは皆個性的で、この世界の中でたくましく生活していますが、いつも死と隣り合わせで1ページも見逃せない緊張感。読んでいる方が喉がカラカラに…(笑) 本”七王国の玉座”はシリーズのプロローグ的な役割を担っている作品。 この辛口の氷と炎の歌シリーズは文句なくオススメです。 最後に…”冬来たる”です(笑)
2投稿日: 2016.09.10造物主の掟
ジェイムズ・P・ホーガン,小隅黎
東京創元社
ハードSF的異世界ファンタジー?
とてもユニークな設定のハードSFです。 科学者VS詐欺師の流れで進むのか、と思わせておいて… 異星の独自に進化を遂げたロボット文明… しかも中世暗黒時代のヨーロッパを思わせる文化を持っているという… 彼ら機械人自身は意思を獲得したハイテクロボットなのにもかかわらず、人類の中世程度の文化しか持っておらず、人類からすればまさにカオスな世界です。 そこに暮らす彼ら機械人たちの姿が生き生きと描かれています。宗教や科学を探究しようとする者や権力を我が物にしようと陰謀を画策する者たちなどが。 その世界を我々人類が訪れて関わっていくことになるお話なのですが、私は、これは”ハードSF的異世界ファンタジー”だ、と感じま した。 しかし一筋縄ではいかないのは、この世界が気圧が地球の1,5倍、気温は零下179℃、重力が0,14G、メタンガスと氷の大陸に覆われた本当の意味での異世界だということ。 また機械人たちがどうやって”進化”し子孫を残してきたのかなど、興味深い設定になっています。 著者のホーガン氏はこれら設定(屁理屈?)を考えていたときは、きっとニヤニヤされていたのではないかと思います(笑) 終盤は意外とあっさり終わってしまうので、続編の”造物主の選択”が気になるところ。
2投稿日: 2016.09.04バビロニア・ウェーブ
堀晃
東京創元社
ハードSFらしい作品
現実世界では先日、13億光年彼方の重力波を歴史上初めて観測することに成功した、というニュースで持ちきりになりました。 そのあまりにも巨大なスケールと人類の偉業には感嘆するばかりです。 この作品は太陽系から3光日の距離に謎のレーザー光束を発見した人類が受けた恩恵と、それよりも謎を探りたい科学者達の行動が描かれています。 科学者達が何か実験を進めようとするたびに予期せぬ事態が発生… いったいバビロニアウェーブとはなんなのか? 読む者に様々な想像をさせる作品だと思います。その一つのヒントになるエピソードで作品は終わり、将来の人類と宇宙のあり方に希望をもたらしているところも良かった。 また主人公が科学者ではなく、太陽系内の貨物定期航路パイロットであるところも秀逸で、生い立ちや性格などもよく練られていると思う。 全体的には他のレビュアーの方も書かれているとおり、何者かの意思を感じさせるような不気味な展開にはアーサー・C・クラーク氏の”2001年宇宙の旅”を彷彿され、サスペンス的要素もあって楽しめた。
0投稿日: 2016.02.14楽園の日々 アーサー・C・クラークの回想
アーサー・C・クラーク,山高昭
ハヤカワ文庫SF
巨匠の青春時代?
クラークとはいえ、エッセイなのだから軽く読み終えるだろう… と、たかをくくって読み始めたのですが、意外にもボリューム満点でした。 内容は、若い頃に影響を受けた様々なSF作品に関しての私感を、当時の思い出、あるいは人物との出会いや交流などを交えながら描かれており、スタンリー・キューブリックやロバート・A・ハインラインといったSF界における重鎮達が次々と登場します。 中でもあのクトゥルフ神話で有名な、H・P・ラヴクラフトにまで言及されていたのは、私には意外な驚きでした。 そういえば、クラーク氏の作品「幼年期の終わり」や「宇宙のランデヴー」などはラヴクラフトっぽい雰囲気もあるかな~… などと勝手に妄想しながら楽しく読むことができました。 古典SFファンなら迷わずオススメです。
1投稿日: 2015.11.28百億の昼と千億の夜
光瀬龍
早川書房
膨大なエネルギーが必要
学生時代に読んで衝撃を受けた作品です。 電子書籍化されて久しぶりに読んで見ましたが、やはり名作は名作で、古さなどはみじんも感じさせませんでした。 他の方もレビューされているとおり、本書は日本SF小説における最高傑作の一つと思います。 物語は実に静かに、かつ詩的に始まりますが、読み進めていくうちに次第に謎めいてきて、 読み手の脳内で様々な疑問や、あるいは混乱を生じさせていきます。 そのうち、時間や空間という観念さえ混沌としてくるなかで、徐々に物語が見えてくるのですが… あまりにも話のスケールが大きすぎて終点が見えてこない感じで、自分でもどんな結末を期待しているのかが、 わからなくなってきます。 そしてついに読み終えた後、何とも形容しがたい感覚が心の中に深く残ります。 その感覚は"諸行無常"とでも表現すればいいのでしょうか。 もはや面白いとか、面白くない、といった批評すら、この作品には相応しくないと思ってしまいます。 少なくとも、こんな感覚を覚えるSF作品を私は他には知りません。 まちがいなくオススメです。 ただし、この作品を読むためには、膨大なエネルギーが必要なのでご注意を…
1投稿日: 2015.04.15ダンタリアンの書架1
三雲岳斗
角川スニーカー文庫
アニメをみた人も楽しめます
アニメ化されている作品ですが、ダリアンの服装設定など、所々に違いがあって、 原作はこうだったのか!などと発見で楽しむのもあり。 また、本作品の魅力は、登場人物も含め、その独特のダークでミステリアスな世界観にあるように思います。 第一次世界大戦後の英国が舞台となっていることが、我々日本人からすると、異世界的な趣を醸し出していて、 "この世に有りうべからざる禁断の書物"や"悪魔の書架"などといった設定が違和感なく溶け込んでいます。 登場人物たちも、それぞれに魅力的で、特に本1巻においては第5話に登場する焚書官ハルと相棒のフランが、 主役級の存在感を漂わせており、今後ダリアン達との関わり合いがどうなるのか楽しみです。 この1巻では第1話と2話、そして断章がアニメ化されていないので、そこも読み甲斐のあるところです。 ともあれ、読む人によって、独特の世界観が好きか嫌いかにハッキリ分かれる作品と思いますが、 私はお気に入りです。
0投稿日: 2015.04.15スター・レッド
萩尾望都
Sho-Comi
これぞ不朽の金字塔!
何度でも読みたくなるすばらしい作品です。 少女マンガ系SFでは不朽の金字塔と言ってもいいと思います。 作品世界がSFということで、特に女性にはハードルが高いと考える方もおられるでしょうが、 決してそんなことはありません。 少年向けSFのようにマシンや兵器などの描写はほぼありません。 どちらかというと精神世界の描写が多い作品でありテーマでもあります。 かなり古い作品ではありますが、全く古さを感じさせずに一気に読んでしまいます。 というか途中で止めたくないみたいな。 作品はレイ・ブラッドベリを思わせるような独特のSF世界を 萩尾望都先生ならではの透明感ある美しいタッチで描かれていて、 見入ってしまいます。 そして壮大かつ感動的なストーリーと魅力的なキャラが相まって心に深く残る作品となっています。 できれば大きめのタブレット端末で堪能したいトコロですね。
4投稿日: 2014.11.16狼と香辛料
支倉凍砂,文倉十
電撃文庫
アニメの原作
始めにアニメを見て面白かったので、原作である本書に興味を持ち読んで見ました。 基本的にアニメ版はほぼ原作を踏襲した内容となっていますが、わずかに登場人物設定などに違いがあります。 おそらくアニメとして盛り上げるためと、分かり易くする為と思われます。 本作はアニメを見た人も違和感なく読むことができ、 さらにアニメでは表現に限界のある心理描写も、本ならではの文章表現で分かり易いです。 あのシーンではこんなことを考えて行動していたんだな、と納得できるということです。 ファンタジーとして分類される本書ですが、中世ヨーロッパ的な独特の世界観と商人達の生活がしっかり描き込まれていて いつの間にか物語の中に引き込まれてしまいます。 ライトノベルとしていくつかの賞を受賞しているということですが、十分うなずける作品でした。 あと、サクサク読めるので電子書籍向きの作品化もしれません。
1投稿日: 2014.10.12楽園の泉
アーサー・C・クラーク,山高昭
ハヤカワ文庫SF
読後感よし
大雑把に言えば、赤道上にある島から大気圏外に至る巨大なエレベーターを建造するお話ですが 単純に波瀾万丈があるだけでなく、遙か古代の物語とも平行に話が進み、飽きさせない展開となっています。 そして、名著幼年期の終わりを思わせるエピローグもクラークファンを唸らせます。 地味ではありますが、私はアーサー・C・クラーク作品の中でも最も好きな一作です。
2投稿日: 2014.10.04