マーキナートルさんのレビュー
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このユーザーのレビュー
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石の花 (1)
坂口尚 / eBookJapan Plus
歴史に残すべき名作
2
名作だという噂は常々聞いていましたが、なんとなく後回しにしていた作品です。
読んでみて、なぜもっと早く読まなかったのかと深く後悔しました。昨今はこういった重苦しいテーマの漫画は流行らないようですが、…これは時代を超えて読み継がれるべき名作だと思います。
以下で粗筋をご紹介しますが、若干ネタバレ気味なのでご注意ください。
物語は、第二次大戦中のユーゴスラビアのある農村から始まります。
それまで平和だった村がある日突然ドイツ軍の爆撃を受け、主人公のクリロの生活は一変します。
家族と生き別れになり、生きるためにパルチザンに加わったクリロ。しかし彼がそこで見たものは、明日をも知れぬ局限下に置かれながら、宗教や民族の違いなどにより仲間同士でいがみ合う大人達の姿でした。
そうした大人達の諍いに困惑しながら、一方で生きるために人を殺すことに思い悩むクリロ。しかし多くの大人達はそんな彼を青臭いと一笑に付し、あまつさえ同国人の恨みを晴らすためにと、嬉々として捕虜のドイツ兵を惨殺する者も現れます。
一方でクリロの幼馴染の少女フィーは、イタリア軍に捕らえられて強制収容所に送られます。そして過酷な労働に従事するうち、人間らしさを失っていく人々の姿を目の当たりにします。しかしここでも人々は、局限下でありながら、やはりいがみ合うことだけは決して忘れないのです。
そのように、クリロやフィー、そして二重スパイとして働くクリロの兄の視点を通して、第二次大戦中のヨーロッパ諸国がいかに多種多様な民族でひしめき合い、お互いにいがみ合っていたかが生き生きと描かれています。そして、それ故にドイツや旧ソ連、イギリス等の大国に利用され、翻弄されていく様は、現在のシリアやアフガニスタンにも通じるところがあります。
この作品はその点で、単にナチスの非情さを描いた戦争物とは一線を画しています。
人間の本性に肉薄しようと試みる一方で、抗い難い歴史のうねりの中で無力な一般人に出来ることは何か、どう生きるべきか、といった哲学的な問いかけを、常に読者に投げかけてくるのです。
なお、主人公のクリロやフィーは若く純粋な心の持ち主である反面、ともすれば非現実的な聖人君子になりかねません。しかし作者はその点をよく自覚していて、そうならないように非常に気を使っていることにも感服しました。
作者の絶筆となった「あっかんべェ一休」も読んでみたくなりましたが、残念ながらこちらはまだ電子書籍化されていないようです。いずれ電子化されることを祈っております。 続きを読む投稿日:2018.06.10
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様子を見ましょう、死が訪れるまで 精神科医・白旗慎之介の中野ブロードウェイ事件簿
春日武彦 / 幻冬舎単行本
精神科医によるサブカル風味ミステリー
1
精神科医の春日武彦氏による、ちょっと不思議なサブカル風味のミステリー小説です。
同じ著者のミステリーに「緘黙」という小説がありますが、本著は同じミステリーでありながら、かなり毛色が違います。「緘黙」…は著者の実体験を元にしたエピソードが満載で、主軸となるストーリーは突飛ながら、不気味なリアリティに支えられていました。
ところが本著は一転して、非常にファンタジックかつサブカル風味のミステリーに仕上がっています。
主人公は記憶を失った青年で、しかもちょっとした霊能力(?)を持つという設定です。
やがて彼は、中野ブロードウェイで開業する、美形だけど怪しい精神科医と出会い、住み込みで働くようになります。
すると、まるでこの2人の怪しさに引き寄せられるようにして、半ばホラーじみた怪事件が連鎖反応的に発生していく--というストーリーです。
このミステリーの最大の特長は、舞台設定とキャラクター造形でしょう。
全体的にサブカル風味で、これでもかと奇を衒っているのですが、それでいてあざとさが感じられず、非常に魅力的です。
特に、マツコデラックスさんがモデルと思しい占い師が気に入りました。
深夜枠でドラマ化したら面白いのではないかと思うのですが、その際は是非、マツコさんに演じて頂きたいものです。
一つ残念なのは、全ての謎が明かされないまま完結しているところですね。
一刻も早く続編を出して頂きたいものです。 続きを読む投稿日:2018.01.02