
青空の卵 ひきこもり探偵シリーズ1
坂木司
創元推理文庫
ある種の主義主張に対する啓蒙的な匂いのする作品
この作者さんにはどうしても主張したいことがあって、その事のために推理小説を利用しているのかなという印象を受けました。そのせいなのか「主張」に対する登場人物(特に語り部の青年)の言動が極端に素直すぎて違和感を感じました。成長物語としての側面や啓蒙的であること、微かに漂う同性愛的な匂い、探偵役の青年が他人に対してとる無礼な言動さえ気にならなければ、普通に楽しめる日常系ミステリィです。
1投稿日: 2015.09.09ひとりぼっちだけど ほめられたくてせっせと料理写真をアップしてます。
市川ヒロシ
コミックエッセイ
途中からモノクロになります
同じ作者の「どんぶり委員長」が好きなので購入しました。冒頭から数話はカラーですが33ページからモノクロになります。掲載されている実際の料理写真なども同様で、モノクロだとあまり美味しそうには見えません。せめて料理写真くらいはカラーのままにして欲しかったです。このマンガ自体は好きなのですが、そういった点でがっかりした事と掲載されている話数がどうしてもボリューム不足な感じがして、定価1028円は高すぎる感じがしました。
0投稿日: 2015.08.19もだえ苦しむ活字中毒者地獄の味噌蔵
椎名誠
クリーク・アンド・リバー社
表題の小説一本とエッセイ
表題作が目当てで購入しました。「地獄の味噌蔵」はかつて存在した関西テレビの深夜ドラマ枠「DRAMADAS」でドラマ化されたことがあります。うろ覚えですが、ドラマ版は主に味噌蔵に幽閉された活字中毒者側の視点で展開し、幽閉した側(多分小説家)との心理戦やトリッキーな駆け引き、立場の逆転などがとても面白く、いつか原作を読みたいと考えておりました。しかし、このドラマ版を視聴したことのある人が本作を読むとがっかりするかもしれません。原作は幽閉した側(編集長)の視点で語られ、幽閉された側(雑誌発行者)との「戦い」がある訳ではなく、あまりにも一方的に淡々と話が進み気持ちの悪さが残るラストになります。本作をドラマ化した人々は、そのシチュエーションに圧倒的な魅力を感じながら、こういった展開に物足りなさを感じたのかもしれません。巻末のあたりに本作の裏話的なことがわかる対談や電子書籍版のあとがきなどがあり、楽しく拝見しました。 残念なことに、小説は「味噌蔵」だけでこれ以外はエッセイで、内容は本や雑誌などの出版物について書かれたものです。新聞と同様に興味のある記事や小説のみ拾い読みされる文芸誌、それを完全読破しようとする「文藝春秋10月号四六四頁単独完全読破」、「暮らしの手帖」のように各社の文庫本を様々な角度から検証する「文庫本をテストする」などが特に面白いと感じました。他にも古本屋店主との攻防、電車内で他の乗客にのぞき読みされた時の独特な心理、出版業界への憂いや怒りなど多様なものが掲載されています。 最後に、読んでいて気になった事があります。本書は1970年代から1980年代初頭に書かれているだけあって、当時の人にしか(あるいは時代性は関係なく著者ご本人にしか)解らないような言葉がたまに出て来ます。例えば「単純本ナマ的な思考」などは辞書をひいてもインターネットで検索しても出て来ませんでした。こういった言葉にはそろそろ注釈が必要なのではないでしょうか。そういう意味では読者に不親切な本です。
0投稿日: 2015.04.16灼熱の小早川さん(イラスト簡略版)
田中ロミオ,西邑
ガガガ文庫
地味ながら良作
この作者さんの「人類は衰退しました」を読んだ勢いで購入しました。あまり話題にあがることがない作品な為、全然期待していなかったのですが、読み応えがありました。学級崩壊の気配を感じ取った小早川さんという女生徒(学級代表)がクラスに対してけんか腰ともとれる強硬な手段に出た結果孤立し、クラス全体を敵に回してしまいます。本作の語り部である飯島少年は人間(じんかん)を泳ぐのがうまいくせ者で、小早川さんの優秀な補佐役になっていくのですが、策士ではないため状況を劇的に変化させることができません。義務を果たさず権利ばかり主張し、視野が狭いせいで恥知らず且つ幼稚な他の生徒達と絶望のあまり過激な思想に陥ってしまった学級代表…。私はいつの間にか自分が飯島君の立場だったらどうするのかを考えながら本書を読んでいました。主人公達の物の考え方含め、色々と気持ちの悪いところのある小説ですが、お勧めです。
1投稿日: 2014.01.05神様家族
桑島由一,ヤスダスズヒト
MF文庫J
最初はかなりイラッときますが…
全体から受ける印象はラブコメ&自己啓発といったところでしょうか。第一話から第四話まで主人公とその家族(妹のメメを除く)に嫌悪感を抱き、それに引きずられる感じで文章自体も好きになれませんでした。育った環境がそうさせているとはいえ主人公の視野の狭さからくる身勝手な言動にイライラしながら読む事になりましたが、挫折せず最後まで読めたのは主要な登場人物の中でテンコという(男の趣味が悪い)女の子に感情移入が出来たからです。最後の方の展開がそれまでのストレスを吹き飛ばしてくれる感じなので、読後感は良かったです。
0投稿日: 2013.11.16魔法の材料ございます ドーク魔法材店三代目仕入れ苦労譚
葵東,蔓木鋼音
GA文庫
念のため第二巻まで読むことをお勧めします
第一巻の評価は三つ星ですが、シリーズ全体に対する評価は四つ星です。仮に第一巻がいまいちでも、念のため第二巻まで読むことをお勧めします。本領が発揮されるのは第二巻からです。 [1]どんでん返しやミスリードなどの意外性がない為、窮地と解決がだらだらと連続している感じがする。[2]政治的な駆け引きがうまく描けているのに、「窮地→引き→思わぬ解決法の提示」といった流れを劇的に描くことでカタルシスを引き出すといった構成が出来ていない。[3]読んでいてニヤリとするようなシーンや展開があまり無いのが残念。 以上は、このシリーズに対して抱いた印象です。 悪い点ばかり書いてしまいましたが、このシリーズの魅力は、しのぎを削るような政治的闘争を粘り強く戦いぬいた末に薄氷の勝利を得るというストーリー展開にあります。私はそれが楽しくて続巻を購入し続けているのですが、この第一巻ではそういった要素は控えめで、主人公の立場の特殊性や人物像の奥深さ、特殊能力、他の主要人物の紹介に重点が置かれているようです。あまり劇的でないせいか、カタルシスを得ることが出来ませんが、読み終えたときに心地よい疲れを感じさせてくれるかもしれません。
2投稿日: 2013.11.08未完少女ラヴクラフト
黒史郎,コバシコ
スマッシュ文庫
異世界ファンタジーです
H・P・ラヴクラフト氏が生み出したクトゥルフ神話に対するオマージュ小説ですが、オカルトやホラーではなく、異世界ファンタジーものです。女顔の主人公が、異世界に召還されて不思議な少女と出会い、元の世界に戻る方法を探すため旅に出るという筋書きです。召喚前に主人公が暮らしていた街の方もなかなか魅力的だと感じましたが、少ししか舞台にならなくて残念でした。クトゥルフ神話の舞台の一つであるアーカムに似ている事から改名して同名にしてしまったり、文学が盛んだったり、学術都市的な側面があったりと大変面白そうなんですが…。この街を舞台に新作を書いてもらえないかなぁなんて期待しています。
1投稿日: 2013.10.02えむえむっ!
松野秋鳴,QP:flapper
MF文庫J
意外によかったです
キャンペーンがきっかけで読みました。そうでもなければ多分一生縁がなかったはずの小説です。以前、何故か深夜アニメ化された事があり、大雑把なあらすじだけは知っていましたが、逆にそれが仇となって手が伸びなかったのです。主人公がマゾヒストで女性達から暴力をふるわれるという事で敬遠しておりました。読んでみて、この作品に関しては読まず嫌いは良くないなぁと思わされました。あまりリアリティが無い上、暴力を振るわれた主人公がよがる様が大変気持ち悪いのですが、その体質を活かしてヒロインが抱える問題を頑張って解決していきます。それがカタルシスとなって読後感が良い作品でした。
1投稿日: 2013.09.26大阪豆ゴハン(1)
サラ・イイネス
モーニング
残念ながら、たったの全12巻です
安村家の四姉弟を軸にした群像劇です。なんとなく小金持ちな感じがする人たちの日常系のコメディで、所謂長編ストーリーものではなくて、細かいエピソードが一話読み切り形式で綴られていきます。登場人物それぞれの職場や大学・家庭でのささやかなエピソードは地に足がついており、突飛なストーリー展開はありません。肩の力を抜いて気軽に読んでいる内に次の巻、また次の巻と手が伸びていくそんな漫画です。
2投稿日: 2013.09.25