Mふたり 官能小説傑作選 恥の性
小玉二三, 如月あづさ, ほか5名
Mふたり 官能小説傑作選 恥の性
小玉二三,如月あづさ,相原晋,鷹澤フブキ,睦月影郎,庵乃音人,草凪優
角川文庫
「恥の性」だけあってどの作品も恥ずかしがる女性が光ります
「Mふたり」 医学部を目指しながら挫折した夫の妻、芽依香は夫の同僚に弱みを握られホテルへとついていくものの、「許して、お願い。だめよ」と抵抗します。しかし「いいですよ、どうぞ抵抗してごらん。そっちの方が僕は燃えるんだ。」とどんどん脱がされてしまいます。ハードなSMではなく、あくまで心的態度としてのSMが描かれています。最後は、題名に納得するうまい作りになっています。女流官能小説作家の小玉二三の作品です。 「濡れざま指南」 「舌先は、執拗をきわめた。」で始まる吉原廓もの時代小説です。主人公は、女郎になる前の女に色ごとのいろはを仕込む「味見指南役」の久兵衛。美しい武家の女を相手にするも、ぜんぜん濡れることなくどうしたら濡れるのか?時代小説に興味のない方も抵抗感なく読み進められるのは、脚本家として活躍する如月あづさの作品だからでしょう。 「菊座の貞節」 テレビでは、なかなか知ることのできない、男娼=陰間(かげま)茶屋。お尻でするってどうするの?初めて教えてもらうには、たしかにその道のプロに教わった方がよいでしょう。ひとつ賢くなった気分になれるところは、江戸の性風俗に興味をもって官能小説作家になった相原晋の作品だけはあります。 「ぼくの楽園」 社内の一番奥にある「女子更衣室」。それが栗原文徳(43)の楽園だった。「ほんの数時間前に女子社員が制服から私服に着替えを済ませた更衣室の中は、妙齢の女たちの発する独特の臭気が充満していた。」 そんな楽園で胸躍らせながら今日も「ヘンなこと」をしていたところを「栗原課長っ、どうなさったんですか?」と声をかけられ「喉が石化してしまった」というところからが本当の楽園の始まりだった。OLをしていた鷹澤フブキだけにリアリティのある作品となっています。 「あそびめ淫法」 勘定奉行の若き出世頭「宇壁(うかべ)十郎は18歳。」堅物で通しているものの「夜に一人きりになると、言いようのない淫気が湧いてしまい、二度三度と手すさびをして、熱い精汁を搾る毎日を過ごして」います。そんな十郎が同僚に吉原へ連れてこられ、二人の女郎と仲良くなるのですが、その二人が忍法ならぬ淫法を使うという作品です。睦月影郎だけあって安定の出来です。 「母狂い」 叙述トリックの手法を使った母息子もの官能小説です。官能小説と舐めてかかると密かに本格推理顔負けな技術が紛れているところに関心することでしょう。特に、何も考えなくとも楽しめる作品です。『とろける兄嫁』で「21世紀最強の官能小説大賞」優秀賞を受賞した庵乃音人の作品です。 「B専エレジー」 「<薔薇のつぼみ>はこの界隈でいちばん古いラブホテルだ。」で始まる陰鬱としてジメジメとした本作。最後には「おかしくて涙がとまらなくなった。」で終わります。問題作と言って良いと思います。草凪優の作品です。 全体として、いわゆる女王様がでてくるようなSMは描かれていません。もっと広い意味での精神的なSM性をテーマに収録作品が選ばれているように感じました。バリエーションある編集なので、飽きずに楽しく読めます。おすすめです。
1投稿日: 2015.05.19帰ってきた平成好色一代男 一の巻
睦月影郎
帰ってきた平成好色一代男 一の巻
睦月影郎
講談社文庫
短い文字数のなかで毎回必ず濡れ場を演出する週刊誌に連載の官能小説の中の官能小説
官能小説を週刊誌に連載するということは、短い文字数のなかで毎回必ず濡れ場を演出しなければならないわけです。しかも、週刊現代という一般紙での連載なのであまりにマニアックな内容は合わないので、無難にそつない官能表現が求められます。 そもそも官能小説というものは、すでに雛形が確立されているところがあり、宿命としてマンネリになりがちです。でも、エロいので許されるというふしがあります。その最たるものが週刊誌に連載される官能小説であり、官能小説の中の官能小説といえるでしょう。 主人公は52歳の中田史郎といいます。宿命的に「中出し」せざるを得ない名前です。連載は2回で一人の女性という構成です。前半で出会いその気にさせ、後半でことに及びます。 毎回、占いの鬼道館(きどうかん)に行き、占い師の由良子(ゆりこ)にありがたい言葉をもらいます。たとえば、「秋は読書に励みなさい。真東の方向にある広場で、いたずら天使が仲を取り持つでしょう」などと出会いのヒントを予言してくれます。当然そのとおり美女に出会います。 予言も2段階に分かれています。出会いの予言と、愛撫の予言です。愛撫の予言は毎回わかりにくいのですが、そこも楽しめるようになるはずです。あえて引用はしませんが、読んでみてください。 出会ったあとは、予言をヒントに愛撫をしかけます。すると女性がその気になり「二人だけの密室へ」と移動します。必ず駅周辺のホテルに行きます。 ホテルの部屋に入ると女性はすぐに火がついたように求めてきます。「一糸(いっし)まとわぬ姿に」なり、次週に続きます。 後半は、主に性描写です。キスは、必ず「舌にチュッと吸い付いてき」ます。フェラチオをされ、いきそうになると美女は必ず「チュパッと軽やかな音を立てて口を離し」ます。 ワンパターンの鏡ではありますが、決して否定的ではなく、あくまで娯楽作品のお約束として楽しませてくれるところが著者のすごいところです。 長い官能小説なんて読んでられないという人に是非おすすめします。週刊現代に連載されているだけあって、どなたでも楽しめるような作品に仕上がっています。
3投稿日: 2014.09.05官能小説ベストコレクション【人妻エロス編】vol.1
特選小説編集部
官能小説ベストコレクション【人妻エロス編】vol.1
特選小説編集部
特選小説
夫の影があってこその人妻官能小説
「陥没乳首を乳輪のなかからほじりだし、硬くしこらせてやりたいという邪悪な欲望に取り憑かれ、」などと妻の姉をレイプしてしまう『姉妹ドンブリ』 息子の家庭教師の「先生の肘が由紀の胸の近くを掠めていく。触れていきそうで、触れない。」などと思いながらも、だんだんと陵辱されていく『危ない家庭教師』 アパートの前に建つ大きな一軒家の人妻が庭の水やり中、通りがかりの大学生に水をかけてしまう。それがきっかけで人妻の秘密が暴かれることになる『人妻の秘蜜』 その祭りには、海で死んだ人間がいると行われる儀式があるという。「(残された奥さんや恋人が)神社の杜の中で、男たちと一晩中、姦るんだよ。」「嫌じゃないんだよ。(...)むしろ喜んで姦られたんだ」『冬の性秘儀の夜』 「納戸の整理をしていた小四郎は、出てきた包みを開いて驚いた。何と、いかがわしい春本の山ではないか。」その持ち主は兄上の嫁、志穂のものだという。時代寝取られもの『みだら兄嫁』 「昔のガールフレンドが、人妻になったのち、まるで神様の悪戯のようにひょいと目の前に現われ、さほど躊躇することもなく体を開いた。」その秘密とは?『人妻性善説』 「嫁はこんなにいい女だったのだ。自分はずっとこの女と一つ屋根の下でくらしていたのだ。」と息子の嫁にいまさらながら気づく『汗ばむ柔肌』 ストーリーのバリエーションが広くアンソロジーとして楽しめます。さすがに第1集だけあって安定した完成度の作品が集まっています。 人妻ものは多くありますが、ただ夫がいるだけなわけです。その夫がどう絡んで来るのか?という部分が人妻もの官能小説としての完成度が試されるところでもあります。 全7話を読んでどの作品が夫の扱いに長けているかを考えてみるのも楽しいでしょう。とはいえ、純粋にエロい作品たちです。安心して楽しめると思います。
2投稿日: 2014.08.27幼馴染の甘い誘い
北山悦史, 石川五郎
幼馴染の甘い誘い
北山悦史,石川五郎
アクメe文庫
シチュエーション官能小説 はじめての射精
「オナニー遊戯」では、中学生の同級生女子に「ねえ、俊ちゃん、オナニーって、知ってる?」「じゃ、あたしがしてあげる」と初めてオナニーの仕方を幼馴染に教えてもらいます。 その後、「オナニーするから、見てて」と女の子のオナニーの仕方を見せてもらいます。 「その日から3日にあげず、俊伸と美樹子はオナニー遊戯に没頭した。」となぜか一線は越えません。 しかし、中学生が妊娠の危険を犯さないで「遊戯」を楽しむというのもありえるでしょう。むしろ、リアルなのかもしれません。 「淫猥契約――ふたりの女」では、告白し振られた川野さんから他の子とセックスをしないかと誘われます。主人公は「川野さんもやらせてくれるんだったら、いいけど」とダメもとで答えます。すると、「じゃあ、三人でしようか。一緒に」と意外な答えが返ってきます。 初めての射精がテーマになっています。教えてくれる相手もそんなに知らない。その先にある、妖しくも魅惑的なシチュエーションにひたることができるでしょう。 石川吾郎さんの表紙がとても魅力的です。石川吾郎さんはホームページもあるので、ご覧になると良いかと思います。 一般に、名の知れた作家の絵が表紙ということは、出版社がコストに見合う販売を見込んでいるわけなので、失敗が少ないのではないかと思います。
1投稿日: 2014.08.03エロスの記憶 文藝春秋「オール讀物」官能的コレクション2014
オール讀物編集部編, 小池真理子, ほか31名
エロスの記憶 文藝春秋「オール讀物」官能的コレクション2014
オール讀物編集部編,小池真理子,桐野夏生,村山由佳,桜木紫乃,林真理子,岸惠子,フィリップ・トルシエ,高橋克彦,井上理津子,東海林さだお,鹿島茂,角幡唯介,本橋信宏,花房観音,春日太一,柴門ふみ,大矢博子,北尾トロ,南伸坊,平松洋子,川上宗薫,団鬼六,阿部牧郎,永田守弘,渡辺淳一,弘兼憲史,野坂昭如,勝目梓,石田衣良,山田風太郎,池田満寿夫,佐藤陽子
文藝春秋
他人におすすめしやすい官能特集総合誌
文藝春秋の『オール讀物』は特に官能小説雑誌という印象はないものの、1作くらいは官能的な内容の短編が入っているかと思います。 やはり、バリバリの官能小説雑誌は買えないものの、誰でもちょっとは読みたい小説、それが官能小説というものなのでしょう。 前半は、女流作家の官能小説。中盤は、官能小説座談会。後半は、男性作家ものになり、最後は池田満寿夫のラブレターで表現される愛で終わる、そつない編集です。 さて、ネット・AVでマッサージものを観たことがあることと思いますが、小池真理子が書くと「千年萬年」となります。 舞台は、大きなスーパーの影響で寂れつつある商店街の指圧院。指圧師の淡々とした仕事と主人公の燃え上がるカラダと抑制するココロの表現が動画ではなく小説でなければ味わえないものとなっています。 中盤の「四人の女たちが熟読!官能小説品定め」や三人の男が語る「四苦八苦の官能表現」は特におすすめで、いわゆる官能小説を読んでいるだけでは分からない読み手・書き手の話が座談会形式で楽しめます。 歴史的な経緯がよくわかり、次の一冊を選ぶ基準になるでしょう。 当レビューでは、主に最初の一冊としておすすめ出来る作品を中心に紹介してきましたが、「エロスの記憶」については、数冊官能小説を読んで、少しマンネリ感を感じ出したような方が読むと良いと思います。 それにしてもボリュームが多く、かなりお得な価格設定です。少し文学よりなので、官能小説に抵抗があるような人に読ませてみる一冊として最適でしょう。他人におすすめしやすい官能特集総合誌です。
3投稿日: 2014.08.03ときめきご近女さん
橘真児
ときめきご近女さん
橘真児
双葉文庫
表紙の良い官能小説は中身も良いの法則
どの女性とも後腐れなく別れ、アパートの住人や近所の主婦と次々と関係するというご都合主義な官能小説です。ご都合主義は官能小説のお約束なのでマイナスにはなりません。 ナースとのからみでは、主人公が「ナースキャップってありますか?」とリクエストし、ビジュアルをイメージしやすいように書かれています。 衛生面の問題や、邪魔になるなどの理由で廃れてしまったようだが、警官などの制帽と同じく、制服の一部として残すべきではないのか。 などど確かに内心、誰もがそう思うと共感しやすい要素も読みやすさにつながっています。 どうしても官能小説には趣向の好みがあるので失敗したということもありますが、読みやすさとしても抜群の作品に仕上がっていますし、性描写もしっかりしているため、「官能小説を買いたいが失敗したくない」という方におすすめします。
0投稿日: 2014.05.02蜜の競艶≪完全版≫
岩井志麻子, 菅野温子, ほか7名
蜜の競艶≪完全版≫
岩井志麻子,菅野温子,鷹澤フブキ,内藤みか,黒沢美貴,開田あや,南綾子,子母澤類,森奈津子
河出i文庫
力のある女性作家たちのバリエーション豊富な官能短編集
「春宮画(しゅんぐうが)というものを、ご存知でしょうか。」で始まる岩井志麻子の「春宮画」では、主人公の中国人青年が性遍歴を淡々と語ります。「日本語が巧いと皆さん、誉めてくださいます。けれど少ししゃべれば、日本人でないとわかるでしょう。」とあるように少し不思議なニュアンスで官能が表現されています。 「私、久しぶりに人妻になってみたいの。ケータイメールで奥さんごっこしてもいい?」と元恋人からメールをもらう結婚3年目の主人公が深みにはまっていく内藤みかの「ケータイ・ワイフ」は、2014年に読んでも具体的で設定がしっかりしているので、きっと自然に楽しめるでしょう。 「女による女のための『R-18』文学賞」の大賞を受賞した南綾子の「ひとりでさわって」は、女性の主人公がオフィスで憧れの上司を妄想し、バレルかばれないかハラハラする緊張感が心地よく、最後はさすが女性だけあって軽やでいて爽やかなエンディングを味わえます。 その他にもポリネシアンセックス・レズ・青春ものなどバリエーションに富んでいます。官能小説というとズバリ絡みのシーンがあればOKという作品も多いですが、どの作品も必然とそうなる設定がしっかりと描かれています。このアンソロジーは行き過ぎてマニアックな内容ではないですし、しっかりと官能を描いているため、初めて官能小説を読む方にも自信をもっておすすめできます。また、官能小説はマンネリしがちですが、女性作家の書く官能小説だけあって一味違った読後感ですので、官能小説を読み込んでいる方も楽しんでいただけるかと思います。女性と一緒に読んでみるのも面白いかもしれません。おすすめです。
2投稿日: 2014.04.10パンダ天国
栗橋佑奈
パンダ天国
栗橋佑奈
モモカタリ
女性視点で描かれる美しく切ない官能小説
官能小説の読者というと真っ先に思い浮かべるのが、いわゆる「おじさん」でしょう。 しかし、ハーレークインが売れているように女性にも確実に読者はいるのです。 むしろ、電子書籍という視点でみると書店で買いにくい分、売れるのではないでしょうか。 さて、パンダ天国のレビューをはじめます。 スポーツ新聞や男性向け週刊誌に連載されるような官能小説とは一味ちがいます。 単語を拾ってみると「パンダ」「シトロエン」「グリーンサラダ」「バルサミコ酢」「トリッパの煮込み」「フィレ肉」などなどカタカナが多い印象です。 主人公の好物がイタリアンなので料理名が多いのですが、あくまでハチノス(胃)はトリッパであり、ヒレ肉はフィレ肉なのです。 官能小説にありがちな不潔さが微塵も無く、透明で美しく切ないストーリーでありながら、性描写やバイオレンス要素をちりばめた幻想的官能小説に仕上がっています。 多くの女性読者と一緒になって読書している一体感が得られます。 マンネリな男性向け官能小説に飽きたときや、女性が始めて読む官能小説としてもおすすめです。 注意点としては、美しく切ないとはいっても、官能小説なので、子供には読ませないようにしましょう。
0投稿日: 2014.02.17快楽調教≪完全版≫
館淳一, 響由布子, ほか5名
快楽調教≪完全版≫
館淳一,響由布子,八神淳一,渡辺やよい,鳳春紀,みなみまき,真島雄二
河出i文庫
調教系アンソロジー
「前よりも大きくなったかな」 桂子の乳房のことだった。(中略)ホルモンのせいなのか、性的痴戯による刺戟のせいなのか、わからない。わからないながらも、躰は自然に男たちの好む形になっている。 『調律の季節』鳳春記(おおとり はるき) フランス書院文庫第一回新人賞受賞は、さすがに伊達ではない。弱みを握り、犯す、セックス中に感じてしまうという「やっつけ」感がいっぱいの小説も中にはありますが、SMとは一味違う調教という分野で確かな読み応えを得ることができるでしょう。 単に、分野として調教系が好きだとか嫌いだとかではなく、著者・作品によって受ける印象はぜんぜん違ってくるということが分かるという意味でも、アンソロジーは官能小説を読み始める方にとって貴重です。 だんだんと自分の好きな作家がわかってくると思います。読まず嫌いしないで、ぜひ試してください。
7投稿日: 2014.01.02ナイショの秘書室
草凪優
ナイショの秘書室
草凪優
双葉文庫
秘書ものの官能小説
秘書が登場する官能小説ですが、社内がすべて女性です。 ほぼすべての女性と関係することになりますが、シチュエーションが仕事にまつわることになるので、感情移入しやすいかも知れません。 メガネをかけてい女性に魅力を感じる統べての方にお薦めします。
0投稿日: 2013.10.22
