誉田哲也さん『玲子はまたひとつ、成長しました』

誉田哲也さん『玲子はまたひとつ、成長しました』

2017.05.08 - 特集

※本記事は2013.9.13時点のものとなります。

警察小説から青春小説まで、老若男女問わず、ストアでも常に人気の高い誉田哲也作品。中でも『ストロベリーナイト』や『ソウルケイジ』、『インビジブルレイン』など、累計240万部を突破する"姫川玲子"シリーズの最新作がついに登場! 新作が生まれた背景や、主人公・玲子への想いなどを語っていただきました。

誉田哲也の作品

『ストロベリーナイト』の作家・誉田哲也のインタビュー
『玲子はまたひとつ、成長しました』

―最新作『ブルーマーダー』では、誉田節炸裂の凶悪犯罪はもちろん、意外な人物が意外な動きをしたり、玲子と菊田のその後…など、もう、見どころが満載です。

ありがとうございます(笑)。姫川玲子シリーズの長編としては4作目となりますが、今回はまず最初に"最悪の殺人鬼"を書きたい、というのがありました。と言っても、たとえば秋葉原の無差別殺人や尼崎の連続変死事件のように、誰でもよかったとか、お金が欲しかったとか、そういったものだと小説としては面白くないですよね。犯罪に行き着いた動機に、ある種の共感というか、納得をしてもらわなくてはいけない。そう考えたとき、今回の犯人像が浮かんできました。

同時に、警察小説ですから、前作『インビジブルレイン』のときとは違う警察組織の一面についても書きたかったんです。前作では、わりと警察組織の"組織論"を中心に書きましたが、今回は、組織についてはもちろんですが、もっと広い意味で犯罪と社会について登場人物たちがそれぞれ考え、彼らなりの答えを出している、というのが見どころのひとつだと思います。

それとやっぱり……菊田、ですよね(笑)。そこもばっちり見せますので、お楽しみに。

―さて、今回の舞台は池袋。池袋という場所を選んだ理由はありますか?

場面設定はホント、いつも悩みどころです。なにしろ、最悪の殺人鬼が登場しますからね。新宿は『ジウ』シリーズでおなじみの東警部補がいるからなかなか触りづらいし(笑)、渋谷はやや若いし、品川はちょっと寂し過ぎる…とあれこれ考えて。そこで、今チャイナタウン化してきている池袋が面白いのではないかと思ったわけです。

実は僕、池袋は昔からなじみのある場所で、デビュー当時よく舞台として書いていたんですよ。そうしたら、ある編集者の方に「誉田さん、池袋がやたらと多いよね」と言われて、ちくしょう!じゃあ違う場所を書いてやる!とムキになって(笑)、世田谷や蒲田、目黒なんかを書いていたんです。

けれども今回の舞台は池袋しかありえなかった。そこで玲子を池袋の所轄に出すことにしました。やっぱり、その街が持つある種のパワーや雰囲気ってあるんです。それが物語をどんどん面白くしてくれるんです。

―毎回のことですが、玲子には大きな試練が与えられます。今回はとりわけ大きな試練という気がしますが…。

そうですね。今回の物語ではこういうことが言いたい、というのが僕の中で決まったら、主人公はその命題を背負う存在ですから、当然、玲子にはハードルが課されます。さらにシリーズものですから、過去に起こった出来事と連動してそのハードルがもっと高くなることもあります。

ひとつだけヒントを言っちゃいますが(笑)、連作短編集『シンメトリー』の中で「過ぎた正義」という作品があります。その中で、人間の"殺意"について、問われるシーンがあるんですが、玲子は現役刑事としてその結論を出し切れていないんです。でも『ブルーマーダー』の中では、"殺意"について、玲子なりにひとつの結論を出しています。これは当時の玲子には言えなかったこと。そういう意味で彼女はステップアップしているわけです。

これは主人公だけに限ったことではなく、登場人物すべてに言えることですが、僕はひとりの人間のずっと続いてきた、あるいはこれからも続く人生のうちの一部分を切り取って物語にしたいと思っています。第一作目から考えると、それだけ年月がたっているわけで、彼らはみな当然、成長しています。彼らには、物語の中だけでなく、外側にも人生がある。そこを含めて、読者の人に楽しんでもらえる作品にしたいといつも思っています。

―姫川玲子シリーズだけでもかなりの数の登場人物がいます。それぞれのキャラクターの書き分けはどうされているんですか?

僕の場合、小説の執筆にあたって、まず概要とプロット表を作り、事件の起こった順やエピソードの挿入タイミングを決めて、時系列が混乱しないようにします。並行して、キャラクターの一覧表を作ります。通常、キャラクター一覧表は1作品1ページなんですが、 『ブルーマーダー』は今まで出てきた人もたくさん出てくるので、2ページにおよびました。さらに、それぞれ全員分の設定資料もあります。 

僕は登場人物を書きながら作り上げるということはしません。プロットの段階でもう最初に必要な人は全員出そろっていて、ゴールもしっかり見えています。ですから、登場人物を考えるのは、それぞれと面接しているようなもんです(笑)。「あ、○○さんお久しぶりです、今回もよろしくお願いします」とか「今回はあんまり出番なくてすみません」とか。 

そうやって、プロットと登場人物が決まったら執筆に入るわけですが、執筆を始めると、僕はそれぞれの登場人物に憑依する感じで書いています。つまり、玲子なら玲子の中に僕が入って、彼女の目で見て、彼女の心が感じたものを書く。完全にその人になりきり、その人の考えや行動、感覚だけをすくいとってくる感覚です。そこに僕の考えや感覚というフィルターは通しません。 

たとえば、ある人物が捕まってしまった場合、それはどういう状況がもっとも自然かとか、救出にはこういう手があるけどこれはないかな…、でもそのとき手錠はどうする?とか、いろいろなパターンをその人になって考えながら、まるで詰め将棋のように細かい部分を詰めていくんです。そうやって各登場人物に憑依しながら書いていって、きちんと場面として動くと「よしっ!」と思いますね(笑)。それが書いていていちばん楽しい瞬間です。

―玲子をはじめ、『ジウ』の門倉美咲や伊崎基子、『ドルチェ』の魚住久江など、誉田さんの警察小説には、主人公が個性的な女性刑事、という作品が多いですよね。

警察小説を書く面白さは、まず、警察官だって普通の人間ですから、実際はどうしてるのかな?という興味の部分。たとえば警視庁の管内で殺人事件が起きて特別捜査本部が設置され、所轄署に泊りこむ場合、道場で布団を敷いて寝るわけですが、その布団はどうしてるのか?といったら、以前は常備されている布団だったけれど、今はレンタルになったらしくて、「やっぱり警察官も他人が寝た布団はイヤだろうな…」とか(笑)。本当はロボコップみたいに"強くて正しくて平等で"が理想だけれど、警察官だって普通の人間で、なんだ一緒じゃん、という点を描くのが面白いと思うんです。

それから、警察の組織について。彼らだって、信念や理想に基づいて仕事をしているけれど、サラリーマンの一面もあって、会社員同様いろいろなしがらみに悩んで…という部分。そういう面を織り込みながら、メッセージ性の強い事件を物語の中心にすることで、今の時代を切り取れる面白さがある。それが警察小説を書く醍醐味です。

で、そういった警察小説で女性を主人公に据えるのは、やっぱり女性のもつ華やかさが必要だから。だって、男ばかりの暴力事件や凶悪事件を、しかめっ面したおっさんが捜査したってつまらないでしょ?書く方だって面白くないし(笑)。陰惨な事件ではあるけれど、玲子たち女性が捜査することで、作品内の空気を少し和らげてくれてるんじゃないかな、と思っています。

―ちなみに、警察小説だけでなく青春小説にもたくさんの女性主人公がいますが、誉田さんのタイプの女性はどの方ですか?

うーん、いません(笑)。理想の女性は主人公には書きませんから。だって、僕は執筆の際、それぞれの人物に憑依するわけで、僕自身は視点人物である彼女たちのことを見られないですからね。たとえば男性視点人物の彼女とかなら、僕はその登場人物に憑依しているから、彼女のことを見ることができる。それだったら、いいな、っていう気持ちになるかもしれません。そっか、あんまり登場していない人物の彼女の中にタイプの女性がいるのかな…?いや、でも誰だか探さないでください(笑)。

Text/Miho Tanaka(staff on)
Photo/Mari Tamehiro

Profile

誉田哲也(ほんだてつや) 作家

1969年、東京都生まれ。2002年『妖の華』で第2回ムー伝奇ノベル大賞優秀賞を、2003年『アクセス』で第4回ホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、作家デビュー。2005~06年にかけて『ジウ』全3巻と姫川玲子シリーズ第1弾となる『ストロベリーナイト』を刊行。新しい警察小説の書き手として注目を集める。2007年の『武士道シックスティーン』では青春小説でも高い評価を受ける。 『ストロベリーナイト』は、2013年1月、映画公開予定。

Profile

光文社の編集者・鈴木さんのコメント

シリーズを通して読んでくださっている読者の方々、それから映像から本シリーズに興味をもってくださった方々にとって、姫川玲子を常にサポートしながら捜査に当たっていた菊田和男巡査部長は、とても重要なキャラクターだと思います。本作では、菊田を準主役のひとりに置き、なおかつ、『ストロベリーナイト』に匹敵する連続殺人事件を描くことが計画されました。読みどころがたくさんある、充実感たっぷりの作品にしあがっていると思います。現時点での、誉田さんの最高傑作です。担当編集者として、自信をもってお届けいたします!

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