11の物語
パトリシア・ハイスミス(著)
,小倉多加志(訳)
/ハヤカワ・ミステリ文庫
作品情報
たまたま台所にあったボウルに入っていた食用かたつむりを目にしたのがきっかけだった。彼らの優雅かつなまめかしい振る舞いに魅せられたノッパート氏は、書斎でかたつむり飼育に励む。妻や友人たちの不評をよそに、かたつむりたちは次々と産卵し、その数を増やしてゆくが・・・・・・中年男の風変わりな趣味を描く「かたつむり観察者」をはじめ、著者のデビュー作である「ヒロイン」など、11篇を収録。
もっとみる
商品情報
- シリーズ
- 11の物語
- 著者
- パトリシア・ハイスミス, 小倉多加志
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 早川書房
- 掲載誌・レーベル
- ハヤカワ・ミステリ文庫
- 書籍発売日
- 2005.12.15
- Reader Store発売日
- 2024.04.05
- ファイルサイズ
- 1.1MB
- ページ数
- 352ページ
以下の製品には非対応です
この作品のレビュー
平均 4.0 (22件のレビュー)
-
映画『太陽がいっぱい』の原作であるトム・リプリーものなどで知られるパトリシア・ハイスミスの短編集。タイトル通り11作品を収録している。原題は“Eleven”(アメリカでは“The Snail-Watc…her and Other Stories”として刊行)。原著は1970年刊、短編集としては最初のもののようだ(短編自体はずっと以前から書いており、例えば収録作の1つである「ヒロイン(The Heroine)」は1945年に発表されている)。日本での刊行は1990年、その後、2005年に改版されている。
サスペンスやミステリとして評価されがちなハイスミス作品だが、本人はそう見られることを必ずしも快くは思ってはいなかったようである。
本書に序を寄せたグレアム・グリーンは、ハイスミスを「不安の詩人("the poet of apprehension")」と評している。
サスペンスといえばサスペンスなのだが、ドキドキ・ハラハラ、スリル満点、というのとは少々違う。
登場人物たちは、少しずつ、ほんの少しずつ、常軌を逸していく。よくよく考えるとなんだかおかしいのだが、そう思う隙を与えないほど、一歩ずつ、徐々に道があらぬ方へ向かっていく。読者が気がついた時には、呆然とするような場所に連れていかれている。まったくの異世界というわけではない。遠いようで実は遠くない場所。あなたが、私が、もしかすると本当に到達するかもしれない場所。その紙一重の緊張感が、この不穏なハイスミス・ワールドを支えている。
1作挙げるとすれば、「ヒロイン」だろうか。実質的な文壇デビュー作という。
主人公のルシールは若い娘。若干、精神的に不安定なところがある。前にいた勤め先ではメイドとして働いていたが、今度は子供たちの保母として雇われた。子供が大好きで、働き者である。主人一家は親切で、子供たちもルシールのことを気に入ってくれた。
美しい家。かわいい子供たち。恵まれたお給料。絵に描いたような幸福が訪れるはずなのに、そう、もうおわかりだろう、そうはならないのだ。
幕切れのシャープさは本作品集で一番ではないか。
「モビールに艦隊が入港したとき(When the Fleet Was In at Mobile)」も印象深い。暴力的な夫を「眠らせて」逃げ出してきたジェラルディーン。彼女がそんな羽目に陥ったのは、田舎のモンゴメリーから大きな港があるモビールに行ったからだ。工場で働こうとしたのだが、あきがなく、ウェイトレスとして働きだした。そのうち港に小さな艦隊がやってきて、町は水兵や士官であふれた。ジェラルディーンは、船で薬剤師として働くダグラスと恋仲になった。いずれ彼と結婚するつもりだったのだが、少しずつ不運が積み重なっていく。
逃避行と回想が交錯する。ジェラルディーンはどこで間違えたのだろう。モビールに艦隊が入港したときには、彼女のその後の運命は決まっていたのかもしれない。
「愛の叫び(The Cries of Love)」は一緒に暮らす老女2人の友情と確執。2人はひどく傷つけあいながら、なおもともに暮らしている。それはもう腐れ縁と呼ぶしかないのかもしれないが、あるいはある種の愛情であるのかもしれない。
ハイスミスが同性愛者でもあったということを何となく思い出させる。
絵画・木工を嗜み、ネコを愛したハイスミスだが、もう1つ、やや変わった趣味として、かたつむりの観察がある。1作目「かたつむり観察者(The Snail-Watcher)」、5作目「クレイヴァリング教授の新発見(The Quest for Blank Claveringi)」などにその観察眼が活かされている。いずれも十分にグロテスクに描かれ、さて、ハイスミスは本当にかたつむりを「愛好」していたのか疑念も生じるが、丹念な観察こそ「愛好」だと言われれば、それはその通りなのかもしれない。
かたつむりではないが、「すっぽん(The Terrapin)」もぬめりとした手触りを感じさせる作品。思春期の少年ヴィクターと、息子への関心がどこか薄い母、そしてすっぽんの物語だ。
この作品は、映画「PERFECT DAYS」(2023)の中で触れられている。主人公の姪、ニコが、自分もヴィクターのようになるのではないかと不安を覚えるのだ。この物語を読んで不安になる子であればおそらくヴィクターのようにはならないだろう。けれど、不安を覚える気持ちもよくわかる。そんな作品。続きを読む投稿日:2024.04.15
職場に置いてあったキネマ旬報をペラペラめくっていると、ヴェンダース新作「PERFECT DAYS」の記事があった。その記事の中にこの本──とくに「かたつむり観察者」についての記述があり(どうやら映画…の中で役所広司がこの本を手にするらしい)、それで興味を惹かれて読んでみた。記事の終わりに「読むのは勧めない」と書いてあったのも良かった。ヴェンダースがハイスミスの小説を自作の映画に登場させるのは合点がいく。「アメリカの友人」はハイスミスが原作(「贋作」「アメリカの友人」)だから(原作はアラン・ドロンで有名な「太陽がいっぱい」の続編らしいが関係ない)。
図書館で借りて本を開くと、十一の物語の初っ端が「かたつむり観察者」で、おもしろく読んだもののあまりの生理的不快感でよっぽどもう閉じようかと思った。もしおもしろかったら買おうかなーと思っていたけど、どんなに面白くてもこんなキモすぎる話が載っている本買うのはよそうと決意して、次の「恋盗人」を読むと、うってかわって恋物語であったが、「これは俺じゃないかよ!」という胸の張り裂ける身体的な痛み──それはたとえるなら銀杏BOYZ「ナイトライダー」の歌詞からロマンチックさを剥ぎ取ったときの、自らに襲いかかる陰湿さの自覚……にまたも嘔気をおぼえ、「面白いけど買わない!」の気を強くした。この私の決意は、「クレイヴァリング教授の新発見」でいよいよ確固たるものになる。とかくキモチワリーー!!!!!!!!のである。未読の人のために内容は伏せるが、「またかよ!!!!!!」なのである。
私は心配になる。ハイスミス女史はいったいどういうつもり、というか、どういう気持ちでこんな文章を書いてるのか?オエーーっとか自分でも思うのだろうか?それとも……。
しかし、「ヒロイン」にぶちあたって、私は思いなおす。「この短編集を買わなければいけない。買って、手元に置かなければならない」。
なぜか?あまりにも面白すぎる。あまりにも!面白すぎる!エクスクラメーションマークで文節を区切るほど面白い。だけどわかって欲しいのは、私はこの短編集を面白がりたくなんかなかったということ。先にも書いたけど「どんなに面白くても買いたくない」みたいな、イヤヨイヤヨの気持ちで読んでいたということ。大嫌いになりたいのに、そんな気持ちは既視感があった。何かに似ていた。
あれだ!!「死ぬほど大嫌いな上司と出張先でまさかの相部屋に」シリーズである。何のシリーズなのかは書かないが、そういうシリーズというか、ジャンルがあって、べつだん好みでもないが、とにかくあの時の〈私〉の表情がおそらくはいま現在の私のそれだ。 実際、あらゆる表現の中から推敲した上で言葉をえらばずに書くか、私はこの本を読んでいるときになんというか小説におかされているような気分だった。私は人間の暗部、残忍さ、そして狂気を描く小説を避けるようにさいきんは読書をしていた。そういうものを否定したいのではなくて、今の私には、もっと明るくて、のんびりしていて、読む中で励まされる気分になることが必要であり、また志向していたからだ。暗くてキモいのなんか読みたかないよ、とそっぽを向く私にハイスミスの小説群は襲いかかってきた。私は恍惚としながら怯えていて、怯えている。こういう作品が好きだった、その自認から抗えなくなっている自分に。
私はこの小説を手元に置くだろう。誰かに薦めることはよそうと思っている。それでも、私からもしもこの小説を勧められても、読まないで欲しい。私にまだ理性の残滓が残るうちの、これは忠告である。マジ面白いので読んだほうがいいよ。よかったら貸すよ。続きを読む投稿日:2023.12.19
新刊自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
※新刊自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新号を含め、既刊の号は含まれません。ご契約はページ右の「新刊自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される「増刊号」「特別号」等も、自動購入の対象に含まれますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると新刊自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約・新刊自動購入設定」より、随時解約可能です続巻自動購入は、今後配信となるシリーズの最新刊を毎号自動的にお届けするサービスです。
- ・発売と同時にすぐにお手元のデバイスに追加!
- ・買い逃すことがありません!
- ・いつでも解約ができるから安心!
- ・優待ポイントが2倍になるおトクなキャンペーン実施中!
※続巻自動購入の対象となるコンテンツは、次回配信分からとなります。現在発売中の最新巻を含め、既刊の巻は含まれません。ご契約はページ右の「続巻自動購入を始める」からお手続きください。
※ご契約をいただくと、このシリーズのコンテンツを配信する都度、毎回決済となります。配信されるコンテンツによって発売日・金額が異なる場合があります。ご契約中は自動的に販売を継続します。
不定期に刊行される特別号等も自動購入の対象に含まれる場合がありますのでご了承ください。(シリーズ名が異なるものは対象となりません)
※再開の見込みの立たない休刊、廃刊、出版社やReader Store側の事由で契約を終了させていただくことがあります。
※My Sony IDを削除すると続巻自動購入は解約となります。
お支払方法:クレジットカードのみ
解約方法:マイページの「予約自動購入設定」より、随時解約可能ですReader Store BOOK GIFT とは
ご家族、ご友人などに電子書籍をギフトとしてプレゼントすることができる機能です。
贈りたい本を「プレゼントする」のボタンからご購入頂き、お受け取り用のリンクをメールなどでお知らせするだけでOK!
ぜひお誕生日のお祝いや、おすすめしたい本をプレゼントしてみてください。※ギフトのお受け取り期限はご購入後6ヶ月となります。お受け取りされないまま期限を過ぎた場合、お受け取りや払い戻しはできませんのでご注意ください。
※お受け取りになる方がすでに同じ本をお持ちの場合でも払い戻しはできません。
※ギフトのお受け取りにはサインアップ(無料)が必要です。
※ご自身の本棚の本を贈ることはできません。
※ポイント、クーポンの利用はできません。クーポンコード登録
Reader Storeをご利用のお客様へ
ご利用ありがとうございます!
エラー(エラーコード: )
ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。