あきらめる
山崎ナオコーラ(著)
/小学館
作品情報
登山で頂上まで行く? 途中で降りられる?
「『あきらめる』って言葉、古語ではいい意味だったんですってね。『明らかにする』が語源らしいんです」
近所の川沿いを散歩するのが日課の早乙女雄大。
入院中の愛する人との残り少ない日々の過ごし方や、
ある告白をきっかけに家を出てしまった家族のこと、
あれこれと思い悩みながら歩いていると、親子風の二人組に出会う。
親に見える人は何やら思い詰めた表情で「自分の人生をあきらめたい」と言う・・・。
ふとしたきっかけで生まれた縁だったが、
やがて雄大は彼らと火星に移住し、「オリンポス山」に登ることを決意する・・・!?
「あきらめる」ことで自らを「あきらかにしていく」――
火星移住が身近になった、今よりほんの少し先のミライが舞台の新感覚ゆるSF小説。
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この作品のレビュー
平均 3.5 (2件のレビュー)
-
『あきらめる』って言葉、古語ではいい意味だったんですってね。『明らかにする』が語源らしいんです。
帯にもそう抜粋されているし、以前他のナオコーラさんの書籍でもこのことは書かれていた。なので、ポジティ…ブな意味とわかっていたんだけれど、それでも、最近は"やりたいことなんでもやってやるぜ、何にも諦めないぜ!"というメンタリティでいるので、あきらめるか…なんだか物騒な感じだ…と思いながら読み始めた。
結果的に、(これから自分史上いちばん大きなハードルに挑戦しようとしているのだけど)、当たってくだける的マインドで自分のできることとそうでないことを明らかにして、そのうえでたくさん努力しよう、となんだかスッキリした気持ちになれました。
ナオコーラさんらしさに満ちているけれど、登場人物それぞれの視点から文が構成されていたり、設定自体がすべて未来の話という、これまでの作品とはまた違う雰囲気。私にとって、新鮮でまた愛おしい一冊ができた。
P.12
このところ、「老人」「シニア」と呼ばれるのに馴染めない「若い高齢者」が増えたものだから、違う呼び方が模索されている。「高齢者」というストレートな呼称を雑談で使ってもいいのだろうが、それもちょっとなあ、という人もいて、年を増やしたプラスの面が引き立つ「成熟者」が人気を得ている。
P.67
「そういうスリッパみたいな靴は良くないねえ。かかとが高い靴が良い靴だ。教えてあげよう。『靴だけは良いものを履くべきだ』。社会的マナーとして」(略)
「これ、かかとは低いけれど、素晴らしい靴なんだよ。これ、私の好きな『良い靴』だよ。教えてあげる。自分が気に入っている靴が『良い靴』なんだ。他の人に認めてもらう必要はない」
P.86
「最後になるけど、私からのアドヴァイス。雄大さんはマイノリティに不寛容だよね?そこを考え直して、反省した方がいい」
「何言ってるんだ?俺こそがマイノリティだ」
「いや、雄大さんはマイノリティの中でも比較的強い方なんだよ。だから体制側に擦り寄った方が雄大さんの場合はうまくいくことが多いんじゃない?でもマイノリティのみんながそうなわけじゃない。これからの雄大さんはマイノリティに寛容になった方がいい」
「…考えてみよう」
「人を嫌いになりそうなときは離れるのが一番だ。距離は人を好きにさせる。弓香さんのことも、私は今、昔よりも大好きになれたんだよね」
P.121
「挨拶を交わせば仲良くなれる」という社会システムは「挨拶ができる人」というマジョリティのみを想定して作られているのだ。挨拶が苦手なマイノリティには努力が強いられる、と輝は気がついた。
P.124
けれども…、「生まれつき」という考え方が許されるなら、すっと胸に落ちる。いや、「性質」は遺伝による要素だけではできていない。親は関係ないことも多い。人間誰しも生まれながらにいくつかの「性質」を持っていて、誰だってその「性質」と共にに生きていく。遺伝とはつなげない、「生まれつきの性質」という概念を持っててもいいのではないか。「性質」と捉えていいのなら、「じゃあ、どうやってこの社会と折り合いをつけようか」と考えられる。他者に助けを求めても良いように感じられてくる。
P.170
「なんだろうな、このエピソードを単純に『いじめの懺悔』として聞いたのかな?私を『いじめっ子』と捉えたんだと思う。ほら、今って、『いじめの加害者』だった人は被害者からだけでなく、世間からも一生許されないよね。世間からずっと叩きのめされていく風潮があるじゃない?それとも同じ感じで、英二は私を許せなくなって、強靭な私を叩きのめすのが正義という感覚になったわけ、たぶんね。ほら、私って見た目が強そうじゃない?私は英二からいろいろなことで怒られるようになった」(略)
「あの会話の後、結婚生活のなかのシーンにも、私のことを悪者としてみる視線があった。何を話しても、私が悪者になってしまう。そうしたら、私も私のことが嫌いになってくる。私も自分を『悪者なんだ』という認識で生きていくことになる。悪者として生活するのが苦痛で苦痛で」
P.300
自分より「上」の人なんていない。目上の人に認めてもらう必要などない。自分で自分を評価して、楽しく仕事をするんだ。
行けるんじゃないかなあ、評価のない世界へ。続きを読む投稿日:2024.03.22
以前「指先からソーダ」というエッセイを読んで、ナオコーラさんの等身大の雰囲気がとっても安心して、そこから気になっている作家さんだった。
ナオコーラさんの小説を読むのは初めてだ。
とっても現代的なス…トーリーであり、
指先からソーダのエッセイとは違い「あきらめる」は
なんとなくシリアスというか薄暗い雰囲気が漂ったかんじではじまるストーリーだった。
帯にも書いてある通り、「あきらめる」って古語ではいい意味だったらしい。「明らかにする」が語源らしい。
ものすごく簡単に言うと、ポジティブなあきらめについてのストーリーだったのだが
最終、じんわりと自分にやさしい気持ちになれる作品だった。
わたし自身は、最近新しい職種についたばかりで
「あきらめる」という題目の本を読むのって
いいタイミングじゃなかったりして
と思いながら読んだのだが、逆にポジティブなきもちになれた。
ナオコーラさんの本を読んでいて、
本当に勝手な憶測でしかないが
すごくやさしい人なんだろうなあと思う。
本を通して、そうゆうやさしいエネルギーに触れられるのがありがたいと思う。
どんな人と繋がりたいかってことについて
リアルじゃなくても本とか作品をとおして選べるってすごく幸せなことだ。自由だ。
作品の最後のほうで、登場人物みんなで山に登るシーンがある。
頂上まで行くことを目指していた人も、途中で諦めて下山する。
「みんなで登ってみる」「この山の景色に触れてみる」ってことが大事だったんだと思ったのだと思う。
自分がいいと思う山に登って、そこで景色を感じればもう成功じゃないかと。
成し遂げられないから失敗なのではない。
登っていて明らかになっていくことがあると。
そうだ、成し遂げるがゴールではなくて
明らかにしていくことが大事なプロセスだ。
つまり、挑戦して明らかにしていく。
そうして、難しかったらそこにこだわらず
またそのいいところを感じにいけばいい。
はたまた、別のまたよさそうなほうへ散歩していけばいい。
そう思うと、なんかポジティブなきもちになれて
わたしも新しい仕事がはじまったばかりだが
この「あきらめる」を読んでよかったと思う。続きを読む投稿日:2024.04.11
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