帝国妖人伝
伊吹亜門(著)
/小学館
作品情報
犯人は誰? 探偵こそ誰?
時は明治、那珂川二坊は文学で名をなさんとす。尾崎紅葉に師事すれど執筆がかなうのは小説どころか三文記事ばかり。この日も簡易食堂に足を運び、ネタを探して与太話に耳を傾けた。
どうやら昨晩、かの徳川公爵邸に盗人が入ったらしい。蓋を開ければ徳川公にも家人にもこれと云った被害はなく、盗人は逃走途中に塀から落ちて死んだという不思議な顛末。酔客らは推論を重ねるが、「そりゃ違いますやろ」という声の主、福田房次郎が語り始めたのは、あっと驚く“真相”だった(「長くなだらかな坂」)。
京都・奈良をつなぐ法螺吹峠、ナチス勃興前夜のポツダム、魔都・上海ほか、那珂川の赴く地に事件あり、妖人あり! “歴史・時代ミステリの星”伊吹亜門が放つ全5話の連作短編集――
絢爛たる謎解き秘話を通して、
〈あの人〉たちの妖人ぶりにあらためて瞠目した
――有栖川有栖(作家)
著者の本領発揮作と呼ぶに相応しい完成度
――千街晶之(ミステリ評論家)
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この作品のレビュー
平均 3.6 (17件のレビュー)
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★5 探偵は誰? 大日本帝国時代、作家が事件に巻き込まれ…歴史と人物が学べるミステリ #帝国妖人伝
■きっと読みたくなるレビュー
おもろい、いい作品。
明治から昭和初期、作家の那珂川が様々な事件に遭…遇する連作短編集です。
事件は那珂川本人ではなく居合わせた要人が探偵役となって解決してゆく。解決に至った背景として要人のエピソードも語られていくことになる。事件の謎解きだけでなく、この要人は誰なんだ?と想像していくところが興味深く、さらに歴史の学びにもなるという一粒で三度美味しい作品。
帝国時代の時期や場所が様変わりするところも魅力ですね、日本人としてじっくりと味わいたい作品です。
〇長くなだらかな坂
犯罪実録記事のネタを探していた那珂川が、食堂で街の事件について語り合う一幕。青年が母親を訪ねた際に、泥棒を退治したという話なのだが…
会話してるだけなのに面白い!なるほどなぁと、つい感心してしまう。男性は甘えん坊なので、登場人物たちの気持ちがよく理解できる作品。
〇法螺吹峠の殺人
雨が降るなか京都から奈良へ向かう峠で、那珂川は死体を見つけてしまう。発見者のため怪しまれる那珂川であったが、付近にあった茶屋で事件の議論がされ…
雨の中の足あと問題、短いお話ながらも解法も動機もしっかりしていて素晴らしい。要人が解決しようと思った背景にゾワリ。やたらカタカナの台詞で読みづらいのですが、誰であるか判明したところでナルホド感。
〇攻撃!
ドイツのビアホールでの一幕から、日本邸宅の小屋で発生した殺人事件を解決してゆく。
事件も展開も真相も登場人物も衝撃…この人たちならこうなるかもね、という納得感がエグイ。
〇春帆飯店事件
本作イチ推し。満州国時代の上海にある宿館で発生した殺人事件、密室状態だった宿で犯人を見つけ出す。
丁寧なアリバイ捜査から解決に向かうも、そこからの真相と展開に思い切りお茶を吹き出しました。恥ずかしながら要人は存じ上げず、大変勉強になりました。
〇列外へ
戦争終了直後、那珂川の思い詰めた行動とは…そしてどう生きるか。
終章はあまり語りたくないです、ぜひ読んで欲しい。一体誰なのか。日本人が戦争でうけた影響、人は何故生きるのかという苦しみと希望が切々語られる作品。
■ぜっさん推しポイント
まだまだ知らない人物いて勉強になりましたね~きっとあなたも、どんな人だったか調べることになります。
本当にその人がその場に居合わせたなら、まさにそんな行動をしたのではないか。と臨場感たっぷりに思わせてくれる。そしてどんな要人でも人に対する想いが深く、でもほろ苦い風味を帯びていました。続きを読む投稿日:2024.04.14
最近お気に入りの伊吹さんの作品。
明治から昭和(第二次世界大戦終結)までに那珂川二坊なる売れない作家が遭遇した様々な事件を描く。
といっても探偵役は那珂川ではなく、それぞれの事件で出会う人たち。その…探偵役たちが後の有名人であったというのが最後に明かされる趣向。
事件そのものも楽しいが、むしろこの探偵役が誰なのかというのが途中から気になって読んでいた。
あの人かな?と思いながら読んだものの、結局分かった人はほとんどなし。自分の無知を改めて知ることになってしまった。
徳川公爵邸に忍び込んだ賊を捕まえた活躍譚の綻び。
豪雨の中で起きたクローズドサークル的殺人。
雪の山荘的密室殺人。
これまた同じフロア内の人物にしか起こせない密室的殺人。
密室となればワクワクするところではあるのだが、この作品ではちょっと肩透かしな感じがあった。
同時に那珂川二坊が公私ともに追い込まれていく様子が描かれていて少し辛かった。
主人公が売れない作家であるというところが肝であり、当時の多くの日本人がそうであったろう彼の視点もこの物語の結末がどうなるのかという興味を抱かせた。
この戦争の結末を知っている現代の私にとっては彼やその他の登場人物たちのその後を思うと切なく苦くなるのだが、『歴史に名を刻むであろう者も』『結局は私たち市井の人間と変わらなかった』という、その物語を那珂川二坊先生が描けた(それがこの本作という設定なのだろう)のは良かったと思う。続きを読む投稿日:2024.06.20
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