リカバリー・カバヒコ
青山美智子(著)
/光文社
作品情報
新築分譲マンション、アドヴァンス・ヒル。近くの公園にある古びたカバの遊具・カバヒコには、自分の治したい部分と同じ部分を触ると回復するという都市伝説が。アドヴァンス・ヒルの住人は、悩みをカバヒコに打ち明ける。成績不振の高校生、ママ友と馴染めない元アパレル店員、駅伝が嫌な小学生、ストレスから休職中の女性、母との関係がこじれたままの雑誌編集長。みんなの痛みにやさしく寄り添う、青山ワールドの真骨頂。
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この作品のレビュー
平均 4.1 (519件のレビュー)
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青山美智子さんの作品から伝わってくる温もりや優しさを思う存分楽しむことができた。胸にグッとくる場面では感動も味わった。前向きな気持ちが膨らむような読了感を味わった。本作品は5編からなる連作作品である。…各タイトルは『奏斗の頭』『紗羽の口』『ちはるの耳』『勇哉の足』『和彦の目』、それぞれの短編に登場する人物は「サンライズ・クリーニング」を営む80歳の溝端ゆきえ。この人物が最後の短編で存在感を増す。伏線として出てくるこのゆきえが、どのような人生を歩んできたかが分かり、この物語の深みを味わった。
物語の舞台となるのは「日の出公園」、その公園の隅にある一つのアニマルライド、カバ。茶色に近いようなくすんだオレンジ色で、ところどころ塗装が剥げ、地のコンクリートが出てまだらな灰色になっていた。ゆきえが、このカバを「リカバリー・カバヒコ」と名付けていた。連作短編で、自分が治したい体の部分と同じところを、「リカバリー・カバヒコ」の体の部分に触ることで回復するという伝説があった。そんなおまじないのような展開が微笑ましく感じ、わくわくしながら読み進めることができた。
『奏斗の頭』の主人公は高校1年生の宮原奏斗。中学卒業と同時に引っ越した場所が新築のマンション「アドヴァンス・ヒル」。奏斗は、推薦入試で合格した都内の高校生活に期待していた。しかし、友達もできず、成績も奮わなかった。そんな中、この公園で同じクラスの雫田美冬に出会う。雫田はアルバイトをしながら、勉学に励んでいた。雫田は、その目的を奏斗に伝える。そこに、奏斗は大きな動揺と刺激を受ける。身近な存在や言動に刺激を受けることは多いし、大きな励みにもなることもあるだろうな。そう考えるのも自分次第なのだろうけれど。そのような中、奏斗はゆきえから、雫田は6人兄弟姉妹であること、高校にかかる費用を稼ぐためにバイトしていること、そのこともあって勉強に励んでいることを聞かされる。さらに後から分かる雫田の背景から、今までの雫田の言動に新たな意味付けを加える分、奏斗は大きな衝撃を受ける。そして、今までと変わった奏斗の考え方によって、改めて奏斗が両親の思いを知る場面では、胸にぐっとくるものがあった。
『紗羽の口』の主人公は、樋村紗羽。「アドヴァンス・ヒル」に住む、幼稚園に通うみずほの母親。夫、佳孝と3人家族。マンションに引っ越すことで、みずほは転園し、ひばり幼稚園へ。そこでの母親同士のしがらみの中で本音が言えず、悩みながらも関係を保っていた。一方で、母親同士の関係には入らずにいる絹川のことが気になっていたし、そのふるまいへの憧れも感じていた。紗羽はかつて、ファッションに関わるショップで接客業をしていた。その仕事が好きで極めていたし、会社からも認められていた。そんな経験を積んでいると、現状が苦しいほど、その仕事に戻りたいという思いも膨らむだろうな。でも、紗羽の苦しさは、母親としての苦しさというよりは、人間関係の苦しさ。だから、その関係をどうするのだろうと想像しながら読み進めた。紗羽は、いつも利用しているスーパーで、同じレジの人を選んでいた。それは、その接客の心地よさを感じていたから。その人の名前は雫田、前話の雫田の母親だった。この展開に、思わず声が出た。青山さんの作品世界の広がりを感じて、楽しくなった。そして、紗羽も、ひょんなことから「リカバリー・カバヒコ」の伝説を知る。紗羽が撫でたのは口。ちゃんと本当の思いを伝えたいということ。この後の展開は、胸にグッときた。ラストに向かって、絹川の言葉に影響された紗羽の口から、本当の思いや考えが話される。その姿に清々しさを感じて読了した。
『ちはるの耳』の主人公は、新沢ちはる。ちはるはウェディングプランナーとして働いている。住まいは「アドヴァンス・ヒル」。ちはるは、耳管開放症という耳の病気を抱えていた。その原因は心的なものということ。結局、会社を休職することになった。この時点で、読んでいて苦しい思いを抱く。ちはるの同僚に、澄恵と洋治がいた。この2人の存在は、徐々に主人公の心を揺さぶりながら、展開していく。結婚と仕事について考えるちはる。心や体が弱っているときには、周りの人の方がよく見えるのだろうな。羨ましいという感情が膨らむのもありうることだろうな。そこから抜け出せれば、自分の生活を楽しくできるのだろうけれど。またも、ひょんなことから、同じマンションということで顔見知りだった紗羽と出会い、「リカバリー・カバヒコ」の伝説を聞く。この先を読み進めるのが楽しみになる。ちはるが撫でたのは耳。そこからの展開は、新たなことやものにより、ちはるは衝撃を受けながらも現実をしっかりと受け止めていく。その姿にかっこよさや潔さを感じながら読了した。
『勇哉の足』の主人公は、小学4年生の勇哉。住まいは「アドヴァンス・ヒル」。舞台は小学校の駅伝大会。1年生から6年生までの各クラス代表3名が襷を継なぐ大会。最後の代表1人が決まらずに、くじで選出することになった。ここで、勇哉は足を捻挫していると伝え、くじを引かずに済ませた。それは、走ることへの自信がないことと見栄だった。気持ちは分かるけれど、この後の苦しい展開を想像し、どきっとする。結局くじで決まったのはスグル。そこから、本当に原因不明の足の痛みを抱えることになる勇哉。病院帰りによった「サンライズ・クリーニング」でゆきえとちはるに出会う。ここから、また「リカバリー・カバヒコ」の伝説へ。この展開に、ぱっとなぜか明るい気持ちが膨らむ。ここまでの作品世界が誘っているのかな。勇哉が撫でたのは右の後ろ足。そこからの展開は、新たな登場人物である整体師との出会いと、スグルの前向きな姿によって、勇哉は大きく変わっていく。想像の中で明るい景色が広がって読了した。
最後は『和彦の目』。主人公は52歳の溝端和彦。出版社の月刊情報誌の編集長であり、「サンライズ、クリーニング」のゆきえのひとり息子。住まいは「アドヴァンス・ヒル」。この設定に青山さんの、ここまでの4話に渡る連作短編の展開に、嬉しさと驚きを感じる。和彦は、経験を積んでいるという自負をもっていて、部下への対抗心が膨らんでいた。年齢を重ねると、最新の情報に疎くなることもあるだろう。そして、その情報を先取りするような仕事だと、自身の努力が問われるかもしれないな。あわせて、和彦は老眼のような状態になっていた。体の衰えは、実感すると心にも影響を及ぼすものだろうな。和彦は父親を覚えていない、つまり、母親に育てられていた。ゆきえは、和彦に小さい頃から、「リカバリー・カバヒコ」の伝説を話していた。それが、和彦の記憶の中で、大きなものとなっていた。ゆきえと和彦の親子関係は悪くなっていた。これまでの話のゆきえは、明朗快活でまちの活性剤ような印象をもっていたため、この展開に気持ちがざわつく。妻、美弥子と和彦の関係も、年月を重ねて変化していた。和彦は勇哉と「リカバリー・カバヒコ」のところで出会う。勇哉から聞く「リカバリー・カバヒコ」の伝説。和彦の衝撃はどのくらいだろう。親子の中での話は広がり、周りの人達に伝えられ、周りの人達は前向きになっている。このときの勇哉との会話が和彦の心と体をほぐしていく。そこに温かさと心地よさを感じる。リカバリーは誰でもどこからでも始められる、そんな気持ちになっていった。しかも、回復して元の自分に戻るのではなく、新しい自分になっていくところに希望を感じる。それは、そうだろうな。それも、その人自身の心持ちに関係するのだろうけれど。そこから、ラストに向かって、明らかになるゆきえの思いと、ゆきえと美弥子の関係。微笑ましいラストに、思わずよかったなと感じながら読了した。
久しぶりの青山さんの作品を読了した。心がほかほかして、よい気持ちになる。これからも青山さんの作品を読み続けていきたいな、そんな気持ちで満たされた。続きを読む投稿日:2024.03.09
青山先生ワールド炸裂!短編だけど長編作みたいな全部の物語が繋がってる感じ大好き!最後の親子の物語が心がほっこりして一番好き。
投稿日:2024.06.18
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