サキの忘れ物(新潮文庫)
津村記久子(著)
/新潮文庫
作品情報
自分には何にも夢中になれるものがない――。高校をやめて病院併設の喫茶店でアルバイト中の千春は、常連の女性が置き忘れた本を手にする。「サキ」という外国人の男性が書いた短篇集。これまでに一度も本を読み通したことがない千春だったが、その日からゆっくりと人生が動き始める。深く心に染み入る表題作から、謎めいた旅行案内、読者が主役のゲームブックまで、かがやきに満ちた全九編。(解説・都甲幸治)
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商品情報
- シリーズ
- サキの忘れ物(新潮文庫)
- 著者
- 津村記久子
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2023.08.29
- Reader Store発売日
- 2023.08.29
- ファイルサイズ
- 2.5MB
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この作品のレビュー
平均 3.6 (30件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
最近ひそかに気になっていた津村記久子さんの短編集。
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むむ、この人、うまい・・・!好きな作家さんのひとりになりそうな予感。
収録作品は9作。全て、全然違うんだけど、全部おもしろくて(ガハハと笑うという意味ではなく、お話として、という意味)、全部「うまいな・・・」と思ってしまうものばかりだった。
「サキの忘れ物」
病院併設のカフェという失礼ながらあまりパッとしないところでバイトをしている主人公の淡々とした日々が、お客さんが忘れた本がきっかけで動き出す。「サキ」というのはその本の著者。ドラマチックに描かれていないのに、「え、すごい」というところに着地する。淡々とそこに向かっていく、その「淡々」がよかった。
「王国」
こういう、小さい子を主人公とした小さい子目線のその子独特の世界を生き生きと描ける人を心底尊敬する。似たようなものを読んだことがあるような、なかったような気になりながらも、とにかく尊敬する。素晴らしい王国だった。
「ペチュニアフォールを知る二十の名所」
これまた、おもしろかった。こういう形式のお話はあまり読んだ記憶がない。「ペチュニアフォール」という街への旅行をお客に勧めているであろう旅行代理店担当者(と思われる人)の語りだけで進んでいく。ふんふん、と大人しく聞いているとどんどんと「ペチュニアフォール」の怪しい黒歴史が紐解かれていく。架空の街の架空の歴史、大いに楽しませてもらった。私はすっかり「お客」だった。
「喫茶店の周波数」
これは、なんでかすごくおもしろかった。(←さっきからそればっかり)お気に入りの紅茶専門店兼喫茶店が閉店するということで、閉店二日前になんとか入店する主人公。この主人公は、喫茶店の周りの人の話をラジオのように楽しむ癖があり・・・。あんな客がいたな、あんな会話をしていたな、と思い出したり、今隣にいる客の話にじっと耳を傾けたり。ある時は、全く意味を待たないというか生産性のないことばかり言う隣のテーブルの若者にげっそりきて、「私はこの国の将来を憂い、無性に国籍を変えたくなった。」とあり、思わずブハっと笑ってしまった。他にも、まだ注文を迷っているという時点なのに、忙しくしている店員を呼びつける隣のテーブルの女性客がその店員に何を注文しようか「まよってる」というようなことを正直に言うと、「まよっ?」と驚愕する主人公。これにも思わずクスっと笑ってしまった。作者の津村さんの笑いのセンスの良さも感じられる。お話自体はただそれだけなんだけど、無性に、おもしろかった。
「Sさんの再訪」
これまた、あっさりスッパリした終わり方に「そこー?そこかぁ。そうきたかぁ。」と感心してしまった。いや、うまいな、津村さん。(←全然説明できていない)
「行列」
これも津村さんの力量がよくわかり、「う~ん」とうならされたお話だった。東京五輪以来初めてお披露目されるらしいあれを見るために長蛇の列に並ぶという話。あれがなんだかわからないからか、自分が知らない未来の話か、SFのようにも感じられ、自分でもちょっと不思議な感覚だった。私だったら言語化を諦めてしまいそうな状況を文字に落として説明して、このあれを見るための長蛇の列がどんなものかをすごくうまく読者に伝えてくれる。動きの少ない行列なのにやけに臨場感があった。そして行列のほぼ前後だけという狭い空間での人間模様がまた興味深かった。ちょっと嫌気がさすほど人間味にあふれていて、行列に並ぶ疲労感が味わえた。
「河川敷のガゼル」
河川敷に突如ガゼルが現れた。そんな驚きの出来事に町も人も浮足立つが、なんだかずっとグダグダしている。ガゼルをそのままにグダグダしている。ガゼルというあまりあり得るとは言い難い生物の出現の割には、地味に低いところを進んでいくようなお話で、ある意味新鮮なお話だった。余談だけれど、ガゼルをはっきり認識しようとググってその顔を知った翌日、PCを立ち上げたら、ログイン画面にガゼルが現れてびっくりした。ランダムに色んな画像が表示される仕組みとはいえ、とりあえず、「お!ガゼル!」とびっくりした。
「真夜中をさまようゲームブック」
これはゲームブック形式の小説だった。ゲームブック形式のお話なんて初めて読んだ。始めの注意書きを無視してメモを取らずに読んだから、何度もゲームオーバーしてどこからやり直したらいいのかと、ウロウロしてしまった。やっとクリアしたけど、気になるので、(当然)全部読んでみたら、もっといいクリアがあった。悔しい。ゲームだった、本当に。
「隣のビル」
上司が嫌なやつで、それでなんか仕事に戻りたくなくて、いつも眺めていた隣のビルに衝動的に飛び移る女性の話。と書くと変な話に思えるけれど、変な話なんだけど、なんかとても良い。未来が明るそうな終わり方で、そうだよ、そんな仕事続けるくらいなら、隣のビルに飛び移ってしまって、吹っ切れて良かったんだよ。と、ちょっと胸があつくなった。変なお話が「変」だけで終わらない。なんかすごい、津村さん。
全部の短編に何かひとこと感想を言いたくなる本でした。とても良かったので、津村記久子さん、これからも注目していきたいです。投稿日:2023.09.11
なんとなく、どこかしらクセ(個性?)のある人たちが主役の短編集。
表題作「サキの忘れ物」、何にも興味がもてない、何をしたらいいか分からない千春が、本を読んでみたいと思うようになったこと、分からないこ…とを分かりたいとするところが、心に刺さった。
1篇ずつ趣の異なるストーリーが展開されるのだけれど、あまりにさらっと読みすぎたなと、解説を読んでちょっと後悔。
さらっと読めてしまうんだけれど、じっくり考えながら味わいながら読むと、もっと違う世界が見えただろうか。続きを読む投稿日:2024.05.01
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