思考機械の事件簿1
ジャック・フットレル(著)
,宇野利泰(訳)
/創元推理文庫
作品情報
1891年、英国で創刊したばかりの〈ストランド・マガジン〉が掲載したシャーロック・ホームズ譚は、爆発的な好評を博し、雑誌の売行きは一挙に数倍にはね上がった。この異常人気に他誌が黙っているはずはない。かくして陸続と独自の個性を誇る名探偵たちが登場し、名推理を競い合うことになった。彼らを通称して《シャーロック・ホームズのライヴァルたち》といい、名探偵の世紀が開幕する。本巻はアメリカの生んだ名探偵《思考機械》の活躍を描く名作を選りすぐった本格派ファン垂涎のコレクション第1巻!/【目次】《思考機械》調査に乗り出す/謎の凶器/焔をあげる幽霊/情報洩れ/余分の指/ルーベンス盗難事件/水晶占い師/茶色の上着/消えた首飾り/完全なアリバイ/赤い糸/解説=戸川安宣
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商品情報
- シリーズ
- 思考機械の事件簿
- 著者
- ジャック・フットレル, 宇野利泰
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 東京創元社
- 掲載誌・レーベル
- 創元推理文庫
- 書籍発売日
- 1977.07.15
- Reader Store発売日
- 2023.07.31
- ファイルサイズ
- 6MB
- ページ数
- 358ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (12件のレビュー)
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続刊熱望
以前、紙の書籍で(全三巻)持っていましたが、地震が原因で廃棄しました。
他の方も言及されていますが、続刊を熱望します。
やはり『十三号独房の問題』がないと、芯が外れているようで。投稿日:2023.11.23
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『思考機械(シンキング・マシーン)』は、本名を「オーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン」といい、哲学博士(PH.D.)、法学博士(LL.D.)、王立学会会員(F.R.S.)、医学博士(M.D.…)、そして歯科博士(M.D.S.)といった、肩書きと名前とでアルファベットの殆どを使ってしまうという、驚くべき人物である(それにしても、長い名前だこと)。
1887年に誕生した、シャーロック・ホームズの人気を皮切りに、各国から、それに続けとばかりに現れた個性的な推理ものの中に於いて、この思考機械シリーズは、1905年の『十三号独房の問題』で初登場し、その彼自ら刑務所の独房内に入り、そこから見事に脱出してみせるといった、彼自身の知識の豊富さに基づく観察眼と発想を転換させる天才ぶりに、サバイバル要素も加わったストーリー展開が斬新で、それは、本書の「《思考機械》調査に乗り出す」にも感じられた、探偵自身が窮地を脱するようなワクワクさせる面白さがあった。
しかし、そのイメージがあまりに強すぎたのか、本書の短編十一作を読んだ率直な印象としては、割とオーソドックスな型に感じられ、誰にも解けないような謎に興味を持つ思考機械が、時に新聞記者の「ハッチンソン・ハッチ」(彼も思考機械の魅力に取り憑かれた内の一人)を情報収集役にし、安楽椅子、フィールドワークとやり方は様々でありながらも、やがては論理的思考によって、事件を解明していく、よくあるパターンといえばそうである。
また、謎の中には彼の肩書きを象徴するような、理系のそれの分かりづらさや、中には、伏線に無い後付けしたようなものもあって、読者が共に読みながら謎を解明していくには、やや合わないかもと感じたが、それでも1900年代に、このような今でいうところのオーソドックスな型を作り上げた功績は、凄いと思う。
そして、そこにフットレルならではのストーリーテリングが加わることで、事件の謎を解く物語としての面白さは充分に感じられ、特に、同じ叙情的文章を二度掲載したこと自体が伏線となっている、「完全なアリバイ」や、金庫破り専門の男ドーランが妻の為に、警察が押し掛けてくるまでに如何にして大金を隠すかといったスリリングさも読み所の、「茶色の上着」は良かった。
更に、フットレルの描き方で印象深かったのが、犯人の中にある人間の汚さや真意の読めない恐ろしい部分であり、その、時に思い切った非情なさまは如何にして、心の中で形成されたのかといった点に惹かれたのが、「情報洩れ」や「余分の指」であり、特に前者の、他人の信頼をいいことに飄々と日常生活を送っていた、その心理状態は全く理解出来ないものがあったが、そうしたものも含めて人間の複雑さなのかもしれないと、思わせるものがあったのも、確かであった。
それから特筆すべき点は、ホームズとはまた異なる、思考機械の探偵像であり、その興味のある謎の話を聞いている時の彼独特の仕種、椅子に座りながら細長い指の先をつき合わせ、斜視ぎみの目を天井に向ける様子や、スティーヴン・スピュリアによる表紙の彼の絵もそうだが、中でも、彼の生き様を表しているものとして、『二プラス二は四であるのは、つねにそうである』の台詞に裏付けられた、論理的思考に対する絶対的な自信であり、時にはそれによる頑固な一面も見られたが、『想像だけで論理操作の半ばが達成される』や、『あらゆる疑問点の答えを得るまでは、謎が解けたなどというべきでない』といった、考える事や、どこまでも丁寧に手抜かりなく一つ一つ追っていく事の大切さを唱えており、決して自信過剰なだけでは無い、直向きな真面目さこそが、彼の真の持ち味なのだと感じ取れた。
そして、それは物語で依頼人から届いた小切手も、身体障害児童収容ホームへ送付させる、彼の、謎自体が報酬であると認識している、その優しい人柄からも感じられて、そんな彼の人柄はそのまま、タイタニック号の遭難事故で、妻を救命艇に押しやり、自分自身は船に留まって海底に没した、フットレル自身のそれを表しているようで、なんだか切なくなってしまったが、おそらく確固たるものを内に抱いていた方なのだろうと思わせる、彼の人間性があったからこそ生まれた物語なのかもしれないと考えると、また違ったものが見えてくるような気がしてならない。続きを読む投稿日:2024.01.08
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