鈍色幻視行
恩田陸(著)
/集英社文芸単行本
作品情報
謎と秘密を乗せて、今、長い航海が始まる。
撮影中の事故により三たび映像化が頓挫した“呪われた”小説『夜果つるところ』と、その著者・飯合梓の謎を追う小説家の蕗谷梢は、関係者が一堂に会するクルーズ旅行に夫・雅春とともに参加した。船上では、映画監督の角替、映画プロデューサーの進藤、編集者の島崎、漫画家ユニット・真鍋姉妹など、『夜~』にひとかたならぬ思いを持つ面々が、梢の取材に応えて語り出す。次々と現れる新事実と新解釈。旅の半ば、『夜~』を読み返した梢は、ある違和感を覚えて――
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商品情報
- シリーズ
- 鈍色幻視行
- 著者
- 恩田陸
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 集英社
- 掲載誌・レーベル
- 集英社文芸単行本
- 書籍発売日
- 2023.05.26
- Reader Store発売日
- 2023.05.26
- ファイルサイズ
- 0.6MB
- ページ数
- 656ページ
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この作品のレビュー
平均 3.5 (147件のレビュー)
-
650ページある恩田陸さんの長編を読了した。長い船旅を経験したことのない私にとって、未知なる世界ではあったけれど、読み終えたときに、登場人物とともに旅を終えた、そんな気持ちに満たされた。細かな人物描写…と船旅の状況描写を存分に楽しみながら恩田さんの作品世界に入り込んでいた。ブクログで作中作品の情報も知って、先に『夜果つるところ』を読んだ。『夜果つるところ』は、味わったことがない作品世界だったために想像が広がり、本作品とのつながりがさらに興味深くなった。
本作品は、序章と終章の間に45章が編集されている。それぞれの場面と前後のつながりが一体となって、作品世界に入り込んでいく感覚を味わった。『鈍色幻視行』というタイトルから受ける不思議な気持ちも作品世界を観てみたいという気持ちが膨らんだ。読み終わってから序章を再度読み返すと、この情景の深さと旅の余韻を味わうことができた。この辺りにも恩田さんの本作品にかける熱量を感じる。
中心人物は40代の妻と夫、蕗谷梢と雅春。本作品の背景にある『夜果つるところ』の映像化などの関連した作品づくりに関する呪いと言われている話が明らかになる。そして、作者である飯合梓に纏わる話も。そもそも何が事実で何が噂なのか、また飯合の生存も定かではない。また、飯合になりすましていた存在がいたのではないかと。つまり、飯合梓ががいたのではないのではないか、さらには、そのなりすましは、男性ではないのかという話までもが出てくる。それは『夜果つるところ』の主人公とも重なるという話まで出てくる。この辺りが、作品世界を混沌とさせるとともに、登場人物が語る話の真意が知りたくなっていくように誘われていく感覚があった。それだけ、恩田さんの細かな描写や展開に魅了されているのだろう。そのことが、登場人物の語りによって、様々な視点から語られる。本当のところはどうなのだろうか。登場人物とともに作品にかかわる呪いへの疑問が膨らむ。
お蔵入りとなった5年前の『夜果つるところ』の映画化用の脚本を書いたのは、笹倉いずみ。雅春の前妻であり、自殺している。雅春は、いずみがその脚本を書いていることを、梢には言っていなかった。このことを知っている梢は、その思いを想像してしまう。雅春に直接訊けない辛さを感じる。そこに何とも言えないもどかしさも感じる。雅春は弁護士。再婚同士の夫妻が、この船旅で長期間を初めて共に過ごす。そこにも、この旅が、互いを知り合う期間になっていくのだろうと想像していた。梢は多数の連載を抱えている小説家。多忙な夫妻のすれ違い生活。だからこそ、この船旅の特別感がある。部屋は上層階のバルコニー付きのスィートルーム。特別感が増す。2人の共通の趣味は読書。そのため、段ボール2つ分の本を送り込んでいた。せっかくの船旅を自分の好きな本を読む、それも贅沢な時間の過ごし方だろうな。
船旅を共にする主たる登場人物、50歳ぐらいの真鍋綾実、詩織の姉妹。売れっ子の漫画家。2人1組のペンネームを名乗っている。原作者である飯合梓の熱狂的なファン。二人は飯合梓について、いろいろ調べていた。70代の角替正映画監督と妻、清水桂子。『夜果つるところ』の最初の映画化をすすめてい時の助監督。脚本作りにも携わった。角替監督は、最初の妻を最初の映画化の時の撮影中に事故で失っていた。『夜果つるところ』を文庫化した担当編集者、島崎四郎と妻、和歌子。島崎四郎は飯合梓とも面識があった。2度目の映画化を試みたプロデューサー、進藤洋介とその妻。90歳近い映画評論家でゲイの武井京太郎とその彼。
『夜果つるところ』の映画は誰も完成することができなかった。その都度、撮影を中止したり、制作を頓挫せざるを得ない状況が起こっていた。このエピソードでも、呪われた作品であるというイメージが鮮明になっていく。災いをもたらすという感覚は不思議なものだけど、迷信ともいえるのだろう。『夜果つるところ』の映画化に纏わる死者は、最初の映画化で6人、クライマックスの炎上シーンで火災に巻き込まれている。これにより、映画は完成されず。2度目の映画化では、撮影中に役者同士が無理心中。撮影は中断、そして、お蔵入りになった。5年前の映画化では、脚本家が脚本を完成させた直後に自殺、映画化は頓挫。最近では、ドラマ化が進んでいた最中、終盤で撮影カメラマンの急死で、完成はならず。このような中、梢は『夜果つるところ』をテーマにした本を書こうとしていた。ただ、乗船時は雅春の前妻であり自死したいずみが映画化の脚本を行っていたことは、知らなかった。この辺り展開が伏線として表されていて、このことも気になりながら読み進めていた。
物語が進むにつれ、作者の飯合、雅春の前妻であり映画化の脚本を担ったいずみ、そして、それぞれの映画化に纏わる話が徐々に鮮明になっていく。そして、何が本当のことなのかは掴めない。魅力的な登場人物たちの素性や背景も徐々に明らかになっていく。しかし、それさえも疑いながら読んでいる不思議な感覚があった。本当のことは何なのだろう。それ自体が、鈍色幻視行なのだろうか。タイトルとも関連させてしまっている。虚構、作り事、真実といった言葉が語られる。さらに、真実ですら、何をもってそう言い切れるのだろうか。登場人物とともに考えてしまっていた。
寄港し立ち寄る場所に、アモイ、コロンス島、ベトナム、香港の風景が想像される。船旅のおもしろさを感じつつ、それぞれの場所を想像しながら船旅は終わった。それぞれの登場人物に思いを馳せながら、不思議な感覚に包まれた中で読了した。このようなテーマで長編作品を表現する恩田陸さんの着眼や熱量に感嘆する。作中作品との繋がりも楽しみながら、私にとって新しい作品世界との出会いとなった。ますます恩田陸さんの次の作品を読むことが楽しみとなった。続きを読む投稿日:2024.06.01
小説『夜果つるところ』の呪いとは?小説家蕗谷梢の正体とは?その真実がいかに明かされるのかを求めて、退屈な船旅に付き合ったわけです。でもって長い航海を終えてみれば、謎は鈍色のまま。なんとも虚しい旅でした…。こりゃなんぞや?もしかしたらこの航海のさなかに関係者たちがひとりふたりと殺されていく、そんなミステリーかしらんと間抜けな期待までしてしまった。そんなんでもなけりゃ、知りもしない小説をめぐって謎もなんもあったもんじゃないんだし。結局、幻すら視認することかなわず旅は終わった。これ続刊『夜果つるところ』への誘い?続きを読む
投稿日:2024.06.15
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