光のとこにいてね
一穂ミチ(著)
/文春e-book
作品情報
『スモールワールズ』を超える、感動の最高傑作
たった1人の、運命に出会った
古びた団地の片隅で、彼女と出会った。彼女と私は、なにもかもが違った。着るものも食べるものも住む世界も。でもなぜか、彼女が笑うと、私も笑顔になれた。彼女が泣くと、私も悲しくなった。 彼女に惹かれたその日から、残酷な現実も平気だと思えた。ずっと一緒にはいられないと分かっていながら、一瞬の幸せが、永遠となることを祈った。
どうして彼女しかダメなんだろう。どうして彼女とじゃないと、私は幸せじゃないんだろう……。
運命に導かれ、運命に引き裂かれる
ひとつの愛に惑う二人の、四半世紀の物語
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商品情報
- シリーズ
- 光のとこにいてね
- 著者
- 一穂ミチ
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春e-book
- 書籍発売日
- 2022.11.07
- Reader Store発売日
- 2022.11.07
- ファイルサイズ
- 0.7MB
- ページ数
- 464ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (716件のレビュー)
-
あなたには、『結珠ちゃんに出会って、わたしの人生が本当に始まった』、というような人との出会いを経験したことがあるでしょうか?
この世には数多の人がいて、数多の人間関係があります。そして、その全てに…そんな関係が始まる起点となる瞬間があったはずです。そんな始まりは学校での出会いかもしれません、会社での出会いかもしれません、そして、街中でのほんのちょっとした触れ合いの中に始まったものかもしれません。人と人との関係性の始まりというものは、思った以上に偶然という場合も多いものです。
そして、そんな風にして始まった人と人との関係は単に長い時間を共に過ごせば良いというものでもありません。もし時間だけが全てであるのなら、大人なあなたの最も大切な人は、今日もあなたの前の席に座る会社の同僚ということになってもしまいます。『ふたりで体験した時間は夢みたいにきらきらしていた』。そんな言葉の先に紡がれる関係性というものは時間の長さだけではない、もっと別の何かによって培われていくものでもあるのだと思います。
さて、ここに『果遠、校倉果遠』、『小瀧結珠、七歳、小学二年生です』、『果遠ちゃんは何年生?』、『結珠ちゃんとおんなじ』、『そうなんだ』と交わした言葉の先に繋がっていく二人の女の子が主人公となる物語があります。母親に連れられて出かけた先の、ある『団地』で偶然に出会った二人の女の子。『次の週の水曜日も、結珠ちゃんは5号棟にやってきた』と、続いていくその日常の中で関係を深めていく二人の女の子。しかし、そんな二人の別れは唐突に訪れます。
この作品は、偶然に出会った二人の女の子が、その後の人生において、出会いと別れを再び経験する物語。そんな出会いと別れの繰り返しの中に、お互いがお互いの存在を強く意識していくのを見る物語。そしてそれは、『七歳の時も十五歳の時も、今も、彼女は一瞬で私の目を奪う』と、やがて大人になった二人がお互いの存在の大切さに気づく物語です。
『二年生になってGWを過ぎた水曜日の放課後、ママに『突然「一緒に来なさい」と』言われ『制服のまま車に乗せ』られたのは主人公の小瀧結珠(こたき ゆず)。そんな結珠は『「団地」っていうの。ママの知り合いのおうち』と説明された『「504」という札以外は何もないドアの前』にママと立ちます。インターホンを押し、しばらくすると『知らない男の人が顔を覗かせ』ました。『鍵くらい掛ければ。不用心だよ』と『スプーンやナイフにくっついたいちごジャムみたいな声』で言うママに『こんな部屋から何盗るんだよ』と返す男。『ぼさぼさの髪や無精ひげや充血した白目』の男に『怖くて足がすく』む結珠。『ご挨拶しなさい』と言われ、名を名乗ると『ちっせえ声だな、ちゃんと食わしてんのか』と言う男。そして、ママは『ここでやることがあるから、降りた階段のところで待ってなさい。三十分くらい』と言うのに『ボランティア?』と訊くと『そう』と答えるママと『けたたましく笑』う男。仕方なく一階で待つ結珠は、『向かいの棟の』五階のベランダに『手すりから大きく身を乗り出している』女の子を目にします。『何をしようとしているの?』と思う結珠は、『目があった瞬間』『両手を目いっぱいに伸ばし』ます。そんな時、『おでこにぽつんと何かが当た』りました。『指で拭うと』『指先が赤くなっている』のを見ている中に、女の子はベランダからいなくなってしまいます。やがて、『ごめんね』『びっくりして、鼻血出ちゃった』と現れた女の子は校倉果遠(あぜくら かのん)と名乗りました。
視点が変わり、『わたしの唯一の友達は隣の家の「きみどり」』、『お隣には女の人がひとり住んでいて』、そんな女性が飼っているインコを勝手に『きみどり』と呼ぶ『わたし』。女の人が『よく遊びにくる男の人と怒鳴り合ったり』して、ベランダに鳥籠が出された時、仕切り越しに『きみどり』と会えることを喜ぶ『わたし』。そして、今日も『きみどり』を観察していると下に『ぽつんとひとりで立つ』女の子がこちらを見ているのに気づきます。『わたしに向かってまっすぐに両手を伸ばし』ているのを見た時、『きみどり』が『「アイタイヨォー」と鳴』きました。それに驚いた『わたし』の鼻から『鼻血』が出て下へと落ちていくのを感じます。『いけない』と思い、大急ぎで階段を駆け降りた『わたし』は、『ごめんね』『びっくりして、鼻血出ちゃった』と言い、校倉果遠と名乗りました。すると、『小瀧結珠、七歳、小学二年生です』と答えた女の子。結珠と果遠の運命の出会い、そして、別れ、再びの出会い。不思議な糸で結ばれた二人のそれからの四半世紀に渡る物語が描かれていきます。
2022年11月7日に刊行された一穂ミチさんの最新作でもあるこの作品。”発売日に新作を一気読みして長文レビューを書こう!キャンペーン”を勝手に展開している私は、先月も寺地はるなさんの「川のほとりに立つ者は」を発売日に一気読みしてレビュー済みです。ただ、一穂さんのこの作品は単行本で460ページもあり、流石に平日に読むには二日かかりました。秋は新米が美味しい季節ですが、読書の秋には小説も新作がやはり良いですね!このキャンペーン、やみつきになりそうです(笑)。
さて、そんなこの作品、「別冊文藝春秋」に2021年5月号から2022年9月号に一年以上に渡って連載されてきたものです。”運命に導かれ、運命に引き裂かれる ひとつの愛に惑う二人の、四半世紀の物語”と内容紹介にうたわれる通り、二人の女性が等位の主人公を務め三つの章にわたってそんな二人の四半世紀の人生の歩みが描かれていきます。読みどころは幾つかあると思いますが、私がまず魅かれたのは、頻出する比喩表現の数々です。特に印象に残ったのが文字だけの小説の上で『声』を巧みに表現していく部分です。主人公・結珠は母親の声音の変化を聞き分けて、そんな母親の心を読み解いていきます。二つのシーンを取り上げたいと思います。まずは、9歳の結珠が、母親に連れられて『団地』に暮らす男の部屋を訪れる場面で母親が男と話す時の『声』をこんな風に表現します。
『パパやお兄ちゃんと話す時とも、スイミングのコーチや宅配便のおじさんと話す時とも違う、スプーンやナイフにくっついたいちごジャムみたいな声だった。べとっとへばりついて残ってしまう甘さ』。
母親から、男の部屋で『ボランティア』をすると言われ、外で一人待たされる幼き結珠。当該シーンでは、具体的な記述は登場しませんし、結珠も中で行われていることは理解していませんが、大人な事情がぷんぷんする不穏さが十二分に伝わってきます。そんな甘い『声』の表現が別のシーンではこんな風にも表現されます。『その日のママは、第一声から違った』という、その『声』。
『いつもの声色が鉱物だとすれば、マシュマロ。ココアに入れればとろけるほどふわふわとやわく甘い』。
ネタバレに直結するためどんなシーンかは伏せますが、母親にとってとても喜ばしいことが分かった、そんなシチュエーションで母親が出す『声』です。『いちごジャム』も甘そうですが、ココアにマシュマロが入っているって、想像するだけでお腹いっぱいになりそうです。しかし、こちらも読者の想像力を見事に掻き立ててくれる表現であることには違いはありません。文字の上で『声』を表現するのに、なんと味覚を刺激する!という一穂さんの表現手法。なんとも絶妙な描写だと思いました。
そんなこの作品は、上記した通り、二人の女性が等位の主人公を務めますが、ここで、一穂さんから私たち読者に向けたこの作品のメッセージを引用させていただきたいと思います。
“ちっぽけな、女の子ふたりの、「ただそれだけ」の物語です。問題提起も世情の反映もなく、とても個人的な、ちゃちな鍵の掛かった日記のようなものだと思って下さい。 そこに教訓や有益な示唆はありませんが、「何かがあったような気がする」とうっすら感じてもらえたら嬉しいです。”
“ちっぽけな、女の子ふたりの、「ただそれだけ」の物語”と言い切られる一穂さん。しかし、一方で”「何かがあったような気がする」とうっすら感じてもらえたら”とまとめられている通り、私も読後に何か後を引く印象が残りました。物語は主人公となる結珠と果遠の二人に細かく視点を切り替えながら展開していきます。そんな視点の位置がわかりやすいようにそれぞれの視点に切り替わる冒頭にはそれぞれ”花”と”羽”のアイコンが記されています。ということで、この切り替えの数があまりに多いことから、こういうのを見ると数を数えなければいられなくなる さてさてとしては章ごとにその数を数えてみました!簡単な内容紹介と共にご紹介します。
・〈第一章 羽のところ〉: 7歳の二人、結珠が母親に連れられ赴いた『団地』で、果遠と運命の出会いを果たし、そして唐突な別れが描かれる物語
→ 結珠視点: 6、果遠視点: 6
・〈第二章 雨のところ〉: 15歳の二人、高校一年、S高でまさかの再会と別れを経験する二人の物語
→ 結珠視点: 8、果遠視点: 7
・〈第三章 光のところ〉: 29歳の二人、大人になった二人がそれぞれ全く予想しなかった未来の姿で再会、そして…
→ 結珠視点: 14、果遠視点: 14
単行本460ページという分量があるとはいえ、55回も視点が交互に切り替わるというのはかなり多い印象です。その切り替わりは交互に切り替わりながら時間が進んでいくという手法をとりますが、注目すべきは最初の結珠と果遠の運命の出会いを描いた場面です。上記もしましたが、ここだけは全く同じシーンをそれぞれの立場から見る視点で順に描かれます。二人が等位の主人公であることを示す意図もあってのことと思いますが、同じ光景を二人がそれぞれの立場からどう見ているのかを具に見る場面でもありなかなかに印象深いものがあります。これから読まれる方にはこの冒頭からの展開にも是非ご期待ください。
そんな物語は、お互いを強く意識し合う結珠と果遠の三つの章に渡った三度の出会いが描かれていきます。『団地の公園は私たちだけの秘密基地になった』という幼き日の運命の出会い、それは七歳という年齢なりの幼さの中にあるものです。しかし、幼いからこそ強いインパクトを持った事ごとというものは逆に強く心に刻まれてもいきます。『わたしに両手を広げてくれた結珠ちゃん。週に一度、短い間だけおしゃべりできる結珠ちゃん』という果遠の想い。『ママも知らない、果遠ちゃんという内緒の友達が今の私にはいる』という結珠の想い。そんな二人の運命の出会いを印象深く表現する一穂さんの絶妙な筆致もあって、読者は思った以上に、鮮烈に幼き二人の出会いが心に刻まれていきます。そこに訪れる初めての別れ。
『そこの、光のとこにいてね』。
そんな言葉の先にある別れ、書名の由来ともなるこの言葉は読書前に見ていた書名から受けた漠然とした印象が、白く眩しく、神々しい光を感じさせてくれるものに変化もしていきます。そして、そこには二人の間に繋がる絆の存在も見えてきます。物語は、そんな二人のそれからを章ごとに描く中に、その繋がりの意味を見せてくれます。そんな物語では、最終章で、三度目の出会いを果たした結珠の果遠を見る感情がこんな風に描かれます。
『七歳の時も十五歳の時も、今も、彼女は一瞬で私の目を奪う』。
『ずっと果遠ちゃんに会いたかった、でも叶わなくて、もう一生会えないだろうと諦めていた』という結珠の果遠への強い想いの先にある、言葉にできないその想い。こんな想いへと昇華していく二人の関係性、それが三つの時代に渡って描かれていくこの作品。それは、確かに一穂さんのおっしゃる通り、”ちっぽけな、女の子ふたりの、「ただそれだけ」の物語”と言えるものなのかもしれません。また、そんな再会を”出来過ぎ”という見方で切って捨てることもできるでしょう。しかし、そこには”「ただそれだけ」”だからこそ感じる、人と人との繋がり、言葉で説明できない繋がりに心を鷲掴みにされるような感覚に包まれる瞬間を感じる物語があったのだと思います。最後にそんな感覚を痛切に感じさせる一文を引用しておきたいと思います。ある場面で、結珠のことを思ってくれる友人に対して、逆に結珠の中に沸きあがる思いを赤裸々に表現するものです。
『私は、ひどい人間だ。わかろうとしないで、と叫びたかった。私のことを知ろうとしないで。踏み込まないで。あなたが入る余地はない。本当の私を知っているのは、世界であの子だけでいい』。
このような感覚、残念ながら私には経験がありません。また、もしかすると男性には感じられない感覚であり、女性の方が共感度の高いものなのかもしれません。600冊の小説ばかりを読んできましたが、こんな結論を感じることはあまり記憶になく、これから皆さんがお書きになるこの作品のレビュー、特に女性の皆さんがお書きになるレビューに引き続き注目させていただきたいと思います。
『私だって知りたい。どうして果遠ちゃんはいちいち私の胸を苦しくさせるのか』。
幼き日に運命の出会いを果たした結珠と果遠がその後の人生に再開と別れを見るこの作品。そんな作品では美しい比喩表現の数々で彩られた物語の中に、全く異なった境遇の元に生きる二人の女性の四半世紀の物語が描かれていました。まさしく”毒親”という言葉で表現される大人たちが主人公たちを苦しめる様を見るこの作品。それぞれに訪れるさまざまな苦境の中に、今の世の生きづらさも感じさせもするこの作品。
とても繊細に描かれる心の機微の描写の中に、何もかもが正反対でいて、だからこそ惹かれ合う二人の想いが静かに浮かび上がるのを感じた、そんな印象深い作品でした。続きを読む投稿日:2022.11.12
結珠ちゃんと果遠ちゃんの一人称、二視点で語られる物語。
450ページ強の分厚い本だったので読み始め構えましたが読みやすい文章でどういうことなんだろう、どうなるんだろうと思いながら4日で読めました。
ス…トーリーとしては、不条理であったり残酷であったり不気味で不快で、とてもいやなしんどい気持ちになるシーンが多くて、結局身勝手な独りよがりで、あまり好みではありませんでした。
嫌な予感がしながらたどり着いたラストの描写は好きでした。続きを読む投稿日:2024.06.18
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