NHK「100分de名著」ブックス アンネの日記 言葉はどのようにして人を救うのか
小川洋子(著)
/NHK出版
作品情報
苦難の日々を支えたのは、自らが紡いだ「言葉」だった。
ドイツからオランダに一家で移り住んだアンネ・フランクは、第二次世界大戦下の一九四二年、十三歳の誕生日に父親から贈られた日記帳に、思春期の揺れる心情と「隠れ家」での困窮生活の実情を彩り豊かに綴った。そこに記された「文学」と呼ぶにふさわしい表現と言葉は、コロナ禍に見舞われ、戦争を目の当たりにした私たちに静かな勇気と確かな希望を与えてくれる。
【以下「はじめに」より】
本書では、『アンネの日記』が本来持っている文学的な豊かさについて、真正面から考えてみたいと思います。思春期の少女が、なにを考え、なにを感じ、それをどのように表現したのか。ここにはみずみずしい青春の息吹がみなぎっています。(略)これほどリアルな少女の声が胸に響いてくる文学を、わたしは他に知りません。
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この作品のレビュー
平均 4.3 (12件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
<感想>
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世界で最も有名な日記といえば「アンネの日記」私の『アンネの日記』との出会いは小学生の夏休み。「戦争」について知るの宿題から。
p.109「わたしの望みは、死んでからもなお生きつづけること!1944.4.5)」
2023年の今もなお、アンネ・フランクさんは生き続けている。
戦争について取り上げた作品はいろいろあるが、私にとっては『海からとどいたプレゼント (現代の創作児童文学) 上崎 美恵子 (著), 笠原 美子も記憶に残る。
ちなみにこの作者、小川洋子さんの作品との出会いは『妊娠カレンダー』が芥川賞受賞で人気だった頃。姉が購入したのを借りました。
p.07「優れた文学は必ず待っていてくれる」
新たな物語との出会いはもちろん、再読するとその時に初めて気づかされることがたくさんあります。その時、自分に必要な言葉を物語は投げかけてくれます。もし、おもしろくないと感じたら、今はその時ではなかったのでしょう。いつかその時が来るのかもしれないと待つのも物語を読む醍醐味の一つかもしれないと思いました。
p.16「言葉は心を外に放つ「通路」」
「紙は人間よりも辛抱づよい」
心の内に抱えている限り、もやもやと渦を巻き、袋小路に陥ってしまうだけの感情も、言葉にして紙に書き付けることで、外に放つための「通路」ができる。不自由ななかで自由を得る方法が書くことである。
まさに、そうだと思う。とはいえ、
自分の感情を出すことの大事さ。モヤモヤ感。コミニュケーションが上手くいかないとき、自分の感情にラベル化ができない人も多い。そのちょっとしたコツが分からないと困る人。言葉を紡ぐことは大事だがこれが難しいと言われている。
「考える力」「感じる力」「想像する力」「表す力」が低下し、感情ラベリングが難しい人も多い。もちろん、コロナ禍での対面コミュニケーションが減ったこともあるが、「コミニュケーション手段が便利になればなるほど、そのあいまいさを了解し合う能力が減退」ということが問題だと再認識した。
一方、他者とつながる方向を優先して、
自己の内面をおざなりにしてしまっていることも多い。孤独を恐れず、自己の内面へ深く降りて行く方向への旅が必要であり、その旅の同伴者となるのが言葉であること。
紙とペン、ささやかなもので自分と向き合う時間をとってみることが大事だと思った。
本文P.129に
「外界との接触を断たれる苦悩」
「パンデミックを経験したいまだからこそ、現代の我々とは比べものにならない、理不尽で徹底的な孤立と向き合う彼女の言葉を、より深いところで受け止められるのではないか。」
P.132
「明日の命の保証もない状況であるにもかかわらず、何かを学ぼうとする。そんな尊い力が人間にあることを、彼らは証明してくれます。」
とあった。今、このときだからこそ『アンネの日記』を再読する時期だと思った。
先日の国語世論調査の記事に、
新語は柔軟に受け入れつつ言葉の使い方には気を配る。そうした風潮が見えてきた。
広がるSNS(交流サイト)など言葉を取り巻く環境は大きく変化している。文化や心のよりどころとなる日本語を大切にしながら未来につなぎたい。(中略)
一方で注目したいのが、国語への意識だ。普段「言葉の使い方に気を使っている」とした人は全体の8割を超えた。世代間でその割合に大きな差はなかった。内容を聞くと、「改まった場で、ふさわしい言葉遣いをする」「敬語を適切に使う」「差別や嫌がらせ(ハラスメント)と受け取られかねない発言をしない」の順に高かった。敬語や丁寧語を場や相手を尊重して使い分ける日本語の豊かな特性が根付いている証拠だ。ハラスメント問題や、ネット上での発言がときに摩擦を生むことへの警戒心もうかがえた。(中略)
言葉は生き物だ。枝葉は伸びるが、幹は揺らがない。そんな日本語を大切にしたい。
とあった。
言葉や学びは尊厳を守る、私を人間たらしめるものだ。
めまぐるしい情報化社会の中で、柔軟さまでも求められるのかと、置いてけぼり感、息切れすると記事を読んで思った。
私自身は、他者とのかかわりも大事だが、今、自分と向き合うこと、その孤独の時間を大事にしたいと思った。
とりあえず、日記を書いてみようか。
<本文で気になった文章>
感想と重複している部分があります。
p.07「優れた文学は必ず待っていてくれる」
p.16「言葉は心を外に放つ「通路」」
「紙は人間よりも辛抱づよい」
心の内に抱えている限り、もやもやと渦を巻き、袋小路に陥ってしまうだけの感情も、言葉にして紙に書き付けることで、外に放つための「通路」ができる。
p.034「誰かのために語るということは、物語の原点に他なりません。」
「客観的な視点を確率したことで、この日記は文学にまで昇華したのです。」
p.54「人間が持つ善と悪の両方の部分を見極めた上で、批判を展開してるのです。だからこそ、彼女の批評は独りよがりではなく、信頼に足るものになっているのではないでしょうか。」
p.58「自我を確立し、不完全な大人としての親を受け入れ、自分もまた不完全なまま成長していくのだ、と認めることができたのです。」
p.61-62 父 オットーの道しるべとなる詩
「自分の欠点は小さく見えるものだ、
だから他人の欠点は批判しやすい、
他人のそれは二倍にも大きく見えるものだから。
どうかわれわれを、おまえの両親を、広い心で見てほしい、
これでもおまえを公平に、共感をもって判断しようといしているのだから。」
p.68「上質な文学には、ユーモアがあります。真理を描くとき、そこに必ずユーモアが生まれます。」
「アンネは隠れ家生活自体を、「ロマンティックな、おもしろいものと見なしてさえきました。けっして絶望しない力―。自己憐憫には陥らず、自分を徹底的に肯定していく力。それこそが、悲惨な状況のなかでのユーモアを見出す力にもなっています。」
P.93
「日記に対する感受性」
「アンネはそれまでも「日記の辛抱づよさ」に何度も救われてきました。紙に思いをぶつけることで、外界との通路を開いてきたのです。」
「不自由ななかで自由を得る方法が書くことである」
p.109「わたしの望みは、死んでからもなお生きつづけること!
1944.4.5)」
p.110
「ミープはアンネの精神の象徴である日記と、肉体の象徴である化粧ケープ、そのふたつを救い出したのだと感じました。フランク一家と本当に深く通じ合い、命を賭けて付き合った関係だからこそ、混乱の中でも真に大切なものを見極められたのだと思います。」
p.116 紙に書かれた日記の強さ
「ひとりの少女が決して生きる希望を失わずに、懸命に紙に書き残した言葉は、ごまかすことのできない強さと重みを持っています。」
p.117「長い歴史の年表においては、ナチスの台頭と衰退は、数行の記述でまとめられるかもしれません。しかし、その数行に、人間の濃密な生が、いくつもいくつも積み重なっている。一人ひとりかけがえのない人生が展開され、それがやがて私たちの人生へと続いていく-。日記はそういう真理を教えてくれます。」
p.118「数の多さに思考停止に陥ってしまいそうなとき、アンネという人間を知っていれば、ここでたくさんの「アンネたち」が奪われたのだと考えられるようになります。
思考と止めなくて済む。数字を生きた人間としてとらえることができる。」
P.119物語の役割
「語る側は、体験を言葉にすることによって、抱えていた重荷を軽くします。聴く側は、自分では経験していない、怖くて苦しいことを想像力のなかで咀嚼します。」
P.120「物語は理屈から人間を解き放ってくれるのです。」
「トゲトゲした現実の棘の先をけずり、なめらかにしていく行為。心の内にどうしても留めておかなければならない現実があるとしたら、その棘が心のひだをつき破らないようにすること-それが「物語化」という作業だと思います。」
「押し潰されそうに耐え難い、大きな岩石のような苦しみが、言葉というかたちをとることで頭の上から足元へと移動し、重荷から、その人自身の土台へと変わる。悲しみや苦しみはけっして消えないけれども、置き場所を変えることはできる、という発言でした」
「ホロコーストのような厳しい体験の場合、物語化する力こそがその人を救う」
「日記を書くという行為を通して現実を物語化し、なんとか心の均衡を保ってきたのです。」
「自分を表現する方法は他にいくらでもあります。」「言葉の力によって無限の自由を獲得していったのです。」
「言葉が、実用的な情報伝達のためだけの道具ではないと知っていました。言葉は、嘘をつくこともできます。あるいはこの世にないことも生み出すこともできる。ここにないことを、あたかもありかのように感じさせるのに、言葉はとても有用です。こうした本質的な言葉の役割を、彼女は早くから十分に理解していたのだと思います。」
P.122 言葉に向き合い、自分を獲得する
「現代社会では劇的に道具が発展し、言葉と人間の関わり方もおのずと変化せざるを得ない状況です。人は文字そのものだけをやりとししているのではなく、それがまとう、もっとあいまいで広い範囲の意味合いをも含めて理解し合おうとします。ところが、メールやラインやツイッターなど、コミニュケーション手段が便利になればなるほど、そのあいまいさを了解し合う能力が減退しているように感じられてなりません。
「インターネットに接続しない言葉に、現代の人々はどれくらい向き合っているでしょうか」
P.123
「ノートに文字を書きつけるという行為は、本当に孤独なものです。」
「孤独であることを「まるで、つばさを切られて飛べない小鳥が、真っ暗闇のなかでばたばた籠にぶつかってるみたい」と表現したりもしています。」
「真空にぽつんと取り残された、翼を切られた小鳥のごとき孤独のなかで、自分とは何者かという問題をつきつめて考えていく」」
「誰ともつながらない紙の日記と向き合い、言葉の持つ真の力を自分のものにしていったのです。」
「紙とペン-。そしてそれが生み出す、さまざまな「物語」。」
「一見無力な、このささやかなものたちが、人間の精神を救うこともあるのだ」
P.124「他者とつながる方向ばかりではなく、孤独を恐れず、自己の内面へ深く降りて行く方向への旅、人にはどうしても必要です。その旅の同伴者となるのが言葉です。」
P.129
「外界との接触を断たれる苦悩」
「パンデミックを経験したいまだからこそ、現代の我々とは比べものにならない、理不尽で徹底的な孤立と向き合う彼女の言葉を、より深いところで受け止められるのではないか。」
P.132
「明日の命の保証もない状況であるにもかかわらず、何かを学ぼうとする。そんな尊い力が人間にあることを、彼らは証明してくれます。」
P.133
「学ぶという行為は、彼らにとって外の世界とつながるための、数少ない手段だったのかもしれません。あるいは未来との約束だった、と言い換えてもいいでしょう。未来があると信じるからこそ、学ぶ意味を見出せたのです。」
「学ぶ自由を奪うのは、髪の毛や名前を奪うのと同じです。その人がその人である本質をももぎ取る。未来を奪う。つまりは死をもたらすのです。」
P.137
「差別される女性の側から抗議を申し立てる態度ではなく、男女の違いを認め合い、尊重し合う精神を求めている点です。社会の制度だけでは足りない、結局は人間の心の問題なのだ」
高い描写力
「家族の愛情や支援者たちの勇気に、人間の善を確信していました。世界は、死んでからもなお生き続けるにふさわしいのと、信じていたのです。」
アンネの物語る力
「日記においても、現実の体験と描写の間に的確な距離を取りながら、冷静な観察眼を持って表現しています。」
P.145
文学の言葉が人間の尊厳を守る
「肉体的な苦痛を超越した、人間だけが持つ精神の喜びを伝えてくれるにふさわしい力を、持っていたのです。」
P.148
「どんなに社会や文明や人間の意識が変化しようと、その時、その時、読者が必要としている何かを差し出すことができます。読者のほうが、文章の奥に潜んでいる宝石を発見するのです。すぐれた文学は、掘り起こしても掘り起こしても尽きない宝石を、隠し持っているのでしょう。」
「作者よりもずっと長生きする力を持ち、どんな状況にあっても人間らしさを呼び覚ます。」投稿日:2023.10.06
辛かった時期に読みたかった。言葉にすることで人はこんなにも救われるのだということを、希望が持てるのだということを、もっと早く知りたかった。
投稿日:2024.04.18
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