NHK「100分de名著」ブックス 太宰治 斜陽 名もなき「声」の物語
高橋源一郎(著)
/NHK出版
作品情報
隠され続けたのは、私たちの「声」なんだ――。
「一億玉砕」から「民主主義」へ――。言葉は変われどその本質は変わらなかった戦後の日本。そんな中、それを言われると世間が困るような「声」を持つ人たちがいた。酒におぼれる小説家・上原、既婚者・上原を愛するかず子、麻薬とアルコール中毒で苦しむ弟・直治。1947年に発表され爆発的ブームを巻き起こした『斜陽』に描かれる、生きるのが下手な彼らの「声」に、太宰治が込めた思いとは何だったのか。彼らが追い求めた「自分の言葉で」「真に人間らしく」生きるとはどういうことなのか。太宰が「どうしても書きたかったこと」に作家・高橋源一郎が迫る。秀作『散華』に焦点をあてた書下ろし特別章「太宰治の十五年戦争」収載。
*電子版では、権利上の理由により一部収録しない写真がございます。ご了承ください。
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この作品のレビュー
平均 4.6 (5件のレビュー)
-
高橋さんの、話し言葉による文章が、とても良かった。
読みやすい。
言いたいことが伝わりやすい。
そして私は太宰治の作品が好きだ。
私は『津軽』を読んで太宰治のイメージが変わった。
そして『斜陽』を…読んでまたも太宰治のイメージが変わった。
さらに本作を読んで、太宰治という人の印象がまたまた変わってゆくのを感じた。
というか、
ぼんやりとしか現れていなかったものに、次第にピントが合ってゆく感覚。
日本人におそらく年代問わず一番知られた『人間失格』という作品と、
好きな作品である『津軽』や『斜陽』から受ける印象にギャップを感じていたが、
そこを埋めるものとなり得そうな切っ掛けを掴んだ感覚。
何度も繰り返した心中未遂と成し遂げてしまった心中というものが、
『津軽』や『斜陽』を書いた太宰と結び付かなくて、
そこを結ぶ糸を見付けられそうな感覚。
『人間失格』を読み違えているような、
違っていることは分かるのに何が違うか言えなかったのを、
もう少しで言い表せそうな感覚。
地方名士の生まれである自分を恥じていて、古い型から抜け出せぬ"男"という性にのびしろを見出だせず、ひたすら死を求め続けてしまったのだろうか。
もしかしたら太宰は、今後の世の中を変えてゆくのは女性であり、男性はいつまでも古くさい型に捕らわれ続けるものだと幻滅していたのかもしれない。
嫌悪する自分自身や、これからの未来を変えていくであろう女性たちを作品に描きながら、
現実世界ではひたすらに死を求めてきた。
だとすると、心中未遂も心中も、なにか確信犯的なものを感じてしまう。
ほら、こんなにもダメな"男"である自分をご覧なさいと。
こんなにもダメな世の中を作ってきた"男達"をご覧なさいと。
私が死を選ぶ理由は全て、
世の中が如何に絶望的であるかは全て、
作品に書き表してきただろうと。
『斜陽』のヒロインかず子が言う「人間は恋と革命のために生れて来たのだ」は、『斜陽』の原型である太田静子の"斜陽日記"に見付けた言葉なのかもしれない。
もしそうであるなら余計に、
女性を主人公として、この時代にこの台詞を叫ばせたかったのだろうし、
自分の抱え続けてきた内なる思いをここに見出だしもしたのかもしれない。
そして『斜陽』の中で死を選ぶ直治の遺書。
さらには作家として登場する上原。
こちらも男性としての太宰の代弁者のように感じる。
本当は性別なんて関係ないのにな…と、現代に生きる私は思う。
でも単純に言ってしまえば、そんな時代だった。
勿論、この時代を逞しく生き抜いた人々もいる。
でも太宰治という人は、耐えられなかった。
太宰の作品は好きだし、彼のユーモアと表現力に惹かれるし、作品を知りたい理解したいと思わずにいられないが、自ら死を求める生き方に共感は出来ない。
世の中に、こんなに彼の文学に惹かれる読者が居るということが、ダメだと思う"男"という性と共に"生きる"ことを選択する理由にならなかったのだろうか。
これほどまで敏感に世の中が見えていたにも関わらず、自分自身であるが故に分からなかったのか。
(高橋さんも、太宰は敏感で繊細で見えすぎてしまうと述べている。)
なぜ、これからを担うのは女性であると確信しながら、その愛すべき女性を道連れとする方法を選んだのか。
そもそも、死にたい死にたいと思い続けている人間が、小説を書き上げるという生命力にも似たパワーを沸き起こすことが出来たのか。
一度目、死ねなかった。
ならばと、沸き上がる思いを作品にしてみる。
その時に、生きるために作品を生み出していたのなら、何故そのまま書き続け、生き続けなかったのか。
故郷にまで足を運び『津軽』も書いたのに。
2022年7月22日発行の本作で、高橋さんは言っている。
「……今だって"戦時"なのかもしれない。ぼくたちは、いつだって、そういう意味での"戦争"の下にいるのかもしれない。………そういうとき、いちばん困るのは、詩人や作家だ。なにより、ことばを使うのが仕事だからだ。そのことばに、自分の思いを乗せなきゃならないからだ。」
そのあと本書に続く、太宰の"三井君の死"についての『散華』の内容がつらい。
高橋さんの言葉を引用すると、
「"散華"は、その言葉の意味を、戦争によって奪われたのである。」
さらに続く"三田君からの4通目の手紙"。
これを読んで鳥肌が立つ。
戦争の為に死んでゆく三田君。
やはり太宰は確信犯的に、大いなる文学の為に死んだというのか。
分からない。
"100分de名著"の高橋源一郎さんの回、見たかったなぁ。
少なくとも、本作を読んで本当に良かった。
まだ私は何も掴めていないし、何も見えていなかった。
太田静子の『斜陽日記』もいつか読みたい。
太宰の『散華』。
これは必ず読まなければ。
続きを読む投稿日:2023.09.20
太宰治の本を読まなきゃと思った。恥ずかしながら、何となく、きちんと読んでいなかった。この解釈をもとに読んでみたい。
投稿日:2022.11.15
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