太陽と毒ぐも
角田光代(著)
/文春文庫
作品情報
「角田光代の隠れた傑作」といわれる、
不完全な恋人たちの、キュートでちょっと毒のある11のラブストーリー。
リョウちゃんは、あたしのたいせつな恋人は、
あたしの前で口を開いた洞窟なのだ。
そうしてあたしは未だその入り口で立ちすくみ、
その一番奥に何があるのか見極めるための
一歩を踏み出せないでいる。
──「お買いもの」より
ハッピーエンドから始まる恋人たちの幸せな日常。
どこにでもいるようで、でもちょっとクセのある11組の恋人たち。
買い物依存症、風呂嫌い、万引き常習犯、迷信好き・・・・・・。
この恋愛短篇集は、極端な恋人たちを描きながらも、
いつしか、読む者の心の奥に眠らせていた記憶を呼び覚ます。
文句なしの面白さと怖さに震える、長年偏愛されてきた傑作です。
「だが、だからこそ、物語が進むにつれて、そのおかしさが物悲しさへと変わっていく。
どうして、この人は、このままで許してもらえないのだろう。
どうして、最初は許されていたものが、許されなくなってしまうんだろう。(中略)
相手の中の「どうしても許せない部分」が、自分の過去、コンプレックス、傷、そしてそれらに飲み込まれずに生き続けるためにまとってきたたくさんの鎧と関係していることに気づいていくのだ。
作中で「裸んぼで暮らせたら問題なかったんだろうな」という言葉が出てくるが、この物語たちは、裸んぼではいられない、過去を、痛みを、コンプレックスを、すがるものを切り離せずに着膨れながら生きていくしかない人間のかなしみを見つめた作品なのだ」(解説より 芦沢央)
※この電子書籍は2007年6月に文藝春秋より刊行された文庫の新装版を底本としています。
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商品情報
- シリーズ
- 太陽と毒ぐも
- 著者
- 角田光代
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2021.07.07
- Reader Store発売日
- 2021.07.07
- ファイルサイズ
- 0.9MB
- ページ数
- 304ページ
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この作品のレビュー
平均 4.0 (33件のレビュー)
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あなたには、『100パーセント合う人』がいるでしょうか?
世の中のカップルの平均交際期間は一年から三年なのだそうです。この数字を聞いて長いと思うか短いと思うかは人それぞれだと思います。思わず自分の交…際期間を思い出しただけでなく、喧嘩して別れた相手の顔を思い出してしまった…という方には大変失礼しました。そうです。交際は必ずしも成就するとは言えません…。
でもせっかくそんな過去のことを思い出されたとしたら、もう少し昔まで記憶を遡ってみてください。あなたはそんな繋がりのはじまりのことを覚えているでしょうか?”恋は盲目”という言葉があるように、二人の関係のはじまりの中には些細なことは気にならないものです。相手のことをただただ想う気持ちが勝り、細々としたことは切り捨ててもいく恋のはじまり。しかし、そんな燃え上がるような恋のはじまりもやがては落ち着きを見せます。そんな時、そこに何が訪れるでしょうか?そうです。当初は気にならなかった相手に対しての『違和感』です。それは、人によって当然に異なります。なぜなら、人と人との関係性に一方的なものなどなく、双方の感じ方の違いが『違和感』として浮かび上がるからです。
さてここに、そんな二人の『違和感』に光を当てる作品があります。二人の間に湧き上がる『違和感』、それに対して『太陽』の心持ちと『毒グモ』の心持ちが主人公の心の中で対峙する様を見るこの作品。そんな二つの感情のせめぎ合いの先にそれでも続いていく二人の姿を見るこの作品。そしてそれは、『100パーセント合う人なんていない』、『だから我慢しあっていくしかない』という言葉の意味を噛み締める瞬間を見る物語です。
『風呂に入らないで平気な女がいるなんて考えたこともなかった。最初、冗談かと思ってた』と語り始めたのは主人公のキョウ。『もちろんまったく入らないわけじゃなくて、入りはするよ、一週間に二度くらいはね』と続けるキョウは『九時に早番を予定どおり終えて店を出、待ち合わせ場所』へ向かいます。そんな道すがら『今日は風呂に入ってるか、入ってないか。入ってないとしたら何日目か』と考えるキョウが店に入ると、『今日はあたり』だと感じます。『待ち合わせの飲み屋に』席を確保してくれていたキタハラスマコに『なんのにおいもしない』ことを確認したキョウは『スマちゃん風呂入ったんだ』と思わず言ってしまいました。『隣に座っただけで、風呂初日か、風呂一日目か、風呂二日目か、ほぼ完璧にわかるようになった』というキョウ。そんなキョウに『何よう、会うなりそんなこと言うかなあ』と笑うスマコと『ジョッキで思いきり乾杯してビールを飲』みはじめた二人。そんな中『スマコが笑い、あれこれ冗談を言う』と『おもしろくもなくふだんどおり過ぎていった一日』『もそれなりにおもしろかったように思えてくる』というキョウ。そんな瞬間にキョウは『いっしょに暮らしたらたのしいだろうな』とスマコのことを思います。そして、キョウは『つきあって最初のころ』『どっちかのアパートの更新時期がきたら、更新せずに引っ越していっしょに住もうって、幾度も話しあった』ことを思い出します。一方で『つきあって半年すぎたあたり』に『キタハラスマコがずば抜けてずほらであると気づ』いたキョウ。『はじめて二人で』『五泊六日でバリ島』へ旅行した二人は、『海はそんなにきれいじゃなかったけど、ビーチスポーツ』も楽しみます。そして帰国し、キョウの家で一泊してから帰ったスマコ。その後キョウは『ベッドに藻が落ちてるのを見つけ』ます。『前の晩スマコに貸したTシャツ』にも同じ藻を見つけたキョウは、スマコが『海で遊んで、砂浜に寝転がってはしゃいで』、『シャワーを浴びずに眠って、シャワーを浴びずに帰った』結果であることに愕然とします。そして、『スマコの風呂嫌いとか、洗濯嫌いとか、手入れ嫌いとか』が『おもしろく思えなくなって』いったキョウ。場面は変わり、別のある日、『おれの嗅覚によれば彼女が風呂に入ったのがたぶん三日前』というスマコに会ったキョウは後悔の感情を抱きます。『すえた、かすかに燻された、脂じみたにおい』を発するスマコ。そんなスマコは『あのさあ、しらべたら更新、十月じゃなくて九月だったんだよー』と語りはじめます。『八月にもう返事しなきゃなんだよー、八月って、すぐだよねえ?…更新?』と『いきなりそんなことを言い出』したスマコに『八月っていったら、もう来月じゃんか。マジかよ』と焦るキョウ。そんな二人のそれからが描かれていきます…という最初の短編〈サバイバル〉。いきなり『風呂に入ってるか、入ってないか』という衝撃的な彼女の『違和感』になんとも言えない思いが残る好編でした。
“大好きなんだけど、どうしても我慢できないことがある。でも、やっぱり好き。だれかを好きになって、相手もこちらを好いてくれて、とりあえずハッピーエンド。そのハッピーエンドからだらだら続くしあわせな恋人たちの日常”と、この短編集で描かれる物語を上手く表現した内容紹介に感心してしまったこの作品。それぞれに全く繋がりを持たない11の短編から構成された短編集です。私は角田光代さんという作家さんが大好きで、代表作「八日目の蝉」の他、直木賞を受賞した「対岸の彼女」、そして五年以上の歳月をかけて取り組まれた「源氏物語」の現代語訳までさまざまな作品を読ませていただいてきました。小説は作品の長さから分類される場合もあります。長編、中編、そして短編、さらには短編には連作短編という選択肢もあります。角田さんは長編で圧倒的な感動の物語で読者を魅せてくださいますが短編に傑作が多いのも魅力の一つです。そんな短編には、生きている間に受け取るさまざまな贈り物に光を当てる「Presents」、本にまつわる話に魅了される「さがしもの」、そしてまさかのファンタジー「なくしたものたちの国」と傑作揃いです。一方で、この短編集はどこか引っ掛かりを感じる恋人たちの姿を描いていきます。では、そんな短編の中から私が特に気に入った三つの短編をご紹介しましょう。
・〈昨日、今日、明日〉: 『携帯電話が尻ポケットで振動』、『受信したメールを読む』のは主人公のキク。『週末けっきょくどうするの、よやくしちゃっていいの』という内容に『尻ポケットに戻』したキク。そして自席について仕事をはじめた中に電話が鳴ります。『キクちゃんメールの返事全然くれないんだもん!』と不機嫌な声で話し出したのは恋人のクマコ。『仕事ちゅうだっつーの』と不機嫌に返すキクは仕事後に会うことを告げて電話を切ります。『おれの恋人のクマコ二十四歳は、記念日フェチだ』と思うキクは、『予約強迫観念症』とクマコのことを思います。
・〈雨と爪〉: 『雨の音に目が覚め』、『寝入ったときのまんまの姿勢で熟睡している』ハルのことを見るのは主人公のミキ。そんなミキは『夜中に爪を切ると親が死ぬ』という言葉をハルに言われた時のことを思い出します。『呪いの文句みたいに聞こえてぞっとした』というミキは、『それ以来、夜に爪を切』らなくなりました。そしてミキは『服に針をとおした直後に出かけると、交通事故にあうらしい』、『お盆に蛾を見たら殺しちゃいけない』、そして『葬式もないのに喪服を買うと身近な人が死ぬ』などさまざまな『迷信』を語るハルの言葉を意識し出します。
・〈共有過去〉: 『マルホシスーパーという聞き慣れない店から』電話を受け『すみません』と『阿呆みたいにくりかえし』たのは主人公のショウ。電車に乗り指定された駅で降りたショウがスーパーの事務室に入るとうつむいた姿のカナエがいました。紙幣を出し『本当にすみませんでした』と『深々と頭を下げ』たショウはカナエと事務室を出ます。『ショウちゃんごめんね』と『甘い声を出す』カナエは『っていうかさあ』とショウの『うんざりした声を遮り』、『わかってるわかってる…』と言います。そんな『万引き癖のある恋人を引き連れて』家に帰るショウ…。
以上の三つの作品を含めた11の短編はその全てが恋人同士の関係性の内側に見えるものに光を当てていきます。あなたの周囲にも恋愛関係にある人たちは少なからずいると思います。もしかすると、あなたがそんな当事者であるという場合もあるでしょう。結婚には至っていないものの、付き合いはじめて一定期間経過したという恋人たち。まあ、これは恋人たちに限らず友人関係という場合でも同じだと思いますが、なんだか相性が良さそう!と始まった関係性であっても、付き合いが長くなり始めるとそれまで見えなかったお互いの隠れていた部分が見えてくることがあると思います。それは、ふとした瞬間に垣間見えるところからはじまるものであるかもしれません。付き合いはじめた時には見えなかったお互いの隠された側面。一定の期間同じ時を過ごす中で見えてきたお互いの価値観の微妙な違いがやがてどうにも許せない『違和感』として顕在化していく。この作品ではそれぞれの恋人たちの関係性の中に生じたそんな側面を鮮やかに描いていきます。
〈サバイバル〉の彼女はお風呂に入るということが習慣化されていません。週に二日というような状態。これが男性だとすると違う世界が見えてきそうに思いますが女性という設定が上手いところです。〈お買いもの〉に登場する彼氏は、次から次へとモノを買わないと気が済みませんが、買った後には一気に思いが去り開封もせずに置いておくような側面を見せます。そして、〈旅路〉ではスリランカへと旅行した二人、そんな旅の中で価値観が相反する現実に直面して危うい旅を続ける二人の姿が描かれていきます。11の短編には、いくらなんでもこれはないでしょう?と思うものから〈旅路〉のようないかにもありそうなシチュエーションを描く物語までその振り幅はとても広いものがあります。そんな11の短編を読み進めていく中で面白い!と思ったのは、主人公の中で恋人のそんな側面が気になって仕方なくなるものの、読者はどこまでも第三者でいられることです。これは、二人が恋人関係にあるからこそ言えるのだと思います。小説によっては作品中の『違和感』が不快さをもって読者を襲う場合もあります。それは、読者がそんな存在、ある意味面倒臭い存在と関わりを持つのを避けたいという自然な拒絶反応が生んでいく部分もあるのだと思います。しかし、この作品が読者をそういう思いにさせないのは、どこまでいってもこの作品は二人の中でのお話。そんな二人の一方、それは男である場合と女である場合に分かれるとはいえ、それでもそんな違和感を受け止める主体はあくまでその一方であって、二人の関係が続く限り、二人の外にいる人間に被害が及ぶことはありません。これは当たり前のことであり、世の中、他の恋人たちの内輪揉めは面白くはあっても、他人にとってそれに深刻になることなどありはしません。だからこそ、読者は他人事として面白く読み進められる部分がこの作品にはあると思いますし、この作品の読み味はそこに帰結するのだと思いました。流石の角田さん、そんな恋人たちの一方が見せる相手への『太陽』の心持ちと『毒グモ』の心持ちの対比をこの作品ではとても興味深く見せていただきました。
『おれたちは自分の意志で何かを決めて、少なくとも決めようとはして、そのとおりに日々過ごしているのか。それとも、もうひとつの世界で決定される何ごとかに従って、自分自身に決定権すら持たぬまま翻弄されるように生きているのか』。
11組の恋人たちの関係性の中に芽生えた『違和感』に光を当てるこの作品。そこには付き合いはじめた時には見えなかった相手の隠された姿、もしくは付き合いはじめた時には意識が低かった事ごとが、二人の関係性を維持していく中で大きな『違和感』となっていく様が丁寧に描かれていました。二人の関係性に見え隠れする『太陽』と『毒ぐも』のせめぎ合いの絶妙さを見るこの作品。人と人とが長く付き合うことの意味を感じるこの作品。
角田光代さんならではの着眼点の面白さに、改めて作品作りの上手さを垣間見た、そんな作品でした。続きを読む投稿日:2023.09.18
思ったよりも読みやすい。
11話、同じような温度感で話が進むので、1話目が気に入ればそのまますっと最後まで読めると思う。
〈毒ぐも〉というワードで想像するよりも小さな毒。それは小さいけれども確かに…毒で、そして、誰にでもある毒の話。
蜘蛛も悪いことばかりでない。ときに蜘蛛は、害虫をたべる益虫として農家の人からありがたがられたりする。見方によっては、良いところもあるのだ。続きを読む投稿日:2024.03.18
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