この作品のレビュー
平均 4.0 (10件のレビュー)
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ディストピア小説の源流とされる本の新訳版が出版されたので読んでみた。
ものすごく興味深い本だった。
1872年(明治5年)に書かれた本書は後の多くのユートピア、ディストピア小説の元となった。
オルダ…ス・ハクスリーは、自身のディストピア小説『すばらしい新世界』がこの『エレホン』の影響を受けていることを公式に認めているという。『すばらしき新世界』は 1932年に出版だ。
ちなみにディストピア小説の傑作のひとつであるジョージ・オーウェルの『1984年』は1949年に刊行である。
本書『エレホン』が出版された1872年といえば、この前年の1871年にドストエフスキーの5大傑作長編の一つ『悪霊』が出版された年である。
著書のバトラーとドストエフスキーはほぼ同時期の作家といえる。
この事実を踏まえて改めて本書の内容を考えると、本書に描かれた世界観はまさに驚愕の一言に尽きる。
本書の中で、著者のバトラーは今のAI時代やシンギュラリティの到来を予想しているのである。
本書の内容であるが、あるイギリスの若者が旅をし、旅の果てに他の地域と隔絶された「エレホン国」を発見、そこでの生活を記録していくという話であり、オリバー・スウィフトの『ガリバー旅行記』を彷彿させる。
この「エレホン国」は他の文明とは隔絶されているものそこに暮らす人々の外見や生活様式は他のヨーロッパ諸国とあまり変らない。
しかし、最もほかのヨーロッパ諸国と違うのは、人々の価値観である。
エレホン国では、
「外見の美しさがすべてに勝る」
と考えられており、「病気」は最悪の罪なのである。
もしエレホン国で病気になれば、その者は刑務所に投獄され、治療ではなく刑罰(最悪は死刑)を受けるのである。
また逆に詐欺や泥棒のような「犯罪」は我々でいうところの「病気」のように扱われ、詐欺や泥棒を犯した「犯罪者」は人々から慰められる。
そして、機械を持つことは重罪なのである。
主人公は懐中時計を持っていたために投獄されたが、主人公の外見が金髪でハンサムであったために裁判で許される。
ここが本書の真の価値というべきところであるが、エレホン国で機械を禁止しているのは理由が、我々今の現代人にとっては驚愕すべき理由なのである。
それは、
機械が今後意思を持って人間を支配するようになるのを防ぐ為
ということなのである。
エレホン国の人々は、以前は自由に機械を使っていた。まさに蒸気機関車などを利用していたのである。
しかし、あるとき彼らはこう考えてしまった。
地球は、太古は植物が支配し、何万年もかけて植物は進化していった。しかし人間が地球に誕生して数千年で非常に進化し、地球を支配してしまった。さらに機械が生まれ、蒸気機関車が誕生するまでに数十年、あるいは100年弱しかかからなかった。
では、あと1000年後、あるいは1万年後には何が起こっているだろうか?
機械の進化のスピードは人間の進化のスピードよりも格段に速い、いずれ機械が意思を持ち、地球を支配するようになるのは当然の帰結であると・・・。
まさに、今の現代で起こっていることをエレホン国の人々は予言しているのである。
こういった物語が本書のなかでは淡々と繰り広げられていく。機械の件だけでなく、出産は悪と考えられているが、出産を防ぐことはできないので、その言い訳だとか、いろいろと笑ってしまうようなエピソードも満載である。
非常に考えさせられた小説である。ディストピア小説が好きな方はぜひ読んでみてもらいたい。続きを読む投稿日:2020.09.12
大学のヴィクトリア文学の授業で登場したユートピア文学作品。nowhere(どこでもない場所)を逆から読んでerehwon(エレホン)という名称になっているのは面白いと思った。
イギリスの有名なユート…ピア作品といえば、モアの『ユートピア』とスウィフトの『ガリバー旅行記』であり、その数百年後に書かれたのがこの『エレホン』である。エレホン人の価値観は確かに新しいのだが、若干の二番煎じ感はあった。続きを読む投稿日:2023.09.12
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