放課後探偵団2 書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー
青崎有吾(著)
,斜線堂有紀(著)
,武田綾乃(著)
,辻堂ゆめ(著)
,額賀澪(著)
/創元推理文庫
作品情報
大好評を博したアンソロジー『放課後探偵団』が10年の時を経て復活! 第22回鮎川哲也賞受賞『体育館の殺人』にはじまる〈裏染天馬〉シリーズが大人気の若き平成のエラリー・クイーンこと青崎有吾、『楽園とは探偵の不在なり』で注目を集める斜線堂有紀、〈響け!ユーフォニアム〉シリーズが大ヒットし話題を呼んだ武田綾乃、『あの日の交換日記』がスマッシュヒットした辻堂ゆめ、『タスキメシ』などのスポーツものから吹奏楽など幅広い形の青春ドラマを描き続ける額賀澪。以上1990年代生まれの俊英5人が描く、学園探偵たちの推理と青春。【収録作】武田綾乃「その爪先を彩る赤」/斜線堂有紀「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」/辻堂ゆめ「黒塗り楽譜と転校生」/額賀澪「願わくば海の底で」/青崎有吾「あるいは紙の」
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商品情報
- シリーズ
- 放課後探偵団
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 東京創元社
- 掲載誌・レーベル
- 創元推理文庫
- 書籍発売日
- 2020.11.27
- Reader Store発売日
- 2020.12.03
- ファイルサイズ
- 2.4MB
- ページ数
- 334ページ
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この作品のレビュー
平均 3.7 (14件のレビュー)
-
前作から、10年ぶりの復活となる本書は、創元推理文庫から2020年に発売された、「書き下ろし学園ミステリ・アンソロジー」の第二弾で、全て1990年代生まれの作家が書かれているのが特徴ですが、どちらかと…いうと、その若さはあまり気にならず、バラエティに富んだ多種多様な作風を、一冊で体感できた喜びが強かったです。
武田綾乃 「その爪先を彩る赤」
演劇部の失くなった靴を捜索する話で、犯人や動機は分かりやすいものの、その後の探偵に絡む、謎解きの細やかな伏線が見事だと思いましたし、そこに潜んでいたのは、探偵と「僕」との間における、稀少な価値観の共有で、こうした自分を認めてくれるような喜びは、学園生活では、やはり大切ですよね。
斜線堂有紀 「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」
武田さんの、明るい雰囲気の話の後だけに、余計に衝撃的に思われて、犯人探しや事件の謎以上に、後味の悪さが凄まじく、おそらく、大人の全く介入しない状況もそうさせたのかもと思うと、学生たちの持つ視野の狭さに、思考能力の限界や恐ろしさを感じさせられて、もはや狂気的ですらある。問題作。
辻堂ゆめ 「黒塗り楽譜と転校生」
ミステリの要素に、やや専門性を感じられたが、合唱コンクールを絡めた清々しい物語には、これぞ青春といった気持ちの高まりを覚え、最初まとまらなかったけど、やるときはやるといった、かつての私の中学のクラスの雰囲気を思い出しましたし、謎の答えについても、同様の青春が滲み出ていて、この時しか体験出来ないことの素晴らしさを、実感いたしました。
額賀澪 「願わくば海の底で」
まさか、こうしたアンソロジーで、東日本大震災を題材にしたことに驚き、その筆致も、当時の哀しみだけでは表せないような、複雑で繊細な哀しみを、こと細かく表現しており、『その《潮時》を無理矢理踏み越えてきた』等に感じ入るものもありましたが、ミステリ要素も、最後の最後にどんでん返し的に入っており、しかも、それが見事というのが適切なのかどうか分かりませんが、皮肉にも、震災と絡んでいるからこそ成立するような、叙情感や喪失感に、諦観めいた悲しみ、そして、人として、どうあるべきだったのか? そんな事を考えさせてくれました。
青崎有吾 「あるいは紙の」
最近フォローしている人達の間で盛り上がっているのを、私は素知らぬ振りをしつつ、秘かに気になっていた方で、まずは短編をと、お試し感覚で読んでみたら「裏染天馬」シリーズで、しまったと思ったが、どうやら番外編的な感じでもありそうで、主役は「クラーク・ケント」の彼だったが、「向坂香織」とのやり取りに青春のもどかしい切なさがあったり、天馬とのやり取りの素朴さ等、まず物語としての面白さがあっての、最後の謎解きは渋いながらも効果的だったし、それは、向坂自身の思いの詰まった、彼女自身の存在意義を証明したようでもあって、彼の為したことの大きさを実感させられた終わり方は、とても素敵で、このシリーズにより興味を持ちました。それにしても、青崎さんは時代もの好きなのかな。
以上、五つの短編を読みまして、いくつかの作品で印象的だったのが、この年代特有の、本音を素直に言えなかったり、自分の想定以上の意地を張ってしまうといった、そのもどかしい感情に苦しむ姿であり、これこそ青春に付きものなのかもしれませんが、おそらく実際にどうすれば良いのか、本人自身、分からないのでしょうね。
しかし、そこを試行錯誤して乗り越えていくことが、大人へと成長していく、一つの要素なのかもしれないと思うと、これらの物語には、そうした成長への願いが込められているようにも感じられて、私の中のどこかで、アンソロジーには単行本に掲載しないような実験的なものや、ちょっとした小品を書いているといった、そんなイメージを払拭してくれた、素敵な作品集でした。続きを読む投稿日:2023.02.14
このレビューはネタバレを含みます
「その爪先を彩る赤」は、多重人格を装う必要性がよくわからなかった。さらにはあまりに露骨なヒントでねらいが読めなかったなぁ。総じてキャラ設定の意味を十分に活かせていない気がする。長編だと違うんかな?
レビューの続きを読む
…「東雲高校文芸部の崩壊と殺人」は、妙に淡々としていたがトリックはよかった。というか、淡々としていたからトリックの良さが際立ったのかもしれない。高校という世界をどのように色づけるかは、世界観だけではなく、トリックの受け取り方まで変えるんだなと改めて思った。
「黒塗り楽譜と転校生」は、転校生って必要?って感じの扱いになっちゃった気がする。タイトルにつけて一定の役割を期待したのだとは思うけど、作品全体としてはむしろマイナス方向ではなかろうか。今回の謎の本質をよりプラスにさせるためのテクニックだったと仮置きしても、それでもなお悲しい存在になっちゃってるなぁと思う。3枚目にもなりきれない的な。
「願わくば海の底で」という作品は、海の底で、もしくは海の底に何を願うのかという、タイトルをどう受け取るかで事件との距離感を変えてしまう難しい作品かもしれないと思った。それがまだまだ誰の記憶にも新しい震災だからということではなく、人の生き死にには、特に残された人にとっては当人にしかわからないことがあるという大前提をミステリーの伏線にしたところだろうと思う。ミステリーは誰にとってもフェアでなければならない。イレギュラーな形で人を失う辛さを、誰しもがもつ感情や意図で隠さなければならない状況を持ち込むことでそのフェアさを担保したという。短編だから表現できたのかもしれないね。長いと震災のイメージがデカくなりすぎるかもしれない。
「あるいは紙の」は、高校というおそらく10代のそれなりに濃密な時期が、こうした日常の謎で彩られていたかもしれないというある種の夢をリアリティをもって見せてくれた(つまりは自分の高校時代は多分もっと平凡だった)。新聞部の矜持とかいうことではなく、おそらくただの若気の至りなんだろうけども、何をするかより、誰とするかみたいなところで主人公の彼は、裏染と向坂にアテられたんだろうな。
ただ、タイトルの意味がわからなかった。向坂が無理をしてる理由もよくわからないままな気がする。今回の事件の前の2つの殺人事件を経て、もしかしたら向坂は裏染の立ち位置が広がってることになんかちょっと焦ったのかもしれないね。続きを読む投稿日:2023.06.08
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