フランダースの犬
ウィーダ(著)
,野坂悦子(訳)
/岩波少年文庫
この作品のレビュー
平均 4.2 (13件のレビュー)
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ラララ ラララ ズインゲン ズインゲン
グレイーヌ ヴリンダース
ラララ ズインゲン ヴリンダース
『あらしの前』のクリスマスシーンがすばらしかったので、次の岩波少年文庫はクリスマスシーズンにふさわ…しい物語にしようと思ったら、これになりました。我ながらひねたセレクトです。
ちなみに私は主題歌をずっと「ラララ ジングルベル〜」だと思っていましたが、今回、調べてみたら全然違う歌詞でした。「Zingen Zingen Kleine Vlinders」は「歌え 小さな 蝶々」という意味だそうです。
作詞は童話作家の岸田衿子(『ジオジオのかんむり』!)、作曲は『巨人の星』、『キャンディキャンディ』など数々のアニメソングを手がけている渡辺岳夫。
さらに併読した『誰がネロとパトラッシュを殺すのか』によると、この部分を歌っているのはアントワープで急きょ結成された子ども合唱団。ドキュメンタリー映画制作陣がラジオで呼びかけて探し出すまで、彼らは自分たちの歌声が日本でヒットしたことを知らなかったそうです。
日本では1975年放映のアニメの印象が強すぎて(そしてそれが傑作だったために)原作をちゃんと読んだことがないという人も多いのでは。
私もアニメはリアルタイムで見てるはずなんですが、さすがにあまり覚えていない。アニメのイメージをベースにした子ども向け絵本がうちにあり、その印象が強いです。
その絵本の中でネロが風車の絵を描いていると、大人がほめてくれる場面があるんですが、子ども心にそうかこういう絵を描けば大人はほめてくれるのかと思い、実物を見たこともない風車の絵を描いていた時期がありました。我ながらひねた子どもです。
あらためて読んでみると、これが本当にひどい話(笑)。原作は岩波少年文庫で100ページという短さ。よくこんな暗い話を一年間のアニメにしようとしたもんだ。
著者のウィーダはイギリスの作家で、3週間ほど旅行したときのイメージをもとにフランダースを描いています。30匹の犬を飼うほど犬好きだった彼女にとって、犬を使役するフランダース人は野蛮で粗野な田舎者なので、その描写には手加減がない。
ネロは根拠なく有名な画家になって貧乏から抜け出すことを夢みてますが、たった一度のコンクールに選ばれなかっただけで挫折します。
原作ではネロは15歳、アロワは12歳。アロワはスペインの血をひく黒い眼をしていると書かれています。アロワの父がふたりの仲を裂こうとするのは、たんにネロが貧乏だからというだけじゃないのです。
放火の疑いをかけられて村で孤立していくネロ。それでも、大金の入った財布を届けたのだから、クリスマスに帰る家もなく、食べるものもない窮状を訴えて助けを求めてもよかったのでは。なぜ彼らは死ななければいけなかったのか。そこには作者の社会批判とともに、ご都合主義的なセンチメンタリズムを感じます。
(そこをキリスト教的受難とか日本的自己犠牲とかまで高めてしまった日本のアニメの最終回の功罪があります。)
そういったいくつかの作品上の欠点からご当地ベルギーでは『フランダースの犬』はまったく読まれておらず、ルーベンスの絵を見ながら涙する日本人観光客によりやっとその存在を知り(オランダ語訳の出版は1985年)、ネロとパトラッシュの像が建てられ、アントワープ大聖堂の前に記念碑が置かれている、というところまでは聞いたことがあります。(『トリビアの泉』でもネタになってましたね。)
そのほかの話は『誰がネロとパトラッシュを殺すのか』に続きます。
以下、引用。
パトラッシュは、何世紀にもわたってフランダースで代々ひどい目にあってきた一族の出身でした。人間にこきつかわれる奴隷、貧しい人たちの犬、かじ棒と引き具につながれた動物でした。荷車があたってできるすり傷に、筋肉を痛めつけられながら生き、心臓をこわしてかたい道で死んでいく生き物でした。
フランダースはすばらしい土地とはいえず、なかでもアントワープのまわりは、おもしろみのないところでした。特徴のない平野に、麦や菜種の畑、牧場が単調にくりかえされるばかりです。
ルーベンスの墓であるこの町は、ルーベンスを通じて、ただその人のおかげで、わたしたちにとって生きつづけているのでした。
続きを読む投稿日:2019.11.25
「幼い少年ネロと老犬パトラッシュの深い友情を描いた名作。牛乳運びの仕事をする貧しいネロは、見ることのできないルーベンスの名画に心をかきたてられます。表題作のほかに、美しい年代物のストーブをつよく愛する…あまり、そのストーブの中にかくれて旅をすることになった少年の物語「ニュルンベルクのストーブ」を収録。」
貧しくも正直な少年と忠犬の哀れな最期で知られる秘話。
日本でとても人気だがベルギーではあまり読まれていないとも。。
「子供の頃、わたしの「世界」は恐怖に満ちていた。ーそのような恐怖から逃れるために、少女時代の私は物語に夢中になった。本をよんでいるときには恐ろしい恐怖を忘れることができた。ーとりわけ好きだったのは、かわいそうなお話である。悲劇、不幸、理不尽、不条理などが、これでもかこれでもかと描かれている物語を愛した。お涙頂戴、大いにけっこう、というわけである。ー最後のページを読み終えた後、「ああ、悲しい。なんて悲しいんだろう。こんなことがあっていいのか」と涙にくれながら思いたい。ー一番のお気に入りは『フランダースの犬』だった。何度読んでも、そのたびに号泣していた。ーまったく救いがない、とは言えない。なぜならっ作者は、少年と犬は死をもって永遠に結ばれたのであり、誰もこのふたりを引き離すことはできない、という強いメッセージで、この物語を締めくくっているからあ。しかし、少年と犬の死=幸福、と読み取れる子どもは多くはないだろう。生きている時に幸せになれなければ、それは幸せとは言えないのでは?と私は作者に問いかけてしまった。」(小手鞠るい『10歳までに読んだ本』より)続きを読む投稿日:2023.05.28
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