この女
森絵都(著)
/文春文庫
作品情報
「同じ男とはうち、一度しか寝えへん」そんな女と、どう付きあう?
新境地を切り開いた傑作青春小説!
釜ヶ崎のドヤ街に暮らす僕に、奇妙な依頼が舞いこんだ。
金持ちの奥さんの話を小説に書けば、三百万円もらえるというのだ。
ところが彼女は勝手気儘で、身の上話もデタラメばかり・・・・・・。
彼女はなぜ、過去を語らないのか。
そもそもなぜ、こんな仕事を頼んでくるのか。
渦巻く謎に揉まれながら、僕は少しずつ彼女の真実を知っていく。
※この電子書籍は2011年5月により筑摩書房より刊行された単行本を、文春文庫より文庫化したものを底本としています。
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商品情報
- シリーズ
- この女
- 著者
- 森絵都
- 出版社
- 文藝春秋
- 掲載誌・レーベル
- 文春文庫
- 書籍発売日
- 2014.06.10
- Reader Store発売日
- 2020.04.17
- ファイルサイズ
- 0.6MB
- ページ数
- 336ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (66件のレビュー)
-
卒業式がなくなって、入学式もなくなって、ゴールデンウィークの予定もすっかり白紙、それどころか、世界的イベントであるはずのオリンピックまで延期されてしまった2020年。予定はあくまで予定であって未来とい…うものは過去になってみないと確定しないものだとつくづく思います。でもそんなことが繰り返されてきたのも人間の歴史です。東日本大震災が、熊本地震が、そして90年代には阪神・淡路大震災もありました。不可抗力により全く意図せず変化する未来。公に予定されていたものがキャンセルになると、逆にそのこと自体が大きな出来事として歴史に刻まれます。でも、一方で皆をあっと言わせるために秘密裏に進められていた予定が不可抗力により頓挫してしまうと後には何も残りません。でもはっきり言えるのは、いずれであってもその結果によって人生を、未来を左右された人々がいるであろうということです。それが運命、それも含めて運命ということなのでしょうか。
『前略。いつも年賀状を有難う。君が探していた原稿が見つかりました』という手紙の書き出しから始まるこの作品。ただし、この作品の体裁を見てわかる通り、この手紙の位置づけはあくまで序章にすぎません。ただし、この作品を最後まで読み終えた読者は、必ずこの手紙を読み返します。無性に読み返したくなります。中には、読書中でさえもこの手紙のことが気になって仕方がなくなる人もいるかもしれません。そして作品を読み終えてこの手紙を再び読み返す時、いたたまれない切なさと、ぽっかり穴が開いたような寂しさに包まれることになります。そして、感じます。同じ文章を読んでいるのに、一度目と二度目でそこに見えるものがこうも違うのか、と。
『実在する女の人生を小説にする場合、果たしてどのような書き出しが最も望ましいのだろう』、序章に続いて始まる第一章もとても不思議な書き出しです。そして、『ここに来れば仕事があるって聞いたんですけど、なんやようわからへんで。ぶっちゃけ、仕事ってどうやって探せばええんですか』という青年が現れます。神戸大学文学部の三回生・藤谷大輔。『俺、この釜ヶ崎を題材に小説を書いたるつもりやねん』と語る大輔。そうです。ここは、『行政からは 「あいりん地区」なる名称を押しつけられ、世間一般からは無法地帯なみの劣悪なイメージを植えつけられている』大阪・釜ヶ崎。『職探し以外の目的でやってくる人間は限られている』という街。そして、ここにやってくる人間は『ここへ来れば自分よりも不幸な人間に会えると信じている』と言われる街でもあります。
そんな大輔からひょんなことで彼の大学の夏休みの課題小説の代筆を引き受けた甲坂礼司。出来上がった小説を受け取って釜ヶ崎を去った大輔。『しかし、大輔は一年の時を経て再びここへ戻ってきたのだ。僕への新たな小説の課題を携えて』と再び礼司の前に姿を表します。小説の依頼者は『ウエストホテル社長 二谷啓太』、『初めて足を踏みいれた芦屋は釜ヶ崎の対極にある街だった』と彼の自宅に赴く礼司と大輔。そこで『女房の人生を小説にしてほしい。私の希望はそれだけです』という二谷。『小説の枚数は原稿用紙にして二百枚前後。締め切りは三ヶ月以内。前金として百万、小説が完成してから二百万』という、その日暮らしの礼司には破格の謝礼の元、礼司は二谷の妻・結子を主人公とした小説を書き始めるのでした。
実は『釜ヶ崎』についての知識をほとんど持ち合わせていなかったこともあって、読書を一旦中断して調べました。『ドヤ街』『日雇い労働者』『路上生活』『貧困』などの言葉が並ぶ、その検索結果に、重い感情が私を包むのを感じました。森さんの表現も『ファンタのおっちゃんを送ったばかりの部屋には既に次なる病人の影があり、薬品臭とアンモニア臭以外の珍しい刺激が鼻を掠めると思えば、吐瀉物の臭いだった』と、付け焼き刃の知識の頭に具体的な場面がリアルに描画されていく、なんとも言えない重苦しさを感じました。
そして、主人公として最初から最後まで登場する礼司ですが、小説のモデルの結子以上に謎を秘めた存在でもあります。自転車の後部のネームプレートを見た結子は『萩ノ茶屋、のノの字が逆向いとる』と礼司に指摘します。その礼司の自転車には『片側にだけ巻きつけられた目印の赤いテープ』が付けられています。さりげなく描写される細かな記述が全て伏線となって、えっ?という予想外の展開・結末に向かって物語は進んでいきます。この作品は1994年から翌95年初頭までの大阪、神戸を舞台にしています。そしてこの95年とは序章の手紙で語られる通り『関西を襲った激震の猛威は今更ここで述べるまでもありません』と数多くの人々の日常、そして未来が突如寸断させられてしまった阪神・淡路大震災が発生した激動の年です。その事実を突きつけられることになる読後には、表紙の女性のイラストからは想像できない極めて沈鬱で重苦しい感情が残ってしまいすっかり気が滅入ってしまいました。こんなにも重い作品だとは思わなかった、これが正直な感想です。
ところで、この作品に一点難があるとすると、この作品で語られる関西弁の独特なクドサでしょうか。少し強すぎる、もしくは人によっては逆に引っかかりを感じるであろう、この『関西弁』だけは好き嫌いがハッキリ分かれるだろうなとは感じました。
ということで、この作品、構成がとても巧みで最後の最後まで結末が見通せません。そして、その結末に感じる「カラフル」のあの結末のえっ?と同じような意外感。途中までの、これは本当に森さんの作品なの?という疑問が、最後には、やはり森さんの作品だった!と変わって得られる安堵感。〈風に舞いあがるビニールシート〉同様、森さんの描くとても大人な世界の描写に存分に浸れる、そんな作品でした。
続きを読む投稿日:2020.04.21
はすっぱな女の小説を描くため、波瀾万丈で生きてきた金持ちの奥さんを追いかけて小説を書く男の話なんだが、こういう女が出てくる小説って案外多いんだよなぁ。。。
と、どこかの二番煎じのような本という位置づ…けのような内容で、、実は半分くらいで飽きてた。
森絵都ってこんな感じだったかなぁ。と、思いつつ、とりあえずラストまで読むか、、、、と、どーにか読み進めて、ようやっとラストあたりで。
場面が変わり始め、、、
ラスト1ページに、よく小説に出てくるような女が、
うちは絶対負けへんわ。
っていう一言で、なぜかどばーーーーーっと涙出てきた。笑。こんな女なのに、どんな純愛ラブストーリーのウブ恋ふわふわ片想い青春くどくどキュンに出てくるような、ありえない清純少女よりも、強い純粋さ、清純さを爆弾のように浴びせられたラストだった。。。
ここに辿り着くまでのそれか、、、、、
と、森絵都にしてやられた感ありまくります。続きを読む投稿日:2023.09.02
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