魯迅-東アジアを生きる文学
藤井省三(著)
/岩波新書
作品情報
多くの教科書にその作品が採用されている魯迅は,日本で最も親しまれてきた外国の作家の一人である.東アジアの都市遍歴という視点でその生涯をたどった評伝.ハリウッド映画を楽しむ近代的都市生活者として魯迅を描きだしながら,その作品が東アジア共通のモダンクラシックとして受容されてきたことを明らかにする.
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商品情報
- シリーズ
- 魯迅-東アジアを生きる文学
- 著者
- 藤井省三
- 出版社
- 岩波書店
- 掲載誌・レーベル
- 岩波新書
- 書籍発売日
- 2011.03.18
- Reader Store発売日
- 2018.11.15
- ファイルサイズ
- 11.1MB
- ページ数
- 254ページ
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この作品のレビュー
平均 3.8 (6件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
中学校の国語教科書で『故郷』を読まれた方も多いだろう。日本で広く親しまれている魯迅であるが、中国はもちろんのこと、東アジア各国において様々な「読み」がなされてきた。本書では、前半で豊富な資料に基づいて魯迅の生涯を語り、後半で彼の作品が東アジア共通の「モダンクラシック」として受容されてきた歴史を明らかにする。
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1章から7章は、正直なところ、『故郷/阿Q正伝』(藤井省三訳、光文社古典新訳文庫)の解説を少し詳しく書き改めたバージョンという感じがする(尤も、これは寧ろ古典新訳文庫の解説が、そのような印象を抱かせるぐらい充実しているのだと評価するべきだろう)。とはいえ、多くの資料・文献を引きながら、時には著者自身の体験を交えつつ、公平に語られる魯迅の評伝は読んでいて勉強になった。魯迅が日本に留学していた頃、急速に発達しつつある「帝都」東京では、就学率の向上に伴って大幅に増加した小学校教員が官公吏や学生、都市サラリーマンとともに読書階級を形成していったこと。辛亥革命後の激動の中国で、「文学革命」を目指し、「左翼文壇の旗手」として命懸けの批判活動を展開したこと(彼が生涯に用いたペンネームの数は140にも上る)。
8章では、東アジア各国それぞれの歴史背景を投影し、反体制の激しい批判者・闘争者として魯迅が読まれてきたことが述べられる。例えば、韓国は日本と並んで非常に早くから魯迅が読まれてきた国だが、“日本の植民地支配を受けていた朝鮮知識人は、半植民地状態を脱して国民国家建設へ進もうとする中国に、特別な共感を覚えていた(p.199)”と想像されるという。
9章では、現代中国での魯迅を巡る状況が説明される。魯迅の死後、彼の功績は中国共産党統治の正当性を宣伝するために利用されてゆくこととなる。
“中国では唐代以後、新王朝が成立すると前王朝の正史を編纂してその興亡を描き、新王朝の正当性を主張する正史編纂の伝統が続いてきた。これに対し人民共和国建国後の中国共産党は、人民革命の正当性を宣言するため、編纂に長時間を要する正史に代わって共産党中心の近代文学史を編纂し、中学から大学までの国語科を通じて思想教育を行った。その際に近代文学史の中心に置かれたのが魯迅である。(p.209)”
一方で近年では、思想教育の「押し付け」によってあまりにも多くの魯迅作品を在学中に読まされることにより、中学高校を卒業する頃には多くの若者が魯迅嫌いになってしまっているという皮肉な現状があるそうだ。
実態は、日中関係が悪化するたびに浮上してくる根拠薄弱なデマに過ぎないのだが、魯迅が生前懇意にしていた日本人医師による魯迅誤診説(さらには暗殺(!)説)なるものが囁かれているとは何ともショッキングな話である。著者が言うように、これが日本の中国侵略が中国人に残した深い不信感に起因するものであるならば、馬鹿だなぁの一言で容易に片付けてはならないとも思う。
まえがき
1 私と魯迅
2 目覚めと旅立ち 紹興・南京時代
3 刺激に満ちた留学体験 東京・仙台時代
4 官僚学者から新文学者へ 北京時代
5 恋と映画とゴシップと 上海時代(1)
6 左翼文壇の旗手として 上海時代(2)
7 日本と魯迅
8 東アジアと魯迅
9 魯迅と現代中国
あとがき
略年譜
図版出典投稿日:2023.08.24
魯迅の生涯を語りつつ、魯迅が東アジア各国でどのように読まれ
また中国においては死後どのように利用され、
現在人々に意識されているのかを描く一冊。
読みやすく分かりやすいが、村上春樹に関する記述は
やや…過大な印象を受けた。続きを読む投稿日:2013.10.05
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