ガリア戦記
カエサル(著)
,石垣憲一(著)
/平凡社ライブラリー
作品情報
※この商品はタブレットなど大きいディスプレイを備えた端末で読むことに適しています。また、文字だけを拡大することや、文字列のハイライト、検索、辞書の参照、引用などの機能が使用できません。紀元前五八から五二年、カエサル率いるローマ軍は、ガッリア(現在のフランス、ベルギー)に遠征、この地を平定してギリシア・ローマ文化がヨーロッパに入る基礎を築いた。その歴史的大事件の現場のありさまを、カエサルは率直かつ簡潔な筆で記録にとどめた。ヨーロッパ史の古典中の古典を、いちばん読みやすく正確な新訳で読む。
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この作品のレビュー
平均 2.3 (3件のレビュー)
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源氏物語がすごいとかいうが、こんなものを2000年前に書いてたんだから、西洋文明はすごいわ。7章は、『ローマ人の物語』で、紹介されていたエピソードが載っていた。8章は、カエサルが書いたのではないと知っ…て、意外に思った。ここだけ文章がいきなりダラダラと読みにくくなるのは、翻訳の人、わざと? カエサルの文章のうまさを印象づけるため? それとも原文もこんなのだろうか。自作自演の本かもしれないが、それにしても英雄っぽいわ。胆が座ってて、感心する。読み物の価値としては、好きな人は読んで損はないけど、現代の日本人のどれほどの人が読むべきかどうかと問われると、そうでもないように思う。なので、★2つ。""続きを読む
投稿日:2018.11.06
このレビューはネタバレを含みます
ローマの将軍カエサルが、ローマ人から見た蛮族(ガッリー人・ゲルマーニー人)たちを帰順させるために転戦奮闘した記録。著者が自分のことを三人称で「カエサルは・・・」と書くのが特徴的だが、これによってカエサ…ルは自分の感情を書き込まないという制御と、客観的な報告の体裁を得ることに成功している。ただ、行ったことや起きたことの記録なので、読み物として面白いかと聞かれると微妙なところである。無味乾燥なつまらなさはないが、『史記』のようなグイグイ惹きつけて忘れがたい、というエピソードには乏しい。
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ところで現実世界において私は断固戦争反対であるが、それでもこうした戦記物を読むと、戦争は人間にとって究極のエンターテイメントでもある(あった)と思わざる得ない。戦場で戦う兵士やそれを指揮する司令官はもちろん死と隣り合わせだが、自軍が負けたら弄ばれ奴隷にされる女子供も命懸けである。それを思えば、戦争の報告に接する一般平民たちの興奮も、オリンピックのニュースどころの騒ぎではないだろう。まさに戦争は全国民(部族民)の血をたぎらせる、大スペクタクルだったのだ。
軍事以外でローマがギリシャを凌いだのは、土木工事だけだった、と何かで読んだ気がしたが、それを裏付けるように、この本ではローマ軍の工事の話がよく出てくる。「あっという間に作業小屋が街へと押し寄せ、攻城用の土手をかけられ、櫓が組まれるという工事の大がかかりさ(ガッリー人には見たことも聞いたこともないほどの工事だったのである)とローマ人の手早さに動転して」(p.84)相手部族は降伏交渉してくる。他にも、森を伐採したり、橋をかけたり、堀や落とし穴を掘ったりと大忙しであるが、この辺りの細かい記述で当時の戦争の実態がうかがえるのが『ガリア戦記』の大きな魅力だろう。
他にも古代の戦争について教わることは多い。たとえば、冬は戦争どころか行軍もできないので、ローマ軍は軍団ごとに冬営する。迅速な行軍が戦争の勝敗を大きく左右する。講和の条件として人質を取るのが一般的、などである。また、司馬遼太郎が『項羽と劉邦』で書いていた「この時代の戦争とは食糧争奪合戦である」(引用不正確)というのは、このガリア戦役にも当てはまるようだ。
それから、やはり注目してしまうのがカエサルその人の言動である。本人が書いたものだからすべて鵜呑みすることはできないが、兵糧不足や地理的不利から士気が鈍っている部下に対し、「そのようなことはカエサルが心配していればいいのだ」(p.57)と言い放ったり、最前線へ躍り出て「小隊長たちには名指しで声をかけ、ほかの兵士たちにも檄を飛ばしながら」(p.94)奮闘したりするのだから、実に惚れ惚れとするリーダーである。
兵士たちも、カエサルが来ればいいところを見せたいと思って猛烈に頑張る。それは戦功が見出されて出世につながる、ということもあるだろうが、それよりも敵方にもその名が鳴り響き、彼が来れば必ず勝つ、というような大将の下で戦うことの喜びのなせる業だと思う。
カエサルもそうした兵士たちに応えて、彼らの奮闘ぶりを本国ローマへの報告書(つまりこの『ガリア戦記』)によく盛り込んでいる。そうしたつながりから、彼らの間に麗しき信頼関係が生まれているのだ。過度の兵糧不足に苦しんだ戦闘で、「カエサルが作業中の各軍団に呼びかけてあまりに困窮がひどいようなら攻略をやめるつもりだと言ったところ、全員がそのようなことはしないでほしいと頼んできた」(p.260)というエピソードなど(真偽はさておき)、こういうのいいなぁと思ってしまう。それから「皆がカエサルの名誉のためにはいかなる危険をも顧みないつもりでいてくれるのはわかるが、それならカエサルも自分の安全より皆の命を大切にしなければ不公平きわまりないではないかと言って兵士をなだめ」という話も(出来過ぎの観はあるが)たまらない。
もうひとつ、カエサルがすごいと思ったのは、抜群の能力と実績を持っていた人なのに、それに頼り切らずに運の力を直視したことである。「万事そういうものであるが、軍事においても運の影響は大きい」(p.231)。内面が描かれない『ガリア戦記』においてカエサルの人となりを推し量るのは難しいが、この一文をもって、何か幸運が起こるのではというような期待と無縁な、ある意味で冷めた行動家としての人間が窺えるような気がする。
最後にこの本の学問的な評価について思うことを少々。歴史はあくまでも人間が書くものだから、研究が進めば新たな光が当てられ、書き替わっていく。中国史では、遊牧民族から見た視点によってかなり歴史が書き換わったと思う(たとえば、戦ったら遊牧民が勝つことが多いし、歴代の王朝にしても異民族の血が混じってない方が少ないなど)が、ローマ史も逆側からの視点で新たな知見が得られているのだろうか。
この本だけを読んでいると、やられてもやられてもローマに反旗を翻すガリア人は、過去の敗戦から学ばず、ただの懲りない野蛮人に見える。しかし実はガリア人もそこそこ勝ってもいたし、ローマにとっては無視できない脅威となっていたのではないか。そう考えると、『ガリア戦記』も大本営発表のようなプロパガンダ的な側面があったのかもしれない。この辺りの謎に答えるのには、別の書を紐解く必要があろう。続きを読む投稿日:2014.05.05
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