稀代の本屋 蔦屋重三郎
増田晶文(著)
/草思社
作品情報
山東京伝や恋川春町らで世を沸かせ、歌麿を磨きあげ写楽を産み落とした江戸随一の出版人・蔦重。 出版者であり編集者であり流通業者であると同時に、流行を仕掛け、情報を発信する辣腕メディアプロデューサーでもある。 そして何より、新しい才能を見出し育てあげて世に出し、江戸の日本の文化を変えた巨大な創造者でもあった。 時に為政者の弾圧に遭いつつ「世をひっくり返す」作品を問いつづけた稀代の男の波乱の生涯を、江戸の粋と穿ちが息づく文体で描き切った渾身の時代小説!
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この作品のレビュー
平均 3.7 (9件のレビュー)
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再来年の大河ドラマの予習として。
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蔦屋重三郎の名前は以前からなんとなくは知っていたけれど、この時代の名だたる戯作者や絵師たちとこんなにも深く関わりを持っていたとは驚いた。
「蔦が絡まるのは自然の道理。江戸中を蔦屋の本で覆いつくしてしまいたい」
江戸一の本屋、と名高い蔦屋。
本屋といってもただ本を売るだけでなく、常に時代の流行に目を配り、時に流行を仕掛け発信して、江戸文化を創り上げていたといっても過言ではない。
「私が扱う本や絵からは、粋っていう名の霊気がほとばしる」
数多ある戯作者・絵師たちの中から、これぞと見込んだ才のある者を見抜き育てる辣腕プロデューサー。現代で言う秋元康さんのような感じ?
嫉妬渦巻く同業者など敵も多かったことだろう。
財と愛情をこれでもか、と注ぎ込んだ戯作者・絵師たちからは恩を仇で返されることもしばしば。
「たった一度の人生だからこそ粋に生きなきゃ。なるたけ愉しく、おもしろく」
"江戸っ子の粋"にこだわり続けた男・蔦屋重三郎。
為政者の弾圧なんてもろともせず、常に初志貫徹な男の生き様は、もはや天晴としか言いようがない。
喜多川歌麿、山東京伝、恋川春町、北尾重政、葛飾北斎、曲亭馬琴、十返舎一九、そして写楽。
江戸文化に欠かせないこれらの戯作者・絵師たちを誰が演ずるのか、再来年の大河ドラマが今から楽しみで仕方ない。投稿日:2023.06.04
このレビューはネタバレを含みます
2023.5.3市立図書館
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2025年の大河ドラマが森下佳子脚本「べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜」と決まり(期待大)、主役の蔦屋重三郎とその時代についていまのうちに予習しておくべしと思ってひとまず一冊目は…小説仕立て。おかげですいすい読んで時代と人に親しむことができた。
18世紀後半の江戸に生き、1冊あればそれを何人もが読み話題にもする「本」というメディアの可能性に目をつけて、さまざまな草双紙(絵入り読みもの)や画文集をてがけた主人公。アイデアとセンスはいくらでもあるけれど、抜きん出た文才や画才が自身にあるわけでなく、才能のある人をみつけては面倒を見て育てて売り出していくプロデューサー肌。現代で言えば福音館書店の松居直さんのような人だろうか。とはいえ現代の絵本の世界は世間に気兼ねする必要はない一方で、江戸の吉原をゆりかごとする艶本の世界は世間(お上)への反骨精神や攻防もあってそこは宮武外骨や戦時下の出版と重なる。
周辺の人物についても、キャラ設定や肉付けのしかたはまた違うのだろうけれど、朋誠堂喜三二と恋川春町に山東京伝、喜多川歌麿に謎多き東洲斎写楽そしてかけだしの葛飾北斎、曲亭馬琴に十返舎一九と個性派の戯作者や絵師が揃っている。多くが文と絵の二刀流ということにはおどろく。「善玉/悪玉」の考案者のような雑学ネタや浮世絵の製作工程の描写もおもしろかった。そして終盤のクライマックスは絵師との心身消耗する格闘の末に謎多き写楽の一連の作品がうまれるところ。読んでいる方まで息が切れそうだった。
この作品では懇意の遊女紫野と妻女以外には女性がほとんど登場しなかったが、森下さんはこの世界をどうふくらませ料理するのだろうと楽しみが増してきた。
まだまる一年以上あるし、『蔦屋重三郎 江戸芸術の演出者』(講談社学術文庫)あたりも読もう。「別冊太陽」で浮世絵にお近づきになって、タイトルしか知らない黄表紙や井上ひさしの「手鎖心中」あたりも読んどくといいのかな…(巻末の参考文献からいろいろメモしとこう)続きを読む投稿日:2023.05.03
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