象の墓場
楡周平(著)
/光文社文庫
作品情報
1992年、世界最大のフィルム会社ソアラの日本法人に勤務する最上栄介は、デジタル製品の販売戦略担当を命じられる。銀塩フィルム全盛の時代、最上は半信半疑のままデジタル製品の売り込みを模索するが、その奮闘を凌駕する速さで、写真業界にデジタル化の波が押し寄せる。技術の進歩によって駆逐される産業と超優良企業の転落を、圧倒的臨場感で描き出す。
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商品情報
- シリーズ
- 象の墓場
- 著者
- 楡周平
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 光文社
- 掲載誌・レーベル
- 光文社文庫
- 書籍発売日
- 2016.03.20
- Reader Store発売日
- 2016.04.22
- ファイルサイズ
- 0.4MB
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この作品のレビュー
平均 3.9 (23件のレビュー)
-
【感想】
デジタルカメラというテクノロジーの普及や進歩に目を背け、「フィルム(銀塩)産業への固執」によって破綻したコダックがモデルの小説。
コダックの破綻はフィルムからデジタルへの写真産業の劇的なテ…クノロジーの推移・変化によってというよりも、結局は大企業ならではの腰の重さが大きな原因となったようだが、これはどの業界のどの会社にとっても決して「対岸の火事」と思えない出来事だろう。
当たり前にあったものも、いずれはイノベーションによって技術や市場は刷新される。
そしてその「進化」裏側には、必ずしも既存事業の「象の墓場」というものは存在する。
そう考えると、どの業界の人でも背筋が冷たくなるのでは?
個人的には、途中で「プリクラ」の企画の話になった時、「ああ、新しいビジネスモデルを見つけてこうして一件落着するのか」と読んでいて安心したのも束の間。
大企業ゆえの決断の遅さ、そして動きの鈍さに首を絞められて、自分たちで見つけた新しいビジネスモデルにさえ手出しする事できないところに「大企業が抱える病」を読んでいて感じた。
作中にあった「そもそもこの製品って本当に市場が待ち望んでいるものなのか?」という最上の問いは、正直自分も感じたことがある。
「寄らば大樹の陰」と、自分の組織の大きさに胡坐をかいて営業しているのではないか?と思ったり、自社製品への信頼を営業が見失ってしまうことは自分も経験したことがあるので・・・
作中の「ソアラ社」が次々と犯す手数の失敗を見ていて、「いつの日にか自分の会社もこんな感じになって首が絞まってしまうのではないか?」と危機感を抱いた今日この頃。
巨大さゆえに自分の会社の方向転換が出来ず、「沈みゆく船」と分かりつつも心中する人の心の中を描いた、後味の悪い1冊でした。
個人も法人も、既存のモノにずっとすがりついているようじゃ駄目なんでしょうね。
定年まで時間がある年代のビジネスマンは、日々変革しつつあるテクノロジーやイノベーションを受け入れなくちゃ、墓場に直行だよ。
くわばらくわばら・・・・
【あらすじ】
まさにエクセレントカンパニー。1ドルで70セントの高収益を得るといわれる世界最大のフィルム会社、ソアラ社。
パソコンがまだ高嶺の花の1992年、働き盛りのソアラ・ジャパン社員、最上栄介は新事業のデジタル製品の販売戦略担当を命じられる。
大企業ゆえのジレンマ。全く読めぬ消費者のニーズ。急速に一般化されるデジタル技術。
次々と降りかかる難問に最上は立ち向かう―。
【引用】
1.『大手が乗り出しゃ、中小は黙っていてもついてくる。間違いなく市場はできる。それって、大企業の発想ですよ』
何か、俺たちは根本的なところで間違っているんじゃないか。
そもそもこの製品って、本当に市場が待ち望んでいるものなのか?
2.技術力は確かに群を抜いている。だが、このプリンターもまた、消費者のニーズを完璧に満たすものではない。
「革新的な技術には欠点はつきものだ。新しいテクノロジー、ハイクオリティを享受するからには、多少の不便には目を瞑れ。」
まるで、消費者にそういっているような代物だ。
しかし、それでは駄目なのだ。商品は常に完璧、完成品でなくてはならない。
たとえ些細なことでも消費者に不便を強いるようなものであってはならない。
それなくして、成功はありえない。
ソアラには、その意識が決定的に欠けているのだ。
3.便利になった、効率性が上がった。身近でそう感ずるもののことごとくが、そこに介在していた何かを排除した結果だ。
そして、その多くは間違いなく人だ。
4.大抵の人間は、前例のない仕事に直面した場合、まず最初に否定的な要素を探し出し、如何に困難であるかを口にする。
しかし、有能な人間は違う。否定的見解を口にするところまでは一緒だが、必ず代替案を提示するものだ。
5.退職するデンプシーとの会話
企業において、採算性に乏しい事業や未来への投資はやる意味がないと判断される。
好調な他の事業の足を引っ張る邪魔者以外の何物でもないとね。
そんな事業を継続しようものなら、株主の追求は、ひいては会社のトップへと波及する。
となれば、結論は明らかだ。好調を続ける銀塩ビジネスに力を集中させるしかない。
6.、巨大な組織というものが、いかに変化に対して弱いものか。
過去のビジネスモデル、栄光の記憶から逃れられないものであるかをまざまざと見せつけられた思いがした。
【メモ】
p16
・1992年
「プロの世界じゃソアラが圧倒的シェアを持っている。なのに、ソアラはデジタルカメラなんて代物を開発している。仮にあんたの言うように、こいつの性能が上がってさ、フィルムに勝るなんてことになったら、それって自分の首を絞めることにならねえか?」
島の指摘はもっともである。
フィルムの収入源は、フィルムの販売、現像、プリント処理にまつわるプロセスにある。
しかし、デジタルカメラの性能が飛躍的に進歩すれば、これらのプロセスはことごとく不能になる。
何故、ソアラは自ら進んでデジタルカメラを普及させようとしているのか?
それは、日本の家電メーカーが、実用性には到底堪えない代物ながら、デジタルカメラの販売に踏み切ったことに端を発する。
p131
『大手が乗り出しゃ、中小は黙っていてもついてくる。間違いなく市場はできる。それって、大企業の発想ですよ』
ふと、草野の言葉が脳裏を過った。
何か、俺たちは根本的なところで間違っているんじゃないか。
そもそもこの製品って、本当に市場が待ち望んでいるものなのか?
プレーヤーだけじゃなく、アートCDそのものが、本当に必要とされる製品なんだろうか。
p136
またかよ・・・最上は胸の中で毒づいた。
技術力は確かに群を抜いている。だが、このプリンターもまた、消費者のニーズを完璧に満たすものではない。
革新的な技術には欠点はつきものだ。新しいテクノロジー、ハイクオリティを享受するからには、多少の不便には目を瞑れ。
まるで、消費者にそういっているような代物だ。
しかし、それでは駄目なのだ。
商品は常に完璧、完成品でなくてはならない。
たとえ些細なことでも消費者に不便を強いるようなものであってはならない。
それなくして、成功はありえない。
ソアラには、その意識が決定的に欠けているのだ。
p166
「効率いいオペレーション、ユーザーに便利。それってさ、とどのつまりは中間流通に依存して生計立てている人たちを排除するからそうなるんだろ」
言われてみれば、その通りだ。
便利になった、効率性が上がった。身近でそう感ずるもののことごとくが、そこに介在していた何かを排除した結果だ。
そして、その多くは間違いなく人だ。
p302
「このままじゃ銀塩市場は崩壊する。デジタルに行くしかないことは分かってはいても、売り上げは落とせない、利益率も確保しなければならない。
かといって、既存事業の陣容に負荷はかけられない。
しかし、収益が上がらない部門に人は割けないじゃ、打つ手なしじゃないですか」
p349
大抵の人間は、前例のない仕事に直面した場合、まず最初に否定的な要素を探し出し、如何に困難であるかを口にする。
しかし、有能な人間は違う。否定的見解を口にするところまでは一緒だが、必ず代替案を提示するものだ。
p355
フィルム不要の時代が先か、それより早くこちらが新しい市場を開拓できるか。
ソアラの社運は、まさにその一点にかかっている。
p445
・退職するデンプシーとの会話
「企業において、採算性に乏しい事業はやる意味がないと判断される。好調な他の事業の足を引っ張る邪魔者以外の何物でもないとね。そんな事業を継続しようものなら、株主の追求は、ひいては会社のトップへと波及する。
となれば、結論は明らかだ。好調を続ける銀塩ビジネスに力を集中させるしかないじゃないか。」
溜息が漏れそうだった。
これじゃ、破滅を覚悟で戦いに挑むドンキホーテだ。
「ソアラはね、生き残る時期を逸してしまったんだよ。事態はあのレポートに書かれていたように推移していることは間違いないんだからね」
p495
違う!と最上は思った。
いま市場で起きているのは、消費者の写真に対する概念の変化だ。
写真の撮り方、使われ方、楽しみ方、目的のことごとくが根底から変わってしまったのだ。
なのに、今に至っても尚、それに誰も気が付いてはいない。
その現実を目の当たりにして、最上は愕然とした。
同時に、巨大な組織というものが、いかに変化に対して弱いものか。過去のビジネスモデル、栄光の記憶から逃れられないものであるかをまざまざと見せつけられた思いがした。
p527
「最近つくづく思うんだが、永遠に存在し続ける技術や産業なんて、ありゃしねえんだ。
そうだろ。学者、技術者、新しい物を開発しようって人間たちは、既存の製品よりもより優れた便利なものをと考えて、新技術の確立に心血を注いでいるんだ。
フィルムの歴史はソアラの歴史。130年以上もの間、俺たちは存在して当たり前と思っていた技術の上で商売をやってきたんだ。
だけど、考えてみりゃ銀塩写真なんて不便な点だらけだ。それを解消しようと考え始めたら。。。
そして、デジタルカメラはその不便を解消した。続きを読む投稿日:2020.01.20
デジタルの時代でPCに膨大な写真が保存されているが、みんなで見るという行為はほとんどない。
銀塩写真で作ったふるいアルバムを見返すことはあるのにね。
本編を読んだ後に解説の最後に書いてあった事
…
印象に残ってます続きを読む投稿日:2022.05.14
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