この作品のレビュー
平均 3.4 (7件のレビュー)
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2015年、38冊目は、花房観音の官能短編集。全七編収録。
花房観音『黄泉醜女』を読んだ直後だったので、読み始めは『黄泉醜女』による術中にハマって、どうしても作者の顔がチラついて仕方がなかった。
…なお、今回は各々の「あらすじ」は省略させていただきます。しかし、七編それぞれベクトルの異なる話で面白かった。
特に好きなのは官能場面のほとんど出てこない表題作、「指人形」。展開としては、「指人形」と「美味しい生活」以外はほぼ予想の範囲内だったが、嫉妬や復讐、性(さが)などの描き方は、「この人、上手いな」と思わされます。また、「おばけ」に見られる京言葉もイイ味付け。
さらにはAV男優、森林原人(「妻の恋」のモデル)による解説は、必読(花房観音のツイッターで、作者本人も絶賛していた)。ただし、必ず、本編読了後にお読みください。
評価は少し甘いかな(?)の★★★★☆。そして、この解説は★★★★★あげてもイイ。続きを読む投稿日:2015.08.29
649
これ百合サイトにこれ百合小説って書いてあったから、読んだのに、7つの短編集で最後の「美味しい生活」しか百合じゃなかった。6つもノンケの官能小説だった。しかも官能って私の好きな百合ではないんだ…よな。
花房観音
はなぶさ・かんのん
兵庫県生まれ 現在京都市在住。京都女子大学文学部中退後、映画会社、旅行会社、アダルトビデオ情報誌での執筆など様々な職を経て、2010年、第一回団鬼六賞大賞を「花祀り」にて受賞。著書に「花祀り」「寂花の雫」「女の庭」「おんなの日本史修学旅行」「萌えいづる」「女坂」「恋地獄」「偽りの森」などがある。
あなたは知らない。私の指がなにに使われているか―。団鬼六賞大賞受賞第一作「おばけ」を含む、女流官能小説家・花房観音の、止めどないエロスと隠微なユーモアに満ちた傑作官能短編集。
指人形 (講談社文庫)
by 花房観音
香名はむせ返るような「香」の中で育てられた。ひとり娘で、いつか 婿 をとり家を継ぐものだと両親も思っていたし、香名自身も何の疑いも無くそう信じ、京都の仏教系の女子大学系列の幼稚園から大学まで通っていた。
背が高く色白で背中まである長い黒髪と、こぢんまりした上品な目鼻立ちの香名は、まるで昔の「 大映」という映画会社の作品に出ていた女優のようだと言われ、近隣の男子校の生徒から手紙を 貰ったり、同級生を通じて交際を申し込まれることも少なくなかったが、同世代の少年たちの汗や青臭い匂いが苦手で、それに応えることは一切無かった。
佐野に対して安心感を持ったのは何よりも、佐野の「 香」だった。佐野には若い男の青く生臭い香や汗の香も、 壮年 の男が持つ独特の脂じみた匂いもせず、 爽やかな草を連想させる香水の匂いを 微かに漂わせているだけだった。そして佐野と香名は恋に落ちた。
クスッと伽羅は笑った。おばけ── 厄除けに、鬼を除ける為に、人々が異装する花街の習慣──確かに女装する男も多い。けれど、どう見ても伽羅は女装した男ではなく、妖艶で美しい女そのものだった──その身体から漂う匂いすらも。夫ですら薄いながら男の匂いを漂わせていたが、伽羅には香名が苦手な男の匂いが全くしない。
人にどう思われるか、人にどう見られるかなんてことを行動の判断基準にするほど無駄なことはありません。
「趣味ってわけじゃないし……興味持ったのも最近なのよ。それにアダルトビデオが好きとか、そうじゃなくて……」 妻の恥じらいの仕草は何なのでしょうか、何が言いたいのでしょうか。 妻の頰が赤らんでいます。目は少し潤んでいます。 まるで好きな男に愛の告白をするような様子です。 「ファンになっちゃったの」 「は?」 「あの、この際だから、話すわね。 噓 を 吐くのも嫌だし、変な疑いをもたれるのも面倒だから──あのね、私、ファンになって、その人が出てるから……観るようになったの」 「誰のファン?」 私は妻の言っている意味がわかりませんでした。芸能人などのファンになるのなんて、よくあることです。それがどうしてアダルトビデオに結びついているのかが理解できないのです。 「男優さんなの」 「男優?」 「AV男優さんのファンになっちゃったの」
「なんで、またAV男優に」 疑問でした。歌手や俳優やスポーツ選手ならともかく、どうしてAV男優なのでしょう。 「……最初はね、美容院で手にした女性週刊誌なの。AV男優さんの人生相談てページがあって……こんな普通の人たちなんだって意外だったの。だって本当にどこにでもいそうな男の人で……どうしてこの人たちはAV男優なんてやってるんだろうって思って、インターネットで調べてるうちに惹かれて……好きになっちゃった」 妻はまるで少女のように恥じています。まるで初恋を告白するかのように。それは私の初めて見る、妻の表情でした。
「でね、お願いがあるの」 「何?」 「来月の週末、東京に一泊二日で行きたいの。佐村さんが出演するイベントがあって……絶対に行きたい。交通費も宿泊費も自分で出すから負担はかけない。だってそのために私、働いてるんだもん」 驚いたのは、東京に行くことではなくて、AV男優に会いに行くために仕事をしはじめたという妻の言葉です。まさかそれが本当の目的だったとは──。
けれど、実際に、AV男優に会いに行く女がいるということには複雑な心境でした。しかも、自分の妻が。 いささか行き過ぎていると思いましたけれど、止められるわけがない。AV男優のイベントというのもなんだかうさんくさいと思いましたが、三十を過ぎた大人の女にあれやこれや言えません。 田舎の長男であり、 舅 も 姑 もいる私のもとに嫁いで、とてもよくしてくれる妻が涙を流して行きたいと願っているのを止めるなんて、大人気ないではありませんか。
「佐村さんてね、すごく話も面白いの。知的で、紳士で、思っていた以上に素敵な人だった。他の男優さんたちも面白い人たちばっかりだったけれど、やっぱり佐村さんが一番。でね、せっかくだし、私、イベントが終わってから勇気を出して佐村さんに近づいたの。握手してくださいって。そしたら『どこから来たの』って聞かれて、答えたら『遠いところから、わざわざありがとう』って……。ハンドルネームを名乗ったら、『いつもブログにコメントくれてるよね、励まされてます』って……返事とかはなかなかもらえないんだけど、ちゃんと読んでくれてたんだって、もう嬉しくて嬉しくてしょうがなかった」
「やだぁ。そういう人もいるかもしれないけど、でもほとんどは違うのよ。眺めているだけで幸せな気分になるのよ。だから、普通にアイドルのファンと一緒なんだって。つきあうとか、個人的に親しくなるなんて望んでないの」
「佐村さんはね、素敵な男性よ! あなた彼を見下してるの? 嫉妬してるのよ、やっぱり知的で紳士で優しい佐村さんに──」
私は妻がAV男優に恋したのを知ったそのときから、強い劣等感を感じて押しつぶされそうになっていました。
大勢の人の見ている前で、勃起し射精できるのです。 どんなに社会的に地位があろうと、金を持とうと、容姿が優れていようと──おそらく彼らに屈服しない男はいないのではないでしょうか。
そうして彼ら彼女らは、「火倉藍」の下半身がどれだけゆるいか、自分勝手であるか周囲に 吹聴 する。若くも美しくもないくせにみっともないほど男好きのだらしない女かと。 悪い噂は広まるのが早いし、誰もがそちらを信じる。 昔、「女友だち」だったはずの人たちとは、今はほとんど会わなくなってしまった。男と会うのと、仕事の時間を増やしたからだ。もう若くないのだから時間も体力も限られていて、優先順位をつけなければいけない。そうなったときに、女と仕事以外でつるむのは時間の無駄だと思った。 疎遠になった「女友だち」が、自分の悪い噂を吹聴しているのも知っているけれど、どうでもいい。女同士で仲良しごっこをして 牽制 し合い安心するよりは、嫌われながら自由に生きるほうがいい。 スマートフォンの画面を閉じると、ようやく睡魔が訪れてきて、愛子は眼を 瞑る。
「お金持ち、なんだね」 あさましいとわかっていてもつい思っていたことを口にしてしまう。 「旦那がね。お医者さんなのよ。義父が結構、大きな病院のグループの理事長で……だからこの家も結婚したときに税金対策で買ってくれたのよ」 「へぇ……すごい」 朱音は自分の口調に羨望が含まれ嫌みになっていないか気になってしまう。 狭い3LDKのマンションのローンに追われて食堂でパートをしている自分とはえらい違いだ。 部屋を見渡した限り、子どもはいないようだ。自分との共通点はそれぐらいか。
自分にはこんな 媚びを 湛えて目を潤ませることなんてできない。 「だから、結婚したのよ」 「え?」 「あのままだと、おかしくなりそうだったから。紅子と別れたあと、男を好きになろうと、何人か男の人と寝たけど、やっぱりよくなくて、ヤバいって思って……結婚したらまともになれるんじゃないかって」 「まともって、何なのよ。って、朱音は昔から、よく口にしてたね。『こんなのおかしい、まともじゃない』って……」 紅子の指が朱音の膝から 這い 上がってくる。太ももに置かれた指の関節をわずかにまげ、爪が肉に軽く食い込む。
「私は自分に自信がないの、昔も、今も。コンプレックス強いし、男の人を苦手なくせに、どう見られるかすごく気にしてる。だから、『まとも』にこだわってしまうの。人からどう見られるか、どう思われるか、いつも気にしてビクビク生きてる──そんな自分をつまらない人間だとわかっているけど」 紅子は自分と正反対で、だから魅力を感じて好きだったのだ。
「旦那はゲイなの。前にいた病院で知り合ったんだけど、なんとなく同じ匂いを感じて飲みに誘って話したらやっぱりそうだった。年齢は五つ離れてて、彼には長年つきあっている彼氏もいるのよ。でも両親は、何も知らずに息子にとにかく早く結婚してくれと言い続けて……社会的に地位のある職業だし、周りのうるささにうんざりしてたのね。それで意気投合して……偽装結婚ていうのかなぁ。旦那とは友人として仲がいいから、偽装って言葉も違う気はするんだけどね。おかげで余裕のある暮らしができるの。でも働くのが好きだから、看護師は続けてる。週に三度のパートでね」
三年生になる前に、紅子は大学を中退して看護学校に入り直した。自分は女性しか愛せないから一生結婚することもない。親とも折り合いがよくないから、自分で自分を養っていかねばならないので手に職をつけたい──そんな動機だった。
紅子は朱音に対して「可愛い、好き」といつも言ってくれるけれど、自分はただ身体の快楽に溺れているだけのような思いが拭えない。 紅子のことは好きだ。けれど、それはこの関係があってこそだ。肉体の快楽が優先する関係に「好き」という言葉を使っていいのかわからない。ましてや恋愛だなんて、言えない。
だから男の肉の棒なんて、たいした意味はないのに、男はまるでそれが全てのような錯覚をしている。 恋人と別れて会社を辞めて派遣社員になり、誘われると寝たりもしたし恋人の 真似事 をしたこともあった。けれど紅子とまじわる以上の快楽は得られない。 自分の指で慰めるときにいつも考えるのは紅子のことだけだ。 だから、もう、結婚するしかないと思った。結婚したら、逃れられるだろう、と。 男たちでは紅子の穴を埋められないから、結婚して家族を得ることができたら「まとも」な人生を無理やりにでもおくれるのではないかと。 けれどそれは大きな間違いだった。
「男って、勝手。女を悦ばせるよりも自分が気持ちよくなりたがるヤツが多い。看護師になってから、実感した。産婦人科で働いてたらね、馬鹿で無知で自業自得の妊娠しちゃう女の子もいるけど、男に言いくるめられて生でセックスして子どもができて、男に捨てられて途方にくれる女の子がたくさんいる。男が嫌いで関わりたくないから産婦人科を希望したんだけど、そこで働いてたらもっと男嫌いになっちゃった。朱音──あんたはこれが大好きなのにね、 可哀想」
男の棒も、道具もいらない。ただ女の肌と指と唇と舌があれば十分だ。 いや、それだけの交わりがこの世で一番気持ちいい。最高の快楽だ。 女の身体は匂いもいい。香水などをつけなくても甘い香りが染みついていて、お菓子のようだ。柔らかくて甘いお菓子。だから美味しい。男なんかとは、くらべものにならない。美味しい食べ物。
女は射精がないから、男と違い、いつまでもこうしていられる。 何度でも気持ちよくなれる。男のように出して冷めてしまうことはない。 疲れ果てて倒れるまで、何度でも、何度でも、快感を楽しめる。きっと永遠に無限に気持ちよくなれる。
まともになりたい──男と結婚して家庭を持って──世の中で「当たり前」とされている価値観から自分がはみ出て生きられるとは思えなかった。いや、怖かったのだ。世間から、周りの人間から、攻撃され非難されるのが。続きを読む投稿日:2024.07.12
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