アドルフ
コンスタン(著)
,中村佳子(訳)
/光文社古典新訳文庫
作品情報
将来を嘱望された青年アドルフは、P伯爵の愛人エレノールに執拗に言い寄り、ついに彼女の心を勝ち取る。が、裕福な生活や子供たちを捨ててまでも一緒に暮らしたいと願うエレノールがだんだんと重荷になり、アドルフは自由を得ようと画策するが・・・・・・。もはや愛していない女から離れられない男、人生のすべてをなげうって男を束縛する女。自らも人妻たちとの不倫で浮名を流した作家コンスタンのみが書きえたフランス恋愛小説の傑作。
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この作品のレビュー
平均 4.2 (8件のレビュー)
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18世紀末から19世紀初頭のフランスの作家コンスタン(1767-1830)の唯一の小説、執筆は1806年、初版は1816年。
本作品はフランス心理小説の先駆けと云われ、人間心理の動きをどこまでも細密…かつ合理的に記述しようとしている(逆に、本作中には心理描写以外の情景描写などは殆どない)。その巧みさは見事なもので、自分自身が言語化できずにいた己の内面の運動を表現してくれているように読めて、ああ自分があのとき感じていたこと考えていたことというのはこういうことだったのか、と気づかせてくれる描写が数多くある。幸福の有頂天にあるときの表現もなるほど確かにそういうものだと思わせるが、それ以上に痛切に身につまされるものは弱さや醜さなど自分では直視したくない自分の内なる感情が剔抉させられている場合だろう。そうした醜い心の動きというものは、当人が意識する際には、既に自己欺瞞という歪んだフィルターを通過することで変造され矮小化されてしまっていることが殆どであり、ひどい場合には無かったこととして無意識下に隠匿されてしまうこともある。このように普段からずっと自分の内に潜んでいながら遣り過ごしてきた自分自身の内面が、人間心理に通じた作家の作品によって、あたかも外化されているのを目の当たりにすること。そこには、自らの裸体が晒されるにも似たどこか被虐的な快楽が伴っているように思う。ここの一節には自分だけの秘密にしてきた"あの事"が書かれてしまっているのだ、と。そしてこの物語には、いつの時代にもありふれた男女の悲劇が描かれている。だから訳者が云うように、「いまを生きる人間であれば誰であれ、この小説を最後まで他人事として読み通せはしない」。
□
男は、或る女を手に入れようと一見情熱を燃やしていたかに見えたが、いったんその女を手に入れてしまえば、次第にその女の存在が疎ましく感じられてくる。「彼女はすでにある種のしがらみになっていた」。「一方わたしはというと、エレノールが幸せそうだと、こちらの幸せを犠牲にして成り立っている状況を喜ぶ彼女にいらいらする」。しかもそれでいながら、優柔不断ゆえに自らその女へ別れを切り出す決断もできず、ずるずるとどこまでも遅延されていく終局。これは、ありふれたという以上に、普遍的な物語であると思う。
アドルフは、生来の内気な性質からか、女に対して独りであること(孤立)の確保を求めた。一方エレノールは、金持ちの愛人という世間から卑しい女として蔑まされる身分から来る欠落感からか、男と一体であること(合一)の確証を求めた。アドルフを自らの内に包摂したかったのか、或いは自らをアドルフの内に溶け込ませたかったのか、ともかくアドルフの生活全体を(その愛情も身体も時間も)支配しようとした。そしてアドルフは、その支配から逃れようとしながらも、「他者嫌悪」が昂じた「他者恐怖」という自分の弱さからエレノールときちんと向き合って関係を清算することもできず、寧ろ彼女との宙吊り状態に依存していく。
いづれにせよ、双方とも「他者」ではなく「エゴ」を、相手の他者性とともに「二者」たることではなくその相手の他者性を無視して「一者」たることを、求めたのではないか。他者の他者性を尊重した関係を築くことに、二人は失敗している。そこに必要だったのは、「適切な距離の感覚」ではなかったかと思う。その「距離」によって、他者は他者として現出し、そこで初めて他者に対するに相応しい敬意ある態度が可能となる。アドルフとエレノールは、互いに互いへの「距離感」が両極端だった。アドルフはその「距離」が遠過ぎたし、エレノールは余りにも近かった。
「愛がわたしのすべてでした。でもそれは、あなたのすべてにはなりえなかったのです」。
これは両者のエゴイズムが惹き起こした一種の地獄であると思う。
「つまりこの物語が示しているのは、人があれほどに誇る、かの精神なるものは、幸せを見つけることにも、それを与えることにも役に立たない、ということなのです」。続きを読む投稿日:2019.05.02
傑作だ。この小説を読み、「なるほど。つまり幸福になるためには人は恋愛をしなければいいのだな」などと結論する蛆虫など死んでしまえ!
投稿日:2023.07.25
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