この作品のレビュー
平均 3.5 (8件のレビュー)
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このレビューはネタバレを含みます
幸田露伴原作作品。
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話は明の太祖・洪武帝が皇太子を亡くし、皇太子の子、つまり洪武帝の孫を皇太孫として立て、その波乱に満ちた生涯を閉じようとするところから始まる。
洪武帝は貧農の末子として生まれ、疫病(あるいは餓死)によって家族が死に絶えたことから、僧となり托鉢で命をつなげていた。その生活も盗賊の紅巾軍によって寺を焼かれ、終わりを告げる。
盗賊に拾われた彼はやがて賊の中で頭角を現し、やがて治世に不満を持つ者たちを見方につけて中国を平定する。明の誕生である。
策に長け、器量もあった洪武帝だが、晩年となり後継者として立てていた長男が若くして病死すると、次の後継者を誰にするかで頭を悩ませる。
皇帝の器に相応しいのは四男の燕王(えんおう)であると洪武帝は思っていたが、次男・三男を差し置いての燕王の即位に反対した廷臣の諫言により、仕方なく皇太子の子を次の後継者に選ぶことになる。
この皇太孫(こうたいそん)、允炆(いんぶん)(建文帝)は、まだ十六歳で、優しいと言えばそうなのだが、かなり気弱で頼りない。
こんなに気弱では、クーデターを起こされれば、すぐに倒されてしまうだろうと懸念した洪武帝は、今まで共に国を支えてきた名将、功臣をことごとく粛清する。その数、数万。
そして、洪武帝に建文帝のことを託された廷臣、斉泰(せいたい)・黄子澄(こうしちょう)は、更に各地に領地を持つ洪武帝の息子達・王の勢力を恐れ、これを排除しようとする。その先には洪武帝が皇帝の器に相応しいと言っていた燕王の脅威を取り除く狙いがあったのだが。
一方、気弱な皇帝、建文帝は側近に起用した高名な儒学者、方孝孺(ほうこうじゅ)と『理想の国家・安寧の国家』について語り合うことで、血生臭い現実から目を背けていた。
次々と兄王が捕らえられ、あるいは流刑になり、またあるいは自殺に追い込まれていく中、追い詰められた燕王はついに兵を挙げる。
「靖難の変(せいなんのへん)」である-。
ここまでがこの本のストーリーを理解するまでの下地である。
本編はこの燕王と建文帝の運命を描き出していく。
頼りない孫帝を守るために、狂ったように功臣を粛清する洪武帝。
それが逆に建文帝の治世をあまりにも早く崩壊させていくことになろうとは。
そして、甥である建文帝に憐れみさえ感じながら、倒さざるを得ない燕王。
ストーリーはその闘いを両者の対比も踏まえて描かれていく。
そして伝承にそって、生き延びたとする建文帝の、放浪の旅の様子なども書かれている。
実際は戦いに敗れて亡くなったであろうと言う話だが。
彼が逃げ延びて、生き延びて、燕王が、永楽帝(えいらくてい )として即位し、後に亡くなった後にも生き延びて世の盛衰を見ていたという話は「話」としては面白い。
史実に基づくストーリー。
読みながら、「もし」という言葉が何度も浮かんだ。
「もし、皇太子が早世しなかったら」
「もし、燕王が次の皇太子に選ばれていたら」
「もし、洪武帝が大粛清を行わなかったら」
二度も、戦いで討ち取られそうになった燕王が、本当に討ち取られていたら」
「もし、建文帝が皇帝に選ばれなかったとしたら」
「もし」が次から次へと出てきてしまう。
しかし、歴史は沢山の血が流れる結果となった。
建文帝自身はとても心の優しい、学問好きの人であったといわれる。
燕王(永楽帝)がすんなり皇帝に納まっていたら、建文帝も好きな学問をして心安らかに暮らせたのでは、と考えてしまう。
げに『運命』とは因果なもの-。
燕王、後の永楽帝は勇猛果敢で、才気を兼ね備えていたといわれる。
彼は世界に目を向け、国外へ積極的に進出しようとしたことが、現在の華僑の始まりというのも面白い。投稿日:2012.10.05
このレビューはネタバレを含みます
西暦1398年 中国 明。貧農から皇帝にまで登り詰めた朱元璋(洪武帝)が死去し、孫の建文帝が即位する。
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反乱分子となる可能性のある叔父の王たちを、次々と粛清、退位させるなか、洪武帝の4男である燕王(永…楽帝)が靖難の変を引き起こす。
歴史書で言えば一瞬の出来事であるが、この期間の様々な人物の心情や環境を活き活きと描いており、一瞬で堰を切ったように読み終えてしまった。
建文帝は徳による治を実践しており、政治は良かった。
しかし優しすぎた。
一方、燕王は追い詰められて兵を起こさざる負えなかった。遥かに劣勢であるにも関わらず苦戦の末に勝ち上がる。
国を統治するための権力闘争。
一人一人に思いや立場があって、
どの立場にいてもそうせざるを得ないというところがある。正義も悪もなく時代に向かって翻弄されてく人々。
まさにそれは運命だった。
続きを読む投稿日:2020.05.07
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