i
西加奈子(著・イラスト)
/ポプラ文庫
作品情報
アメリカ人の父と日本人の母のもとへ、養子としてやってきたアイ。 内戦、テロ、地震、貧困……世界には悲しいニュースがあふれている。 なのに、自分は恵まれた生活を送っている。 そのことを思うと、アイはなんだか苦しくなるが、どうしたらいいかわからない。 けれど、やがてアイは、親友と出会い、愛する人と家族になり、ひとりの女性として自らの手で扉を開ける―― たとえ理解できなくても、愛することはできる。 世界を変えられないとしても、想うことはできる。 西加奈子の渾身の叫びに、深く心を揺さぶられる長編小説。
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商品情報
- シリーズ
- i
- 著者
- 西加奈子
- 出版社
- ポプラ社
- 掲載誌・レーベル
- ポプラ文庫
- 書籍発売日
- 2019.11.06
- Reader Store発売日
- 2022.06.03
- ファイルサイズ
- 2.4MB
- ページ数
- 325ページ
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この作品のレビュー
平均 3.9 (469件のレビュー)
-
生徒: さてさて先生、虚数『i』ってなんですか?
さてさて: 虚数っていうのはだな、想像上の数なんだよ。”Imaginary number”といって、目には見えない実体のないものなんだよ
生徒: じゃ…あ、『i』って『愛』と同じですね。『愛』だって見えないですから。
さてさて: そうだな。見えないということでは同じだが、その二つにはもうひとつ共通するものがあるな。
生徒: 読み方が同じということですか?
さてさて: それもそうだがもうひとつある。
生徒: なんだろう。わからないです。
さてさて: それはだな。その存在の先にある結果を導くためには欠かせないものだということだよ。
生徒: えっ?よくわからないんですが?
さてさて: そんな君には、是非このレビューを読んで欲しい。
生徒: (なんだか無理に誘導されたような...)
さてさて: 何か言ったかな?
生徒: い、いえ、なんでもないです。読みま〜す!読ませていただきま〜す!
『この世界にアイは存在しません』という教師の言葉に『「え」と声を出し』、『咄嗟に口を覆った』主人公。『二乗してマイナス1になる、そのような数はこの世界に存在しないんです』と続ける教師。そんな授業を聞く『ワイルド曽田アイ』、『それがアイの名前だ』という主人公には『アメリカ人の父と、日本人の母』がいます。『父ダニエルは、アイという言葉が日本語の「愛」に相当することを』気に入り、『母綾子は、アイが英語で「I」、自身のことを指すということ』が気に入ってつけられたというその名前。『意味を限定しないために『アイ』というカタカナ表記』を用いたその名前。そんなアイは『自身が両親と血の繋がった子どもではないということ、つまり「養子」である』ということを幼い頃から知って育ちました。『1988年、シリアで生まれた』というアイは、小学校卒業までをニューヨークで過ごします。『あらゆる人種の子供たちがいた』という小学校は『白人、黒人、ヒスパニック、アジア系、そしてアラブ系』と『校内はとてもカラフルだった』というその時代。一方で『自分が「養子」であるという意識は、いつもどこかにあった』というその時代。ある時『片言の英語を使うシッターと会った』時に『一瞬で、自分が遺伝的に両親よりもこの女に似ている』ことを察します。『その頃から、自分が「不当な幸せ」を手にしていると』思うようになったアイ。そんなアイの希望を満たしてくれる優しい両親は、何かを手渡す時『ほしいものを手にすることが出来ない子どもたちのことを、考えないといけないよ』と付け加えます。『同じ時期に教えられた「世界の不均衡」の犠牲者でもある、様々な子どもたち』のことを思うアイ。『あたし知ってるよ、あんたってヨウシなんでしょ?』とある時言われ『自分の足下が揺らぐような気持ちになる』アイ。『いつまでも愛されていると思う?両親に本当の子どもが出来たらどうする?』と考え出すアイ。そんなアイは中学入学を機に日本の私立中学に移ります。ニューヨークの『あらゆる人種のあらゆる個性が集まる場所』を怖がっていたアイは『日本では「みんな同じ」だった』というその環境に安堵します。しかし、『孤独の代わりに訪れたのは、疎外感だった』という中学時代を過ごすアイ。そして自らの能力のまま『受験勉強をすること』にしたアイ。『何かに没頭出来る時間』を切望するアイは『そこには「自分」などなく、ただ何かを学ぶという大いなる波があるだけ』と邁進します。そして『この世界にアイは存在しません』という教師の言葉がいつまでも心に引っ掛かり続けるそんなアイの悩み多き人生が描かれていきます。
『高校生の時に「この世界にアイは存在しません」と数学の先生がおっしゃった、虚数のiに関する言葉がすごく残っていて、それを書こうと思いました』と語る西加奈子さん。私も”虚数は、想像上の数。つまり、実数のように、実際は大きさなどが見えない数”と説明されて意味不明?となり、数学嫌いの原因の一つにもなったこの『i』のことはよく覚えています。物語の冒頭、西さんの経験をなぞるように展開される授業の場面で教師が言った言葉、それが、
『この世界にアイは存在しません』
でした。そしてこの言葉が、この作品を読んでいく中で一つの重要なキーワードとなっていきます。あまりに数多く登場するので、こういう場合数えずにはいられない私はまた頑張って数えてみました。全編で、
『この世界にアイは存在しません』 25回登場!
と結構な数になります。一方でこの作品を読み進めれば進めるほどに、この『アイ』という言葉には、象徴的に用いられる虚数『i』の他にも複数の意味が重なっているのに気づきます。それは、上記した主人公アイの命名の由来にも明らかです。私自身の『I』とラブの『愛』、そして主人公の名前アイ。『この世界にアイは存在しません』という言葉の中には、これら四つの存在を否定する意味合いが重なっていきます。
主人公のアイは『自分が恵まれた環境の恩恵にあずかる正当な人間ではない気が、ずっとしていた』という思いを抱きつつ生きてきました。それは、シリアからの養子という自らの”Identity”から湧き上がる思いでもありました。優しい両親のもと、裕福な暮らしを享受するアイ。『ここにいるのは私だが、私ではない他の誰かだったかもしれない』と考えるアイ。養子としてたまたま自分が誰かによって選ばれた結果ここにいるに過ぎないと考えるアイ。それは『自分は「その子の権利を不当に奪ったのではないか」』という考えに向かっていきます。
そして、アイはニュースで目にする世界各地の事故や災害、そして戦争の犠牲者の数をノートに記し始めます。”IS“の無差別テロにより粉々に崩れ去ってしまった国であるシリア。主人公のアイは、そんな破壊されてしまった国に出自を持ち、養子としてアメリカに渡りました。ニュースをあまり見ない人でもシリアと聞けば、その惨状を思い浮かべる、そのくらいの強いインパクトを私たちに与えた国です。そんな背景を知る以上、主人公アイのことを私たちが思う時、どうしてもその彼女の出自が持つ陰惨さを思い浮かべざるを得ません。そして、この作品ではそんな彼女のノートの中に、この15年における世界各地の事故や災害、そして戦争の記述、そしてそれによる死者の数が登場します。中には読者である私の記憶にも強く刻まれた酷い惨状の記録がある一方で、全く記憶にないものもあります。それらについて、淡々と、そして執拗に事実を記していくアイ。そんな文章を読んでいる時に、ふと、気づきました。ストーリーに直接には関係しないそれらの記事、そして死者の数に関する記述をスラスラと読み飛ばしがちに軽く読んでしまっている読者の私!『毎日人が死んでいるのは、それも数万人単位で死んでいることは間違いない』、それはアイの記述の通りです。この作品が2016年に刊行されて以降も世界では数多くの人が亡くなっています。しかし、『自分たちの近くで起こらなければ、それはなかったと同じことになる』という現実的な感情が私自身の中にもあることに気づきます。『誰かがどこかで死んでも、空が割れるわけでもなく、血の雨が降るわけでもない。世界はただ平穏だ』という我々の日常。そんなことよりも、今日の晩御飯のメニューが、明日の天気の方が重要と考えてしまう現実。一方で物語の中でアイは『何百人、何千人の死者は、かたまりではない。そのひとりひとりに人生があり、そのひとりひとりに死があった』ということに気づいていきます。このあたり、簡単に結論づけることも難しい問題だと思いますし、簡単に書くことも憚られる問題だとも思います。この作品に出会ったことで、主人公アイの様々な葛藤を通して、そんな残酷な世界が私たちの平穏な日常と紙一重に今も続いている、改めてそのことに気づかされました。
『自分が世界に、この激動する世界にいることが、信じられなかった。あるいはやはり、自分はこの世界にいないのかもしれない』と考える主人公・アイ。そんなアイが、自分自身=『I』の存在の意味を考えるこの物語。虚数『i』とは、確かに目には見えない存在ではあります。しかし、”i × i = -1”、二乗して-1になる数字、つまり、負の数の平方根を表すためにはこの『i』は欠かせません。それが虚数『i』です。一方で『愛』はどうでしょう?『愛』は確かにそれ自身目に見えるものではありません。しかし、恋が成就するためにも、結婚というゴールに至るためにも、やはり『愛』が欠かせません。それ自体は目に見えない虚数『i』と『愛』。目には見えなくても存在しないというわけでは決してなく、その解を得るためには決して欠かせないもの、欠かしてはいけないもの、それが虚数『i』と『愛』。そう、”アイ”だと思いました。
『この世界にアイは存在しません』
という命題のような言葉が25回も繰り返し登場するこの作品。その言葉の意味を常に問い続ける主人公・アイは、その『アイ』を自身のことのように受け止め、自身の存在について自問し続けました。『ずっと、誰かの幸せを不当に奪ったような気が』する、『自分が世界に、この激動する世界にいることが信じられ』ないアイ。『やはり、自分はこの世界にいないのかもしれない』と葛藤し続けるアイ。そんなアイが『私がこの世界にいていいのだ!』という自身の存在を見出す結末に、生きることの大変さと、人と人の結びつきの大切さ、そしてそれを結びつける目には見えない『愛』の存在がふっと浮かび上った、そんな西さん渾身の傑作でした。続きを読む投稿日:2020.10.31
主人公のアイと、アイを取り巻く人々が、わたしが切望している"想像力"にあまりに長けていて、ただ苦しかった。
世界の情勢を知ること、誰かを想うこと、その行為に意味を与えられるのは自分だけ。"善く生きる"…ってどういうことなんだろうね、日々自問自答してる
2022/02/17続きを読む投稿日:2024.06.24
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