テヘランでロリータを読む
アーザル・ナフィーシー(著)
,市川恵里(訳)
/河出文庫
作品情報
全米150万部、日本でも大絶賛のベストセラー、遂に文庫化! テヘランでヴェールの着用を拒否し、大学を追われた著者が行った秘密の読書会。壮絶な彼女達の人生とそれを支える文学を描く、奇跡の体験。
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商品情報
- シリーズ
- テヘランでロリータを読む
- 著者
- アーザル・ナフィーシー, 市川恵里
- 出版社
- 河出書房新社
- 掲載誌・レーベル
- 河出文庫
- 書籍発売日
- 2021.11.08
- Reader Store発売日
- 2022.04.08
- ファイルサイズ
- 0.8MB
- ページ数
- 592ページ
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この作品のレビュー
平均 4.6 (15件のレビュー)
-
1995年、イラン。大学の講師を辞めたアーザルは、七人の女子学生に声をかけ私的な文学講座を開く。年齢も宗派もバラバラな彼女たちは、父親に嘘をついたり弟の束縛から逃れる必要がありながらも、『ロリータ』や…『高慢と偏見』を語るためアーザルの家に集まった。13歳から欧米で暮らし79年のイラン・イスラーム共和国成立と共に帰国したアーザルの講師生活は、新人時代からイスラーム原理主義者による抑圧を受けてきた。だが、大学には常にナボコフやフィッツジェラルドを読みたい、学びたいと願う学生たちがいた。イラン人英文学者の自伝的小説。
読書による救済と、読書空間を守ることの脆さ、難しさ。何もイスラーム社会における英米文学が〈解放〉の象徴だから〈救い〉と呼ぶのではない。小説を小説として、虚構を虚構として楽しむこと。楽しいというだけで存在が許されていること。それが非常に人間的な欲求だからこそ、支配者の手が侵食してくる。
作中でアーザルはナボコフの「好奇心はもっとも純粋なかたちの不服従である」という言葉を引いている。読書会は、ヴェールの着用を義務付けられた女性たちがアーザルのコピーした『ロリータ』を手に集い、焼き菓子を食べながら小説の世界について思いきり語り合うという〈不服従〉だ。そして他でもなくナボコフやオースティンを語る姿によって、ヴェールで覆われた彼女たちの個性が徐々に明らかとなる。『プリズン・ブック・クラブ』(21/11/25読了)に続き、〈読書会というアジール〉と〈本を語るという自己開示〉の物語。
読んでいるあいだじゅう頭を離れなかったのは、アトウッド『侍女の物語』との恐ろしいほどの相似性だ。アーザルがヴェールの着用を拒否したがために仕事を失い、女性がカフェや庭で友人男性と話したり運転をしたり色付きの靴紐を使うだけで憲兵がやってくる国を出ていくこともできなかった、まさにその80年代半ばにアトウッドは小説を発表している。『侍女の物語』は当時「こんなことは起こりえない」という反発もあったというが、現実に、同時代にもギレアデは存在し、それは欧米から見て"後進的な"イスラーム世界に限ったことではなく、いつでも自分たちの日常と地続きなのだと示してみせたのだとわかる。2021年の現状は言うまでもない。
本書の第一部と第四部は95〜97年に開かれた読書会を中心に描かれるが、それ以上に印象的なのが第二部・第三部に書かれた80年代の大学講師時代のさまざまな事件、特に〈ギャツビー裁判〉だ。
フィッツジェラルドの『グレート・ギャツビー』は不道徳だから講義で扱うべきではないと猛攻してきたイスラーム原理主義の学生を検察役に、アーザルは『ギャツビー』として被告役になり〈裁判〉を開いた。このとき弁護人として立ち上がったヴェールをつけない女子学生ザッリーンの演説は、小説を読むこと、文学を学ぶこととは何かという本質に迫り、裁判に参加した他の学生たちと同じく私も深く胸打たれた。
ギャツビー裁判の討論は、世界はわかりやすく敵と味方に二分されるものではないということを象徴している。検察役のミスター・ニヤージーも最後にはザッリーンの声に耳を傾け、ムスリム学生協会のリーダー格だったミスター・バフリーは〈裁判〉を妨害しようとする仲間を止めた。バフリーは革命派でありながらアーザルには礼を尽くした良き討論相手でもあった。他にも、アーザルに反発しながら講義で習った詩をミートラーへのラブレターに流用していたミスター・ナフヴィーや、西洋的な教育の常識を説明なく学生に押し付けてしまったアーザルを静かに諭したラージーエなど、ただの賛同者とは違うマーブルな印象の人びとが心に残る。
また、西洋的価値観とイスラーム的価値観を行き来しつつ相対化するアーザルの英米文学読解はとても面白かった。文学評論の著作はまだ邦訳がないようで残念。フィクションのなかに政治を持ち込み介入していくイスラーム原理主義者の言い分が現在のポリティカル・コレクトネスをめぐる議論にも重なり、考えこんでしまうところもあった。オースティンの小説に描きだされた「多様性が重要だという訴えも、声高な主張も必要ない」ほどの民主主義はいまだ現実になってはいない。けれど、現実がいかに過酷であろうとフィクションを求め、手放さなかった人たちがいる。今もありとあらゆる場所にいるのだと、胸に刻みつけたい。続きを読む投稿日:2021.12.04
イラン革命後の抑圧された全体主義社会で、女の価値は男の半分と言われる中、女性だけで密かに行われた西洋文学の読書会の回想録。
文学とは、この本で描かれるように、読者が自らの人生の痛みや現実と照らし合わ…せながら読まれてきたんだな続きを読む投稿日:2023.09.23
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