宮沢賢治童話集 注文の多い料理店・セロひきのゴーシュなど
宮沢賢治(著)
,日下明(イラスト)
,鬼塚りつ子(監修)
/世界文化社
作品情報
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「注文の多い料理店」「セロひきのゴーシュ」「よだかの星」「オツベルと象」など、約100年読み継がれている宮沢賢治の名作10話を収録した童話集。岩手の人や自然とともに生きた賢治の美しい童話を、日下明が抒情豊かに描きます。文学と音が織りなす、心にひびくお話をお楽しみください。巻末に<解説>と、<「宮沢賢治」文学の世界>を写真付きで掲載。大判ソフトカバーで読みやすく、漢字はすべてふりがな付き。小学生から大人まで、一生のうちに何度でも繰り返し味わえる一冊です。これまでの100年、この先の100年へ―「100年読み継がれる名作」シリーズ。
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この作品のレビュー
平均 4.0 (3件のレビュー)
-
本書は子供向け童話集であるため、漢字は少なくルビもふられている。
それでも内容を知るには充分だった。
10話おさめられていたが、その中の幾つかの感想を。
『オツベルと象』
始めの1文の視点はどこ…なんだろう。
「ある牛飼いが物語る」の1文。
その1文の発言者が牛飼いならば、自分の事を「牛飼いが物語る」とは言わないはず。
この1文だけは賢治の言葉で、つまりメタフィクション??
それとも、作中には現れない、作者(賢治)でもない誰か??
例えば、菩薩様とか。
急に菩薩様を出してみたのは理由があって、白象だからなのだけど。
普賢菩薩が乗っているとされるのが白象。
普賢菩薩は生きとし生けるもの全てを救う神様だ。
オツベルは資本家で、白象は労働者の代表のように描かれているように思える。
菩薩様(赤い着物の童子?)が白象を救い、自分の元へと導いたとするのは、考えすぎなのかしら?
賢治は仏教に傾倒していたし。
それに山の象たちが囲碁を打っていたのは沙羅樹の下だ。
沙羅樹は、確かインドの誰かが(忘れた 笑)悟りを開いた場所だったような。。。
苦行に耐えて涅槃の境地を…みたいな。
日毎に食べる藁を減らされながら労働に耐えていた白象が、ここにも重なる。
なんだか宗派が入り乱れているけれど、現に作中でも白象は「サンタマリア」と発している。
「神様」と呼び掛けているのだろうけれど、サンタマリアはキリスト教のマリア様だ。
そして有名なラストの1文。
これは小学校の時に、教科書で習った。
童話の解釈なのに"習う"のも妙だけれど、確かその教科書では、本編とラスト1文の間が2行くらいあいていて、
「おや、川へはいっちゃいけないったら。」
だったと記憶している。
当時、「おや、(一字不明)」と記載されていたかまでは覚えていないけれど、どこかのタイミングで"不明の一文字は「君」説"が有力と知った。
(その時に習ったのかもしれないが)
では誰が言ったのか?
やっぱり牛飼いなんだろうか。
「第5日曜」の冒頭、
「まあ落ち着いて聞きたまえ。」と、聞き手をなだめている部分がある。
オツベルの死に驚いた聞き手か、もしくはその聞き手の騒ぎに驚いた牛が、川へ入ろうとしてしまったのだろうか。
うーん、謎。
個人的には、なんだかしっくりこないのだけど、これ以上は分からんっ。
それから気になることがもう1つ。
数字の「6」がやたらと出てくるところ。
6台の稲こき機械、16人の百姓、6寸くらいのビフテキ、6連発のピストル。
仏教で6といえば、パッと浮かぶのは六道なのだけど…ここから着想をえてるとは考えすぎかしら??
『やまなし』
やまなし…バラ科の落葉高木。
「小さな谷川の底を写した二枚の青い幻灯です」
また不思議な始まり方をする。
賢治は二枚のスライドだという。
ということは静止画だ。
けれど物語は動き出す。
「一.五月」
初夏の水中の様子がキラキラ光ってとても美しい。
クラムボン…アメンボやミズスマシのことと思われる
注釈にはそのように書かれていた。
私にはアメンボというより、アメンボがツーッと水面を動くことで生まれる波紋のように思えた。
小さきものは、より大きなものに。
これは、この世の真理である諸行無常や諸法無我を、食物連鎖を通して描いているのかしら??
この世の真理とされるものは4つあるとされていて、諸行無常(しょぎょうむじょう)、諸法無我(しょほうむが)、一切皆苦(いっさいかいく)、涅槃寂静(ねはんじゃくじょう)だ。
ここでまた急に仏教を持ち出した理由は2つ。
1つは前述した通り、賢治の仏教への傾倒。
もう1つは、樺の木の花。
樺の木が気になって検索すると、仏旗の色は青・黄・赤・白・黒の5色だが、青の代わりに緑、黒の代わりに紫や"樺"を使うこともあるとのこと。
作品に戻ると、お父さん蟹は言う。
「いい、いい、大丈夫だ。心配するな。そら、樺の花が流れてきた。ごらん、綺麗だろう。」
ト書きでも、
「白い樺の花びらが天じょうを沢山すべって来ました」
とある。
子供の蟹たちはまだ怖がっているけれど、これが世の真理だと、何も怖がる必要はないと、お父さん蟹も賢治も伝えたかったのではないか。
「二.十二月」
賢治らしく水中には鉱石も流れ着いて、またも美しい。
ラムネの瓶が月光をいっぱいに吸い込んでいるようで、ひんやりと透き通った水も美しい。
冬の夜だ。
この平穏な夜のシーンのあと、
「私の幻灯はこれでおしまいであります」
と、幕を閉じる。
お父さん蟹が夜更かしする子供蟹らを、イサドに連れていかないぞと寝かしつけるシーンがある。
作中の「イサド」が気になって検索した。
イサドって何処なんだろう。
どうやら造語のようだが、岩手県の旧:江刺郡岩谷堂町ではないかという記事を見つけた。
"舟運や,三陸沿岸部と内陸部を結ぶ交通の要所として賑わった町でもあった"らしく、
"「岩谷堂」は,子供にとって一度は行ってみたい魅力的な町であったと思われる"とのこと。
『よだかの星』
悲しい自己犠牲のお話。
けれど沢山の色と星々が現れて、その景色は美しい。
自己犠牲という考え方が何処までであれば正しいのかは置いておいて、
「どうしてもとらなければならないときの他は、いたずらにお魚を取ったりしないようにしてくれ」
この台詞は私達人間は常に念頭に置いておかなければならない。
生き物も資源も無限ではないのだから。
「今でもまだ燃えています」
と幕を閉じることで余韻を持たせ、読み手の心にいつまでも残る。
また、直ぐ隣はカシオペア座などと示すことで、読み手も夜空を探したくなり、空を見上げるなどの行動を促す。
小さなよだかが健気で愛らしく、自然と、星になっていつまでも輝いて欲しいという気持ちになっていた。
『水仙月の四日』
水仙月とはいつなのだろう?
水仙が咲く月であろうが、1月説~4月説まであるらしい。
私の手持ちの『山野草の育て方&楽しみ方事典』で「水仙の仲間」と引くと、水仙の開花時期は11月中旬~4月とあった。
wikiでは吹雪の特異日だとして4月4日説をあげていたが、
作中の大吹雪は「今年中に、もう2へんぐらいのもんだろう」とあるので、個人的には4月4日よりももう少し早い時期では??と感じた。
ともあれ賢治の作品は、フィクションでありながらも読み手が「これって本当はいつだろう?何のことだろう?」と探りたくような材料に溢れている。
"雪ばんご"は大吹雪をおこすもの、"雪童子"は"雪ばんご"に使える子供たち、かしら。
「カシオピイア、もう水仙が咲きだすぞ。おまえのガラスの水車、きっきと回せ。」
「アンドロメダ、あぜみの花がもう咲くぞ。おまえのランプのアルコール、しゅうしゅと吹かせ。」
天の星座たちは時の流れと共に夜空を回る。
これらは大吹雪を吹かせるために時を進める呪文のように聞こえる。
なぜ雪童子は、雪ばんごから子供を助けたのだろう?
雪ばんごは雪童子たちにとっても、容赦なく恐ろしい存在に思える。
しっかりやれ、怠けちゃいけないと、雪童子たちを従わせる。
その少し前、雪童子は、赤い実のついた小さな枝をいたずらに子供に投げていた。
子供はその宿り木を拾い、
「一生懸命に歩きだしました」とある。
そして雪童子も、
「あの子供は、ぼくのやった宿り木を持っていた」と言い、
雪童子は「ちょっと泣くようにしました」ともト書きにある。
きっと雪童子は、大吹雪の中でも宿り木を手放さずに大切に持っていてくれた事が嬉しかったのだろう。
子供の健気な姿に心打たれたのかもしれない。
その他、素敵だなと思った描写。
「ビール色の日光」
「空の仕掛けを外したような」
「桔梗色の天球」
続きを読む投稿日:2023.12.08
心がほっこりする本。殺伐とした生活に慣れきった大人こそ読むべき1冊だろう。その一方で、宮沢賢治が今の時代に生きていたら、こんな本が書けたのかなと考えると、病んだ今の日本がなんだか悲しくなる。
投稿日:2024.01.26
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