この作品のレビュー
平均 4.0 (2件のレビュー)
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「ユリシーズ」から寄り道中。
日本で出ている「ユリシーズ」の翻訳は、集英社の 高松 雄一 、 丸谷 才一、 永川 玲二の共訳のものと、柳瀬尚紀のもの。柳瀬さん版は御本人のご逝去により全18章の内12…章まで。
集英社の1巻を読んでの感想はこちら
https://booklog.jp/users/junsuido/archives/1/4087610047
そしてこちらの「ユリシーズ航海記」は、柳瀬さんがいままでいろいろな雑誌や新聞に載せたユリシーズエッセイを1冊にしたものというかんじ。ユリシーズはおもしろいよーーーと読者に推奨しているというか、ご自身が楽しそうだ(笑)
まずは翻訳について。
自身の翻訳と、集英社共訳のものとの比較。人物名も集英社共訳版とはちょっと違う訳し方になっている。こちらでは「スティーブン・デッダラス(集英社共訳ではディーダラス)」「リアポウルド・ブルーム(集英社共訳ではレオポルド)」となっている。
そして実際に原語の箇所を出し、自分がどのように翻訳したかを解説している。この英語からの翻訳に関しては相当大変だったようで、「この言い回しは世界中でもジョイスしか使っていない!どういう意味だ!」みたいな叫びを感じる(笑)
そして新たな解釈に辿り着いた場合は、「拝啓ジェイムス・ジョイス様。私はこんなことを見つけましたよ!」などとお手紙で作者に語りかけている。そうか、翻訳者って実際には会えない作者との対話のようなものなのかなあ。
ちょっと面白かったのは、第5挿話での競走馬の名前。ブルームが競馬が趣味の友人バンダム・ライアンズに「この新聞もういらない(スローアウェイ)からあげる」と言ったのをライアンズは「スローアウェイという競走馬が来るぜ」という情報をもらったと勘違いするんだが、後に本当にそのスローアウェイが大当たりする。このスローアウェイという馬は実際にいたらしい。集英社共訳では馬の名前はそのまま「スローアウェイ」だが、柳瀬版では馬の名前は「モイラナイン」にしている。「この新聞は”もういらないん”だ」で和名にしたということ。
改めて言われるとそうかと思ったのは、リアポウルド・ブルームは友人葬儀のために家を出て、妻と浮気相手の逢引が終わるまで外出するって言っているので、この日は喪服で街をふらついていた、とういこと。ブルームの装束を喪服と考えると、それで新聞社行って図書館行って酒場行って…。なんか不思議だが。
こちらの本の半分くらいを割いて研究・主張されているのは、第12挿話に出てくる”俺”を「犬だ!」としているところ。
だから”俺”は人々から軽んじられ、会話は一方通行(”俺”は人間語を解するが、人間は犬語を解しない、吾輩は猫である状態なんだって)だし、人々の談義にも参加しないし、まあ他にも色々。
この、”俺”=犬、というのは正式に発表したもののようで、ジェイムス・ジョイスのご親族からは「うーーん、それはちょっと違うんじゃないかな~」という手紙をいただいたようだが(笑)
しかし柳瀬さんの犬説だと”俺”の台詞を読みながら脳内では「わんわんキャンキャン!」を響き渡らせよう!ということ。真偽はともかく、そんな読み方でいいなら楽しそうだ(笑)。
本の終盤は、ご逝去により発表されなかった13挿話以降のメモ書き。やっぱりこれを一人で研究して訳して解説漬けて発表してって相当な重労働だろう、よほど好きだとはわかった。続きを読む投稿日:2022.03.13
柳瀬尚紀 「 ユリシーズ航海記 」 著者の翻訳論、ユリシーズの翻訳比較、ユリシーズの読みどころ を論述した本。著者訳の河出書房「ユリシーズ 1-12」をなぜ早く読みたい
翻訳論=翻訳と英文和訳は違う…
*翻訳は日本語の音感で伝える
*著者の使った手法を 日本語で模倣する
*誤訳は 畳の埃→どんな翻訳も叩けば誤訳が出る
*翻訳者は指揮者たるべき
丸谷才一ほか訳の集英社「ユリシーズ」を鼎訳として、著者の翻訳した河出書房と比較。紹介された 鼎訳は日本語として おかしいが、著者の翻訳は 日本語として成立している(超訳に近い)
ユリシーズ
*センテンスの完璧な語順→詩を作る姿勢に近い
*ピリオドの置き方も重要
*言葉を精緻に使っている→的中語探しに時間がかかる
*最も音楽しいのは 11章セイレン
*発犬伝(12章)
「ユリシーズは巨大な生き物である」続きを読む投稿日:2018.02.18
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