この作品のレビュー
平均 3.5 (2件のレビュー)
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・萩尾望都「美しの神の伝え~萩尾望都 小説集~」(河出文庫)は書名通りの短編集である。この人は漫画家として有名だが、SFの短編もかなり書いてゐたらしい。本書に載る作品はいささか古く、70年代後半の『奇…想天外』発表作が全16編のうち11、他はそれ以後で発表誌もまちまち、しかし03年までである。ほとんどが初期の作品といふことになるのであらう。例の「ポーの一族」やSFの「11人いる!」の直後と言へようか。もしかしたらこのあたりがこの人の絶頂期か。私はこの人の作品を詳しく知らないので、ここに収める作品が少女漫画等として発表されてゐるのかを知らない。描けないから字で書いて小説にしたのであらうか。そのあたりの事情も分からないし、知らない。これはどこかにありさうだと思ふだけである。
・とはいふものの、「マンガ原人」みたいなのはどうなのであらう。たぶんこれは自伝的短編である。香子とその友人のマンガ好き2人の一夏の物語、マンガ原人のマンガ原人たる所以の物語である。友人は、二元軸の世界から三元軸の世界のこの地に逃れてきたのがマンガ原人だ(207頁)といふ。2人は二次元世界が恋しくて「このやぼで、ちゃちで、人々が一笑に付し、軽蔑の目を向けるこのポンチ絵に狂っている」(208~209頁)が、「それは本当に仕方のないこ とだ。私たちの遠い記憶が呼ぶのだから。」(209頁)といふわけで、マンガを読み、描き続ける。その友人がゐなくなつて……要するに、マンガ好きの己の正当化をSF的に描いた短編と言つてしまへば良いのだらうが、しかし、さう言つてしまつてはお終ひであらうか。自嘲的な感じがするものの、案外本気かもしれないと思ふ。これなどは手塚治虫風の少女が似合ひさうな作品である。「守人たち」は有名な新薬師寺の十二神将の物語である。その対象からして、これも描 き易さうな気がするのだが、実際はどうなのであらう。物語は薬師如来の不在から始まる。如来が消えて十二神将だけが残つた。理由は分からないから探すしかない。たまたまそこにゐた「私」がその騒ぎに巻き込まれる。十二神将はそれぞれ如来探し、「私」もそれにつきあふ。そんなわけで、どたばた喜劇か何かのパロディーかといふところ、おもしろいといへばおもしろいのだが、萩尾望都作と知ると何か違和感を感じるのは少女漫画を意識しすぎだからであらう。発表誌か らすればかういふのが望ましいのかもしれない。物語の結末は、「私はいつのまにか人間の姿から薬師像に変身してしまった。」(230頁)最後は変身譚になり、更に循環し続ける物語となる。かういふのはある意味ありふれた物語、十二神将でそれを書いたのだから、ついでに循環などさせずに神将も消えさせてほしかつたなどと思ふ。新薬師寺が空になる物語、ありさうではないか。「子供の時間」は漂流船に残された女児の物語、もちろん宇宙船である。その女児はコン ピューターに育てられた。それをアーシが見つけて連れ帰る。ごくまともなSF、おもしろいかと問はれればおもしろくないと答へる、たぶん。ただ、狼に育てられた子供がゐればコンピューターに育てられる子供がゐてもをかしくない。それがこのフィドラーのやうになるかどうか。船を離れる時に女児が泣いたのは十 分に人間の心を持つことだと理解して良いのだと思ふが……これなどは萩尾望都自身の絵が生きさうな短編である。そんな作品が既に描かれてゐるのであらう か。活字だけでは勿体ない、正にそんな作品である。他にもそんな作品がある。描かれたのも2作ある。「いたずら らくがき」はいかにも萩尾望都、これだけでも買ひであらうか。続きを読む投稿日:2017.10.09
美しの神の伝え/音楽の在りて/CMをどうぞ/マンガ原人/守り人たち/闇夜に声がする/子供の時間/ヘルマロッド殺し/左ききのイザン/プロメテにて/おもちゃ箱/クレバス/憑かれた男/クリュシュナの季節/左…手のパズル/いたずら らくがき
マンガを読んでる感じの小説と小説を読んでる感じのマンガ。望都さまを読めて嬉しい。二つの世界に触れるのが楽しい。続きを読む投稿日:2017.12.07
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