私のなかの彼女(新潮文庫)
角田光代(著)
/新潮文庫
作品情報
「男と張り合おうとするな」醜女と呼ばれながら、物書きを志した祖母の言葉の意味は何だったのだろう。心に芽生えた書きたいという衝動を和歌が追い始めたとき、仙太郎の妻になり夫を支える穏やかな未来図は、いびつに形を変えた。母の呪詛、恋人の抑圧、仕事の壁。それでも切実に求めているのだ、大切な何かを。全てに抗いもがきながら、自分の道へ踏み出してゆく、新しい私の物語。
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商品情報
- シリーズ
- 私のなかの彼女
- 著者
- 角田光代
- 出版社
- 新潮社
- 掲載誌・レーベル
- 新潮文庫
- 書籍発売日
- 2016.05.01
- Reader Store発売日
- 2016.10.21
- ファイルサイズ
- 0.5MB
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この作品のレビュー
平均 3.9 (73件のレビュー)
-
本田和歌
わたしは彼女を、この物語の主人公である彼女を、自分の感情に誠実な女性だと思った。
この作品の時代背景は、ちょうどわたしが産まれた頃。
P11「1985年、200人いる和歌の学年で東京の四大…に進学したのは、推薦入学をのぞくと28人だった」時代。
男女雇用機会均等法が成立した頃。
しかしまだまだ、女性が寿退社をするのが当たり前の時代。
物語を追うにつれ、『オウム真理教による地下鉄サリン事件』『阪神・淡路大震災』『酒鬼薔薇聖事件』など、実際の出来事も登場し、その時代背景を強化する。
のめり込むように読んだ。
解説で津村記久子さんがおっしゃるように、この作品の面白さ、内容を人に伝えようとすると、P389「どうも普通だな、というような内容になってしまう」。
わたしはだから、「どうも普通だな」というレビューにならないよう、慎重に、作品の言葉をお借りしながら、この作品の面白さを伝えていきたい。
この作品は、本田和歌という一人の女性の、生きた証である。
この作品はフィクションであり、実在の人物や団体とは関係ないかもしれない。けれど、これをフィクションとして片付けられる根拠も、実在した人物ではないという根拠も、どこにも存在しないのだ。
和歌の恋人・仙太郎を好きになれなかった。
P22「贔屓目でなくとも仙太郎は同世代の男の子たちよりは様子がいい。昨今もてはやされている醤油系統の顔立ちで、スタイルもよく服のセンスも悪くない」。
P24「ああ、本当に仙太郎は手の届かないところにいったと和歌はやけに強く実感した。今はただ、遠い存在のはずの人が隣にいることが奇妙に思えてならなかった」。
こういう人は、憧れの人、尊敬できる人として距離をとっておくのがわたしにはちょうどいい。
そして和歌は徐々に、仙太郎がいる場所へ向かってゆく。
P122「仙太郎と対等になれると和歌は思った。もう仙太郎をまぶしく見上げなくてもいい。うっすらといつも感じていた劣等感を脱ぎ捨てたところで向かい合うことが、きっとできる」。
この、憧れの感情がない交ぜになっている恋人と並べたような瞬間は、とても嬉しい。
しかし彼は、並ぼうとしてくる和歌に対して、棘の刺さったボールを投げてくる。ボールの速さは速すぎず、変化球でもない。普通のボールなら受け取れるそのボールは、よく見るとトゲトゲしていて、和歌は受け取る瞬間いつも、取りこぼしてしまう。指に刺さった棘は、いつまでも抜けないし、いつまでも痛い。
(解説ではそれが「未必の故意」という言葉で表現されていて、さすが津村さんの解説は素晴らしい!)
だから和歌は、P210「安堵の必要なほどの緊張を、何に対してしているのだろう?」と思ったし、P200「会社を辞めようかと、その日、和歌は思った。辞めれば、受けた依頼の仕事をこなす時間も増える。(中略)けれど、それを仙太郎に告げることを思うと、億劫だった」のである。
角田さんは、恋人間の、毒を孕んだ関係性を描くのがとても上手な方で、この作品においても、それが冴えわたっている。
こんなにも、人と人というのは分かり合えないものなのか。
毒親って言葉も、デートDVって言葉もない時代。
たぶん、これらは和歌のような人が必死に言葉を紡いできたからこそ生まれた言葉なんだろう。
P332「自分は母親を、未だこわがっている。叱られることを、認めてもらえないことを、罵倒されることを、まるで母親に置いてきぼりにされた幼児のようにおそれ、こわがっている」。
P337「恋人の機嫌をうかがい、笑っていれば安堵し、不機嫌なら不安になり、自分の言葉、行動、返答、笑い、何かが暴力の起爆剤になるのではないかと終始気を張り巡らせている語り手の気持ちを、和歌は知り尽くしていた」。
言葉がなかっただけで、存在していた毒親とデートDVを、一生懸命受け止めながら、生きていくということ。
P393「『精一杯生きること』よりも価値のあることなんてあるんだろうか。『自分の人生を生きる』気概とは何か。この小説は、どんな『生き方を教えてあげる』という本よりも精細に、どんな先人の知恵よりもフェアに、そのことを教えてくれる」。
とても苦しい時代だったと思う。
とても生きづらかったと思う。
そこで時代を切り開いていく芯の強さ。その芯を奪う者の存在。
時代が変わろうとする時、そこで苦しむのは、いつだって社会の最前線にいる若者だ。
社会の最前線で、時代を切り開いてくれた方々に、和歌のような女性たちに、わたしは心から感謝を申し上げたい。続きを読む投稿日:2021.10.17
このレビューはネタバレを含みます
大きな出来事や、衝撃的な内容が含まれている訳ではないのに、飽きが来ずスラスラと読めてしまった
レビューの続きを読む
テーマとして、女性、恋愛、仕事、生活、バブル
が挙げられる。
主人公はバブル時代とバブル崩壊を生きる2…0代女性
20代特有の、少し心配になるような価値観や考え方とか、20代を経験した女性なら共感できる点が多いなと思った
主人公の恋人である仙太郎は、若くしてクリエイティブな仕事で成功を収め、結婚に際して、現実的な仕事をすると言うリアリティーさがあった
20代前半の、仕事である程度の成功を収めた仙太郎の言動がどんどん業界にかぶれていく感じとか、痛さを感じた。
この本を読んだ感想(?)として
女としての幸せと、仕事での成功を同時に掴む女なんて居るのかね?と言う疑問が生まれた続きを読む投稿日:2024.06.10
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