この作品のレビュー
平均 4.0 (6件のレビュー)
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伊能忠敬は日本史の中で一番といっていいくらい好きな人物ですが、考えてみれば、幕府の命を受けて日本国土の測量をした人という彼の活躍しか知りませんでした。
この本は、逆に彼の若かりし頃の方にスポットを当て…たもの。
ヤング忠敬ストーリーです。
まさか、ここまで不幸な幼少時代を送った人だったとは、思いもよりませんでした。
佐倉の名家出身だと思っていましたが、幼少時代に母が亡くなると、婿養子の父親は家を追い出され、彼も親戚を転々としたとのこと。
彼自身も婿養子として迎えられたとのこと。
婿入り先は商人ではあったものの、苗字のない農民扱いをされていたとのこと。
普通なら、早い段階でやさぐれてしまいそうですが、自分の苦境を投げ出さずにいたからこそ、少しずつ運が向いてきたのでしょう。
伊能家と苗字を名乗れるようになったのは、彼の努力によるものだそうです。
著者は、「"ものごとには必ず原因がある。その原因を知り改めたら、事態は改善する"という、彼の合理的な考え方が測量に向いていたのだろ
う」と指摘しています。
また著者は、50代あたりで人生の分岐点を迎えた人物として、ほかに信長と鴨長明を挙げています。
信長は、50直前にして命を落としますが、鴨長明もまた、挫折に次ぐ挫折の人生だったと知りました。
下賀茂神社の神官の家に生まれながら、実力不足で親の後を継がせてもらえなかったとのこと。
「自殺しようとさえ思った」という落胆振りだったそうです。
50になって神官の職を諦め『方丈記』を執筆したのだそう。
それであんな無常観に満ちた出だしなのでしょうか。
ちなみに『方丈記』は、400字詰め原稿用紙にして20枚そこそこの小品なのだとか。
冒頭しか知らないため、今度読んでみたいものです。
江戸時代、農民が旅行するときには、必ず支配者の「切手(パスポート)」が発行され、これを持っていなければ、あちこちの関所を通過でき
なかったそうです。
年貢を納める農民が逃げ出さないよう、土地に縛り付けておいたのでしょう。
何度か旅行をした忠敬は、その不便さを体感したようです。
それが日本全国をつぶさに歩いて地形の測量をするという仕事へと結びついたのかもしれません。
農民出身だからか、地元の名家となり、隠居をした後でも、周りに威張り散らす人ではなかったようです。
それは、隠居後に20近く年下の天文学者、高橋至時の門下に入り弟子となったことにもあらわれています。
彼は、年齢や性別で人を差別することがなかったとのこと。
現代的思考の持ち主でした。
なかなかドラマチックな人生を送った人なので、大河ドラマにならないものかと思いますが、すでに映画があるようです。
今度高橋至時と隣りあわせの彼のお墓を御参りしたいものです。続きを読む投稿日:2014.07.08
隠居してからの第二の人生。退職、引退してから老後をどう楽しむか。仕事に精を出して職場や取引先との付き合いを重んじた会社生活がある日一変し、どう生きるかと迷う。現代にも通じるテーマに対して、伊能忠敬が隠…居してから取り組んだ測量事業は良い模範になる。歳を取っても、自らのロマンに生きる事ができるのだと、勇気を与えられた。
伊能忠敬の偉業、精緻な日本地図を教科書で見た記憶はあるが、彼自身がどのような人生を歩んだのかは、義務教育では省略されてしまった。父子の関係に象徴されるように、決して恵まれた生い立ちではなかったようだ。しかし、誠実さと実直さと生まれ持ったセンス、これらによる実証主義の論弁は、苦労や課題を一つ一つ突破するのに役立った。
実は伊能忠敬のルーツとなっただろう、もう一人の隠居後に事業を収めた伊能家の先祖がいた。伊能景利は、田地の境界、御用向きの事、村里、村法、家風など、日記だけではなく、記録できるものを可能な限り記録していくという事業に取り組んでいる。本著でも紹介され、私も初めて知ったが、伊能忠敬はこの記録により奉行所での交渉を乗り切っている。自らの人生に大きく影響を受けたのではないだろうか。
仕事を中心に考え、引退後にどう生きるかなど、考える必要がないような生涯現役の時代が来るかも知れない。それならばその様に生きるだけだが、そもそも、自らの可能性に線を引く必要は無いのだ。
ポジティブになれる本。続きを読む投稿日:2022.08.11
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