名門
ディック・フランシス(著)
,菊池光(訳)
/ハヤカワ・ミステリ文庫
作品情報
〔競馬シリーズ〕名馬を種付けした子馬に次々と奇形が生まれた! 生産牧場に融資していた商業銀行エカテリン社の青年重役ティムは事態を救おうと死力を尽くすが……何者かの陰謀か? としたら何のために、またどうやって? 名馬の血統に賭ける生産牧場と名門銀行家の苦闘を巧みなストーリイ展開で描く。/掲出の書影は底本のものです
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商品情報
- シリーズ
- 名門
- 著者
- ディック・フランシス, 菊池光
- ジャンル
- 小説 - ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
- 出版社
- 早川書房
- 掲載誌・レーベル
- ハヤカワ・ミステリ文庫
- 書籍発売日
- 1988.10.15
- Reader Store発売日
- 2014.08.15
- ファイルサイズ
- 0.3MB
- ページ数
- 480ページ
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この作品のレビュー
平均 3.3 (4件のレビュー)
-
このレビューはネタバレを含みます
競馬シリーズ21作目。
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この競馬シリーズ、
氷の海に投げ出されたり、レースで優勝したとたん誘拐されたりと、
劇的な幕開けは数多いが、
今回は銀行の幹部が噴水の池の中で立ち、
水を嫌う白い顔の男たちから逃げるためだよと語るという、
別方向で驚きの幕開けだった。
パーキンソン病の薬を変えたために見た幻覚だったが。
主人公ティムは幹部の部下。
銀行の名と同じ姓で創業者の孫にあたるが、
父母共に浪費家のため金持ちではなく、
父の死後、伯父に言われて銀行に入ったが、
逆になかなか出世できないでいた。
アスコット競馬場で、偶然、馬の治癒師の命を助けたり、
アニメーションへの投資に成功して取締役に出世したり、
種馬を対象にした投資をきっかけに牧場主と知り合ったりと、
治癒師の友人の獣医が殺されたし、幹部の妻に恋をしてはいるが、
今回は危険度が低いなと思っていた矢先、
牧場主の16歳になったばかりの娘が殺された。
ティムと兄妹のような関係になっていたので、衝撃的だった。
全体的には、ティムのサクセスストーリーのようで面白かった。
自分が死ぬ気がしないと言っていた割には、
最後に薬を盛られた馬と厩舎に閉じ込めれて大けがをしてしまったが。
そして、
退職して妻と世界旅行にでかけた幹部が旅先で亡くなってしまった、
というラストも衝撃的だった。投稿日:2023.07.22
ミステリーではあるのだけど、どちらかというと普通小説的な要素が強い作品であると言われている。実際に読んでみると、確かにフランシスの作品の中では異色であると言っていい。
事件らしい事件が起きるまで…が長い。じっくりと主人公やその周辺の人間模様を描いてから、事件というより主人公の職業上のトラブルという形で事件が起きる。結果的にそのトラブルが犯罪によるものだったからミステリーになったけれど、そうでなければ企業の内幕を描く長編小説である。
主人公は銀行員である。かなりのエリート。なにせ巨大銀行の創業者の甥である。能力もあるし、仕事を楽しんでいる。人間関係も良好で、作品中で出世もする。まさに「名門」なのだ。なんとなく腹が立ってくるくらい出来過ぎの人物なんだけど、嫌みではない。作中で描かれる彼の恋愛が人間的だからだろうと思う。
恋愛についてわりあい印象的なエピソードを用意してくれることの多いフランシスだが、この作品はその中でも1,2を争うのではないか。全編を覆うプラトニックなやりとりは、添え物というレベルではない。ある意味びっくりしてしまった結末も含めて、この小説の大きな魅力だと思う。
こう書いた後だけど、実はミステリーとしても面白い。シリーズの中でも犯罪としての「後味の悪さ」ではトップクラスではないか。このあたりは、ふつう小説的なアプローチが実によく利いている。主人公を殺そうとする犯人の計画にしても馬をこのように扱うこと自体がまさに犯罪的で、よくフランシスがこんな設定を作ったものだと思ってしまう。基本的にはハウダットのプロットだと思うけど、意外性がある。それ以上に「なんでこの人を被害者に選んだんだよ」と作者を蹴飛ばしたくなるけれど。
ただし、もっと前のフランシスなら、さらに膨らませていたのではないかと思う部分もある。たとえば主人公が「名門」であるということについてなら「飛越」ほど作品に味わいを与えていないと思うし、むしろ名馬から生まれた不幸な子馬などだって、もっと作品に響かせることができたのではないかと感じた。主人公と犯人の関係についても興味深いのだけど「度胸」に比べたら見劣りがする。
全体としてとても魅力的な作品だけど、名作と云うには今ひとつ。ただしシリーズ中唯一の設定で切ない名台詞が詰め込まれた恋愛模様は、それだけでも一読の価値がある。続きを読む投稿日:2011.06.30
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