あすなろ物語
井上靖(著)
/新潮文庫
作品情報
天城山麓の小さな村で、血のつながりのない祖母と二人、土蔵で暮らした少年・鮎太。北国の高校で青春時代を過ごした彼が、長い大学生活を経て新聞記者となり、やがて終戦を迎えるまでの道程を、六人の女性との交流を軸に描く。明日は檜になろうと願いながら、永遠になりえない「あすなろ」の木の説話に託し、何者かになろうと夢を見、もがく人間の運命を活写した作者の自伝的小説。
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この作品のレビュー
平均 3.8 (104件のレビュー)
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あすなろ忌
1953年の作品。
明日は檜になろう“あすなろう。
若い頃何かしらの感銘を受けて、いつか再読しようと持ち続けた一冊。
親と離れて祖母と二人、小さな村の蔵で暮らしていた少年、鮎太の恋心と成長…の物語。
この少年の設定から、だいぶ本人に近いように思う。
以下は、覚え書き
⚪︎深い深い雪の中で
「しろばんば」と同時期。
明日は檜になろうと一生懸命考えている木。
永久に檜にはなれない。
伊豆山の雪の中、あすなろの木の下で若い男女
の心中事件。女は、鮎太の祖母の姪。時折、
同居していた。男は、鮎太に勉強の必要を教え
た大学生。この章の印象が強い。
⚪︎寒月がかかれば
ここに出てくる少女が読んだ鮎太の歌
寒月ガカカレバ キミヲシヌブカナ
アシタカヤマノ フモトニ住マウ
歌のごとく 愛鷹山のふもとに井上靖文学館が
建てられている。存命中に建てられ、井上靖も
たびたび訪れたようだ。しばらく行ってないけ
れど、大きくはないが、林の中の素敵な建物。
⚪︎張ろう水の面
このあたりから青年。大学生となり、未亡人
へ憧れを抱いたり。それを避けて九州へ行った
り。
⚪︎春の狐火
大学生→兵隊→新聞記者
⚪︎勝敗
遊軍記者として活動
⚪︎星の植民地
戦後の混乱期
一人の男性の寂しい幼児期から真面目な少年期、反抗的な青年期、戦争、敗戦。その時代に気になる女性をそれぞれ登場させる。
実は記憶が、、違う^ ^。
路傍の石とか真実一路とかその辺と混じってしまっていたかも。そのうち、他のも読みます。
続きを読む投稿日:2024.01.29
作者の自伝小説『しろばんば』を読んでいると、これも自伝小説でその続きなのかと思いがちですが、著者のいくつかの実体験を活かした創作です(『しろばんば』に連なる続編は『夏草冬濤』『北の海』)。
タイトル…の「あすなろ」は、あすは檜になろうと思いつつ、永久に檜になることが出来ない。それで「翌檜(あすなろ)」という名が付けられた、檜に似た木をモチーフにしています。
この物語は、主人公の少年期〜青年期〜働き盛りの壮年期までの人生を、戦前から戦後にかけて6部構成で描いています。そして、会話の中で「あすなろ」にちなみ、檜になれた人、なれなかった人を論じていますが、印象的なのが、3部目の「貴方は何になろうとも思っていらっしゃらない」と主人公が揶揄されるところ。翌檜でさえ目標があるのにと言わんばかりの発言を、憧れの女性から面と向かって言われているのに、まったく堪えていない。夢中だったと言えばそれまでですが、次の4部で、そのホの字の憑き物が落ちたのは、ある意味転機と言えるでしょう。5部では意図せずにライバルの転機に加担してたりして、人の運命の転機は意外なところにあるものだと思いました。
ラストの6部では、明日は檜になろうとする、終戦から必死に立ち直ろうとする人々の力強さを感じる印象的なエンディングでした。ここで、あえて主人公が檜になれたか言及していませんが、当人が気付いていないだけで、立派な檜だと自分は思うのですが、これを読んだ他の人はいかに?
ところで、6部構成のそれぞれに女性が登場し、その誰もが個性的ですが、「春の狐火」の清香の話しが幻想的でとても良かったです。続きを読む投稿日:2024.02.11
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