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グレート・ナラティブ 「グレート・リセット」後の物語
グレート・ナラティブ 「グレート・リセット」後の物語
クラウス・シュワブ、ティエリ・マルレ、ナショナル ジオグラフィック/日経ナショナル ジオグラフィック
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総合評価

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    世界経済フォーラムは、世界共通の経済課題をアジェンダ設定してそれに取り組む基盤を提供するような役割を担うべく、この本の著者であるクラウス・シュワブによって設立した。自身が会長を最近まで務めていたが、資金流用などの不正疑惑の内部通報を受け2025年に退任。不正を認めた訳ではないが、そんなこともあって本人も組織もよくわからないというのが私の印象。 同氏による『グレート・リセット』を読んだが、本書はその続編のような内容。コロナ禍の地殻変動から、アフターコロナの世界線を描くものだが、あくまで常識的な将来像が書かれているのみで、斬新さはない。目線合わせに有用、といった程度。逆に言えば、前述の疑惑の影響を受けぬ論説だ。時事問題やそれに取り組むための思想が語られる。 ー 「人生を有意義にするもの」以外のすべてを測定している、と語った。GDPに代わる指標の検討はそれからもずっと続いている。ブータンの「国民総幸福量」、マレーシアの「生活の質指数」、「真の進歩指標」、OECDによる「より良い暮らし指標(BLI)」、「ワン・アース・バランスシート・プロジェクト」などだ。 ー 気候変動が今後どうなるか理解するためには、「サチュレーションポイント(飽和点)」と「ティッピングポイント(転換点)」の決定的な違いについて説明しなければならない。前者は、大気中の二酸化炭素濃度が世界平均で350ppm(現在は415ppm)を超えると「大気の飽和状態」に入るというもので、人類が地球で生存できる気候や生物多様性の変化の限界「プラネタリー・バウンダリー(地球の限界)」に到達したことを意味している。これは、「人間が与える負荷を環境への影響なく吸収する地球全体のキャパシティーを私たちは使い果たした(中略)。これまであまりにも多くの負荷をかけ、森林を伐採し利用してきたので、地球はもう耐えられない」ことを示している。それに対して後者は、科学的に定義されたものだ。「ティッピングポイント」は特定の「点」であり、それを超えると重大で歯止めの効かない変化が起こるという「しきい値」である。 ー 共感力があれば、有意義で質の高い人間関係を保てるため、成功につながる協調能力にも有利に働く。これに対し、共感力とは逆の自己愛的な性質をもつリーダーは、何でも自分一人でやれると信じているために協力する姿勢を見せない。このことは近年の数多くの事例によって証明されている。この教訓は、子どもや学生に向社会的な行動や資質を積極的に教えることで、国民がより幸福になるだけでなく、より協力的で協調的な地球市民にもなると教えてくれる。 ー 私たちの限界は自らの想像力によってのみ決まるのだ。その証拠に、人類学者のデヴィッド・グレーパー(故人)と考古学者のデヴィッド・ウェングローは、2021年に出版された「The Dawn of Everything (万物の夜明け)」(未邦訳)で、あらゆる形態の社会・経済組織が、人類の誕生当初から存在していたことを示している。これまで30万年の間、私たちは知識、実験、幸福、発展、自由など、人間としての営為を無数の異なる方法で追求してきた。過去から現在に至るまで、私たちがともに生きるために考え出してきた仕組みのすべてが一元的で不変のパターンをもっていたわけではない。初期の社会は、平和であったり暴力的であったり、権威主義的であったり民主的であったり、家父長制であったり母系制であったり、奴隷制であったり反奴隷制であったりした。また、異なる組織制度の間で常に揺れ動いているものもあればそうでないものもあった。また、帝国の中心には古代の産業都市が栄え、一方で主権国家のない社会も存在した。つまり、啓蒙思想でピークに達した「近代」以前は、ほとんどの現代人には想像も及ばないような、驚くほど多様な社会の形態があったということだ。 まあ、気候問題を中心に色々と。フォーラムへの批判の一つは、金持ちのための金持ちのアジェンダであるというような内容。否定できない面も多いのではなかろうか。

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    投稿日: 2025.11.01
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    今の世の中は複雑系であり、1つの領域だけを理解しようとしても物事は理解できず、経済、社会、環境、技術、地政学の観点で物事を理解することで、相互の繋がりが理解でき、世の中を捉えられるようになる。 世界の50人のリーダーへのヒアリングのもとに、グレートな彼らの意見や世の中の捉え方をまとめたのが本書らしい。グレートな、ナラティブ、とのことである。 知見のある領域はなるほどそうだよねっとさっと読める一方で、馴染みのない領域は少し読み進めるのが難しく、自身の各領域に対する理解や興味を読みながら認識することができた。 ・山口周 文明化の完成 登山型社会から高原型社会へ。日本は、山を登りきった。近代化が完成して、高原に至った。裕福になり、モノ消費から体験の消費に志向がかわった

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    投稿日: 2025.06.19
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    このレビューはネタバレを含みます。

    2. アフターコロナの論点と課題 複雑な現代社会において、世界で起きていることを理解するには、しっかりとした概念的枠組みが必要だ。 本書では、経済、環境、地政学、社会、テクノロジーの5つのマクロカテゴリーに分類した枠組みを用いる。 2.3 環境 p.69 中長期的に見て、クリーンエネルギーへの移行と脱炭層化に向けたさまざまな技術革新は大きなチャンスとなり得る。それらは「新たな成長戦略」をさせ、何百万もの雇用創出につながるだろう。しかし、短期的には実行するためのコストと政治的リスクが伴う。世界の電源構成は石油とガスが中心で、クリーンエネルギーへの移行にあたっては経済学で言う、負の供給ショックが初期段階で発生し、エネルギー価格のインフレが起こる。 2.2 経済 p.44 もしGDPなどの経済成長率ではない指標を参考数値とすると、これまで以上に環境や社会といった要素が重要になってくるかもしれない。 2.4 地政学 3. 進むべき道 官と民の間で複雑かつ微妙に保たれていたバランスは、新型コロナウィルスの登場でほぼ一夜にして官が優位になった。社会保険が効率的な制度であることと、これまで以上に健康や教育などの責任を個人や市場に押し付けるのは、社会にとって必ずしもベストな選択ではないことが明らかになっている。 3.4.1 持続的な可能な環境 「欧州グリーンディール」ECを低炭素経済に転換することを目的とした世界で最も野心的な政策の一つで、経済の繁栄を損なうことなく、かつ城内市民の幸福を実現される。

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    投稿日: 2024.09.09
  • 適切で説得力のあるストーリーを語ること

    先日のCOP27にて、途上国を対象にした基金を創設することで合意したが、具体的な中身については持ち越しで、排出削減目標の引き上げは棚上げとなっている。 過去の二酸化炭素排出量を絶対値ではなく相対値で見た場合、中国やインドを含む新興国や途上国に責任を押しつけることの不正義が背景にある。 先進国と新興国の間のこの乖離は、「私たち対彼ら」の構図ではない、前向きで「公平な」ナラティブが必要だ。 私たちは物語を必要としている。 私たちが見聞きし、経験した事実を理解し、行動するための文脈を提供するにはナラティブが不可欠だ。 「私たちは、物事の姿や仕組みをどう理解し、どうやって意思決定し、なぜそれが正しいのか、そして世の中における自分の立ち位置をどう考え、どのように自分の信念や価値観を他人と共有するのかについて、ナラティブを通して説明する。つまり、私たちはナラティブによって物事を理解し、社会への視座をもち、どんな選択をしてどう行動すべきかを判断する。これはいわば、人生の意味を見出す営みだと言える」 アイデアを効率的に伝達し、できるだけ多くの人々にインスピレーションを与えることができる優れたナラティブは、非常に重要である。 想像力に富んだ新しいアイデアや解決策は、日々あらゆる場所で、何千、何万という人々が考え出している。 例えば、SF作家のキム・スタンリー・ロビンソンは、「炭素の量的緩和」や「カーボンコインの創設」といった非常に斬新なアイデアを発表していて、このアイデアの実現に向け多くの人々が動き出している。 小説家ならではの奔放な想像力のなせる業なのだが、アインシュタインも語っている通り、「想像力は知識よりも重要だ。知識には限界があるが、想像力は世界を包み込む」のだ。 しかしグローバルな課題や、集団で取り組むべき問題解決のための新しいナラティブは、一握りの特別な才能の持ち主からではなく市井の人々から、身の周りの状況を理解し、現実的かつ地域的なアプローチから生まれる。 ここで生まれる取り組みは、決してトップダウンではなく、ボトムアップの、コミュニティーの強化を伴いながら推進される。 初めから壮大なものでなく小規模から、多様な構成メンバーを包摂する形で拡大し、やがて国を巻き込む大きな変化に成長するのだ。 優れたアイデアは費用ゼロで伝播し、誰が利用しようともなくなることはない。

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    投稿日: 2022.11.24