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認知症医療革命 新規アルツハイマー病治療薬の実力
認知症医療革命 新規アルツハイマー病治療薬の実力
伊東大介/扶桑社
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総合評価

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  • アルツハイマー病の治療薬作りの難しさ

    まぁなんと、知らなんだ知らなんだ。 てっきり通常のMRIでもこの病気は発見できるんだと思ってた。 確かに脳の萎縮なんかは捉えられるだろうけど、アルツハイマー病の元凶とされる2つのゴミのいずれかをチェックするには独自のPET検査が必須らしい(これ以外の方法もあるにはあるが)。 数が少ない上に非常に高額(30万円)。 このゴミがまた厄介で、実はまだ正体がよくわかっていない。 ゴミとされてるが、健常な人でも作り出されているので、何らかの役割を持っていることは確か。 ただ、明らかになってきたアルツハイマー病発症のメカニズムからすると、まず脳の中で、アミロイドβがゴミとして溜まってくる。 それが一定以上に蓄積してくるとスイッチが入ってしまい、今度は神経細胞内でタウという別のゴミの蓄積が始まってしまう。 それが線維化することで細胞を傷つけ、症状を進行させるんだとか。 だから、1つ目のゴミであるアミロイドβは、症状の重篤度に直接関与しているわけではなく、単なる引き金に過ぎない。 やっかいなのは、たくさん蓄積してても認知症を発症しない人がいること。 そしてこの蓄積が、具体的な症状が出始めるはるか前から、それこそ15年も20年も前の4,50歳頃から始まっているということ。 で、ここからが驚きなんだけど、夢の新薬レカネマブ、まさに革命を起こす画期的な薬で救えるのは、軽度の認知症の患者のみだということ。 重症患者はおろか、中等度の症状の人も対象外。 さらにその効果はと言えば、進行を数ヶ月もしくは数年遅らせる程度らしい。 具体的には、診断に用いられる指標の数値を27%改善するというもの。 投与期間が終了すれば、またゴミの蓄積が始まってくる。 そりゃそうで、身体はそのゴミの産生を促しているわけだから、止めようがない。 それでこの新薬がいくらかというと、1年に300万円だと。 もちろん保険が適用されるから自己負担はもっと軽くなるけど、それでもこれにより、約0.9年は健康な生活が送れるらしい。 これまでの認知症の治療薬の開発は山あり谷ありで、困難を極め、出てきた薬はどれも風邪薬程度の対症療法に過ぎなかったことから比べると、確かに画期的ではあるのだけれど、それでもこんなものなのかというのが正直な感想。 レカネマブやその次に控えるドナネマブにしても、ゴミの除去はできるけど、産生そのものを阻止するわけではない。 だから、こんなことを言っている。 症状が進んでからでは手遅れだし、具体的な症状が始まってから投薬を開始するのも遅い、と。 ゴミの蓄積が始まる前に早期発見して、早期治療をしていけば、脳に大きなダメージを負わなくても済むのではないか。 それには簡易な血液検査でゴミの蓄積を予測できなるのではないか。 それこそ定期的な健康診断で、偽陽性みたいな形で血液から異常を炙り出せれば、その後の精密検査で、アルツハイマー病を予防することが可能になると。 言ってみれば、コレストロール値と同様に、無症状の時から治療を開始すればいいのだと。 ただ、繰り返しになるが、それにはアミロイドβが本当にゴミなのかわかってからにしてほしいな。 何らかの有用な役割を担っていることが、後からわかっても後の祭りだから。 それと、どれほど溜まってもへっちゃらな人と、そうでない人との見極めをどうするか。 これは遺伝の問題とも関わってくる。 アルツハイマー病が発症しやすくなる遺伝子は、日本の全人口の15%もの人が持っているらしいから、彼らだけに限定すべきなのかどうか。 もっと厄介な問題は、そんな高額の先進医療を、国民誰もが安価に受けられる体制を実現できるほど国の財政は強靭か。 安価な血液検査により裾野は広がっても、その後の治療となれば、安価では済まなくなる。 さらには仮に高齢者がアルツハイマー病の発症を回避できたとしても、次には超高齢者特有の新たな認知症が待ち受けているという。 まったく別の種類の脳のゴミが蓄積していき、今度はそれを回避するために更なる高額医療が、という風に無限にループしていく。 長生きし過ぎたため生ずる避けられない運命とも見做せないわけではないが、それこそ老化自体を止めてしまわぬ限り、果たしてこれは病気なのか単なる老化に伴う現象の一部なのか判然としなくなってくる。

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    投稿日: 2025.03.31