
総合評価
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powered by ブクログ唐突に目が見えなくなって、唐突にそれが終わるのは何故か。 医者の妻だけ見え続けたのは何故か。 教会の目隠しは何かの暗示なのか。 ……ひとつも答えが無くて、全ては読者の解釈次第というところがもどかしい。 この時、私はどっち側の人間なのか。 私ならどうするのか。 眼医者がサングラスの娘を求めた時の妻の感情を、どうすれば理解できるのか。 この後世界は元に戻れるものなのか。 などなど、考えることが多い作品だった。 この秩序ある清潔な世界は脆いのだ。
1投稿日: 2025.09.29
powered by ブクログある男が交差点で車を待機させてる間、唐突に視界全体がのっぺりとした白に覆われるという形で失明したことをきっかけに、国中でこの失明が伝染した。 この荒唐無稽な設定の上で、全ての人が失明したら何が起きるのか、目が見えることを前提として作られた社会はどのような事態に陥るのか、を残酷なまでに克明に描き出した。さらにこれを通して、目が見えているように思われる私たちの日常の中における捉えがたい(見えない)現実をも鮮やかに表した この小説の特徴はなんと言っても、登場人物の名前がついぞ判明することの無いまま物語が終わることと、鉤括弧を用いずに会話文と地の文が入り交じって記述されることであろう。それに加え段落分けが極端に少ないこともあって、とても読みづらそうだと初めは思われるだろう しかしこの文体に慣れればすっと作中に入り込んで読むことができるようになるし、この物語にもこの文体が合っているように思われる 他人からの視線が無くなったことで現れる人間の本性、一方で他人の姿形に囚われないことで生じる人間の善性といったものがどちらも丁寧に表現されている 前者は中盤に非常におぞましく描かれ、人間なんて所詮は理性を失ったら野蛮な獣にすぎない、と思わせる一方、終盤では人間自らの努力によって友愛の情を獲得し垣根を越えた愛情を描くことで、人間も捨てたもんじゃないなと思わされる。作者の掌で転がされている感覚を味わうことができるだろう あらゆる人が光を失っているという状況において、他人から見られないという点で人々は悪事を働きやすくなる(お天道様も目が見えていないらしい)が、他人の姿を見ることができないという点では姿形からもたらされる第一印象を排して相手の内面と接触できるため、フェイス・トゥ・フェイス以上の心を通わせたコミュニケーションが可能になりもするだろう 本作が、登場人物の名前が明らかにしないこと、鉤括弧を使わないことで発話者を判然とさせてないこと、を通して示唆される匿名性という要素に注目すると、現代のSNSにおける人々の振る舞いは、ユーザー全員が失明している状態と似ているように思われる 匿名性を逆手にとって相手に誹謗中傷するような事態も起こるが、その一方でマッチングアプリなどに見られるように、匿名がゆえ相手の容姿というコミュニケーションにおける大きなハードルを通り抜けて、相手の内面に直に接触することが可能になってもいる 名前や顔などの相手の情報を制限することによって生じるコミュニケーションもあるのだろう そして、その逆もまた然り
2投稿日: 2025.09.25
powered by ブクログ読み進めるのが苦しかった。でも最後まで読まずにいられなかった。人が安心して暮らす事ができるのはたくさんの前提があるから。その前提が崩れたとき、どんな恐ろしいことが起きるのか?その時、自分はどのように考え、どのように行動するのか。読書中はずっと、そんなことを悶々と考えていた。
0投稿日: 2025.09.09
powered by ブクログ固有名詞が一切出てこない。 『 』で会話が書かれていない。 なのに個が判断できるし、どんどん読み進められる。 面白い作品に出会えた。 もちろん、訳者の多大な尽力にも感謝。
1投稿日: 2025.06.27
powered by ブクログ※ 突然、目の前が真っ白になり目の見えない 男が現れ、そこから関わった人が一人また 一人と同じ状態に陥っていく。 感染性の病なのか、突然変異の奇病なのか 原因が分からないまま症状の現れた人たちは 隔離され、状況は次第に拡大していく。 正体不明のパニックストーリーなのに、 どこか淡々としている雰囲気が漂っていて 恐慌と冷静の対比が印象的。 登場人物に名前が付けられていない物語で、 それだけでも珍しいに、それぞれの人物を 特定しながらストーリーについていける。 海外の著者だと人物の名前がカナなので、 頭に留まりずらく本を手に取るのを躊躇する けれど、名前がないのに読めた点は未知なる 体験でした。
6投稿日: 2025.06.04
powered by ブクログ「他者の視線によって人間は自己を形作る」 この小説を読みはじめたとき、一番に驚愕したのは、著しい改行と括弧の排除、登場人物全員の名前が明かされないことでした。 こうした特殊な手法は、読んでいるこちらを有無を言わさずミルク色の海の中に引き摺り込むようで気味が悪く、それでいて登場人物達の内面をこれでもかと描写することにより没入すればするほどにページを捲ることが苦痛に思えるような、他の小説では味わえない読書体験をさせてくれます。 とりわけ、印象深かったのは社会全体が失明してからの街を覆うリアルな悪臭と汚物に覆われた歩道を踏みしめる感触の描写です。 作中の文章を引用させていただくと「その道の権威によれば、罪人が耐えるべき最悪のものは、焼けた石炭ばさみや、煮えたぎるタールの大釜や、鋳造所と調理場にある種々の道具ではなく、鼻が曲がるほどの強烈な腐臭と、吐き気をもよおす有害な異臭だという」 失明社会は他者の視線がない分、皆が傍若無人に振る舞う様をこれでもかとたたきつけてきます。 序盤はただただ、登場人物達を襲う理不尽な苦難に対して苦痛を感じるばかりでしたが、視覚を失ったことで、それまで出会う等の無かった人々が衝突しつつも手に手を取り合い、助け合う姿を見て、少しずつ読み手の自分も救われていくようでした。普段は清潔な服に身を包み、自然の爽やかな風が当たり前のように吹くことが奇跡のような気持ちにさせられます。 「瓶を透かして明かりが光り、中身の宝物がきらめいた。医者の妻はそれをテーブルに置くと、夫婦の持っている最高級のクリスタルグラスを取りにいった」こんなにも美しい表現があるとは。瓶の中身はぜひ本書を読んで確かめて欲しいです。
2投稿日: 2025.02.02
powered by ブクログ2024/11/22 ある日突然、原因不明の失明する感染病が世界に蔓延するとしたら、という非現実的な物語から伝わる、現実において見えない部分、見ようとしない部分を示唆される小説。 見えなくなることによって起こる無秩序な世界、隔離された小さな世界で抗えない行使を執行されるとどうなってしまうのか。 行動描写と情景描写がありありと書かれ、心理描写はほとんど書かれないとかいう奇抜な1冊。 「」も一切使われていないので、失明した世界をさらに感じられるし、「」がないからこそ他の小説には無いテンポ感が面白い。 まさに、盲目な世界を体験させられる完璧な方法で、その不幸な世界へ道連れにさせられる。 見えるから見ていないのか、見えないから見させられるのか。 無秩序な世界での哲学を考させられる。 正直、情景描写がグロテスクすぎて夢に出てくる程には頭に残ってしまう、トラウマ級。
0投稿日: 2024.11.29
powered by ブクログ目の前が真っ白になる感染症。具体的に作中で表現される世界は救いがない。その惨状を自分だけが見えていたら…?段落は多用せず、鉤括弧を使わない作風がそんなものは不要だと言われているようで、特に効果的。
37投稿日: 2024.11.14
powered by ブクログ改行も少なく文字びっしり、セリフに「」なし、 登場人物に名前なし、という出逢ったことのない本だった。 にもかかわらず、誰のセリフかちゃんと分かり、表情や仕草も想像でき、 まるで映画を見ているように流れるように読めたから不思議。 自分や仲間が生きるために他者を殺すか 他者を殺さないために自ら死を選ぶか。 何もかも変わってしまった世界で、 自分自身の内側を見て、 何が正解で自分は何をすべきか決めなければならない。 キリスト教の世界観も感じることができる本だった。
3投稿日: 2024.11.05
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
伝えたい事は分かるんだけど 単純に読んで面白かったか、有意義な時間を過ごせたか?と聞かれれば、つまらなかった という感想になる 突然目が見えなくなったら、それも1人を退き 世界中の人間が。となれば まぁあの通りになるでしょうね 翻訳された本特有の言い回しや 「」もなく、行間もなく、登場人物は名前ではなく特徴で書かれているので、とても読みにくい 淡々としているので、先が気になって読む手が 止まらない!という事もなかった ただ、あの様に始まった物語をどの様に終わらせるのかに興味があり、 頑張って最後まで読んだ感じ でも、あっさりしすぎて拍子抜け やっぱり最初でやめて他の本を読めば良かった
5投稿日: 2024.10.07
powered by ブクログここまで重い本を読んだのは初めてかもしれない。タイタニックの映画の後半みたいな感じが 丸ごと1冊分、という感じ。 「見えない」世界で1人だけ「見える」というのは 実際には誰かと一緒にいても孤独だろうなと思う。何かを分かち合うことって共感できるだけじゃなくて、安心感も得られるんだと気づいた。 本書の設定はまああり得ない(と信じたい)けど、パンデミックに陥ることは今後もあるだろうし、ここで描かれた残虐で醜い場面は起こりうるんじゃないかと思うと恐ろしい。。 2008年に映画化されているらしいけど、観る勇気は全くありません。 本書は登場人物に名前がなく、会話に「」がないので非常に読みづらい。目が見えないということは、誰が誰と判断しにくいからわざとそういう演出にしているのか?と思ったけれど、ポルトガル生まれのジョゼ・サラマーゴさん特有のスタイルだそうです。 文字数が多くて読みにくい時、私は自分の中に古舘伊知郎さんを召喚して早口で読んでもらう、という技を使います。一気に読めるので是非。
5投稿日: 2024.09.15
powered by ブクログ突然失明する感染者が慢性。隔離された病院では、まともな食事、排泄、清潔が保たれず、自尊心を失っていく。極限状態に追い詰められた時の暴力性や、崩壊していく日常は生々しく、恐怖がこびりつく作品だった。翻訳の言い回しは慣れない。
3投稿日: 2024.08.24
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
最初の1ページから、これは面白いぞ!という予感。「」のない台詞も、違和感なく、というか、むしろ引っ掛かりがなく流れるように読めた。時々、あれ?これは誰が言っている?となる時もあったけれど。 眼の見えない人々の(時々滑稽にも見える)動作が、演劇や映画を見ているように思い浮かべられる。目が見える医者の妻を通して伝えられる、嗅覚や触覚の表現も、とてもリアリティを持っている。 レイプや殺人シーンの描写があまり具体的でなかったのはよかった。もし他のシーンと同じように描かれていたらちょっとトラウマになりそう。 絶望感漂うストーリーだけれど、なんだかんだで悪人は粛清され、最後は突然に人々の眼が見えるようになって話は終わる。 眼が見える、という土台の上にこの社会が成り立っていることはよくわかった。では、眼が見えない人の社会というのは、どのような可能性があり、どう構築され得るのか?結局そこまでは描かれなかったのは残念。しかし、それは読者が考えることなのかもしれない。
2投稿日: 2024.08.19
powered by ブクログ翻訳された本の独特の言い回しが苦手で海外の本は読まなかったけど帯に惹かれて購入。 改行なし、セリフも「」なしで最初挫けそうだったけど続きが気になり無事読了。 コロナのパンデミックを思いながら。 同じ状況になったら、人間の尊厳を保てるのだろうか。
5投稿日: 2024.08.16
powered by ブクログ運転中の男が突然失明した。目の前に広がるのは漆黒の闇ではなくミルク色の白い闇。車から助け出した男、失明した男を診た医師、待合室の患者たち……失明は次々に伝染して……。ノーベル賞作家の傑作長編→ 怖かった。「地球上のすべての人が目が見えなくなる」と、こんなことになるのか……と、ショックを受けた。まさに、文明の崩壊。 最初は隔離された病院内で、そして、街全体に広がる無秩序の世界。 目が見えないと人はこんなにも残酷になれるのか。動物に近づくのかと思ったが、そうじゃない。→ そんな世界でキーになる人物がいるわけで、その人がいるからこの話は進むんだけど。 ラストよ……いやもう、怖い。本当に怖い。 この話の四年後を描く「見えることの試み(原題)」が河出さんで翻訳されているみたいなんで、読んでみたい。あのあとあの人はどうなったのだろう。
2投稿日: 2024.07.27
powered by ブクログ見えない人たちの物語を見ているという感覚がなんとも奇妙だった。 サラマーゴの「」がない文体、わたしは好きでした。
3投稿日: 2024.06.13
powered by ブクログある日突然、失明し視界がまるで「ミルク色の海」のように真っ白になる奇病が爆発的に流行する。運転中の男から車泥棒、患者から眼科医へと。 失明者を隔離したものの感染の連鎖はやまず、政府も対策の取れないまま社会機能は麻痺していく。 善意と悪意の狭間で試される、人間の価値とは。 ほとんどの人が視力を失う奇病にかかった中、ただ一人だけ目の見える眼科医の妻とその周辺人物を中心に、その生き様と秩序の崩壊を描くパンデミック、ディストピア小説です。 映画『ブラインドネス』の原作本。 目が見えなくなることも怖いけれど、周囲が全員目が見えない中、一人だけ視力を失わないというのもまた怖い。 作中の主人公のようなポジションにいる医者の妻は、ただ一人だけ視力を失わない事で、ただ一人その身に責任や秩序、汚穢、罪悪、葛藤などを背負う事になります。 社会インフラや秩序などが機能を失い、食事も届かず汚物に塗れ、そんな中でも冷静に対応を考え、食事を入手し分け与え、仲間を慰め、身を清めてやり、時には罪にその手を汚して。けれど、絶望的な状況に対して所詮たった一人の女性に出来る事はあまりにも小さすぎて、また自分もいつ視力を失うか分からない中、その悩みや苦しみがリアルに描かれています。 こんな状況で医者の妻や周囲の人間が正気を保てているだけでも奇跡的だと思いました。たまたま集まった仲間がみな善性や協調性が高く、冷静かつ論理的思考が出来ただけで、いつ破綻してもおかしくなかった。 もし現実にこんな病が流行ったら、そう思うと恐ろしくて仕方ない。あまりにも壮絶かつ恐ろしい話でした。 原題は日本語訳すると『見えることの試み』となるそうで、実際文体はなかなかに実験的。 作中には会話文を示すかぎかっこもなければ、段落も極端に少なくて、登場人物たちの固有名詞もない。ただ「医者」や「医者の妻」、「サングラスの娘」と呼ばれるのみで、「見えない事」によるパーソナリティの欠落・排除などを表現しているのかなぁと思っていたのですが、あとがきによると少なくとも記号がない事と段落が少ない事はJ.サラマーゴ の普段からの表現方法のようです。 *** 秩序を失った人間の獣性を描く作品はこんなのも。 『蠅の王』ウィリアム・ゴールディング
24投稿日: 2024.06.02
powered by ブクログとても読み辛かった。台詞に「」が使われないし、段落もない。全体的にのっぺりとした印象になった。 映画を観た覚えはないのに結末だけは知ってた。何故だろう…。物語としては面白かったのでちゃんと映画を観てみたい。
2投稿日: 2024.04.28
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
初作家。この作品の成功により、ノーベル文学賞を受賞。人間とは、個人と文明について、善悪とは・・・etc。あらゆる物事を全人類(ほぼ)失明という事象を用いて寓話的に淡々と、時に神の視点を挟みながら記された天から人類に齎された(——作者曰く、突然"全人類が失明したらどうなるのか"という…)書物ではなかろうか。作中一切キャラクタ名が出て来ず『医者の妻』『サングラスの娘』『黒い眼帯の老人』…等、眼が見えない世界では名前など不要ですものね。また台詞には「」が使用されておらず、最初は誰が言葉を発しているかわからず、大変読みづらい。しかし二つの事柄を合わせて考えてみると、読者をよりこの世界に取り込む(→読者すらこの物語の登場人物のひとりのように)のに大変効果的なことに気付かされた。結末はまた新たに生まれ変わった"新"人類の誕生(?)で幕を閉じた——。 (※続編もあるようだが、翻訳されておらず…残念だ。) 人によっていろいろ考察しながら読める、素晴らしき作品!全人類必読の書である。星五つ。
3投稿日: 2024.04.21
powered by ブクログ1度読むだけでは消化しきれない。説明っぽい語りだったから、こんなにグロテスクになっていくとは思ってなかった。人の尊厳ってなんだろう。
1投稿日: 2023.09.15
powered by ブクログある日突然、目の前が真っ白になり失明してしまう奇病が発生。 その奇病は伝染し、あっと言う間にパンデミックが起きる。 その状況下ではじめに発症した人々は隔離されるのですが、その状況下で発症してないのに、家族と一緒にいるために発症したと偽った女性がただ、1人、目が見える状況で語る、壮絶な隔離生活とパンデミック下の街での生活のお話です。 まず、文章的なことを言うと、本書は鉤括弧がなく、ページ一杯にこれでもかというくらい文字が羅列しており、文章としては一見読みづらそうというものなのですが、そんな状況なのに、地文と話言葉の区別、誰が話しているかわかるので、読みづらいということはなかったです。 ただ、この本読んだあとに別の文庫を読むと、鉤括弧、行間のある素晴らしさに感動しましたけど(笑) 本作品は、ゾンビものやパンデミックものが好きな私は物凄く楽しく読めた作品です。 5感のどれか1つでも欠けたら不便であることこの上ないのですが、目が見えなくなるということの辛さ、これは本書に書いている通りの地獄だなと思いました。 これが、ある日自分だけではなく、1人の例外を除いて見えなくなるとどうなるのか、文字は見えないですし、トイレに行くのも大変、食べ物を見つけるにも一苦労などなど生活も大変ですが、更にライフラインが止まると悲劇になります。 この世界を想像しただけで、想像の世界ですが、いかに私達が目を頼りに生きているのか思い知らされます。 また、目が見えない状態ということは、周りからも見られない状況。 そんな中で行われる人間らしさというのはどういうものなのかを改めて考えさせられました。 たとえば、私が作品と同じように目が見えない状況になったとき、はじめはなんとか生きて行こうとするでしょう。身の回りに食べ物や飲み物で食いついないで、なんとかトイレも済ますかもしれません。 しかし、食べ物が尽きて外に探さないといけなくなったらどうするか。 生きるために食物を盗まないといけないかもしれませんし、トイレもその辺で済まさないといけない。 徐々に普段生活しているような状況というものからかけ離れていきます。 そこで、私がとれる方法は2つ。盗みを働いてまで生きたくないから死ぬか、生きのびるためにあらゆる行動をとる。 実はどちらも人間らしい生き方なんだろうなと思いながら、パンデミックのこの世界を通じて、人間らしさとは何なのかを問うた作品なのかもしれない。 私達は常に理想や建前の奥底の本心については常に盲目なのだということを。
3投稿日: 2023.04.30
powered by ブクログポルトガルの作家、ジョゼ・サラマーゴが1995年に発表した小説。 人々を突然、謎の奇病が襲う。目が見えなくなる、正確には、視界が真っ白になる病気である。特段の予兆もなく、ある日、ある男の目が見えなくなる。検査しても異状は見つからず、原因もわからない。これはどうやら伝染性であるようで、男に関わった人々、そして彼らに関わった人々、と野火のように発症が広がっていく。最初の男を車で家まで送ってやった男。最初の男の妻。男を診察した眼科医師。眼科に来ていた娘。その娘が利用したホテルの客室係。・・・ 突然の流行に慌てた当局は、患者を隔離することにする。患者にとどまらず、患者と接触したものも連行され、古い精神病院の棟にそれぞれ閉じ込められる。そこから出ようとするものは射殺すると警告され、食料は定期的に外部から持ち込まれるとされる。感染者が失明すると、渡り廊下を通じて患者棟に移される決まりである。 多くの人々が失明する中にあって、最初の男を診察した医師の妻だけはなぜか失明を免れていた。彼女は患者ではなく感染者として連行されるはずだったが、目が見えない風を装って、夫と同室に潜り込み、密かに身の回りの世話をすることになる。やがて、彼女は夫だけでなく、同室の人々もさりげなく助けてやることにする。 多くの人が「見えない」世界にあって、彼女だけが「見える」存在であり、この視点が一つのキーでもある。 文体がなかなか特徴的で、登場人物には固有名詞は与えられない。「医者の妻」、「サングラスの娘」、「斜視の少年」といった具合である。会話文や登場人物の思考も引用符では括られず、地の文の中に埋め込まれる。 時折、著者自身の箴言のような詩のような語りが混じる。 さて、閉じ込められた人々はどうなるか。 患者たちは突然の失明に慣れることもできず、自分が身を横たえるベッドを確保するだけで精一杯である。排泄しようにもトイレまでも手探りで行かねばならず、失敗するものも続出し、あるいはトイレまでたどり着いたとしても水も満足に流せない。 配布される食べ物も十分ではなく、わずかなものを公平に分配することも困難で、しかも盲目の人々にはそれを判断するすべもない。 やがて、この不自由な世界の中で、覇権を握ろうとするものが現れる。皆に分けねばならない食料を管理下に置き、それを盾に患者集団を支配しようとするのだ。ここからは酷い暴虐の始まりとなる。 原題は"Ensaio sobre a cegueira"。訳者あとがきによれば、「見えないことの試み」といった意だそうである。英語に直訳すると"Essay on blindness"であり、実際、ensaioには「試験」「試み」「リハーサル」のほか、「エッセイ」の意が含まれるようなので、「cegueira(盲目)に関する試論」のニュアンスが含まれるタイトルなのではないかと思う。 つまりこれは寓話あるいは比喩として読むべきもので、「盲目」はある種の象徴なのだろう。では「何」の象徴なのか、というところが個人的にはいまひとつ判然とせず、正直なところ、最後までしっくりこなかった。 本作は伝染性の疾患を扱っていることもあり、コロナ禍で再度注目を浴びた作品でもある。だが実際のところ、病気自体の設定がふわっとしていることもあり、感染症がどうこうというよりは、差別や支配・被支配、服従の話のようにも思う。あるいは非予見性がテーマなのか。 謎の奇病。伝染性。患者をとにかく閉じ込めろ。このあたりはなるほどありそうなことである。食料が滞る。パニックから争いが生じる。このあたりもありそうである。だがその後、暴力をもって支配しようとする集団に人々が虐げられるあたりで、いくら何でもそこまでのことがあるだろうかと疑問が生じる。しかも「見える」医師の妻がいて、どうにもならないのだろうか。実際、彼女はのちに反撃に転じるのだが、その前にもう少しできることがありそうな気がするのである。 極限状態で現れるのは暴力なのか。そうではないと言い切れないところが、本作の持つ、無視できない「ざらつき」につながっているのかもしれないが。 物語は隔離された病院の中だけは終わらない。 局面が変わり、病気が広がってしまった街に舞台は移る。 さまざまエピソードが語られる中で、一番印象的なのは教会の聖人像の目がすべて包帯で覆われているというもの。それをしたのは司祭だと医者の妻は考えるが、結局のところ誰なのかはわからない。 目の見えない人々の中で、目隠しをされた聖像。その光景に胸を突かれる。 物語は結末を迎える。ある種、ハッピーエンドといってもよいのかもしれないが、この後、世界はどうなったろう。 心許なさが残る。 地の文に会話文が挿入されるスタイルであるため、あるいはどのセリフが誰のセリフなのか、わかりにくい部分があるのではないか。そのあたりから来る誤訳・取り違えの可能性はところどころありそうにも思うが、さてどうだろうか。 邦題は一ひねりして「技あり」の良訳といってよいのではないか。
11投稿日: 2023.03.13単なるミステリーでありません。次第に哲学的様相を帯びてきます
序盤は、まさにパンデミック。突然蔓延した失明という病気。当局は感染者を隔離するという政策に出ます。でも隔離先は療養所ではなく、収容所。このあたりは、コロナというよりも、かつてのハンセン病を思わせます。その中に一人だけ失明していない眼科医の妻が、目が見えることを隠して夫と一緒に隔離されます。この設定がミソでした。彼女は、見たくもないものを見続けることになるわけです。 最初のうちは、それなりに秩序を持って収容所の中で皆が生活しようと努力するわけです。その中の状況も大変興味深く描かれていきますが、感染が拡大し、収容人員が増えていくに従って、力で収容所内を支配する輩が出てきます。きっとそうなるだろうなぁ、と想像はつきますよね。そんな男達が食料を人質に、女を差し出せと要求する。ふ~む。食欲は当然としても、性欲も衰えることはないのか?と妙なところに感心して読んでいたのはここまで。 そのうち、眼科医の妻以外、世の中全ての人が失明してしまいます。ここからが本当の物語の始まりだったのかもしません。当然、全てがストップしてしまいます。食料も届かない収容所から人々が娑婆に出てくるわけですが、そこはまさにアナーキー状態。しかし、力が支配しているわけではありません。暴力で支配しようにも、全ての人の目が見えないのですからね。どこに何があるか、誰がいるか、それさえも把握できない。そして、食べ物以外のものは、所有するという感覚さえもなくなります。しかも誰も生産活動をしない世界。昼も夜もなく、ただただ食べ物を探し求めて、街を彷徨い、ぶらつく人々。さぁて、どう物語を締めくくる?興味が尽きず、ページをめくる手が早くなります。 勿論、目が見えなくなるというのは、作者の比喩です。ラストの翻訳者雨沢泰氏のあとがきによれば、作者サラマーゴは、「人間が理性の使用法を見失ったとき、互いに持つべき尊重の念を失ったとき、なにが起こるかを見たいのだ。それはこの世界が実際に味わっている悲劇なのだ」と言っていたそうです。 原題を直訳すると、「見えないことの試み」とのこと。つまりそういうことなのですね。物語の展開としては、想像していたとおり、突然見えなくなった目が、また突然見えるようになります。ま、目出度し目出度しとなるわけですが、しかし考えてみれば、ここからどうやって、元の世界のような秩序ある状態を構築していくかが、一番の問題なのですよね。 また、私はまったく知りませんでしたが、この小説は2008年にフェルナンド・メイレレス監督によって映画化されていたとのこと。主演としてジュリアン・ムーアが医者の妻を演じ、最初に失明した男とその妻を、伊勢谷友介と木村佳乃が演じていたそうな。映画作品としては今一つだったようですが、ちょっと見てみたい気がします。
0投稿日: 2023.03.04
powered by ブクログ目が見えなくなる伝染病が急速に伝播しパンデミックになる世界。一人、なぜか病に罹らず目が見える女性が主人公。身の危険を感じ、「見える」ことを隠しながら家族や仲間の世話をするのだが、食べ物がない、トイレもいけない、情報も途絶え弱肉強食、世界が無法地帯と成り果てる中、彼女たちは苛烈な状態に追い込まれる。 2020年夏に読んだ。Covid19が世界に蔓延してパニック状態だった頃。現実と物語との境界が曖昧になるほどリアルな恐怖を覚えた一冊。傑作。
2投稿日: 2023.01.05
powered by ブクログ始まりはかなり面白くて、読むのが楽しかったのだが、途中から何故か苦痛になってきて、後半はまた、面白く読めた。 自分が失明してしまったら、それはもうものすごい悲しいことだと思うのだけれど、この物語のように、一人を除く全ての人が失明している世界に身を置かれたら、俺はどうなってしまうのかな。 会話にカギカッコがなく、段落もないから、かなり読みにくいのだが、なんだかそれはそれで一つの味のようで。 登場人物も、医者の妻とか黒いサングラスの女とか、固有名詞がついていない。こんなの読むのは初めてだったかもな。 最後まで読むと、見えているのに見えていない、という深遠なテーマが通じていたんだな、この小説は。
2投稿日: 2022.11.03
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
あまりにグロテスクでなかなか読み進まなかったが、それが人間の負の部分を表していたのだと読後に納得。それでもやはり自分にはグロテスク過ぎた。見えることが全てではない、見えないから見えるものもある。
2投稿日: 2022.09.23
powered by ブクログ非現実的な恐ろしい状況設定ではありますが、読みながら自分だったらこの状況でどう行動するか、どういう心理状況になるのか、といった想像力を掻き立てられて、他のフィクションの作品を読んだ時の登場人物に感情移入したりするのとはまた少し違った没入感のある作品でした。
2投稿日: 2022.09.19
powered by ブクログとても面白かった。 最序盤からトップスピードで気が抜けない展開が続く。 登場人物がやや多く、会話に鉤括弧が付いておらず多数の会話が連続して入り乱れるため誰の発言なのか熟読する必要があったが、翻訳を担当した方はもっと大変だっただろうなぁと思った。 残酷なシーンも多いが読み応えがあった。 この作品が好きな方は、ハプニング、ブラインドネスといった映画をお勧めします!
2投稿日: 2022.06.08
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
ある日突然、失明が伝染していく。視界が白の闇に包まれる。 失明も怖いけれど、全ての人が盲目になった世界で一人だけ目が見えているというのも壮絶です。 何も見えない世界で理性を保てるのは、その人自身の理性なのか、やっぱり「彼女には見えている」という“見られている”意識なのか……。 一人だけ失明しない人物である医師の妻は、支援と介護とのプレッシャーも、目の当たりにしている悲惨な世界のストレスも、自分の目もいつか見えなくなるかもしれないという恐怖もかなり強かっただろうと思います。ラストの不穏さも印象に残ります。 地の文と会話文の区別がつけられてない文章で、会話も何人もいるけど誰がどの発言をしているかも書いてないところもありはじめは戸惑いましたが、それでもぐいぐい読まされる力がありました。考えさせられて目が止まる一文もサラッと書いてあって、読む度に深まっていきそうな作品です。 映画「ブラインドネス」も観ました。原作を読み終わる前に観てしまったけれど随分とコンパクト。でも壮絶さはありました。最初に失明した男とその妻を伊勢谷友介さんと木村佳乃さんが演じられててびっくりでしたが不思議としっくりきます。
5投稿日: 2022.05.16
powered by ブクログ・すごく面白く読んで、意気込みながらパソコンでめちゃ感想書いたのに、最後の最後でボタン押し間違えて全部消えて本当に萎えました。 ・新宿紀伊國屋でジョゼサラマーゴが没後100周年なことを知った。
3投稿日: 2022.05.14
powered by ブクログ恐ろしいと思いつつも読み進めずにはいられないほど面白かった!コロナ禍に通じるものがある。著者の他の作品も読んでみたい。
2投稿日: 2022.05.03
powered by ブクログこの手の本や映画はその病に立ち向かう医者や科学者や政治家が主人公というのがほとんど。患者目線の内容は今までなかったのでとても新鮮だった。 このコロナ禍に読むとリアルさが増して人間の恐ろしさを感じた。
2投稿日: 2022.04.24
powered by ブクログ1995年に発表されたこの作品、わりと最近復刊して話題になっていたらしい。映画「ブラインドネス」の原作。 「ある日突然白い霧がかかったように失明してしまう奇病」が伝染病として人々に蔓延していく物語。このコロナ禍だからこそ話題になり、だいぶ前の本だけど今の状況の本質を突いている。 登場人物には名前がない。「最初に失明した男」「医者の妻」「サングラスの娘」などという風で、会話にかぎ括弧がついていないので最初は読みにくさを感じるけれど、物語が進むにつれてその独特なつくりが臨場感となって迫ってくるものがある。 ほとんど全ての人が失明してしまった世界ではどんなことが起こるのか。人から見えていない、という意識は人々にどんなものをもたらすのか。 人々からは清潔感という概念が失われ、盗みでもなんでも平気で働くようになる。 そんな中ただひとりだけ失明しなかった登場人物がいて、その人物の目に映った世界が「見えないこと」の真理を突く。 「ただ見ていること」と「見ようとすること」は、同じように見えているという状態でも全く違う。人と人との関係性においてはその違いは如実にわかる。 目が見えなくなったからこそ見えることもたくさんあるという皮肉。 コロナ禍の最初の頃にも、人の醜さだとか真理について考えさせられたことがいろいろあったな…とある程度馴れてしまった今になって思い返したりした。 かつて誰も触れたことのない事象が起こった時、自分が自分を保つのに必要なのは「見ようとすること」なのかもしれないと改めて思った。噂だとかに惑わされず、自分の目で見る力を備えておくこと。 名作は時代を超える、と思わされる作品は時々ある。読み応えのある小説だった。
2投稿日: 2022.04.10
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
わたしたちは目が見えなくなったんじゃない。わたしたちは目が見えないのよ。目が見える、目の見えない人びと。でも、見ていない。 *** 暗い作品の得意な私でも読むのに少々骨が折れた作品だった。読んで、考えて、手が止まる。とても面白く、そして恐ろしい作品。現在のパンデミック下で、状況は違えど同じようなことが起こっている。得体の知れない脅威と背中合わせの生活。いつまで続くかわからない、まさに「闇」だ。 ある時突然視力を失った男。 男を助けたあと男の車を盗んだ車泥棒。最初に失明した男の妻。眼医者の診療所にいたサングラスの娘、斜視の少年、白内障で眼帯をつけた老人。次々と失明していく。失明した人々の視界にはどこまでも続く、ミルクをこぼしたような一面に広がる白い海。彼らは使われなくなった精神病院の病棟へ隔離され、外に出ることは許されない。満足な食糧も提供されない上に、饐えた匂いのする水しか出ない水道、生きる上で必要なものはほとんど揃っていなかった。 目の見えない人々は増え続けて、三百人ほどの人が病棟へ収容された。 人が人らしく生きていくことを忘れる者。人間的でないならせめて動物的にならないようにしようとする者。 当然のように起こる想定しうる最悪の出来事。 医者の妻だけが、最後まで失明しなかったのは何故なのか。 ある日突然人々が白い闇から脱出することができたのか。 わたしたちはずっと、盲目だったことだけは確かなようだ。
4投稿日: 2022.04.03
powered by ブクログある男が突然失明した。暗闇に包まれたのではなく、視界が全て白くなる「白の闇」に覆われた。その症状は、感染症のごとく広まっていき、最初は数人を隔離しておくだけで済んだのが、徐々に多くの人が罹患することになる・・ただ一人を除いて。そんな中、人々は何を考えてどういう行動をするのか?政府はどういう対応を取るのか?といった一種のシミュレーションを描いた物語。 これ完全にウォーキングデッドでした。というか、ウォーキングデッドより酷いかも知れません。いわゆる、ポストアポカリプスモノというのか、自分がこの世界に放り込まれたら、速攻で死ねる自信あります。衛生が失われる描写や、モラルが失われる描写、少ない食料を巡って争いが起きたりといったこともありますが、終盤の残酷描写がやばいです。気になる方はぜひ読んでみてください。
3投稿日: 2022.02.25
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【ケア労働の重責】 突然、失明する病が感染爆発する――その中でたった一人、視力を失わない人がいたら……という設定が実に巧妙。しかも、視力を失わない人間が女性ということがストーリーに深みを持たせる。 感染抑制を最優先する政府は患者と濃厚接触者を廃病院に隔離するだけで中の環境が失明者に向いてないことも考えない。そのため、あっという間にトイレは故障、そもそも見えないためにトイレまで行けず廊下で排泄する人も続出する。約束されていた食料も配達が滞り、環境は悪化する一方……たった一人、視力を失わない「医者の妻」は夫である医者にだけその事実を伝え、失明した患者たちをさり気なく支援する。 彼女が抱える葛藤が実にリアルだ。「見える(=状況が分かる、知っている)」ということは常に責任を伴う。まして、相手が障害や病を抱えているとなおさらのことだ。現実の社会を見ても、介護や保育、支援の問題が生じた時にそれらについて素人である人が「家族だから」「その場にいるから」「できそうだから」という理由だけで重すぎる責任を負わされているのはよくある光景ではないだろうか? そして、それらのケア労働を負わされるのは常に女性なのも。 糞尿が溢れる劣悪な環境を文字通り「目の当たり」にしながら、医者の妻にできることは限りなく少ない。夫が失明するまで彼女はただの主婦で、ただ隔離される夫を案じて嘘を吐いて一緒に来ただけなのだから。それでも彼女はできることは無いか、正直に言うべきではないかと葛藤する。ケアできる(=せざるを得ない)立場に立たされた女性の心がとてもリアルに描かれている。「いっそ目が見えなくなったらどんなに良いだろう」とは全編で彼女が何度も呟く言葉だが、ケアを負わされた経験がある人にはこの「いっそケアされる側になりたい」「もう責任を負いきれない」という感覚は馴染みのあるものだろう。 一方で、ケアの放棄には凄まじい罪悪感が伴う。「できるのにしていない」「自分がやらなければ相手は困る」「やらないと人に迷惑をかける」……内面化された倫理と自分の健康を天秤にかけて、潰れるまで前者を選ばざるを得ない人は確実にいる。医者の妻もラストまで夫とその仲間たちを見捨てられず、たった一人で荒廃した世界を見続ける。 そして、ここまで読んでもきっとこう言う人がいるだろう。「嫌ならやらなきゃいい」「自分でケアすることを選んだくせに」「ケアしてくれなんて誰も言ってない」……そう言う人に一言。「何も見えない、見ようともしないクソッタレ!!」 【コロナ禍に重ねて】 パンデミックを題材にした小説なので、どうしてもコロナ禍に重ねてしまう。患者たちが隔離された廃病院の描写が本当に読んでいて辛い。トイレはすぐに故障し糞便まみれ、失明に慣れていない患者たちはトイレに行けず廊下で排泄、洗剤も着替えも無く、食糧すら満足に届かない。この劣悪な環境を作り出した責任は確実に政府にあるのだが、隔離施設を選定する会議がたった一ページにも満たない簡潔な語りで終わるのはゾッとずる。そこには、患者とその家族がこれから味わうことになる苦痛と不安への配慮が一切無い。代わって議論されるのは施設の広さ、市民の動揺、経済界からの反発……ここで既に既視感を感じる人もいるはずだ。新型コロナへの政府の対応と同じではないか、と。一たび気づいてしまえば、もうこの小説は他人事として読めない。そもそも、登場人物には固有名詞が無く「最初に失明した男」「目医者」「医者の妻」「サングラスの娘」等と呼ばれるため、誰でもあり誰でもない。つまり、あなたでもあり私でもある。 第五波の時に自宅療養者を取材した映像を見た。肺炎の進行により命が危ぶまれる状態になっても入院先が見つからず、遠方から駆け付けた患者の母に医師が「ECMOの順番が来れば何とかなるかも」と宣告するシーンだった。それだけも痛ましいのだが、それ以上に印象的だったのは部屋を埋め尽くしたゴミの山だった。「一体どうしてこの人はこんなことに……」と思ってすぐに気づいた。重度の肺炎を抱えて綺麗な部屋を保つなどほぼ不可能ということだ。食事はできても片付けをしてゴミ捨てに行く体力も気力も無い。着替えはできても洗濯はできない。結果、部屋にゴミと汚れ物が溢れかえり、看病してくれる人もいない……小説では廃病院への隔離だったが、何のことはない、患者各自の家での自宅療養で同じことが起きていたのだ。 もちろん、感染抑制は社会的課題であり最優先で取り組まねばならない。どんな政府にも限界はある。だが、その「最優先」「限界」の中身を決めるのは誰なのか、どう決めているのか、そしてそこに「私」や「あなた」は本当にいるのか……作中に何度も繰り返される「見えない」と「見える」……この意味を何度でも問い直さねば、人間の尊厳を否定する結果しかあり得ない。 この小説は1/3にEテレで放送された『100分deパンデミック論』で紹介されていた一冊だが、Twitterに「パンデミックに際して苦渋の決断を下す指導者の物語を読んでみたい」との感想が投稿されていた。私はどうしても「決断を下す指導者はいても、苦渋の決断を下す指導者はいないってもう証明されたと思いますがね」としか言えない。
4投稿日: 2022.01.24
powered by ブクログコロナ禍ということもあり、感染病が蔓延する社会に於ける集団心理を主題化した作品(『ペスト』、『白い病』など)を幾つか読んだが、『白の闇』は特に描写が凄惨かつ圧倒的だった。ノーベル文学賞作家の文章力が光る作品。 「なにが正しくて、なにが誤りかを見きわめるのは、ただわたしたちが対人関係を理解する手段なの。自分自身とのかかわり合いではなく。」 「わたしたちの内側には名前のないなにかがあって、そのなにかがわたしたちなのよ。」 「絵や彫刻は目が見えないよ。それは違うわ。絵や彫刻はそれを見る人の眼で見ているの。ただ、いまはだれもが見えないだけ。」 上記の引用から推察されるように、唐突に失明した人々を覆っていた「白の闇」を私は「自己中心的な自閉性」と捉え、この小説の主題は現代社会に蔓延する個人主義へのアンチテーゼだと感じた。
1投稿日: 2021.10.27
powered by ブクログ2021.6.2 62 めちゃよかった! 糞尿たくさん出てくる。目が見えないとは何を表すか。 最後の方はソイレントグリーンや滅びの前のシャングリラを思い出した。 カギカッコがない。名前がない。
0投稿日: 2021.06.02
powered by ブクログ人びとの目がいきなり見えなくなった。ただひとりを除いて。ということで何が起こるかについての小説である。ポルトガルの作家とあるがアメリカの状況でもおかしくない。いまのコロナの状況での推薦本であった。
1投稿日: 2021.03.11
powered by ブクログだれしも死の次に怖いのは病気、次に盲目になることではないか。 次々と、人々が盲人になっていく話。 見えなくなった目に広がるのは、白の闇。 ヒッチコックの映画を彷彿とさせる、決まり悪い臨場感。 私も目が見えなくなるのでは?と、本から汚染物質を感じるくらいの迫力。 自分も周囲の者も全員盲目になったらなんて、これまで想像してみたことがない。 原始的になるのか? 否、ベクトルが違う。 無秩序とも違う。 獣みたいになる、というのも違う。 名前が意味を失う。形容詞が役にたたなくなる。言葉への信頼がなくなる。 面白いと思ったのは、ひとりだけ、なぜか盲目にならない「医者の妻」が、盲人たちよりも地獄を味わうということ。家中、町中に溢れる糞便と、糞便をそこいらに垂れる人々の姿を見てしまうのだから。 この人の意味はなんだろう。 優れたファンタジーはリアリティと相反しないものだ、と痛感する作品。
8投稿日: 2021.02.09
powered by ブクログ壮絶な物語だった。今週前半はこの小説のために寝不足が続いた。 20年前に読んだ『最後の物たちの国で』の感触が蘇ってきたのだけれど、今読んだらどちらがより強烈なんだろう?
1投稿日: 2020.10.14
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一人の男が失明したことから始まる、パンデミック。隔離。無秩序。略奪。陵辱。そして希望。 他のディストピア小説と比べて、割と感情移入しやすかった。 と言うのも、最初に失明した男と接触した人物から、どんどん謎の失明が広がっていく。 そして、もう使われていない精神病棟へ隔離され……と言う流れであり、割と現実的だからだ。 人々がどんどん失明し、秩序も何もなく、隔離された場所で起こる、目を覆いたくなるような出来事。 実は、目医者の妻だけが、最後の最後まで失明せずにいるのだが、失明した夫の助けになるため、失明したフリをしてどこまでも付いていく。 見える、と言うことは、この世界において大変重要なことではあるが…そんな中で彼女の見てきたもの、してきたことを思うと、それは想像を絶するものであろう。 途中、自分は目が見えていることを告白しようとする場面があるのだが…そこは前の流れと相まって、とても胸を打つ場面だった。 また、目医者の妻が雨に打たれて、汚れに汚れた身体を洗い、野良犬に涙をぺろぺろと舐められるシーンが、とても美しく感じた。 見えなくなると人はどうなるか。それが原因も何時治るかも分からず…食糧も満足になく、不衛生の極みであり、最低限の秩序も、人間の尊厳も何もなくなる…そんな中で、見えてくる各々の本質。 パニック系、有り体に言えばバイオハザードみたいな感じもするが、立派にディストピアだった。 出でくる人物の殆どが見えないのだから、個人の名前は一切出てこないし、人物同士のやり取りも、かぎかっこが出てこないし、段落が少なすぎる。 そのため、誰が誰と喋ってるのかちょっと分かりにくい場面もあるが、慣れればサクサク読めるし、話自体も面白く感じた。
5投稿日: 2020.09.21
powered by ブクログ・ジョゼ・サラマーゴ「白の闇」(河 出文庫)の「文庫版訳者あとがき」はカフカの「変身」から始まる。ある朝、目覚めたら甲虫になつてゐた「変身」に 対して、信号待ちの車中で突然目が見えなくなつた「白の闇」、いづれも不条理であらう。しかしその先が違ふ。カフカは短い。これは長 い。しかも個人の問題ではなく、その集団全員の問題である。集団といふのは、もしかしたら国であるのかもしれない。そんなにも大きな 不条理を扱ふ「白の闇」、カフカとは全く違ふ作品であらう。 ・サラマーゴはノーベル賞作家であるらしいのだが、私はそれを知らなかつた。だから初めて読んだ。読んでゐて思つたのは構成の問題で あつた。起承転結が実に見事であつた。患者発生、隔離、暴力集団支配、解放・省察、この第4部の結を2つに分けて考へることもできよ う。発生と隔離をまとめて解放と省察を分ければ4つになる。いづれにしても起承転結である。この患者は眼病である。いきなり目が見え なくなつた。見えるのは「白の闇」ばかりである。最初の患者は運転席で赤信号を待つてゐた時に発症した。そんな眼病だから病名は書い てない。しかし、これは伝染性があり、まづ先の男を助け(たふりをし)て車を盗んだ男に伝染する。その信号を待つてゐた男は(総合病 院の)眼科に行く。するとその待合室の患者や受付、そして診察した医師や看護師にも伝染する。もちろんその家族にも……といふやうに 次から次へと伝染していく。眼科医は己が症状を院長に電話連絡する。「接触感染症だという証拠はありません。しかし、たんに患者の目 が見えなくなり、私の目が見えなくなつたのではないのです。云々」(48頁)これで集団隔離の措置がとられて患者は「からっぽの精神 病院」(54頁)に収容される。何しろ目の見えない患者である。緊急事態とその事の重大性ゆゑに患者の世話はない。患者自らが自らを 世話する。そこで様々なことが起きるのだが、最も重大なことは暴力集団の登場とその支配である……とまあ、かうして書いてゐたら切り がない。この暴力集団をも乗り越えた時、患者は隔離施設から出ることができた。そこは皆が目の見えなくなつた世界であつた。秩序はな い。あるのは人間のありのままの欲望の世界であらうか。食ひたい物を、といふより今そこで食えるものを食ひ、眠りたいところで眠る。 排泄はどこにでもできる。全員が目が見えなくなつたのかといふと実はさうではない。最初期の患者、眼科医の妻は目が見えてゐたのであ る。これは全員が見えなくなると物語を進められなくなるといふ事情があつたのかもしれない。見える人間がゐればそれを視点に物語がで きる。あるいは別の事情があるのかもしれない。彼女はいはば神の如き超越した存在であり、だからこそ皆の目が見えるやうになると、 「顔を空へ上げると、すべてがまっ白に見えた。わたしの番だわ。」(408頁)となるのかもしれない。最後の一文、「町はまだそこに あった。」(同前)とは、そこに町があつても妻には見えないのか、町は見えたのか、これがはつきりしない。たぶん妻に見えなくなつた のだと思ふが、さうであればこそ事の不条理性が強まる。そしてカミュも「ペスト」の最後で希望をもたらしたが、サラマーゴもまた希望 をもたらしたのである。結局、皆が見えるやうになつた……現在私達の眼前にある新型コロナ肺炎といふ不条理も、最後はこれらの物語の やうに希望で終はることを望むのみ、カフカの「変身」ではなくである。あるいは、もしかしたら、ザムザの家族が、逆説的ながら、眼科 医の妻の役割なのであらうか。「変身」も見方によつてはハッピーエンドであつた。
2投稿日: 2020.07.03
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ある日突然失明して目の前がまるで「ミルク色の海」のように真っ白になる病が、爆発的に人から人へ伝染していく。原因は不明。国の政策により隔離された失明者と感染者(今でいう、いわゆる濃厚接触者だ)が過ごす精神病院で生まれる自治、暴力による支配。 この物語は、目が見える人間には本当は何も見えておらず、目が見えなくなって初めて本当に見えるようになる話だと思う。自分も周りも失明した世界では、名前や肩書などは何の意味も持たない。全員が男か女か、ただの二択である。 そんな中で人間は失明している状況に、そしていつ治るのか分からない恐怖に慄き狂っていく。緊急事態が起こった時に現れる人間の本性の中には卑劣なものもたくさんあって目を覆いたくなる場面もあるが、衛生状態も悪く食糧も十分でない環境、しかも失明していつも通りに体を動かすこともできない状態で、果たして正気を保っていられるだろうか。そうだからといってあんなに惨いことをするのは絶対に許せないし擁護はしないが、みんなただただ生きるのに必死で、人間をああも狂わせるこの病こそが異常、とも思う(これは戦争についても言えるのかもしれない)。 そんな苛烈な環境において、失明した医者の夫と一緒に精神病院へ入った「医者の妻」がただ一人本当は目が見えているがそれを偽っている、という設定がミソである。それを公表した方が良いのか、公表したらどうなるんだろうか…と思い悩みながら失明者を装うところにハラハラする。唯一目が見える者として、生き残るために徒党を組んだグループでメンバー全員の目となって奮闘する姿は強い。雨に打たれてどろどろの身体を洗う場面は美しかった。 ただ私にはどうしても、最後まで「医者の妻」だけが感染せず失明しない理由が読み解けなかった。教会の天井画にヒントがある気がしたが、分からず。あと本作は「医者の妻」、「最初に失明した男の妻」、「サングラスの女」、とにかく「女」がキーパーソンだと思うのだが、これにも意味がある気がする。
2投稿日: 2020.05.05
powered by ブクログ目の前が真っ白になって失明してしまう”ミルク色の海”。思ってたより感染力が強くてびっくり!社会的秩序が崩壊するなか、一人だけ目が見える女性が夫と仲間たちを守るために奮闘。隔離施設での中盤が地獄のような展開だったけど、希望の見える終わり方で良かった。
1投稿日: 2020.04.30
powered by ブクログみんな失明してしまったら、こんな世界になるのかと震撼する。著者の想像力がすごい。そしてとても読みやすく、著者と共に翻訳者も素晴らしいと思う。読んでいて、色や匂いも感じられるほど具体的に想像できて、ぐいぐい引き込まれる。
1投稿日: 2020.04.29
powered by ブクログある1人の男性が突然失明した。それも目の前が真っ暗でなく、真っ白になる失明に。伝染性の失明は瞬く間に国中へ飛び火していき、政府が恐ろしい隔離政策をとっていき…という、ディストピアものにしてパンデミックもの。新型コロナ大流行の時期に復刊されたのは何ともすごいタイミングだと思う。 ヒトの集団が一番恐ろしいのは理性や秩序を失った時というけれど、この作品はそこからさらに「視力」をも奪っているのがダメ押し。感染者たちが隔離施設に入れられての日々は筆舌に尽くしがたい壮絶さと、残酷さを感じる。 同書の文体にはある特徴があって、まるで自分が失明したかのような解釈で読み進められるのが見事。
1投稿日: 2020.04.12
powered by ブクログミルク色の海が感染していく。 意図が少しわかりにくかった 独特の描写で、まるで自分も盲目になってしまったかのような錯覚に陥る
1投稿日: 2020.03.29
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
初読みの作家さんです突然人々が失明した世界に肉食の動く植物が闊歩する世界を描いたSF「トリウッドの日」が購入を決めたときに頭にありました。あとはこの素敵な表紙ですね。綺麗ですよね。 そんな割と軽い気持ちで読む始めた本書。途中からは今回のコロナウイルスの事とこの物語の内容が重なっていました。 絶対的な非常時に人はどうなるのか? どういう行動をとるのか? 失明した人々と感染が予想される人々は政府に集められて、今は無人となっている精神病院へ隔離されるのですが……。 その中にただ一人目、目が見えているのに見えていないと装い夫に付き添ってきた眼科医の妻の目に映る世界がすさまじい。 数人だった人々が増えるにつれて、不衛生な環境になり、こんな閉じられた場所で、少ない患者のなかで弱者と強者が生まれてくる。強者のグループは食料を自分たちで管理して、他の人々から貴金属や金銭を奪い、挙句、女性たちを自分たちの性的な欲望を満たすために連れ込んで強姦する。暴力が狭い世界を支配していく描写がおぞましくて、恐ろしい。 読んでいて、人とはこんなに簡単に堕ちていくものなのだろうかと思いながら、見えないことは欲望を見ないことになるわけだから、そうなることもありえるのかもしれないとも思ったのですが。 食事、排せつ、着替え、目が見えないということは本当に不衛生な状況に置かれるわけで、政府は彼らと閉じ込めて食料の配給をするだけなのですが、それも指導者たちにも患者が出たり、彼らを監視している兵士たちに患者が出てしまったことで、余計に追い詰められてしまう。 淡々と描かれる、暴力と死。抗うすべのない人々。真っ暗な闇ではなく、白の闇に閉じ込められている事実。 その中で一人だけ見ることを許された医師の妻の目に本当に映し出されいるのは何なのだろうと考えてしまった。見えないことが救いになることもあるのだと思う彼女の辛さがとても苦しい。 結局、強者のグールプは破綻を迎え、隔離されていた場所は火がついて、眼科医とその妻たちは彼らの家へと向かうのですが、その先に待っていたのはさらに悲惨な景色。 まさにすさまじい一冊でした。なのに、読み始めたら、読む手を止めることができませんでした。(なので、他の本が遅れているんですと言い訳をしてみる) 作者のサラマーゴはこの作品でノーベル文学賞を受賞するに至ったそうです。(今回はそんなことは関係のない本当にジャケ買いですよ) 読みやすくはないです、登場人物に名前はなく、会話に「 」はついていない。ですが、それを除いて全身に語り掛けてくる圧倒的な力がありました。他の作品も読みたいと思いますが、翻訳されているのか気になります。 そして、一番思ったことを一つだけ、私たちは本当にその目に真実を映しているのだろうか。見たいものだけを見ているのだけではないか、本当は彼らと同じような闇の中にいるのではないだろうかと思ったことを書き添えておきます。
3投稿日: 2020.03.17
powered by ブクログページをひらいたとき、文字の多さに怯んだが、途切れない緊張感にひきずりこまれてページをめくるのが止められなくなった。 見えること、見えないこと、見えない人の中で生きること、見えないままで死ぬこと。 ミルク色に崩壊した世界のなかで、「人間として」生きることを考えさせられる一冊。
1投稿日: 2020.03.15
powered by ブクログご時世のせいか、パンデミックものという紹介をされていることが多いように思うが、パニックSFと言われた方が近いんじゃないだろうか。人間が欲望を剥き出しにして行く姿はけっこうな迫力。続編があるらしいが、邦訳あるのかな~、後で調べてみよう。
1投稿日: 2020.03.15
powered by ブクログパンデミックものというよりもむしろ、『蠅の王』と似たものを感じる。途中の、隔離された状況での人間の悪が露になる醜悪がつらい。しかし忘れ難い。
1投稿日: 2020.03.13
