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心理療法の未来 その自己展開と終焉について
心理療法の未来 その自己展開と終焉について
田中康裕/創元社
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総合評価

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  • 心理臨床理論の自己展開の現在地

    現代ユング派による乖離性障害、発達障害の時代に関する総論。 ギーゲリッヒの論理も分かりやすく組み込まれている。 心理療法理論は自己言及する主観であり主体であるため、心的病と対象一体で自己展開する生きた理論である。 というユング派の定番の基礎理解に立脚し、心理療法の自己展開の歴史を、ヒステリー(神経症)→境界例→解離性障害&発達障害として記述する。 ここで自己乖離を病む神経症を治すのは精神分析などの同じく自己乖離にたよった分析治療であり、この治療理論を無化する自己変異型のウィルスとして神経症は境界例に変異、これによって境界例は症状(無意識の抑圧物の回帰した物)にフォーカスする精神分析のスタイルを無効化、このことで対象関係論で同じのカーンバーグが病態水準論と人格への焦点移行を提唱し精神分析治療の理論を症状論から人格論に変異させた。 周知と思うがラカン派だと境界例は認めていないからそこ注意。 でもって、さらに20世紀末、デーモン閣下とともに乖離性障害が大量発生。 つまり境界例と精神分析によりまた変異してカーンバーグの人格理論を無化する多重人格障害をボンバイエ。 これにより人格が複数化して人格理論では治療できなくなる。 周知のとおりアメリカでは偽記憶訴訟問題が起きて、精神分析はアメリカでその地位を失ったわけだ。 あと同じ頃に発達障害もダイナミックエントリー。 で、田中康裕は、乖離は無意識のブラックボックス系の発展系で、発達障害は行動主義とか脳科学系の脳をブラックボックスした系と分類。 あとブラックボックスいうのは、近代の自己言及構造による意味喪失に対して、意味を取り出す箱みたいな感じ。 でこっから本書の要諦にはいるけど まず病態水準理論が無効化された現代では、渦巻き型と波紋型にわける必要がある。 渦巻き型はヘルダーリンとかハイデガーの否定神学構造に関連していて、自己を意味喪失の中心点として病む、中心をもった近代モデルの病理。 つまり精神病、神経症がその典型。 波紋は中心がなくリフレクションしない意識で、村上春樹文学的な乖離性障害と発達障害。 さらにこれをギーゲリッヒの生物的誕生→心的誕生→心理学的誕生のモデルにしている。 心的誕生は自他の分化。ウロボロス的主体の成立。 つまりイメージの誕生。物語の成立。絶対的他者の成立。 心理学的誕生は近代主体的な差異の同一のこと。 イメージの否定、弁証法の誕生。 概念の偶有的運び手としての他者の成立を目指すのが波紋型での治療理論となる。 ここで概念というのは実体的な表象、物理的対象ではなく、意識として対象をあらしめる自己性、関係、シジギーみたいなもんだと思われる。 たとえば一人称代名詞は概念だろう。 ハーバーマスのモデルネ論を参照して、近代が神の死を経ることで、折り返して自己が自己を参照する自己回帰にあることを示したりもしてる。 あとは精神分析の背面法に対するユングの対面法とか、錬金術理論におけるレトルトを介した治療理論がモデルネベースであり波紋型では無効だということが説明される。 あとユングがフロイトと口論になったお馴染みの地下の夢の解釈を通して、真意味喪失の近代に神話を完全に埋葬したのがユングだという話とか。 あの世とこの世が内面化して無意識と意識になったりという話もしてる。 心理学的差異の理論と意味を超えたものとしての症状論もある。 ある程度、ユングとか近代主体とか知ってないと読んでもキツいかもしれないが、この手の本だとまだ簡単な方だと思う。

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    投稿日: 2024.10.17