
総合評価
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powered by ブクログいずれの短編も題材がかなり特殊、文体は相当クセツヨ、とりわけ「飼育」をはじめ、米軍が登場する作品は出版当時の読者と令和の読者では受け取り方に少なからずギャップはありそう 高評価の感想ばかり目にして手に取ったが、好き嫌いは結構分かれそうだなと思った
0投稿日: 2026.01.04
powered by ブクログどの作品にも、差別や格差、人権といったテーマが描かれている。 『飼育』は芥川賞を受賞した作品で、弱者となった黒人兵を“獲物”のように扱い、次第に親しくなれたかと思えば、関係が突如として一変する過程が描かれている。 現代でも差別が完全になくなったわけではないが、昔に比べると社会はずいぶん平和になり、表面的であっても受け入れようとする姿勢が広がってきたのだなあと思った。
13投稿日: 2025.10.13
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
描写が凄まじい。特に『飼育』の泉で過ごした黒人兵との夏の場面。産毛一本すら逃さないような緻密な描写がたどり着いた先の「───僕はどう伝えればいい?」という問いに、そこまで張り詰めていた何かがドッと開放される感覚があって、その問いが全てだった。 作品だと『他人の足』が心に残った。
3投稿日: 2025.09.24
powered by ブクログ閉塞感むきだしで、そのなかにある生身の人間関係。今日明日の生存に無駄なものを削ぎとったギリギリの状態の人間性。反戦のメッセージと偽善者に対する嫌悪感が私達を締め付ける。
2投稿日: 2025.09.08
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
現代の価値観と違い過ぎて物語の繊細さが理解できなかった。 水槽に沈む死体に対して湿度の高い激重感情を頭の中で炸裂させる文学青年、身体や足が動かなくなる病に侵され希望なく暮らす少年たちの元に現れた両足骨折の青年、病棟内を引っ掻き回すだけ引っ掻き回して健常者の世界へ戻っていく無責任さ、黒人兵士を家畜のように世話をし交流するグロテスクさ、屈辱感に必死に耐えようとする人に付き纏う傍観者の行き過ぎた正義感と加害、外国人兵士の通訳をする日本人が日本人を見下す滑稽さ。 誰もが持っている陰湿な部分をチクチクされるような話
3投稿日: 2025.08.25
powered by ブクログ「飼育」などは、なんだかとてつもないモノを読んでしまった、という感想。心情描写がすばらしく、人間の心理を深掘りして示してくれる。ストーリーも奥が深い。
2投稿日: 2025.07.17
powered by ブクログ「人間の羊」は、主人公が全く喋らず、心の中の言葉で表されている。 教員の正義感は、主人公のためではなく、自分のためにやっているように感じる。
0投稿日: 2025.06.19
powered by ブクログ初めて大江健三郎を読んだが、三島由紀夫の金閣寺を読んだときの感覚に近いものを感じた。 「人間の羊」と「不意の啞」が特に良かった。両作品とも進駐軍をテーマにしたものだが、どうやってプロットを練ったのだろうか。まさか実体験ではないだろうし... また一人、作品を渉猟したい作家が増えた。
1投稿日: 2025.05.31
powered by ブクログやっぱり大江健三郎はすごかった。 かつて大江氏は、自分にわからない世界について、そのギャップを埋めてまで小説を書こうとは思わないし、自分があえて書く必要性も感じないというようなことを言っていた。 本作に出てくる短編は、児童期が戦時中であった彼だからこそ書けた話であり、学生らしさを失っていない時代だからこその初々しさに溢れている。 それにしても天才にしか考えつかないようなシチュエーションが設定されている話ばかりである。 こんな設定、どうやって思いついたんだと舌を巻くような作品ばかりである。 一方でアメリカ兵を否定的に描写している場面も多く、アメリカ人は大江氏の作品をどのように読むのだろうとかなり気になったりもした。 大江氏の才能を感じることができる贅沢な一冊であった。
8投稿日: 2025.05.10
powered by ブクログ4.0/5.0 死や性、病気といったものに対する著者の感性、そして今よりもその境目がはっきりしていたであろう戦後間もない時期の、日本人としての自意識と、外国人に対する純粋な興味と、敵対心を感じた。
1投稿日: 2025.03.21
powered by ブクログ何を読み解けば、よいのかわからなかった。 只、我が学生時代 真しやかに 語られていた死体処理とバキュームカー清掃アルバイトの話しが ふっと思いだされた。
2投稿日: 2025.02.23
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
☆2.5 人を選ぶ作品で好き嫌いが別れそうです。 「死者の奢り」は非常に引き込まれて、尚且つ景色の描写、心理描写のバランスが良いように感じました。 戦後の時代背景が分かっていないので読み取れていないところはあると思います。 私にはまだ早い作品なのかもしれません。 光の描写や自然の描写が匂いを感じたり、五感を刺激して想像しやすく詩的だったり叙情的だと感じるのは若き大江健三郎さんの実力だなあと思いました。 味わい深い文章だと思う反面、若いと感じる表現もしばしばあり。 具体的に言うと、飼育は私にはどうにも卑猥だったり匂い立つ表現が多く、フェチ向けの文学を読んでるのかな?と錯覚する時もありました。 わざとそういう表現をしているのかな? お気に入りのポイントですが、 そもそも文章力があり、引き込まれます。 描写ごとに段落が分けてあるのでしっかりと「読まされる」「噛み締めながら読める」感覚。 逆にそのせいで読書する側のテンポは遅くなりがちなのかなと。 人間の羊を今読んでいて、ちょっと飽きているところです。
1投稿日: 2025.02.12
powered by ブクログ深い孤独感や戦争の影響、死の意味が何であるかを読者に強く投げかけてくる作品。 言葉遣いは美しいものの、内容が重たく読みにくく、詠み終わったあとも憂鬱な気持ちになる。 簡単には、人にオススメできない作品となっている。 【主人公の孤独と隔たり】 本作の主人公たちは他者との間に大きな隔たりを抱えており、その孤独感が物語の根底に流れています。主人公の内面的な葛藤や感情の複雑さが際立っています。 【主人公の内的葛藤】 主人公は、死体を「物」として扱う一方で、死を意識の面で捉えようとします。仕事を終えた後の快楽的な感覚と、他者からの軽蔑を感じることで生じる苦悩が対照的に描かれています。この葛藤が、彼の生きることの意味や人間関係の難しさを際立たせています。 【生々しい表現方法】 死や戦争を想起させる生々しく、どろどろとした表現が多彩であり、これによって読者は強い印象を受けます。特に、主人公がホルマリン漬けの死体を扱う過程での描写は、死の物質的な側面と意識の対比を浮き彫りにしています。 【戦前・戦後の閉塞感】 物語には、戦前や戦後の閉塞感が色濃く反映されており、特に戦争の影響が人々の生活にどのように浸透しているかが描かれています。主人公たちが感じる戦争の現実は、彼らの日常において遠くの出来事でありつつも、無視できない存在感を持っています。 【村の生活と戦争の影響】 「飼育」では、村での生活が描かれ、戦争が村の若者たちに与える影響が表現されています。村の子供たちにとって、戦争は遠い出来事であり、敵兵を捕虜とすることも「獲物」としての興奮を伴う体験に過ぎないという冷徹な視点が示されています。
3投稿日: 2025.01.23
powered by ブクログ飼育に関して…… 心理描写が凄いのかなー、細かいっていうのか。 セクスって言葉がちょいちょい出てくるなー。 表紙がなんか怖い。
18投稿日: 2024.12.05
powered by ブクログどれも読んでいると、生々しい感覚と気持ち悪い感覚が襲ってくる。 何か凄いことを伝えようとしているのが分かる。 だけど正直、抽象的すぎて政治的なメッセージや思想はあまり伝わってこなかった。 個人的には人間の羊が分かりやすくて好き 被害者にしか分からない葛藤や、被害者を取り巻く人々の気持ちが伝わってきて面白かった
2投稿日: 2024.11.27
powered by ブクログノーベル賞作家として名高い大江氏による芥川賞受賞作も含む初期短編集。どれも政治的・社会的テーマで、とても二十代が書いたとは思えない内容であった。好き嫌いの分かれる作家のようだが、共感する部分は多く、個人的には面白く読めたので、他の作品も読んでみたいと思う。
0投稿日: 2024.11.14
powered by ブクログある日突然貸してくれた本。初めて一緒に働いた日に、私が伊丹十三の話をすると彼は大江健三郎を私に教えてくれた。マニュアルの端に急いでメモをとり、マニュアルに書くのはあんまよくないかってそのあと自分のメモ帳に書き写した。今もそれを使ってる。少し朽ちている。 当時芥川賞を受賞したときの年齢が23歳。それぐらいの年齢の子たちと今暮らしてる。朝椅子に座って、夜ソファに転がって、同じ空気を吸いながら読んでた。海で読んだら気持ちいいだろうなって港へも連れて行った。読みたがっている女の子がいたけれど、彼女は借りずに帰った。 彼に読んだことを伝えると急に人が死ぬでしょって笑ってた。本を貸してくれたことをどれだけの人に自慢しちゃったかな。初めて読んだ彼の本。
2投稿日: 2024.10.29
powered by ブクログ生々しくて厳しい世界観。その中で生きていく人間の、生物としての生命の躍動をどくどくと感じられる。 場面は端から一つ一つ丁寧に、そして正確に表現されていく。それによりじわじわと空気感が体に染み渡っていく読書感がクセになる。 文体に関しては熟語が多く、厳格でかちっとしていて、これも世界観にマッチしていて好み。 大江健三郎いいな。この作品で初めて読んだが、かなり好きだなと思える作家で、出会えて嬉しい。
0投稿日: 2024.10.25
powered by ブクログ義父の本棚にあったので何気なく手に取ってみた 人間が複数存在する状況において否応なく発生する緊張感や暗黙の了解についての、解像度や描写力がバケモンすぎる…
1投稿日: 2024.08.04
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
著者の作品は初めて読んだが、特に“飼育“では遠藤周作みを感じた。黒人を“獣“として見物する描写が特に。飼育の前半は少し読みずらかった。 死者の奢りは芥川賞特有の雰囲気があり、まさか死体整理のバイトの話とは、題材が衝撃であったが、妊娠中の女学生が登場するのは取ってつけたように感じた。段取りが異なるとして作業がやり直しになるなど、面白いことは面白いが。 他人の足では、同士としてどんな話をしようが例え仲良くなろうが、あくまで同士だからという前提がとても強く、同士ではなくなる(足を得る)と根底が崩れ、もう元の関係には戻れないという当たり前ながらも複雑な現実について。 一番好みの話だった。
15投稿日: 2024.08.02
powered by ブクログ1950年代後半から1960年代にかけて、戦後の鬱屈とした社会が生々しく描かれている。 実存主義から構造主義に移行していくような、社会規範のあり方が大きく変わろうとしていた時代。 どの短編にも共通するのは、変わりゆく時代に敏感な(何かを期待されている)若者たちが主人公ということだ。 社会正義を押し付けられ、何者かにならなければならないような空気感に抑圧されている学生や、残酷で不寛容な社会で成長せざるを得ない子どもたち。 当時の人たちが外国人をどのように客観していたのか、令和に生きる私は、私たちの主観で、大江健三郎の文体によって、それを生々しく、悲しく体感させられた。
1投稿日: 2024.06.08
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
芥川賞受賞の表題作「飼育」を含む初期の短編をまとめたもの。 ほかにもノーベル賞も受賞。受賞理由はからっきし意味不明ですが、ネットに落ちているNHKの方の解説を読むと、どうやら現代日本社会を描いたから、ということ!? よくわからん。 ただ、本作を読んでありありと感じたのは、偽善へのシニカルな目線・退廃的ムード・諦めと閉鎖性、このようなワードが思い浮かぶ作品群であったと思います。 ・・・ 以下は作品と寸評です。 「死者の奢り」・・・表題作。解剖用死体を大型水槽からもう一つへ移し替えるというバイトをした「僕」。場面設定が特殊であるものの、得も言われぬ退廃的なムードが印象的な小品。 「他人の足」・・・未成年の脊椎カリエス患者を収容した一種の閉鎖病棟の話。退廃的な慰みを看護師に強要?しているような病棟であったものの、とある「新入り」大学生患者が皆を感化し良化していく。しかし、最後にこの大学生が何とかここを出ることが出来るとなると、もとよりいる患者を汚らわしいものを見るかのように突き放す。ここに善意の欺瞞の薄っぺらさが見て取れる。 「飼育」・・・とある隔絶された村に不時着した米軍飛行機。生きていた黒人兵を指示があるまでその村にとどめおく(まさに「飼育」)様子を綴る。牧歌的な交流が大部分を占めるも、移送される段になり、黒人が逆上し、最後はあっけない結末に。 「人間の羊」・・・占領下のバスでの出来事。米兵に屈辱的な仕打ちを受けた「僕」と、眼前では無抵抗の観客であるも、事後の「僕」に告発させようと躍起になる「教員」との偏執狂的やり取り。居合わせた当事者としては何もしなかった「教員」の第三者的物言いが鼻につく。これもまた「外野」の偽善的欺瞞が匂う作品。 「不意の唖」・・・上記の「飼育」を彷彿とさせるとある山村。今度は米兵とその通訳がこの村に訪れる。強い側についた通訳の高飛車な態度が次第に村人の気持ちを逆撫でし、遂に通訳は。。。ホラーチックな作品。 「戦いの今日」・・・朝鮮戦争時の日本で、米兵に脱走を唆すビラを配る兄弟。ちょっとしたバイト感覚のビラ配りも、脱走志望者が出てきてたじろぐ兄弟。引き受けたくない兄と、何とかしたい弟。結局かくまうことになるも、とある晩に脱走兵に潜むアジア人蔑視を嗅ぎ付けた兄は当の兵士をぼこぼこにして。。。 ・・・ ということで久方ぶりの大江作品でした。 とんがっていてなかなか面白かったです。他の作品もまた読んでみたいと思います。
2投稿日: 2024.04.22
powered by ブクログこの手ごたえだけ重い、 不可解な縺れをとくことはできないな。 生きている人間を相手にしているのでは、 決してそれは、やれないな。
2投稿日: 2023.12.01
powered by ブクログテーマがすごい。描写がすごい。 冒頭の一節から、足し引きのない形容によって衝撃的な光景が生々しく描かれ、作者独特のその描写は最終話まで途切れることなく続きます。閉鎖された空間、そこに置かれた人たちの心理、行動、息遣い、発する言葉、見えないけれども確かに存在する外界との境界、その全てに生臭い人のさがが見え隠れします。ページをめくる度にその隙間から体臭の混じる湿り気を帯びた空気が漏れ出てくるようです。 好みはさておき、すごい作品群です。気になる一節を読み返してみると、作者の意図する世界感を体温や感触をともなって自分なりに体現できて、よくこんな文章が書けるものだと感心してしまいます。芥川賞、ノーベル文学賞受賞は伊達ではないな、などと偉そうに思う次第です。気が向いたら是非ご一読ください。 追伸 食事の前後と就寝前は避けて読んでいただいたらと思います。折角の料理が美味しくいただけなくなるかもしれません。美味しくいただいたはずの食事が残念なデザートで台無しになったような気持ちになるかもしれません。妙に頭が冴えて寝つきが悪くなったり、目覚めの悪い朝を迎えたりするかも知れません。 余計なお世話でした。
0投稿日: 2023.10.24
powered by ブクログ死者の驕りはすれ違った老人のシーンがビシッと印象に残ってる。1番好きなのは飼育で、短編として完璧すぎると思ったのは他人の足、最後の一文が忘れられないのは人間の羊、でしょうか。
0投稿日: 2023.10.11
powered by ブクログ芥川賞受賞作「飼育」を含む6編の短編集。 初めて大江健三郎氏の作品を読んだが、大変良かった。 時代を背景に、生と死、田舎の村の閉塞感、米兵と日本人の関係、子どもの好奇心と残酷さ、罪悪感と勝手な正義感、大人になるという事…などが描かれている。 ジワジワ追い詰められていく感じが、たまらない。 本作のテーマを理解できたかどうかはわからないが、共感、納得できる箇所は随所にあった。 どの作品も深くて、読後は余韻が残り考えさせられる。文学の良さって、こういう事か。 印象深かったのは、「死者の奢り」「飼育」「人間の羊」 今後は、大江氏の作品を少しずつ読み進めながら、 追悼の意を表したい。
22投稿日: 2023.09.17
powered by ブクログ末尾の江藤淳の解説を読むと、暗さの中に美が〜、という評があった。しかし私はこの短編集を読んで、粘り気の強い暗さが終始付き纏う感覚があった。どの短編も結末が好きで、久しぶりにスッキリした読み応えだった。 特に、「死者の奢り」「他人の足」が好き。けれど粘っこいセクスは好きではない。 全体を通して20代に発表した作品とは思えない。 障害を持つ人々、外国兵や人種に関して、大江の抱く考えが知りたい。
0投稿日: 2023.09.11
powered by ブクログ初めて大江健三郎を読んだ。 彼の文章からは、グロテスクとも言えるほどの迫力と緻密な論理表現が共存している感じを受ける。人間の中のドロドロとした感覚をここまで明確に表現できるのかと、鳥肌が立つ。 そして、大江が抱えている問題意識や鬱積がまざまざと伝わってくるストーリー。価値観の転回やコンプレックスを社会に引き起こした戦後に青年期を過ごした大江の描く物語は、平穏な時代をのうのうと過ごす私にとって、得体の知れない獣のように迫ってくるものがあった。
2投稿日: 2023.09.05
powered by ブクログ1.著者;大江氏(故人)は、小説家。「死者の奢り」で、学生作家としてデビュー。豊かな想像力と独自の文章で、現代に深く根ざした小説を執筆。核兵器・天皇制等の社会問題、故郷の四国の森の伝承、知的障害を持つ長男との生活・・を重ね合わせた作品を構築。「飼育」で当時最年少の23歳で芥川賞受賞。さらに「洪水はわが魂に及び」で野間文芸賞・・などの多数の文学賞と、日本で二人目となるノーベル文学賞受賞。民主主義の支持者で国内外における社会問題に積極的に発言を続けた。 2.本書;大江氏の初期作品集。6短編を収録➡①死者の奢り(解剖用の死体を運ぶアルバイト)②他人の足(脊椎カリエスの病院)③飼育(黒人兵を村で預かる)➃人間の羊(バスの中での屈辱)⑤不意の唖(村に来た外国兵)⑥戦いの今日(朝鮮戦争時に日本に来た米兵)。前三作は監禁状態、後三作は社会問題がテーマ。大江氏は書いています。「監禁されている状態、閉ざされた壁の中に生きる状態を考える事が、一貫した僕の主題でした」と。 3.個別感想(印象に残った記述を3点に絞り込み、感想を付記); (1)『第1編 死者の奢り』より、『「《教授》こんな仕事(死体を移す仕事)をやって、君は恥ずかしくないのか?君たちの世代には誇りの感情がないのか?」→「《アルバイト学生》生きている人間と話すのは、なぜこんなに困難で、思がけない方向にしか発展しないで、しかも徒労な感じがつきまとうのだろう、と僕は考えた。・・僕は眼をあげ、教授の嫌悪にみち苛立っている顔を見た。・・蔑みの表情があらわなのを見て、僕は激しい無力感にとらえられた』 ●感想⇒人には生きていく為に生活事情があります。この学生は報酬に魅力を感じ、大学病院の解剖用死体を運ぶアルバイトをしたと思います。それ自体決して、非難されるものではありません。❝職業に貴賤無し❞と言います。法令に違反しない限り、どんな職業も理由があって、存在しているのです。教授の言う「こんな仕事(死体を移す仕事)をやって、君は恥ずかしくないのか?」にはあきれます。この仕事を誰かがやらなければ、教授は研究出来ないのです。感謝するのが当然でしょう。彼は、人を色眼鏡で見て差別しています。世の中には、このように❝特権階級❞を自任し、振りかざす人が少なくありません。自らの立場やこれまでの人生を振返り、感謝の心を忘れず、真摯な態度で人に接したいものです。社会的地位が高い程、人格をを疑われる言動は慎むべきです。❝人のふり見て我がふり直せ❞です。 (2)『第3編 飼育』より、『《村の少年》黒人兵を獣のように飼う。・・黒人兵が柔順でおとなしく、優しい動物のように感じられてくる。・・僕らは黒人兵と急激に深く激しい、ほとんど❝人間的❞なきずなで結びついた事に気付く。・・黒人兵が捕らえられて来た時と同じように、理解を拒む黒い野獣、危険な毒性をもつ物質に変化している。・・黒人兵の頭蓋の打ち砕かれる音を聞いた』 ●感想⇒村という外部と隔離された社会、主人公が黒人を支配できるという優越感、無残な最期の悲劇・・。「飼育」は残酷で恐ろしい話です。戦時下とは言え、人間を動物の様に扱う(飼育)のは、身の毛がよだちます。世間ではペットブームと言い、動物を人間の様に飼育している人をよく見かけます。私も以前はペットを飼っていたので、その気持ちはよく理解出来ます。しかし、人間を❝飼育❞するという感覚が私には理解出来ません。ペットは人間の様に❝裏切らない❞という事かもしれませんが、人間には尊厳があるのです。道徳心もあります。本短編は戦時中のフィクションとは言え、❝人間を飼育する❞という発想で書き上げた偉才ならではの作品です。驚きです。 (3)『第4編 人間の羊』より、『「《主人公》外国兵らは(バスの中で)僕のズボンのベルトをゆるめ荒々しくズボンと下履きとを引きはいだ。・・両手首と首筋はがっしり押さえられ、僕の動きの自由を奪っていた。・・狼狽の後から、焼け付く羞恥が僕をひたしていった」・・「《同乗の教員》・・君は泣寝入りするつもりなのか?・・黙って誰からも自分の恥をかくしおおすつもりなら、君は卑怯だ。・・名前だけでも言ってくれよ。僕らはあれを闇に葬る事は出来ないんだ。・・(名前を隠すつもりなら)お前達(僕と外国兵)に死ぬほど恥をかかせてやる。・・俺は決してお前から離れないぞ」』 ●感想⇒被害者と傍観者に関する感想です。先ず、被害者の学生。衆人の前で酷い屈辱を受けても、反発できない惨めな気持ちに耐え抜く態度に感心。背景には、敗戦国での治安の悪さ(警察も当てにならない?)とバス同乗の傍観者の❝面倒な事は避けたい❞という態度にあると思います。バスを降りて、傍観者の一人(教師)が被害者にこの事を訴えようと纏わりつきます。外国兵が居なくなってからしつこく迫り、思い通りならないと捨て台詞。「お前達(僕と外国兵)に死ぬほど恥をかかせてやる」。教育者にあるまじき発言、こういう教育者は許せません。大江氏の「傍観者に対する嫌悪と侮蔑」を思い、胸を打たれます。最近では、交通機関の中での不祥事に、同乗者達が加害者を非難している報道をよく見聞きします。正義は健在だと思うと同時に、この火種を絶やさない社会にしたいものですね。 4.まとめ;本書は、大江氏の出発点となる作品で、芥川賞受賞、100万部超の大ベストセラーです。今回レビューを書くために再読。若い頃に読んだ時は、正直難解な作品でした。私は、6短編の中で、「人間の羊」に感銘。傍観者の❝他人事❞と言わんばかりの態度、歪んだ正義感を振りかざす教師。戦後間もない時の出来事と言えど、人間の醜さ・弱さに傷心です。大江さんは、ノーベル文学賞受賞後も、反原発デモの先頭に立つ等、行動する知識人としての人生を貫きました。書斎にこもる事なく行動し、発言し続けたのです。氏の作品が時代を超えて世界レベルで読み続けられる事を願います。(以上)
119投稿日: 2023.07.08
powered by ブクログ初・大江健三郎。国語の教科書に出てきそうなくらい文章が上手。一言で簡潔に言えるものを、叙情的かつ具体的に例えて言い換えているのがすごい。「かわいい」をもっと詳しくどんなふうにかわいいのか説明してる的な。その言葉が何を指しているのか考えなければならず、頭を空っぽにしてボーッと読めるわけではないけど、文章のリズムが非常によくメッセージ性もある。さすがノーベル賞を受賞するだけのことはあると感じた。 死者の奢り:大学生の僕が死体運搬のアルバイトをしたときの話で、水槽に浮かぶ死体や妊娠中の女子大生、12歳の少女の死体に漂う性的魅力など「生」と「死」の対比が見事。何より文章が上手。人生の真理や滑稽さも考えさせられる。 他人の足:脊椎カリエスの病棟で閉鎖的な日々を送る少年たちの元に新しく学生が入院し、外部との関わりを持つよう働きかけるが…。障害者と健常者、異常と正常という対立から人生の真理を追求。そこには厚い壁があってお互いに関わろうとしていないのが現実。自分の足で立つ人間は非人間的だ。 飼育:「町」か差別的な扱いを受ける谷底の村の人々が、黒人兵に対してまた差別的な扱いを行うという構造がおもしろい。短いけれど黒人兵との交流を通して親睦を深める様子がよくわかり、時には情欲的な何とも言えない感情が起こる描写も見事。生と死、子供と大人の違いなど、オチまで読むといろいろと考えさせられる。 人間の羊:当事者の気持ちを無視して勝手に盛り上がる外野との対比が見事。フィクションなのにノンフィクションかのようなリアルな心情描写で、ああいう教師みたいな迷惑おせっかいの人っているなと感じた。 不意の啞:外国兵に対する興味関心が、あるできごとをきっかけに急速に失われる。それは戦後の日本がどうなっていくのかという期待がなくなっていく様を表しているのかもしれない。権力・暴力を盾にするのは人間として非常に滑稽で、対等に語り合おうとしないのは穢らしい。 戦いの今日:読み終わってからタイトルをあらためて見ると「なるほど」と思う。戦いはまだ終わっていない。左翼は煽るだけ煽って責任を取らずただそのときの鬱憤をビラを撒くという行為で晴らしていたのかなと少し思った。米国人に情欲が掻き立てられても、結局日本人は米国人から侮辱され、対等の立場にはなり得ない。いつまで経っても日本人は負けるのだ。
2投稿日: 2023.06.25
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
死体処理のアルバイトの話「死者の奢り」、山奥に墜落した黒人兵と村人との間に起こった悲劇「飼育」のほか、「他人の足」「人間の羊」「不意の唖」「戦いの今日」の計六編収録。 これらの作品は「監禁されている状態、閉ざされた壁のなかに生きる状態を考えること」だったという。(「解説」より) 隔離病棟で鬱屈と暮らす少年たちのもとに新しい患者がやってきて、社会の注意を寄せようと活動を行うさまを描いた「他人の足」はわかりやすく面白い。 また、バスのなかで外国人兵から辱めを受けた青年に、その様子を傍観していた教員が、社会に公表するために恥をさらす犠牲を迫る「人間の羊」も、ぞっとする読後感。 「人間の羊」「不意の唖」「戦いの今日」は他者からの圧力に耐える(静かに反抗する)様子を描いている。(「戦いの今日」では耐えきれずに爆発してしまうが) 文節の順序、読点の少なさと位置などの影響で、修飾・被修飾の関係や目的語がわかりづらく、スムーズに読み進めるのが難しい。
1投稿日: 2023.06.24
powered by ブクログこれまで大江健三郎を読んだことがなかった。メガネをかけたいかにもものかきといった風貌が好きなれず、確か万延元年のフットボールを購入したが、読まずにそのまま本棚に突っ込んでいる。(はず)大江が亡くなられてこの際読んでおかなくてはと処女作を購入してみた。飼育、人間の羊、不意の唖、戦いの今日と戦中から戦後の占領下の状況とその中で翻弄される人々の生活に目を向ける視点が印象的だった。これから少しづつ大江も読んでいこうと思わせる大江ワールドの幕開けだった。
0投稿日: 2023.06.15
powered by ブクログ短編集ですが、後の作品になるにつれてどんどん面白く感じました。主人公は、みんな怒っていますね。最初の方の作品は、読点の位置が変わっていて読みづらく感じました。
0投稿日: 2023.06.01
powered by ブクログ心情の表現がすごい 一つ一つの動作や感情の起伏が生々しく芸術的に感じるけれど、結局意味を理解しきることは私には困難でした
0投稿日: 2023.05.09
powered by ブクログ大江健三郎は初読。 1作目から度肝を抜かれた。背景描写や心情描写があまりにも生々しい。作中の非日常世界をまるで自分が体験しているような錯覚に襲われる。これはノーベル賞を獲れるなと感嘆せざるを得ない。 芥川賞受賞の『飼育』を含む6作から成る短編集である。いずれも非常に読み応えがある。そして読みやすい。どれも珠玉の作品であることに疑いはないが、私は『人間の羊』『戦いの今日』が気に入った。 駐在米軍兵に羊のような辱めを受け、それをただ眺めていた教員を嫌悪する『人間の羊』。 朝鮮戦争を恐れる米兵を助ける羽目になった兄弟を描く『戦いの今日』。 どちらもされるがままの抑圧された人間と、抑圧する強者の関係性が強調されている。 大江の思想には共感できないが、彼の文章には政治的思想を超えた普遍的文学性があるように思える。
1投稿日: 2023.05.07
powered by ブクログ表題の2作を読んだ。飼育は芥川賞受賞ということだが、自分にはそれほど優れているようには思えなかったが、それは自分の理解度が低いということの証だと思う。
1投稿日: 2023.05.07
powered by ブクログ私の感じるところでは、大江健三郎の文体は非常に冷淡でありながら、吐き気を催すほど生々しく肉薄してくるところがある。 読むという行為を、ただ読むという行為に収めさせないほどの膂力を感じる。他の作家でも感じなかった訳ではないが、この程度は初めてだ。 今まで彼の本を読んでこなかったことを後悔している。他の著作も読んでいく。
6投稿日: 2023.04.11
powered by ブクログかつて、繰り返されるモチーフや同じテーマに新鮮味を感じなくなり、次第に飽きてしまった。 今読み返すと、社会の閉塞感や戦後のどうにもならない感情の息詰まり、それらと青年が対峙する世界をひしと感じる。 他の作品も読んでみようかと思う。
0投稿日: 2023.03.26
powered by ブクログ比喩的表現に圧巻。 ただあまりに多用にされるため、時に読みづらさを感じてしまう場面もあった。 個人的に整理したテーマは以下の通り。 『死者の奢り』:生と死の曖昧さ、その中間に生きる人間の葛藤。自分で生きているのすら曖昧なのに、新しくその上に曖昧さを生み出さなければならない重大さ。という女学生の言葉が刺さった。母になるとはすごい事だなと改めて感じたが、管理人が言うように人が生まれて死ぬ事にはなんの意味もない無駄なことなのかもしれない。 『他人の足』:障害者としての劣等感•隔絶•放棄→希望の創出→裏切り→隔絶 明るい方向性で話が終わるのかと思えば、少年の裏切りによってより深い悲しみへと追いやられる主人公。障害と共に生きることの厳しさを見せられたような気がした。 『飼育』:個人的には一番好き。『他人の足』同様、黒人兵への接近•裏切りを通して、主人公の少年が自身のアンファンテリズムと決別する。(大人)社会の厳しさを教えられた気持ちになる。映画、『グリーンマイル』を彷彿とさせる。 その他、傍観者に対する嫌悪と侮蔑。エゴイズムなど。 大江作品は初めて読んだが、現実世界に目を背け、夢物語で終わらない所が好き。他の作品も買ってるので早く読んでみたい。
3投稿日: 2023.03.19
powered by ブクログ芥川賞受賞作「飼育」を含む、最初期の短編集。戦中、戦後GHQ統制時代の色濃い背景の作品が並んでます。 大江健三郎未読だったので、今回、主要作品をおとな買いし、少しずつ読んでいきたいと思ってます。20代前半でこれだけ濃密な小説を書けるなんて、ほんと凄いですね。まあ、芥川賞を取る人は総じてお若い方が多いのだけど。 で、ネットでコメント見てると、大江さんの初期作品は難解だとか読みにくいとか結構出てますが、この1冊に限って全然それはなく、楽しく短時間で読めました。 確かに昔、「同時代ゲーム」にトライして音を上げた経験もあるのだけど、安部公房氏に比べると格段にわかりすいというのが個人的感想。 まあ自身の読解力が向上したせいだと思うようにしたい。 どれも読み応えのある短編6短編編だけど、表題となっている、「死者の奢り」「人間の羊」が特によかった。いくつかの作品に、黒人兵に対する差別表現や感情が出すぎていることは、進駐軍や朝鮮戦争動員での影響があるのかもしれないけど、今の時代での読書の隔世感という点で少し気になりました。 なかなか根が深くて感想らしい感想を書けません。自分にも大江健三郎を十分読めることがわかったのが最大の収穫ということでいいかとw
3投稿日: 2023.03.09
powered by ブクログ閉鎖的な環境にいる人々の心の動きを描いた短編集。こういう重たい本久しぶりに読んだ。 お目当てだった『飼育』は、ごちゃごちゃした文章でとっても読みにくかった。読みにくくて眠くなるのをこらえてどうにか読み切ったって感じ。この文体が味なんだろうけど私には合わなかった… 全編通して主人公の閉塞感とか虚無感が描かれており、中でも『人間の羊』はズンとくるお話だった。他の話は時代の違いを多分に感じたけど、正義感を振り回す傍観者への嫌悪みたいなのは今でもあるあるだよなぁと思う。 昭和34年発行ということで今ではありえない差別描写のオンパレードだった。人種差別がやばい。
2投稿日: 2023.01.31
powered by ブクログ最近の文学だけではなく、幅広く現代文学を…と思い手に取った本作。 昭和中期から平成後期までの日本文学を牽引したとされる、大江健三郎さんの芥川賞・受賞作品。 うーーーん…正直ちょっと面白さは良くわからなかったかなぁ… 圧倒的な文章の美しさっていうのは何となく感じることができたんですけど、なにせ文章自体の読みにくさと、全体的な暗さがシンドくて… 加えて、時代背景の分かりにくさというのも要因としてはあったのかもしれませんが… ただ、この作品を若干23歳で書き上げる非凡さというか…そのエグさは体験することができたかもなと(笑) 調べてみると、中期以降(「万延元年のフットボール」以降)から作風が変わっていて、そこからは前向きで明るい作品多いらしいです。 なので、再度そっちにはトライしてみようかな…と(´∀`) <印象に残った言葉> ・これらの死者たちは、死後ただちに火葬された死者とはちがっている、と僕は考えた。水槽に浮かんでいる死者たちは、完全な《物》の緻密さ、独立した感じを持っていた。死んですぐ火葬される死体は、これほどまでに完璧に《物》ではないだろう、と僕は思った。あれらは物と意識との曖昧な中間状態をゆっくりと推移しているのだ。それを急いで火葬してしまう。あれらには、すっかり物になってしまう時間がない。(P19) ・僕はもう子供ではない、という考えが啓示のように僕をみたした。兎唇との血まみれの戦、月夜の小鳥狩り、橇あそび、山犬の仔、それらはすべて子供のためのものなのだ。僕はその種の、世界との結びつき方とは無縁になってしまっている。(P156) ・僕は唐突な死、死者の表情、ある時には哀しみのそれ、ある時には微笑み、それらに急速に慣れてきていた、村の大人たちがそれらに慣れているように。(P160) <内容(「BOOK」データベースより)> 屍体処理室の水槽に浮き沈みする死骸群に託した屈折ある抒情「死者の奢り」、療養所の厚い壁に閉じこめられた脊椎カリエスの少年たちの哀歌「他人の足」、黒人兵と寒村の子供たちとの無残な悲劇「飼育」、バスの車中で発生した外国兵の愚行を傍観してしまう屈辱の味を描く「人間の羊」など6編を収める。学生時代に文壇にデビューしたノーベル賞作家の輝かしい芥川賞受賞作品集。
5投稿日: 2023.01.24
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
初めて大江作品を読んだが、具体的かつ特異な舞台設定に引き込まれる。 短編集ということもあり、閉塞→嫌悪や恐怖を孕んだ壁外からの刺激→親しみや恐怖の融解→猟奇の再発→死等をきっかけとした主人公の成長・解放という流れがとてもわかりやすく、無駄なく感情移入しやすい。 特に『飼育』『他人の足』『戦いの今日』が好きでした。 大江作品にハマるきっかけになりそうだ。
2投稿日: 2022.12.29
powered by ブクログこれを20代前半で書いた人間はどんな人生を生き、そしてどのような人間性でもってこれを書いたのだろうか。その疑問は本作の内容よりも私の心を捉えたが、残念ながら読めば読むほどわからなくなっていった。 読む前に、大江健三郎について私が持っていた手がかりというのは彼が愛媛の田舎の大自然のなかで育ったらしいということだけだった。私はそれがある程度本作の土壌を形成する要素となっているのだろうかと想定していたが、本書からその印象は全く感じられなかった。それよりもむしろ、村、僕の家、黒人が囚われていた監獄といった暗く四角い空間が生む暗鬱な閉塞感が強く印象に残った。
3投稿日: 2022.12.02
powered by ブクログ表題作を含む6編を収録。 主人公たちが遭遇した出来事は、冷静に見れば非日常的なことのはずなのに、彼らはすっかり慣れきってしまっているように見えた。なんだろう、感覚が麻痺しているような。 そして、読後は虚無感に襲われた。
5投稿日: 2022.11.23
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
『死者の奢り』はいきなり死者たちが全画面に現れたような衝撃で面食らった。死んでいるのに生々しいというのも妙だが、物質としてたしかに存在する生々しさ。女子学生の妊娠が明かされてからは本当に怖い小説に感じて引き込まれた。生と死の対比にクラクラする。 『他人の足』は、いるいるこういう人!と思った。突然現れて散々掻き回した挙げ句に責任取らずに去っていく人。一度希望を持たされた者たちの諦念はより深くなっただろう。 『飼育』は、見慣れない外国兵を捕らえるという降って湧いたイベントに対しての驚きと恐怖の描写が新鮮だった。子どもたちが好奇心を抑えられず兵士を食い入るように見つめる姿が目に浮かぶ。戦争にはほとんど関係ない集落と、もう闘志もない兵士がこんな風に敵同士になるのが苦しかった。こんな事誰も望んでいないのに。 特にこの三作が印象的だった。 戦中や戦後の閉塞感の中で理不尽や悲劇を徹底的に描き、貧しく息苦しい庶民の生活が目の前に展開されていく。決して楽しい出来事は起きないけれど、紛れもない生のエネルギーを終始感じた。
1投稿日: 2022.11.20
powered by ブクログ川端康成に続く、日本2人目のノーベル文学賞受賞作家・大江健三郎氏の短編集。 文壇デビューし脚光を浴びるきっかけとなった"飼育"等の作品が収録されています。 大江健三郎氏の作風は閉鎖的で、自由をつかめる保証がないまま閉ざされた壁の中にいるような不安を与えてきます。 初期短編の本作収録の作品はその傾向が顕著で、屍体処理室で、療養所の中で、寒村で、様々なシチュエーションでそれが描かれます。 文体は自然で流暢、流れるように書かれており、一方で説明的ではなく、情景がスイスイと脳内に展開されます。 非常に読みやすく、だけどしっかりとした骨格を持っています。 読むと夢中になり気がつくと読み終え、心に大きな楔を残す、そんな作品だらけでした。 各作品の感想は以下の通りです。 ・死者の奢り... 大江健三郎氏の代表作、というわけではないのですが、非常に有名な作品だと思います。 私自身も、氏の作品は"飼育"より先に、本作を先に知りました。 主人公は医学部の地下にあるアルコール水槽に保存された、解剖用の死体処理のアルバイトに応募します。 同じようにアルバイトに応募した女学生と処理していくのですが、彼は休憩時間にその女学生に今妊娠していることを打ち明けられ、堕胎させる費用を稼ぐために応募したことを告げられます。 ただ、死体を処理していくうちにだんだんやりきれない気持ちになっていく。 薄暗くアルコール臭の強い地下で、自分の不器用さを責められながら、主人公は異様な光景、異常な状況に慣れてきます。 閉塞感、息苦しさがずっとそばにありながら、その中で生きるしか無い言いしれぬ不安が表現された傑作ですね。 "死体洗いのアルバイト"という都市伝説の元ネタとも言われている作品で、その経緯で私も知りました。 本作で書かれているのは"死体洗い"ではないのですが、イメージが先行して噂として広がってもおかしくない奇妙な作品だと思います。 ・他人の足... 脊椎カリエス専用の療養所が舞台の短編です。 そこに入所している若者たちは皆、歩くことができず、厚い壁に囲まれたその施設で大人しく暮らしていました。 そんな中、新しい患者が入所するのですが、彼はなんの思想も持たずに生きる患者たちを批判し、外社会と繋がりを持つよう働きかけを起こします。 主人公はそれがおもしろくなく、傍観するのですが、次々新しいことを生み出す彼によって、療養所の空気が変わってゆくという展開です。 もちろんそのまま大団円とはいかず、結局のところ何かが変わることはないまま終わります。 主人公の「ほらな」という声が聞こえてきそうな最後に恐ろしさを感じます。 この閉ざされた空間で何をやろうと何も変わらないなら、今ある怠惰を貪るのは、それは正解なのかもしれないという強い説得力を感じました。 ・飼育... 大江健三郎氏の代表作であり、芥川賞受賞作。 森の奥の寒村上空でアメリカ機が撃墜され、中から黒人兵が降りてくる。 捕らえた黒人兵の処置について県から連絡が来るまでの間、その黒人兵は村で飼うことになる。 主人公は村の少年で、黒人兵は彼の家の地下倉で飼うことになります。 最初はその出で立ちに恐怖を感じていた村の人々ですが、少しずつ人々と人間的なふれあいをしてゆきます。 そんな折に、県から黒人兵の移送命令が決まるが、という展開です。 初期の作品と思えないほど、素晴らしく読みやすいです。 そして、寒村に飼育された黒人という閉ざされた空間に現れた異質が、少しずつ和んでゆく描写は見事です。 戦争相手とは言え、人と人であり、"言いしれぬ不安"という意味ではそれほど無いのかなと思います。 ただ、ラストは悲しいものがありました。 飼いならされた猛獣のような存在だったのが、追い詰められて牙を剥く黒人兵の気持ちを、主人公は恐怖しながらも理解していたのではないか。 その意思疎通も含めて『飼育』というタイトルに込めた思いなのではないかと思いました。 ・人間の羊... あるバスの中で行われた、外国兵による虐待行為。 その犠牲者となったある男と、それを傍観していたが声を出せなかったことを悔やむ正義感の強い教員の話です。 教員は犠牲者の男に、外国兵を罪をしかるべき場所に訴えるため、協力を仰ぐのですが、男は忘れたい一心で逃げ惑います。 眼の前で起きていたときは傍観をしていたのにも関わらず、終わったあとで正義感を振りかざし、理念を語って行動を呼びかけるという、皮肉的なものを作品からは感じました。被害者でもない傍観者が、訴えを起こす権利がどこにあるのか、その迷惑さや、嫌悪感、侮蔑が込められた作品だと思います。 ・不意の啞... 収録作の中では最も短いですが、最も不気味な作品です。 本作も外国兵が登場する作品なのですが、スポットとなるのはその付添の通訳です。 ある谷間の村にジープでやってきた米兵と通訳は、その村に立ち寄り休息を取ることになる。 感じの悪い通訳は、ある日、川遊びの後で自分の靴がなくなっている事に気づき、盗まれたと考える。 村の長は誰も取っていないと主張するが、それをにわかに信じることができない通訳は、ついに長を撃ち殺してしまう。 村民たちは、その依頼、押し黙ってしまう、何かを計画するように。 いつものクローズドな空間に異物が入り込むシチュエーションですが、他作品と異なり不気味な復讐劇が描かれます。 文学というよりも読み物として面白い作品だと思いました。 ・戦いの今日... こちらも外国兵と日本人というおなじみのシチュエーションが描かれた作品です。 兄弟が米軍基地近くで、脱走の手助けをする旨のパンフレットを配っているシーンから始まります。 それに乗ったのが一人の米兵で、彼は日本人のパンパンを通してコンタクトしてきます。 本気で脱走したいと言い出す米兵が現れることを予期していなかった学生運動の首謀者は、その脱走兵の処遇を兄弟に押し付けます。 そして、兄弟と脱走兵、パンパンの女との、奇妙な共同生活が始まります。 作中舞台となる場所は閉ざされておらず、他の作品とは少し毛色が違うと感じました。 また、本書収録作の中では、個人的には比較的読みにくく感じました。 "死者の奢り"や"飼育"のような、漠然とした不安をくすぐるような作品が好みの自分としては、どちらかというと苦手な作品です。 ラストは、思想を持って活動していた学生だが、彼らは所詮は部外者であるという現実を突きつけるような終わり方でした。 一緒に過ごして、深層心理的に外国兵に惹かれる主人公でしたが、そういう面が見えていただけに、悲しい物語であるように思いました。
2投稿日: 2022.07.29
powered by ブクログ『死者の奢り』と『他人の足』が大好きです。 とにかく救いがない。そもそも救いが訪れるような事象でもなければ、救われるような行動も取っていないし、登場人物救われるような立場にいるとも思ってないから。 戸惑いとか嫉妬とか生きてれば抱える他人に対する未練のようなわざわざ言語化しない(したくない)モヤモヤした負の感情をを全部だしてるような。 主人公たちはみんな別段性格の悪い人たちではなく、普通の青少年だということも伝わってきます。 読者は勝手に物語を哀れ(?)んでいるけれど、物語は現状特に変わらない感じが現実的で、一瞬夢を見ていたかのような感覚になる。 私が小説ではなにか劇的なことが起こると思い込んでいたのだと思います。 小説自体も面白かったですが、読んだ人たちの感想とか心理とかも気になる本でした。
1投稿日: 2022.07.06
powered by ブクログデビュー作の「死者の奢り」。死体処理室のホルマリンプールに浮いた死体を移動させるアルバイトという設定にいきなり引き込まれる。あり得ない筈なのだが、巧みな表現を通して光景が目に浮かぶ。芥川賞作品の「飼育」より、個人的にはこちらの方が印象に残った。
1投稿日: 2022.03.26
powered by ブクログ短編集ですが、 特に飼育はやはり目を張るものがあります。 『不意の唖』は人間の性を現している様な気がします。それぞれ最後のお話まで戦争をテーマに人種問題もピックアップされているようで、 日本は関係なくはなく、世界は繋がってるんだと感じました。
1投稿日: 2022.02.27
powered by ブクログ自分にとって大江作品初体験の作品。 芥川賞受賞作「飼育」や処女作「死者の奢り」を初めとした6つの短篇が収められている。 どの作品にも感じられる主人公の置かれる他者からの差別の念との葛藤。また特に描かれるのは戦中戦後派作家だけあり、米国人に対する恐怖と彼等に蔑まれることから生まれる日本人としての恥とへつらいに如何にして折り合っていくかと言う内省。 外国人を他者として描かれる作品として、文学的表現、ストーリーテリング、哲学観にも最も優れたのは芥川賞受賞作である「飼育」に違いないが、自分が好んだのは「人間の羊」と言う短篇。 バスの中で荒げる外国人兵に脅され、四つん這いで下肢を晒される主人公を含む日本人乗客者たち。散々外国人兵に蔑まれ屈辱から消えてしまいたい主人公の念。それにもかかわらず傍観者となった他の日本人乗客の一人の教員の男に正義感を振りかざされ、この事態を世に訴えるべきだと振り回される。だが主人公はかかされたその恥から一刻も早く逃れてしまいたい。 世の虐めの現場で僕はよくある事態だと感ずる。傍観者が第三者だけでしかなく救いの手をその場では差し伸べないのに、正義感面をして自己満足で虐められた人間を振り回す。虐められた側にとってこれ程の屈辱は無い。 大江がこの信義を「人間の羊」の中で、人の世の正義の傲慢さとして描き出してくれた事に僕は感謝するし、その洞察に敬意を払う。今更だが見逃せない作家として彼の書を今後も手に取っていきたいと思う。
3投稿日: 2022.02.20
powered by ブクログ個人的には芥川賞受賞作品の「飼育」と「人間の羊」が特に印象に残った。 大江健三郎さんの作品はこれが初めてだが、独特な比喩表現が時には難解ではあったがどの作品も惹き込まれるような雰囲気があった。 他の作家作品にはないような設定がまた面白かった。
2投稿日: 2022.02.09
powered by ブクログ他人の足が1番好きでした。 最初はあんまり意味わかんね〜なって思いながら読んでたのが、どの作品もいつの間にか夢中になっていきました。なんかどれも良い気持ちで終わらないのが良いっすね。めちゃおもろかったす。
2投稿日: 2022.01.25
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
他人の足が面白い。同志だと思っていた仲間が贋物だとわかった瞬間や気持ち悪くて卑しく終わっていく最後がたまらなかった。 人間の羊も良かった。最初は正義感の為に動いていた教員が次第に壊れていく様はとても怖かった。
1投稿日: 2022.01.24
powered by ブクログはじめての大江健三郎、 比喩、隠喩がかたく無骨な感じ。 やっぱり男の人の書く文章がすき。 人間の物質的な皮膚や匂いや汗、皺、表情、感情の表し方が鮮明で刺さり込んでくるような文章。 複雑な感情が入り混じった情景。 硬い渋い表現で、でもものすごく立体感がある。 強烈な、インパクトのある物語が多かった。 戦争時代を感じさせる情景、雑多で不潔で荒々しい様。 これを20代前半で書いていたなんて、すごい。 ・健康さが、僕の躰の中で幾たびも快楽的な身震いを起こした。 ・狂気のような期待、熱い酔いのような感情が皮膚の裏をぱちぱち弾けながら駆け回った。 ・小さなあくびがいくつも僕らの細い喉へあふれ、その度に僕らは透明で意味のない涙を流すのだった。
2投稿日: 2021.12.18
powered by ブクログあまりに暗く重たいテーマばかりで一つ一つが衝撃的だった。戦中戦後の村社会、敗戦国民である日本人が背負う心の闇、社会の闇など改めて考えさせられた。この様な闇や社会問題を抱えながら高度成長を遂げ現在に至る事を痛感し、そして忘れてはならないのだと思う。 『死者の奢り』で死体処理の仕事を蔑む発言をする大学教授、『他人の足』で脊椎カリエスの少年達の閉鎖された空間における日常は印象的且つ衝撃的。『人間の羊』における正義感が間違った方向に一人歩きする様は、現在のコロナ禍における「自粛警察」という言葉を思い起こさせた。
2投稿日: 2021.11.18
powered by ブクログ薄暗くてじめじめとした雰囲気が作品全体から感じられる。一つ一つの作品に粘着質でずっしりとした重みがあって、考えさせられる。おすすめです。
3投稿日: 2021.10.29
powered by ブクログなんだかんだ大江作品を読了しきれなかったまま来たようで 短編集に改めて向き合ってみると、なるほど確かにといった感覚と同時に 個人的な嗜好として長編で読むにはくたびれそうだとも思わされた。
1投稿日: 2021.09.03
powered by ブクログ特に死者の奢りが素晴らしかった。どこか突き放した様な、でも肉薄してくる表現、文章。短編でなかったら、星5だったと思う。
2投稿日: 2021.07.11
powered by ブクログ2020.1.31 大江健三郎の主題とする「分断と閉塞感」が一挙に伝わる内容だった。 詳細な分析はこれからしていくので以下はメモ。 ・三人称視点の構造 ・触覚的な分断表現 ・軽蔑に似た排他表現
2投稿日: 2021.01.31
powered by ブクログ個人的にかなり好きな短編集だった。 内容の重く暗く救えないような空気感とは裏腹に 大江健三郎さんの文章があまりに綺麗。 自分はこんな言い回しが思い付くか?出来るか?と 考え込んでしまうくらい、表現に溢れていた。 特に好きなのは「人間の羊」。
6投稿日: 2021.01.27
powered by ブクログ何気ない描写や書きぶりから生々しさというか、エロさというものが溢れ出していた。文学作品は、その作品に描かれている一種の「暗さ」みたいなものに惹かれる。
1投稿日: 2020.12.27
powered by ブクログタイトルにもなっている大学の死体処理室のアルバイトを始めた学生の登場する「死者の驕り」など、後味の悪さが残る短編が収録された作品。 アメリカ兵が登場する話が目立つが、一番印象に残っているのは「他人の足」で、この話だけ明らかに異質。というか、現代人に置き換えても全く違和感なく、むしろ共感を覚えてしまう。 閉塞的なコミュニティの中で生じる「仲間」という存在について考えさせられるこの話があるだけで、読む価値のある一冊だと思う。
2投稿日: 2020.10.17
powered by ブクログ戦争中の、閉塞された壁の中にいる人々を描いている。6つある作品の、どれを読んでも救いがない。ほんの一瞬見えた希望も、ことごとく打ち砕かれてしまう。読むのは簡単だけど、理解するのは難解。これを読んで、何を思えば良いのかもわからない。それでも読み進めずにいられない、不思議な力がある。
3投稿日: 2020.07.16
powered by ブクログ私のような戦争戦後体験がなく、そして人生経験も少なく、さらに読書初心者にとっては、かなり辛い読書体験になりました。 むずかしいと聞いていた大江健三郎さんですが、文章とストーリーの難しさはあまり感じませんでいた。 なにが辛かったかというと、時代を反映し全体に流れている「卑屈さ」みたいなものだったように思います。 それは敗戦国に命あるものとしての卑屈さ、でしょうか。息が詰まるような閉塞感とその継続からくる諦めみたいなものが人物の心理に通底しているような気がしました。 この読書には感動も発見もありません。しかし、自分と全然重なるところはないのに、どうしてか共感ができるような心境になってしまいます。置かれた状況は全く異なりますが、ただ、なんとなく、自分と一緒だ、と思うところがあるのです。
5投稿日: 2020.05.21
powered by ブクログ読んでも正直よくわからない。大江健三郎氏をサルトル的実存主義文学と称すらしいがそれもどういうことかよくわからない。でも不思議と読み進めてしまう。何か深淵な漆黒のどす黒い人間の負の感情が蠢いているような奇妙な魔力がある。「死体の奢り」が処女作というのも驚きだ。そりゃノーベル文学賞もとるわけだ。 彼独特の視点による文章や自在に切り替わる視点も凄いが、「人間の羊」や「戦いの今日」で描かれる負の感情の連鎖が凄まじい。感情の対象となる原因発生、ストックホルム症候群に似た被害者らの連帯感(懺悔)、感情の反転とすり替え、そして虚脱、この一連の変遷の捉え方と表現が見事だ。すべて気が滅入るようなテーマではあるが文学とはかくあるべきといえる作品である。
8投稿日: 2020.02.20
powered by ブクログどっしりとしていて重厚な文章。 描写のしかたは流石に凄い。 昭和初期のワケわかめな文学的話でもなく きちんとストーリーのあるお話。 なのだが、暗いよー。 楽しさや爽やかな読後感を求めている人には不向き。
1投稿日: 2019.11.03
powered by ブクログ「死者の奢り」 死体をリアリティを持ちながらも艶めかしく描いているような描写が多い。 生と死について考えさせられる。生と死の境界は何なのか。 短くまとまっていて読みやすいが死体になって物のように扱われる(誰しもがそうなる)自分の未来が、何故か怖くなった。
2投稿日: 2019.09.04
powered by ブクログ読後感が深く残る短編集。 どの短編作品も重々しく、時には嗚咽を覚えるような嫌悪感さえある。どうしようもなく暗く荒んだ気分になるが、退廃的な世界感が最初から最後まで引きつける。
3投稿日: 2019.04.19
powered by ブクログ知り合いの脚本・演出家さんが挙げてくれた1冊。 この作品は純文学の時代を受け継いでいるような文体で描かれてます。 いわゆる、物語を楽しむというより表現を楽しむ感覚のもの。 最初はなかなか読む手が進まず(笑) でも、慣れてくると今の小説では感じられない世界が見えます。 なんとなくこの時代の文学は靄がかった、灰色のような世界をイメージしてしまう。 白黒映画のような映像が浮かんでくるのは僕だけかな?
0投稿日: 2019.01.27
powered by ブクログ初めて大江作品を読んだ。 これを読んだ記憶は、そうそう消えないだろう。 読みやすく、ぐいぐい読める。 気づくと、沼みたいなものにハマっている。
1投稿日: 2018.12.14
powered by ブクログ大江健三郎やばい。なんやこの舞台設定と内面の動きは。恥ずかしながら今更やけど出会えて良かった。 どの作品も生と性と死がもれなく出てきてて、この三つは人間にとって根源的にセットなんだなと改めて思わされる。 どれも良かったけど、『飼育』『他人の足』『人間の羊』『不意の啞』が特に。(ほとんどやん。)もっと知りたい作家です。
0投稿日: 2018.10.20
powered by ブクログ"閉じられた世界、空間とその外の世界との干渉"ていうのがこの6篇のひとつのテーマなのだろうか?? それから、ありふれたものを得体の知れない表現で描写されているところに著者の(当時の)思想、世界観を垣間見た。 なんと言ってもこれが大学在学中に執筆されたものとは到底思えない。すごい。
0投稿日: 2018.10.04
powered by ブクログ大江健三郎氏のデビュー作である「死者の奢り」他芥川賞受賞作品「飼育」他短編集。 戦中、または戦後の米軍占領下の日本を描く。いずれの作品も閉塞感に満ち、閉じられた社会を舞台としている。全体的に世界観が重苦しく、若干の読みにくさはあるが、若干大学生でこのような作品を描けることに驚愕。 個人的には「飼育」「人間の羊」が興味深かった。
0投稿日: 2018.08.26
powered by ブクログ大江健三郎(1935-)の初期短篇。人間の孤独や政治の欺瞞の在りようが、読み手の五官の神経(特に触覚と嗅覚)や臓器感覚に訴えかけてくるような独特な表現を通して、描かれている。 □「死者の奢り」 死んでしまった《物》と生きている《人間》と、その二者に間にはどれくらいの距離があるのか。死体を前にして、青年は観念的に、妊娠している女子学生は胎児を下腹に感じながら、死体処理歴30年の管理人は自分の子や孫を想像しつつ、それぞれが死と生との距離を測ろうとしているように見える。《人間》はいずれはみな死んでしまうのだから、《物》との距離は然程遠くはないのか。しかし、意識を備えている《他者》は、《物》とは異なり、別の意識の持ち主である《私》が発する眼差しや思惑を撥ねつけ調和を拒もうとする。生は希望のない徒労のようなものなのか。冒頭の死体処理室の描写が妙に美しく感じられ、アニメーションで観てみたいという気持ちになった。 「あれは生きている人間だ。そして生きている人間、意識を供えている人間は躰の周りに厚い粘液質の膜を持ってい、僕を拒む、と僕は考えた」 □「他人の足」 物語の冒頭、脊椎カリエス療養所は、少年たちにとってまるで母の子宮であり、彼らはその羊水のなかを揺蕩っているような、生活への不安も「健常」への強迫観念もない、無時間的で、重ぼったく惚けたような安逸に包まれた、或る種のユートピアのように描かれる。「僕らには外部がなかったのだといっていい」。しかし、如何なる自閉的な《内部》に退却してみようとも、《政治》から逃れることはできない。《他者》としての学生が闖入して以来、「凡てが少しずつ、しかし執拗に変り始め、外部が頭をもたげたのだ」。そこには《政治》にまつわる欺瞞もあれば、正義の名のもとの全体主義化だって起こり得るだろう。我々はどこにいても《政治》に対して無垢では在り得ない。この意味では、我々には《政治の外部》はない。 世界とは、あらゆる《外部》性の閉包であり、それ故にもはや《外部》の余地が残されていないもの、と云えるのではないか。 「この男は外部から来たんだ、粘液質の厚い壁の外部から、と僕は思った。そして、躰の周りには外部の空気をしっかり纏いつかせている」 □「飼育」 読んでいてぎょっとさせられるほど残酷な物語であるが、詩的に美しく昇華されているようでもある。事件を通して少年はもはや子どもではなくなるが、そこで彼が喪失したものを思うと、そしてその喪失を通して果たされることとなった成長ということの彼にとっての意味を思うと、哀しくなる。前二作に比べて、一文の中に比喩が多くなったりまた長い修飾節が挿入されたりと、意識的に凝ったであろう文体が読みづらく感じられた。 「僕はもう子供ではない、という考えが啓示のように僕をみたした。兎口との血まみれの戦、月夜の小鳥狩り、橇遊び、山犬の仔、それらすべては子供のためのものなのだ。僕はその種の、世界との結びつき方とは無縁になってしまっている」 □「人間の羊」 読んでいて苦々しい気持ちにさせられる。腕力を振るう物理的な暴力も特定価値を押し付ける政治的な暴力も、どちらも他者の人格を無視したところで可能となるものであり、エゴイズムそのものであることには変わらない。体験から被る衝撃は、ときに人から言葉を奪う。自己を無化する暴力的な世界を自分の理性で解釈し(再)構築することを、億劫がり拒否してしまう。当の屈辱が自分の言語によって何かしら言い訳がましく別物にすり替えられるような仕方で再現されてしまうことは、それ自体が再度の屈辱となってしまうから。 「啞、不意の啞に僕ら《羊たち》はなってしまっていたのだ」 □「不意の唖」「戦いの今日」 「飼育」「人間の羊」もそうだが、当時の大江は、あるいは敗戦から間もない当時の日本人は、米兵に対してどのような感情を抱いていたのだろうか、と思わされた。根底にあるのは、敗戦国の劣等感だろうか、恐怖心だろうか。それとも作中の米兵とは、別の何かの象徴だろうか。ただこうしたどぎつい物語の中に、作者の屈折した拘泥のようなものが顕れてしまっているのは、確かだろうと思う。
2投稿日: 2018.07.28
powered by ブクログむかし読んだものにも感想を付していこうと思う。思えばこれが大江との出会いだった。粘着性の物体が、内と外とを癒合する。
0投稿日: 2018.06.16
powered by ブクログ全編を通じて「自尊心」があぶり出されているんじゃないかと邪推。死者だから、教授だから、管理人だから、黒人だから、障害者だから、米兵だから、傍観者だから、通訳だから、主人公とトラブルになる奴全員が何らかの自分にない特権を持っていて、その立場からの物言いや行動が「自尊心」をキーワードに絡み合っていってるような。 印象的なのは「人間の羊」のラストシーン。教員の怒りが「外国人になめられてたまるか」から「俺をなめるなよ(普段からなめられてるのか?)」にすり替わるところ。最後そうなるかーっていう。 「死者の奢り」の管理人もいいキャラ出してる。普段から死体なんて幾らでも取り扱うはずの医学部が、死体にまつわる仕事をしている人を蔑視するシーンを際立たせているのは何か意図を感じる。30年やって来た死体管理人をむちゃくちゃ軽くクビにしちゃう教授と、結局屈さざるを得ない死体管理人のところとか。 自尊心と差別心はとても近いところにあるわけで、外国人差別、人種差別、部落差別、障害者差別…時代背景別にしても、逃れようのない自尊心の回復と回帰が鮮明に描かれているなと思った。 解説にあるようなサルトルの実存主義には詳しくないけど、似ているところもあるんじゃないか。
0投稿日: 2018.02.28
powered by ブクログ正直難しかった。 ただ人間の羊と不意の啞は比較的読みやすくて面白かった。 戦後の混乱期って年数にしたらそんなに昔じゃないけど日本て短い間にものすごく変わっていったんだなぁってきがした。
0投稿日: 2017.10.09
powered by ブクログ飼育のみの感想。この作者は「子どもの心」を描くのが上手いと思います。それを作品の構造に持ち込むのも上手いと思います。「子どもの心」=「作中の僕」から、大人≒世間の理不尽さ・暴力性を描いていると思います。 「大人」が「子ども」を囲い込むのが、世間の基本だと思いますが、この作品では黒人兵=闖入者の存在により、「大人」が「子ども」を囲い込むのは変わりませんが、「大人」が自分達の「共同体」・「しきたり」よりも大きい社会的存在に囲い込まれるシーンが度々ありました。村の「共同体」・「しきたり」の癌的存在の黒人兵が、おそらく「大人」が社会的存在に囲い込まれているため、黒人兵をどう処置するか定められない期間(猶予)、特に子ども同士の連帯の中心に黒人兵が存在していました。 これと類似した連帯は、現代でも時々存在すると思います。最も大人が「猶予」を破壊したり、闖入者=黒人兵が騒動を起こしたり、去ると、そこで連帯は崩れると思います。この作品では、連帯が崩れた後、「大人」は、死んだ黒人兵の処置に困り、「子ども」は、黒人兵が残した飛行機の残骸で遊んでいました(新しい遊び)。ここに「大人と子ども」それぞれの残酷さが表現されていると思います。大江さんは、トリックスターを描きたい・そういった人物に憧れているのかな?
0投稿日: 2017.08.18
powered by ブクログ人は自分に無いものを前にすると生き方全てを曝け出す。 それはどんなに目を背けても必ず自分に返ってくる。 この本の内容を痛いとも辛いとも思う自分は傲慢だったのだ
6投稿日: 2017.05.03
powered by ブクログ見えないぬるぬるの壁に隔てられた人々を、暗い側から見ている短編集。周囲が無音になる読後感。特に人間の羊が良い。
1投稿日: 2017.02.27
powered by ブクログ死者の奢り…献体の移し替え作業をしつつ、献体を観察する文学部の学生、淡々と作業をする妊娠中の女子医大生と献体室の管理者。途中で若い女性の遺体が献体にするために運び込まれ、さっきまで生きていたのに献体というモノになるのか、と考える主人公… 飼育…墜落した米軍機から黒人米兵がみつかり、村で飼育し、最初は恐怖、そして打ち解けるが黒人米兵の処分がくだったとき、主人公は信頼していた米兵に捕虜にとられ、村人は主人公を解放させようとするが、米兵を殺し主人公の腕も砕いてしまう。 その他米兵に辱めをうけた人たちとそれを傍観する人たちわ描いた人間の羊など。 どれも自分以外を見下すような部分があって、あまり相容れない作品だった
0投稿日: 2016.04.14
powered by ブクログ人は死んでからは結局只の物質と成り果てる。。。生々しい死が描かれている作品です。人の死に関しては、現在はなるべく避けるような傾向がある気がしますが、逆に人の死に直面することによって、今授かっている生を大事にしようという気持ちが芽生えるのではないでしょうか。
0投稿日: 2016.03.18
powered by ブクログ数年前から「死者の奢り」が気になりつつ、でも手を出せていなかったので、やっと読めました。 大江健三郎といえば「死者の奢り」みたいなイメージがあったけど、他の話もしっかり面白い。 「人間の羊」は不条理すぎて笑ってしまいました。
0投稿日: 2016.02.11
powered by ブクログ初めて読んだ作者。 全編の濃さと存在感がすごい。読むのに時間がかかったけど、かなり好きになった。 言葉選びが本当に絶妙。 ずっと自分の中にもあったけどボヤッとしてたものに、 その的確な表現で持って輪郭を与えてくれた感じ。 そういう点での快感と、内容は終始おどろおどろしく。。 いやぁ。良かったです。 今度きっともう一度読む。
1投稿日: 2016.01.29
powered by ブクログ一度、他の作品で、大江健三郎を手に取ったことがあったが、冒頭から自慰行為という描写に挫折し、後年、本書でリベンジ。 相変わらず、息苦しくなる様な、重苦しさを感じる気持ち悪さが、文中に低く漂っていて、その鈍よりとした空気を更に強くさせる内容に胸焼けさえ覚えそうになる。短編なのにライトノベル一冊以上の濃さというのか、読了感というのか、印象が強く残る。カロリーで言えば、大量のトコロテンと脂身の多い少量のステーキくらいの差があるだろうか。 「死体の奢り」「他人の足」「飼育」「人間の羊」「不意の唖」「戦いの今日」いずれも後味の悪い不条理な終わり方で、閉塞的。黒人や外国人という存在が散見するのは、彼の作品の特徴だろう。異質な存在との邂逅。戦中戦後の人種差別意識。どうにも出来ない状況下。そういった中での対面、抗争や抵抗にも似た行動が物語の始点になっている。よく見ると整ったストーリーだが、それを出来る限り複雑にした入り組んだ畝った鬱陶しさ。今はまだ難解、表層か中層までしか見えていない様な気さえする。 同じくノーベル賞作家の川端康成は、古来からある日本独自の美しさのエロティシズムを追求した結果の受賞だと個人的には思っているが、大江健三郎は混沌とした戦争の時代に生まれた人間だからこそ追求出来、また周りからも理解される、本能的には存在していたが誰も気付かなかった醜さ(または類した見た目)から見出される気持ち悪い美しさという新たな価値を確認させる作家だからこそ今の地位があるのかな、と思う。 芥川賞の選考委員は、「大江くんは別格だから、あげる必要も無い」との様なことを述べていたが、確かに留年こそしているが、大学生のうちに書ける力量というのは、底知れない恐ろしさがある。
0投稿日: 2015.12.05
powered by ブクログ都市伝説「死体洗いのアルバイト」のもとになった一つとされる『死者の奢り』。 興味本位で読み始めたが、そんな下世話な民間伝承を忘れさせる濃密な文芸作品。 とどのつまりテーマは、職場はあそこでなくとも成り立つは成り立つ。 がしかし、臨時バイト学生2人のうち1人は堕胎を検討している女学生。 この女学生と解剖用死体、ただ日々学生している男子、そして徒労。 このコントラストが、絶妙に効いていると感じる。 ただ、この地下の異様な空間と強烈な匂いと体験は、都市伝説向きと言える。 想像しやすいモチーフは、口伝するに容易だからだ。 かといって、この作品を都市伝説の元凶視をするつもりは僕にはない。 題名にもなっている『飼育』を始め、人間の尊厳とは何か考えさせられる短編集。 全体的に密室的な閉塞感と、息詰まる濃密な空気と臭気とわずかなエロス。 毛穴ひとつ、心の襞ひとつさえ、描き切るような描写。 婉曲的で暗喩が篭った文章が的確に心理を描写、独特の魅力を放つ作品群。 この本には、非日常へと裏返す恐怖が痛い視線を背後に突き付ける様に存在する。
0投稿日: 2015.07.15
powered by ブクログムツゴロウさんが「作家になるのを諦めた」としても有名な著作ですね。 閉塞的な世界に異質なものが飛び込んできた時の人々の振る舞いが不気味に描かれています。 まだこの頃の大江健三郎氏の文章は読みにくくはないのでサクサク読めます。
0投稿日: 2015.06.15
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
タイトルに惹かれて読んでみたが、さっぱり。 著名なノーベル文学賞作家のデビュー作「死者の奢り」。学生でこれだけ書けるのは異能だと思うけど、変質者の思考を覗いているみたいで気分が悪かった。 死体運びのバイトの学生のその徒労が無益に終わる話。大江は「万延元年の…」を初読したときに、露骨に性的なことが書いてあってぎょっとしたのだが。やっぱり合わない作家だなと思った。
0投稿日: 2015.04.02
powered by ブクログ社会的な立場や状況によって規定される人間関係の揺らぎみたいのが、生々しい。理不尽さとか、いらだちとか、期待とか。
0投稿日: 2014.10.27
powered by ブクログ六篇の作品の中で面白いと感じられたのは三篇。 死者の奢り、他人の足、不意の唖。 同年代に生まれていたら、印象が違ったかもしれない。 飼育は終わりが良かった。 死者の奢り 冒頭の描写の重厚さに引き込まれる。粘液質に覆われた生者が≪物≫と違って張りのある感情を持ち得ることがこの上なく素晴らしいことのように感じられる一方、とてつもなく煩わしい。僕が経験する出来事には多くのテーマが内包されているが、共通して表現されているのは生きていく上での面倒、煩雑さであるように思う。 作中で一番心に残ったのは、なぜか、僕がギプスを躰中にはめた‘少年’の顔を覗き込む場面である。
0投稿日: 2014.09.20
powered by ブクログすごくどきどきした。 描写がすごく丁寧だ。閉鎖された空間の中で登場人物の移り変わっていく心情がぞわぞわと伝わってきて、気持ちが動かされる。特に、恥ずかしさを感じるところや黙り込むようなところの描写がじわじわと印象に残る。戦後の作家だと感じる部分も多い。全体的にとても緻密というかふわっとしたところが一切ない文体と構成で、読んでいて緊張感がある。と感じた。濃密。
0投稿日: 2014.08.12
powered by ブクログどれも、恐らくは1957年58年くらい、作者が23歳くらいで発表された短編・中編。 昔なら、僕の息子でもおかしくない年齢。 「これを22歳23歳で書いたのかぁ?」 …と、びっくり。どれも、息を呑む面白い小説でした。 肉屋に行って、「豆腐が無い」といちゃもんをつけても大人げない訳で。 もちろん、何かしらか欠けているもの、無い要素、は、あります。 ユーモアが無いだとか、軽さが無いだとか、暗いだとか、救いが無い、だとか。 でも、小説として大変に読ませる力があることは、およそ60年が過ぎても、確かだと思いました。 以下、簡単に内容の備忘録。 『死者の奢り』 とある大学(まあ、東京大学なんでしょう)。 医学部で、保存している死体の、移動というアルバイトをすることになった主人公。 その仕事をずっとやっている、父親世代の作業員と一緒に。 当然気味が悪い。何だか死体の声が聞こえる気がする。 同じアルバイトをしている女子大生は、実は妊娠していて堕胎しようとしている。 女子大生が体調が悪くなったり、作業にミスがあったりする。 主人公の観念的な思いの中で、つい12年前くらいの戦争での死、ひいてはその犠牲の上に生きている自分たち、みたいな思いがあったり。 女子大生との、「生きていく活力や希望を見いだせない重たい思い」の会話があったり。 そして、エリートである自分と、ブルーカラーである作業員との違いなどが見える。 『他人の足』 とある、田舎のサナトリウム的な医療機関。 そこは、主人公の「私」を含めて、脊椎カリエスなどで、下半身が動かない若者たちが暮らしている。 移動、排せつ、全てが看護婦にお世話にならなければ生きていけない。 人生の将来への前向きな思いを抱きようがない停滞した場所。 そこに、若い大学生が入ってくる。彼は、事故か何かの怪我で、一時的に下肢がマヒしている。 その大学生が、「こんなに停滞してちゃいけない」みたいに、健全に、政治的思想的社会的な運動を、皆に、アジる。 みんな、純真にその気になって、何か新聞に投稿したりして、それが載ったりして、盛り上がる。 なんだけど、その大学生が、治って、歩けるようになる。 その途端…患者たちの気持ちが離れていく… 『飼育』 戦時中。 日本のどこかの山中の、田舎の村。というか、集落か。 子どもたちは完全に全員裸足、というような土地。 (知識的なことだけで言うと、恐らく1960年代前半くらいまで、余裕で日本中、あちこちにあったはず) アメリカの飛行機が山中に墜落。村人たちは黒人兵を捕まえる。 どうしていいか判らないので、穴みたいなところに監禁。 珍獣のように「飼育」する。 主人公はその村の子供。子供たちは、異生物として珍しく、残酷に眺めて歓び、やがて多少交流したりする。 ところが、方針が決まって連行することになると、黒人兵が隙を突いて、主人公を人質に立てこもる。 主人公の父親が、自分の息子=主人公、の、片手ごと、鉈で黒人兵を殺戮する。 『人間の羊』 戦後直後。 東京なんだろうな、という街中のバス。 主人公は大学生らしき若い男性。 バスの中にたちの悪い米兵が大勢いる。いわゆるパンパン、米兵相手の商売女がいる。酔ってじゃれている。 たまたま主人公が米兵に絡まれる。いじられる。米兵たちが、悪乗りする。 主人公も含めて数人の日本人の乗客が、たんなる悪ふざけ、いじめの愉しみのために、尻を出して這いつくばれ、と。 そして、他の乗客が見て見ぬふりの中、尻を平手で叩かれて、笑われる。 皆、仕方なく屈辱を甘んじる。 やがて米兵たちが降りる。気まずいバスの中。 主人公は、涙涙の屈辱から心を建て直し、帰宅して母と妹の前で普通に振る舞わねば、と思う。 ところが、バスを降りてから。 たまたま、その屈辱を受けずに、見て見ぬふりをしていた男から声を掛けられる。 「見て見ぬふりをして申し訳ない。しかし泣き寝入りはいけない。正義のために、法に訴えよう。訴えるべきだ。君は逃げないよな?、さあ、一緒に警察に行こう」 とんでもない、と逃げようとする主人公。 だが、その男は執拗に迫る。逃げるとは何事だ。許さない。と…。 『不意の唖』 終戦直後。山中の田舎の集落。 村に、米兵の一団がやってくる。日本人の通訳が着いている。 日本人の通訳が、何だか威張っている。 通訳の靴が、子どものいたずらか、それとも川に流れたか、無くなる。 通訳激怒。悪意あるいたずらと断定、捜索を命じて、脅す。 理不尽な振る舞いに村人が背を向けると、男を独り、銃で殺してしまう。 夜。村人たちは、集団でその通訳を川に沈めて殺してしまう。 翌日、水死体が見つかる。村人たちは米兵たちを沈黙で無視する。 米兵たちはしょうがなく去っていく。 『戦いの今日』 朝鮮戦争時代。 大学生くらいの年代の兄弟がいる。 何かしらか左翼的な運動の末端に居て、米兵たちに兵役忌避を呼びかけるビラまきをしたりしている。 (まあ、その時代は、何かしらか左翼的な理想を持たない方が、インテリの若者としては珍しかったはず) 若い米兵がいる。その米兵は年上の日本人の売春婦の恋人である。 そのカップルが、「戦場に行きたくないから、匿ってくれ」とやってくる。 正直、迷惑だけど成り行きで匿う。 そこで、「兄」「弟」「若い白人脱走兵」「年増の日本人売春婦」の四人の奇妙な潜伏生活が始まる。 脱走兵は、当然ストレスが貯まるし、どこか日本人を軽蔑している。見下している。 弟は、とにかく脱走兵を崇めてへりくだる。 若き脱走兵が酔って酷いことをして、兄がキレて、暴力で痛めつける。 脱走兵は逃げ出して、部隊に投稿する。のだけど、再び逃げようとして射殺される。 という報を、飲み屋で兄たちが、別の米兵から聞く。 以上、6編。 特に面白かった、すごいなあ、と思ったのは、 「他人の足」「飼育」「人間の羊」でした。 全体に、「日本という、土地」「ニンゲンの集団のチカラ、醜悪さ」「抑圧された惨めなニンゲン、なんていうかその象徴みたいな性的なモノゴト」と言う感じ。 実に確信に満ちた、足を踏ん張って立つ土壌みたいなものが、盤石にあります。 どれもこれも、 「汚れて湿った床とか土に、裸足で立ってなきゃいけないような、気持ち悪さ」 「それを見下すことの傲慢さ」 「そこで生きていかなきゃいけないんだから、そこで生きていくニンゲンの哀しさ、屈辱、どんより鬱屈したチカラ」 みたいなものが、血がドクドクと黒く濃く流れていくように、感じられますね。 敗戦から10年ちょっと、。 「世界中から哀れまれる餓死の国」から、アメリカの外交/戦争の恩恵で、なんとか立ち直りつつあった日本。プライドを復活しつつあった、日本。 でも、理性的に見れば、完全にアメリカの言いなり。サンフランシスコ講和条約(1951)だって、アメリカ陣営とだけ。 朝鮮戦争という戦争の恩恵で、どうやら市民生活、都市生活、消費生活が戦前並みになりつつあったという時代。 それでも、30代以上の大人は、多くが陰惨悲惨な兵隊経験・戦場体験があって。 無かった人は多少後ろめたく。 若者たちは、子供の頃に「死」というものを多く見聞してしまっていて。 そしてまだまだ、後年と違い、「終身雇用サラリーマン」「会社人間モーレツ社員」「経済成長全ては右肩上がり」「平和享楽ニッポン」という観念は無かったんですね。 色んなことに目をつぶり、政権は「明日は良い日だ、日本は素晴らしい」と謳うけど…。 そんな時代を、同時代人として、どう切り取るのか。どう解釈するのか。 そういう意味で、実に切れば血が出る濃厚な小説だなー、と。 でも、そう言う歴史的?社会的?な位置づけとはまた別に。 仮にこれが、2014年に書かれた、 「妄想のとあるSF世界」 が舞台の小説である、と考えても。十分に面白い。スゴイ小説だなあ、と。 どれもこれも。 「正義」「正論」「建前」と言ったもの。 「暮らし」「現実」「恐怖」「生活感」「地域共同体」。 そして「妥協」「屈従」「暴力」「卑屈さ」「傲慢さ」みたいなものが何層もあって。 とかく、一筋縄ではいかない。 皮肉と言えば皮肉、悲観的というか暗いというか。 そういう人間という生き物の見方があって。 でもそれが、「あー、そうだよなあ」と、納得せざるを得ない、鉄槌のような、苦い苦い、説得力。 そして、少なくとも日本人としては、「我々はどこから来たのか」的な、なんていうか…祖父や祖母から若い頃の話を聞く、その重さとか、興味深さみたいなものもあります。 うーん。重い。けど凄い。 この短編集は、特段に難解でもなく、途方に暮れるような幻想的なコトもなく。 実に、ただただ、強力です。 やっぱり若いので、一人称の強さが圧巻。 ですが、文章としても、感じたままで言うと、読み易く簡潔。叩きつけるような文体な気もします。 会話対話で、ぐいぐいっと。行くところは行ってしまうし。 息が苦しくなるような、心理の追い込みの迫力。 悪い意味でブンガク的な、延々冗長とした風景状況描写に流されません。 パチパチ。 大江健三郎さん、実は読むのが25年ぶりくらいでした。 昔、「万延元年のフットボール」「同時代ゲーム」あたりを読んで、もう全く記憶にないですが、挫折したか、サッパリ面白いと思えなかったか、の、どちらかでした。 (まあ、いくらなんでも背伸びし過ぎたんだろうなあ、という気もします。それからまあ、好みでも無かったかな、と) その後、何度か気にはなったんですが。 「実存主義とか現代思想とか、1960年前後の左翼的なインテリ思想ブームみたいな寵児であって。 なんだか自分の世代としては、その、鹿爪らしさ、力み具合が、肌に合わないシャツみたいな気がするんだよなあ」 と、いう偏見が自分の中にあって。 でも、歳を取ってきて、そういう避け方も、「無駄な力み、な気がするなあ」と思うようになって。 で、気軽に電子書籍、スマートフォンで読んでみました。 けっこう、引き込まれてページをめくる手が止まらず(画面をフリックする指、ですが)。 この本は、時代や理屈や流行といった、スタイルから相当に浮遊した、なかなかにダンコたる迫力のある小説でした。 今後、大江さんの小説は歯ごたえ豊かに愉しめる気がします。 …って、こういう本と、「台所太平記」(1962年 谷崎潤一郎さん)とかが、同時代に存在したことの多様性というか。 それはそれで、「そういう時代」みたいなものが両者によって立体的に見えてくる愉しみ、というのも、あります。
1投稿日: 2014.08.11
powered by ブクログ長いあいだ途中放棄してたが急に興味が出てきて読み終わった。 「閉じ込められている」…まさにそんな感じだ。空気が濃密になりすぎている。正直、だんだん嫌になってくる短篇集。 しかしそれだからこそ訴える力があるのだろうとも思う。この抗議と敵対心を、どう解するか。この伝染してくる、陰湿な敵意を どう受け止めるのか。 敵意と和解。繰り返し繰り返し。ここに弁証法は機能しない。。 「他人の足」「飼育」がひどく印象に残っている。敵味方、偽者、マジョリティ。子ども、親密性の境界線、恭順。
0投稿日: 2014.07.31
powered by ブクログ全編において閉塞感が漂う。 大学の死体置き場、サナトリウム、村、バス、世相の中で。 閉じた場所に於いて外部から自分とは違う異質なものと邂逅した時、 人は何を考え感じるのか。 読んでいて何かがどろどろと絡みついてくる。 不快な物のような、怖い物のような、或る種の虚しさのような。。
0投稿日: 2014.05.29
powered by ブクログ読む前は大江健三郎さんのことを歴史書を書くような古臭い人だと勝手に思い込んでいた。実際は写真で見る限り容姿は優しそうだし、作品は歴史でもなければ、古臭くもない文学作品なのだがら、少し拍子抜けしてしまった。 数ページをパラパラと眺めてみて、遠藤周作みたいな感じかなと思ったが、読んでみるとどうも違う。 遠藤さんほど静寂さと心の救済がなく、もっと水っぽく生暖かい湿った感じの作品だった。 臭いを想像してしまうような文章で、やるせないものの終わり方をするのに、不快な気持ちにならない。 なんだか登場人物の主人公たちのように、「そうれなら仕方ないんだ」と疲れてうなだれているが、それでも仕方なしに他人と接しなければいけない時の心境にこっちもなってくる。 面倒だし疲れるが、結局私はこの本が好きになってしまった。
0投稿日: 2014.05.06
powered by ブクログ6つの短編それぞれが人間のエゴ、不条理な行動、憎しみ、復讐心と、復讐を果たしたあとの虚しさを綴り、読み手の心を揺さぶる。 物語りの背景や、多数出てくるの差別用語に時代を感じる。 極限の状況が人間の狂気を目覚めさせることを強い説得力を以って語られる。
0投稿日: 2014.04.20
powered by ブクログ表題の短編を含むが、どちらもシチュエーションの設定が(少なくとも現在から見れば)奇抜。 その奇抜な設定の中で、鬱屈とした感情をどんよりと描いている。 環境に抑圧された爆発寸前の、でも決して大きな爆発はしない、歪んだような人間性が描かれております。
0投稿日: 2013.12.28
powered by ブクログこれが生きるということだとおもう。わたしはわたしでしかありえなくて、それは他のすべてのひとももちろんそうで、人間存在の根本的な孤独は暴力を孕んでいて、生きるというのは暴力に晒され続けることだと。もしかしたら暴力を超えて何かを共有しようと試みることでもあるのかもしれないけど、とにかく、本書に刻印されているのは孤独と暴力のかたちだった。敗戦による屈折もあちらこちらに読み取れるが、92年生まれのわたしにとって最も響くのは歴史や当時の社会状況、精神的在り方を越える、もっと根本的なもの。 「生きている人間と話すのは、なぜこんなに困難で、思いがけない方向にしか発展しないで、しかも徒労な感じがつきまとうのだろう、と僕は考えた。教授の躰の周りの粘膜をつきぬけて、しっかりその脂肪に富んだ躰に手を触れることは、極めて難かしい気がした。僕は疲れが躰にあふれるのを感じながら、当惑して黙っていた。」
0投稿日: 2013.10.24
powered by ブクログ大学入試の直後(最中だったかも)に読んで、その文体に衝撃を受けました。「ブンガク」のパワーってすごい、と感動した記憶があります。 長崎大学:環境科学部 教員 正本忍
0投稿日: 2013.10.03
