
総合評価
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powered by ブクログ何この表紙、と思い手に取った初・吉村昭作品 大当たりでした 話こそ暗いけれどあまりの緻密さに驚く 船を見ると、あ、お船様、、と心の中で出てくるようになってしまった、、笑
0投稿日: 2025.11.16
powered by ブクログ「村を恐ろしい出来事が襲う」「サバイバルのための異様な風習」など、裏面のあらすじに興味を引き立てられ購入した。 途中で退屈で読むのが苦痛になったシーンもあり、起承転結の「転」にきた時は一瞬心が踊ったけどほんの一瞬で終わった。
0投稿日: 2025.08.02
powered by ブクログぬるい個人主義に浸かりながら、それでも不平不満を言って暮らしている自分の頬を打たれたような。 共同体が優先順位が一番高く、個人の幸せなどそんな概念がない。 誰かのわがままや判断ミスで、共同体自体の存続を危うくするからだ。 僅か数世代前まで、私たちの先祖はこんな暮らしをしていたのだのだと、おそらく昭和初期の地方はまだその記憶を持っていただろうと思う。 生きるために、村ぐるみの犯罪に手を染める。 おそらく、本当にそういうことはあっただろうと思う。 因果応報とかそんな簡単な話ではなく、それがなければ人を売るしかない、そんなギリギリの暮らし。 方言や感情の共感など一切排除された厳しい文体なのに、一気に読んでしまった。 この時代の人は、どんな顔をしていたのだろう。
1投稿日: 2025.06.22
powered by ブクログ貧しく農業がほとんどできない漁村が、冬に火を焚いて、北前船を誘導し、暗礁に乗り上げさせ、座礁した船を襲って、乗組員を惨殺し、積み荷と船の材木を盗むことによって生き延びていた。 ある年、近隣の村で天然痘にかかった患者たちを村から追放するために載せて漂流させた船が座礁したので、商船と間違えて襲い、船に残っていた死体がつけていた衣服を、剥いで、村中で使ったために、村に天然痘が流行し、死者が多数発生する。 この小説は、このような悲劇を、やっと大人になりかけた9歳の男児の視線で描く。
0投稿日: 2025.06.22
powered by ブクログ小説にこんなに引き込まれるのはいつぶりかってくらい、すごい文章だった。 作物もろくに育たない厳しい環境で、たった十七戸で身を寄せ合い破船がもたらす恵を待ち望む小さな漁村の密かな風習と事件。身を切るような貧しさが、鮮やかに心に斬り込んでくるようだった。
1投稿日: 2025.06.19
powered by ブクログある漁村に伝わる「お船様」。嵐の夜に近づく船を座礁させその積荷を奪い取る異様な風習。犯罪だが村が生き残るために必要なこととして描かれる。現代でも組織内のルールに基づくものの、世間ズレをした倫理なき問題が起こる。閉鎖社会の怖さを感じる作品。
8投稿日: 2025.05.31
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
現代の価値観からすると、 どうして貧しい村を離れ、たとえば皆が身売りする豊かな隣町へ引っ越さないんだろう? なぜ口減らしを考えながらも子どもを産むんだろう? 祈祷するとか火を焚く以外に、むしろもっと積極的にお船さまを狙ってみては? お船さまが来たら船を解体せずそれに乗って航海に出かけられないものだろうか? 村おさの言葉を誰彼疑いなく信じてしまうのはなぜ? などと色々考えてしまうんだが、それは自分が厳しい暮らしを強いられたことのない現代人だからだろう。 毎日の食事にも事欠く日々を送っていたら、現状を変える気力もないだろうし。 第一ご先祖さまや死者の魂をつなぎ、村を存続させていくことが、彼らの正義なのだ。 それにしてもお船さまとは、なんと酷なものか。 お船さまなど来なかったら、村人たちは粛々と慎ましい暮らしを営んでいたはずで。あるいは農業や漁業のやり方を変えるなど、苦しい中でも少しの工夫をしてみたかもしれない。 なのにたまの幸運がもたらされるから、期待してしまう。極寒の冬の夜に火を焚くなんて、辛い所業を行う。 たとえ幸運がもたらされたとしても、村の外に知られないよう常に警戒しながらびくびく暮らさなければならない。幸運が来る時期も理由も、知ることができないから、祈りを捧げるしかない。 お船さまは神様なんかではなく、村を蝕む悪魔だったと思う。そんな偉そうに判定できるのも、自分が恵まれた現代人だからだろうか。
0投稿日: 2025.05.25
powered by ブクログ家族を売り、食物も育たず僅かな海産物だけで生活をする極貧の漁村。彼らには独特な風習があった。 荒天の暗夜、海岸で火を焚き、難破船を誘い込み座礁させ、十数年ぶりの「お船様」に潤う漁村。 翌年も難破船が来て歓喜する村人達。しかし、「お船様」に積まれていたものは厄災だった。。。絶望に絶望を重ねるラスト。 この貧困ゆえの風習は私のご先祖様が経験したことなのかもしれない。 脚色はあるにせよノンフェクションとはそういうことで、だからこそ重みがあり受ける衝撃が大きかった。 普段SFやミステリーを読んでいる方に、箸休めで是非読んでほしい。
0投稿日: 2025.05.17
powered by ブクログすごい本でした。 貧しい生活の中で、ひたすら指導者や母の教えを守り一生懸命に生きようとする主人公を、 どうか幸せに、どうか豊かになってくれと祈りながら読みました。 苦しい生活なのに、自分の仕事を投げ出さず、目の前の仕事に取り組もうとする主人公の心の持ちようや行動に感心しかなかった。 読み終えてぐったりしたけども、読めてよかった。
0投稿日: 2025.05.12
powered by ブクログすごい本でした。柚月裕子さんが手元に置いている本ということで購入しましたが一気に読まされました。少し古い本ですが、客観的でテンポ感のある無駄のない文章がとても読みやすく、感情に流されない描写は小さな貧しい漁村の風景や人々の生活を目の前に甦らせてくれました。流行りの軽いストーリーの本で時間を潰すのも良いですが、このような重厚感のある内容の本は読書をしたという充実感を与えてくれると思いました。しばらく余韻に浸りたいと思います。
4投稿日: 2025.02.24
powered by ブクログ生きるために必要だけど、公にはできない、こと。 共同体の中での秘密。 寒い中、なんのために、っていう気持ちでの火おこし、から理由を聞いてから、さらに体験してからの気持ちの違いが同じ作業に対しても違って。 喜びと厄災と。 この後少人数の村人が気持ちを抱えつつも、結局同じような生活を繰り返すんだろうなと思うと、不思議。
0投稿日: 2025.02.08
powered by ブクログ自選集の中の一遍。隙も淀みもない文章と物語。最初から引き込まれて1日ちょっとで読了しました。 暗く悲しい小説ではありますが、行間からにじみ出てくる日本文化、風習、民の生活感があります。如何に現代が恵まれているかを再認識いたしました。
5投稿日: 2024.10.06
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
・あらすじ 戸数十七戸の貧しい漁村にすむ九歳の少年、伊作の三年間。 父は三年の年季奉公に出ており、母と三人の弟妹を養うために漁で何とか日々を凌いでいた。 そんな貧しい村では難波船から流れ着く積荷は村民を数年食べさせられるだけの恵みを運んでくるため「お船様」と呼ばれていた。 冬のある日、村おさから浜で夜通し塩焼きを行うように命ぜられる。 その風習は灯りで船を浜に誘き寄せて難波させ、その積荷を奪うためのものだった。 伊作が十一歳の頃ある難波船が発見される。 船内に積荷はなく、赤い衣を身につけた死者がいるばかり…。 そのお船様の到来により村に災厄が降りかかる。 ・感想 読了後の感想が「えっ…うそやん」だった。 最悪の結末になってしまってこの世に救いはないのかと思った。 これは今まで読んだ吉村昭作品の中でも(と言ってもまだ4作目)ダントツに救いがなく心がえぐられる陰鬱な作品。 淡々と、ただただ淡々と感情を排した文章がより容赦なくてホラーより怖かったわ。 ただでさえ過酷な環境で助け合って(犯罪だけど)暮らしてる人々に対する容赦がない、いっぺんの慈悲もなし。 最初は貧しく過酷な自然環境のなかで命を食い繋ぐ村人の生活を描いたものかと思ってた。 そんな中で伊作の恋や成長が描かれる的な話なのだと思ってた。(吉村先生の作品というだけで買ったのであらすじを読んで無かった。よく考えたら吉村先生がそういう話書くわけないよな) 話が進んでいくと、村ぐるみの犯罪の様子が描かれだして「なるほど、タイトルの破船はそういう意味だったのか。まぁ(おそらく)江戸時代あたりの貧しい漁村だとこういう事もあったんだろうな」くらいの感想だった。 小さい共同体の中の風習や限られた人間関係。 閉塞的で陰鬱な環境の中、お船様を呼び寄せて強奪した積荷のおかげで一時でも村人の表情が明るくなる。 そして起こった災厄。 柱には赤い猿の面がかけられ、全身を赤い着物で装っている死者の乗った船がたどり着く。 そしてその死者には吹き出物や瘢痕があった…。 普通に考えればあまりにも不審だし、絶っっ対やばい船なんだけど、閉された社会で生きてる人たちに伝染病などの知識もあるはずがなく、また貧しい生活にはお船様からの恵みはかけがえのないものだしね。 時々描写される身売りした伊作の父の精神、身体の頑強さと健全さがよりこの物語をより悲しい気持ちにさせる。 家族を飢え死にさせないために奉公にでて、過酷な労働に耐え、あと数日で帰村という時。 きっと彼は妻と三人の子供が何とか生きのびて彼の帰りを待っているんだと、それを心の支えに乗り越えてきたんだと思う。 ようやく帰ってみれば村は天然痘により滅びかけ、自分の家族は伊作以外は死に絶えていたなんて、辛いとかそんな言葉じゃ表せない。 最後の伊作と母の今生の別れのシーンですら心境をドラマティックに描写することなくただ淡々と紡がれる文章。 だからこそどうしようもない伊作の絶望が感じられてきつかった。
3投稿日: 2024.10.03
powered by ブクログ他作品でもそうだが、なぜここまで細かく描写できるのか。200世帯弱の小さな集落での独特な文化に読みながらどっぷり浸かってしまい、早くお船様とお父さんが来るように願ってしまった。
0投稿日: 2024.09.25
powered by ブクログ小さな村で過ごす少年の3年が書かれている。 魚をみろ、魚でさえいつも体を動かしている、と口癖のように言う母。お金のため3年の奉公に出た父。お船様からの恵みがなければまともに食べていけない貧しい村。 少年が成長していく描写が多いにも関わらず、いつこの日々が崩れるのかという緊張感や悲しさが終始漂っており、小さなお船様が来た時には、こうなるだろうと頭では分かっていながらハラハラした。 悲しい物語と銘打たれている小説より、毎日を淡々と、感情さえも淡々と書かれている方が一層悲しく思えることもあるものだと思った。
2投稿日: 2024.07.18
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
再読。 貧しさの為に口減らしや身売りが行われている漁村が舞台。「お船様」さえくれば、そのようなことをせずに済む。2年続けてやってきた「お船様」は幸運をもたらすものだったのか...? 初めて読んだ時は閉鎖的な村社会での村おさの存在が衝撃的でした。今回は少し視点が変わって主人公の成長が印象的でした。わずか9歳にて父親不在の一家の長男として漁に出る。その後彼を見舞う様々な出来事を通して彼は一人前の大人へと成長していく。また、彼の中にすでに根付いている価値観・死生観も興味深かったです。 本編230頁程度。展開が比較的早いので先へ先へと読み進めたくなるテンポの良さがあります。
7投稿日: 2024.06.08
powered by ブクログなんかもうずっとつらいのよ。大自然のペースに合わせてしがみつくような生き方とか、村ぐるみで犯罪を隠したりしてるとか。お船様で一時は生き延びられるかもしれないけど、それが永遠ではないってわかってるところとか。 それでも好きな娘との淡い交流とか、漁の腕前が上がったとか、友人との関係が穏やかなものになっていったりとか、きらめく瞬間がある、あったのにさぁ~~…
3投稿日: 2024.04.16
powered by ブクログ物語はフィクションであろうが、舞台にとっている設定は必ずしもフィクションとも言い切れないのかも。 貧しい漁村が生きるために、冬の荒れた海を航行する船に向かって火を灯し灯台と勘違いさせて座礁させその積荷を奪ったという苛酷な生きる知恵とその悪行に対する大きな報い。
2投稿日: 2024.04.10
powered by ブクログなんだろうな...海の恵みの描写とか四季の移り変わりの描写とかうつくしい風景目白押しのはずなのに人々の暮らし描写の陰鬱さがそれに並ぶ不思議。村から出たいとも思わず村長を中心に一致団結することで暮らしが成り立つ不思議。地方の因習ネタのホラーとか好きなんだけど現実に即するとなるとこうなるのか...
0投稿日: 2024.02.06
powered by ブクログ一人前の漁師/大人になるという自覚が芽生え始めた少年が主人公。出稼ぎ(身売り)により父が不在の三年間を描く物語。 読み進めて早い段階から、自然現象に左右される寒村という共同体の、心細さと危うさが重くのしかかり息苦しさが続く。それでも、主人公が徐々に成長して生活は安定に向かうのかと思った矢先、ついにお舟様が到来し、寒村の日常は狂い始め、あまりにも悲劇的で無情な幕引きへ。 村人の自死シーンでサラッとギョッとすることが書いてあったり、村人達の犯す大罪がテキパキ機械的に進んだり、文体/描写はかなり淡々としていて、だからこそ抵抗できない暴力の怖さ不穏さを強く感じた。一方で、クライマックスの母の健気な強さには胸を貫くような切なさがあり、あわや落涙するところだった。 230ページとは思えないくらいズシンと重厚/濃厚な一冊。
2投稿日: 2023.11.10
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
本作は少年の視点から綴られる僻地の寒村の3年間の物語だ。大人が年季奉公で廻船問屋に売られ、未成熟な子どもが一家の労働力として漁をせざるを得ない貧困。村に大きな幸を齎す“お船様”(難破船)を求めて祈り、実際に到来したなら情け容赦無く積荷を奪い取る共同体全員での犯罪。その“お船様”によって富ではなく疫病を齎され、村があっという間に崩壊寸前にまで追い込まれる厄災。これら苛酷で不幸な日々が無駄を削ぎ落とした簡明な文章によって描写され、読者に強烈なリアリティーを与えてくる。
1投稿日: 2023.10.26
powered by ブクログ会社の先輩からお借りした一冊。 この作者の本は、漂流から2冊目かな? 漂流もこの先輩からお借りした本だった。 漂流もリアリティ溢れ、臨場感が半端ない小説だったが、この本も凄い! 目の前に情景が現れる。自分がその村に迷い込んだような錯覚を起こす。 すっごい惹きつけられる小説なのだが、常に恐怖感が付き纏っていた。 何処か不気味で、何かに怯えながら読んでいた気がする。何に怯えていたのかは、読み終わった今も謎だけど(^◇^;) 北の海に面した、貧しい村が舞台となる。 痩せた土地には雑穀しか育てたない為、村民は鰯やイカ、タコ、秋刀魚などを採り、隣村まで売りに行き、穀物と交換してギリギリの生活を送っていた。 いや、ギリギリ以下の生活だったのだ。 そんな村だが、冬の海が荒れ狂う頃、貨物を乗せた船が座礁し、荷を村民で分かち合うことができた。 それはお船様と呼ばれ、村民はわざと天候の荒れる日に塩を作るために火を起こし、船を村の方へ誘い込むのだった。 そんな村にある日災が起こる。。。
124投稿日: 2023.09.25
powered by ブクログ「破船」は2022年の本屋大賞の「超発掘本!」選ばれた本でもあります。本屋大賞の「超発掘本!」とは、ジャンルや刊行年を問わず今読み返しても面白い本が選出されるものです。 日本海沿岸の閉鎖的な貧しい寒村。土壌が痩せて作物もうまく育たず、魚介類もその場しのぎ程度の漁が精一杯の土地。村人たちは近海を通る貨物船の船荷をあてに座礁を祈る。 生きることがこんなに苛酷だとは...。ちょっと気分が暗くなってしまいますが、海外でも広く評価され、多くの国の言語に翻訳された作品でもあります。
6投稿日: 2023.09.17
powered by ブクログ既に記憶も定かでないが、ひと月ほど前、 どこかで絶賛レビューを読み、興味を持ったので購入、 読了。 しかし…… そのレビューを最後まで読まなければよかったと後悔。 何だかよくわからない状態で本編を読み進めた方が 終盤の衝撃が大きかったのでは……と。 そう、つまり、当該レビューは ガッツリとネタバレしてくれていたのです……(怖)。 もっとも、購入時点で帯の煽り文句を読んだら、 ネタバレレビューに接しなかった人でも オチには見当がつくはずで……。 作者の名前はぼんやり見知っていた程度。 で、(未読だけど) かの有名な『羆嵐(くまあらし)』の作家か、 そうだったのかと今回初めて認識(←ぼんやりしすぎ)。 さて。 藩という語が出てくるので、設定は江戸時代と思われる。 九歳の少年・伊作(いさく)の目に映る、 生まれ育った海辺の寒村。 三人称一視点で淡々と進行する、さして長くない物語は、 容赦なく貧しい村の厳しい状況を活写する。 飢えから家族を守るため、性別問わず若くて体力のある者は 年季奉公という名の身売りで村を離れていく。 伊作の父も三年契約で峠を越えた。 父が報酬を得て達者で帰るまで、 伊作は母と共に幼い弟妹を守らねばならなかった。 伊作は漁に出、 民(たみ)という名の少女に仄かな恋心を抱き、 製塩にも携わり、弟・磯吉に漁の手ほどきをし…… やがて、行事を通して村落の秘密に接する――。 終盤の大惨事は、村民一同が長年に渡って積み重ねた 罪業に対する罰のようにも受け取れる。 もう少し詳しいことを 後でブログに書くかもしれません。 https://fukagawa-natsumi.hatenablog.com/
2投稿日: 2023.08.31
powered by ブクログ帯に「本屋大賞超発掘本!」とあったので、気になって買ってみた。 貧しい生活の村で、幸をもたらす「お船様」。簡単に言うと荷を多く積んだ商人の難破船のことだが、難破船をあえて呼び込むための方法もこの村には伝わっている。 これを読むと人々の生活は誰かの犠牲の上に成り立っているのだなということが実感される。 しかし、難破船が必ずしも幸のみをもたらしてくれるものではなく、時には災厄ももたらしてしまう。因果応報と言ってしまえばそれまでだが、そうでもしないと生きられない厳しい環境下に置かれた人々の苦しさもある。 かなりのパンチ力を持っている作品。
2投稿日: 2023.08.12
powered by ブクログ時代背景・地域不明、作者の作品群で異色なドキュメンタリー風小説。 200pと控えめなボリュームながら、貧しい漁村の哀しい運命が過不足無く描かれる。 個人的には、『漂流』を生み出した作者が、漂流者を餌食とする本作を描く事にとてつもない作家意欲を感じる。
10投稿日: 2023.08.04
powered by ブクログ暗い物語であった。 僻地の漁村で日々を生き抜く三年間を、一人の少年を通して語った「破船」。 農作は期待できず、季節ごとの漁労で糊口を凌ぐ生活。その暮らしの中、唯一の僥倖が難破船の訪れ。その船の積荷を奪うことが、稀に見る豊作と同様。ただ、積荷の略奪であるために、難破船の船員が生きていても、殺して口封じをするという残酷さが、村全体の共通の認識として受け継がれている。 生きて行くために。生きるという目的が優先されるは「人」でなく「村」。「村」の存続が第一であり、そのためには個人の意志は破棄されるべき。という思考が隅々まで行き渡っている様は、過酷であり悲哀しかない。それが何よりも象徴されるのが、物語の終盤。難破船から広まった天然痘で村が壊滅級の被害を受けた後。 指導者自ら「村」のために命を擲つ覚悟を示し、皆それに諾々と従う場面。 この場面で、根本的に違う価値観の生活があったのだな、という恐怖を感じました。あらすじ時点では、パンデミック下での限定環境での混乱が描かれてゆくのだろう、と予想していたのですが、違いました。 村人たちに混乱は起きず、ただ運命として受け入れるしかないという諦観。もちろん、疫病が終息した後の生活に対して、不安を覚えたりはするのですが、それはもうそういうものであって、なるようにしてゆくしかないという感覚。決意のない覚悟は、無力感と喪失感がすごい。 日々の描写で、喜びや希望がないわけではないのですが、その個人の感情は「村」という存在を超えてあることはできない、という刷り込みのような思考に塗りつぶされていってしまいます。 どこまでも、暗さがつきまとう物語であったよ。 最終盤、奉公から帰郷した父の姿を見て、少年は何を叫んだのか。 希望、喜びであった帰郷が、絶望と悲嘆の入り口であるのだから。思考や感情というものではなく、ただただ体の内から漏れ出たものだったのだろうなぁ。 そして、この「村」の暗さは続いてゆく。この僻地で暮らして行く限り、不幸の大小はあれど、続いてゆく。
1投稿日: 2023.08.03
powered by ブクログ極めて悲劇的。貧しい村の暮らしを丹念に描くことで、船が来て欲しいと読者に思わせる手法がすごい。短いながら読み応えがすごい作品。名作!
2投稿日: 2023.07.21
powered by ブクログやっぱり吉村昭先生の作品に間違いは無いです。 生きる為には難破船にだって…。 人間が一番怖い,そう思える作品でした。
1投稿日: 2023.06.17
powered by ブクログ面白かった。面白いというと不謹慎だが、淡々とした文章に引き込まれて一気に読んだ。吉村昭氏の本はノンフィクションの記録文学を5冊ほど読んだが、純粋な小説は初めて。 物語は、どこかの島の南端にある小さな漁村が舞台である。そこに住む少年の視点で書かれているが、食料もままならないほど貧しい生活である。村の人々が待つのは「お船様」で、物資を載せた商船が村の近くを通りかかるときに難破し流れつくものだ。手をこまねいて待つだけでなく、海が荒い日に浜で火を起こして座礁を誘う。お船様は村にとっての恵みであり、1船来れば村全体が何年も飢えずに済むだけでなく、出稼ぎに行く必要もなくなるので影響は絶大だ。 そんな難破船が、もう1船流れ着く。その船が村にもたらすものとは。 小さい村に生まれたら、そこでの価値観や習慣が人生を決める。吉村氏の小説は情景描写がメインで心理描写はあまりないのだが、だからこそ心に残るというか、リアリティをもって迫るものがある。過酷な運命に逆らうことができず、人というのは無力なものである。おすすめしたい小説である。
1投稿日: 2023.06.02
powered by ブクログ起こったことを丹念に積み重ね、感情を押し殺した文体。飽食の今では考えられない、食料事情。母のことば「人間には、心のたるみが一番恐ろしい。」 「物というものは、いつかはなくなる。恵まれている時にこそ気持をひきしめなければ、必ず泣かねばならぬようになる」 そうは言っても、知らないことは不幸な事でもあり、感染症は防げない。平穏な幸せは長くは続かない、ドラマも、人生も。
1投稿日: 2023.05.05
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
戦慄の感染症パニック時代小説(なんだそりゃ)。長引くコロナ禍に読み、ぞくぞく。 最近、近未来のディストピアっぽい小説を読んでたけど、昔の貧しい時代の方がよっぽど地獄だなと思う。 惜しむらくは、農村にしては口調が農民ぽくなくて、ちょい違和感が。昔の農民や侍の語り口とか、知らんけども。 あと、最後にいろいろ種明かしする老人いたけど、そんな詳細に覚えているならもっと早く気付くのでは?と思ったり。
1投稿日: 2023.04.22
powered by ブクログおそらく江戸時代。海辺の寒村を舞台に、住民たちの生態を描いている。貧しく情弱な人々の共同体の暮らしぶりや価値感が生々しい。 たとえば、住民たちは難破船の漂着を「僥倖」として受け止めている。難破船は乗組員たちのとっての不幸なのだが、村の住民たちにとっては天の恵みなのだ。天が与えてくれたものなのだからありがたく頂戴する。そこに他者の不幸とか、積み荷を自分のものにすることが犯罪であるとか、現代に人間から見ると「常識」の範囲内の概念が無いのだ。 社会規範の善悪は住民たちには関係なく、あるのは祖先から伝わる風習と共同体の存続なのだ。 閉じた世界は子供の集団のようだ。言語化が難しいのだが、自分の信じる「社会規範」がある程度以上の知識レベルで維持されていることを感じるようになった。
1投稿日: 2023.03.17
powered by ブクログ何かすごい読了感。 まるで映画を観終わったような疲労感。 たぶん実話ベースなんだろうけど、 その場所で生きていくためなんだろうけど、 怖いですね。
1投稿日: 2022.12.28
powered by ブクログ日本の風習のおもしろさと奇妙さを垣間見る作品。原因不明の病に村人が右往左往する様は、コロナウイルスの流行初期を思い出された。
1投稿日: 2022.12.13
powered by ブクログ江戸時代の貧しい村における民俗についての詳細な記述が大変おもしろく、また一方で、彼らのある風習によって村に災厄がもたらされる展開はホラーやサスペンス小説を読んでいるかのようだった。 物語は主人公の父親が身売りに出てから始まる。 主人公が9歳という幼さながら一人で試行錯誤しながら漁をこなし、一家が食べていけるかどうかという重荷をその両肩に背負う。母親も、一家の生活がかかっていることから主人公に対して容赦はない。 村の中のある家では、働けなくなった怪我人に、限られた食事を与える余裕などなく、怪我人は水だけを与えられて死んでいく。 読者たちは、こうした村における死や貧しさとすぐ隣り合わせの生活を見た後では、そのあと明らかにされる「お船様」の風習を非難するようなことなどとてもできない。読者たちは村人たちに肩入れすることも、非難することもできないような心境の中で、お船様により村に何がもたらされるのか、固唾を飲んで見守るしかない。 その構図がとても巧妙だと思った。 読者はフラットな心境で読み進めるしかなく、その分一層村での出来事が客観的に、輪郭がはっきりとした状態で受け止められ、ずっしりとした読後感を得ることになる。 あとがきでも、「倫理的、あるいは感情的な判断を抑える」「感情移入を厳しく排除」とあって、本当にそう!と思った。 父親が帰ってきて、どれだけ嘆くだろうかと思うと苦しい。 この小説はフィクションだけれど、江戸時代においては、同じような出来事が日本中で起きていたのだろう。 最初のお船様に乗っていた船員が、荒れた海での航行をなんとか無事乗り切るために、髷を切り落として神仏にささげているというのも悲しかった。 髷を切り落として神仏に祈って、人家の火が見えて希望を持ったら、待ち受けた村人に殺されてしまう。船員も村人も、どちらも生きるために必死なのだ。それを見守ることしか許されない読者たち…改めてものすごい読書体験だった。 吉村昭さんは私が最近引っ越してきた新居のあたりのご出身らしく、このあたりにまつわるエッセイも数多く残しておられる。吉村昭の本は中高生の頃に一冊読んだような気がしつつ、記憶が定かではないので、エッセイを読む前に、まずは小説を読もうということで手にとった。 これだけ主観を徹底的に排除した方が書くエッセイはどんなものかな。読むのがなおさら楽しみになった。
2投稿日: 2022.12.11
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
はるか昔、僻地の貧しい漁村で行われていた、往来船を座礁に導き積荷を奪うという、ほかには言えない風習。 それが巻き起こす悲劇を描く。 そんな風習をもつコミュニティだからこその結束と、世帯ごとライバルのように漁を行う姿が印象的だった。 淡々と重苦しい雰囲気で進む物語だが、読み辞めたくならない不思議な小説だ。
2投稿日: 2022.12.06
powered by ブクログまずいまずいまずい、と、途中のあのシーンで呟いていた。 だめだめだめ、と思いながら読み進めていたら案の定。 辛いなぁ。救いと絶望がしっかりと絡まりあったラストだった。
1投稿日: 2022.12.04
powered by ブクログ百年ほど遡った日本ではどこでも当たり前に存在したであろう閉鎖的な村社会の、閉鎖的にならざるをえなかった厳しい生活環境と自然、最適解として形成されていき逆らう選択肢などなかったコロニーの姿が恐ろしいほどに現実的に描かれている。吉村昭さんの作品に初めて触れたが一文一文が短くて淡々と語られていくのが更に冷酷さを際立たせた。 時代小説だがこんな世界が事実としてあったのだろうなと信じて疑わないくらいリアリティだった。
3投稿日: 2022.10.05
powered by ブクログ江戸時代の僻地の漁村というこれまで知ることのなかった舞台で、生きることを目的として生きるような生活が描かれる。生きるために働くことが最優先事項で、家族への愛(それもかなり控えめな)の描写はひとつまみ分くらいだったので逆に印象的だった。 村の習俗は非常に興味深かった。リアリティがあり、こうしたしきたりは実際にあったのだろうと思わせられる。 「お船様」の乗組員を殺すことに村人たちが殆ど罪悪感を抱かないのは、村があまりに隔絶されていて「お船様」を異世界のものとでも認識しているからか。祭りとしての色を濃くすることで罪悪感を薄めているからか。村でなによりも重んじられるしきたりで可とされているからか。 この小説のような(生きていても決して幸せとは言えないのではないかと思わせる)環境下でも、人間は生きるために必死に働き、共同体の存続を目指すものなのか…と思った
1投稿日: 2022.09.27
powered by ブクログ厳しく辛いだけの暮らしにしか思えないこの村の生活。 それでも伊作は隣村の暮らしが自分の村とは異質と感じ、自分の村に戻った時にほっとする。ここは考えさせられる。 死んでしまった伊作の妹のてる、かね。幸せを感じたことはあったのだろうか。山追いを受け入れた村おさと村の人々はその後どうなったのか。(この時の村おさのリーダーシップは強かった) 「お船様」は史実に基づくのだろうか? いろいろ考えさせられるけれど、仕事の都合で何度も間が空き一続きで読めなかったのが残念。
1投稿日: 2022.09.04
powered by ブクログ本屋大賞、2022年発掘部門「超発掘本!」に選ばれたので、読んだ。 怖面白い! 漁村の村は、17戸。小さな村。 貧しくて厳しい生活をしている村。 貧困。 それが当たり前で、食べるために働く。 村の決まりは絶対的なもので、背くわけにはいかないというところが怖い。 主人公の伊作は9歳。小学3年生から働き始める。って考えると想像しやすい。 やっと父が帰ってくる3年後は小学5年生の歳。 まだまだ子供だけど大人と同じように働く。 米俵を背負うことが出来ず、 母から意気地なしとか力なしと呼ばれるのも仕方がない。 米俵って何キロ?調べたら60kg 無理じゃん。 お船様を呼ぶという風習。 よく考えてみたら海賊だよね。 中学生にも読みやすいと思う。
1投稿日: 2022.08.22
powered by ブクログ難破した船に積まれている荷物により生活している貧しい村の話。 主人公が米俵を持てない描写が出てくるんですが、たった9歳なんですね...米俵は60kg程あるので、そりゃ持てないわ。 淡々と話が進む文体が、想像力が掻き立てられるようになっている。掠奪や殺人についてはほぼ触れられず、現実とのギャップが気味悪さを感じます。
1投稿日: 2022.08.19
powered by ブクログ#やっぱり怖い本 より。 怖い、というか恐ろしい。悲しくて、ゾッとする。命ってこんなにも儚い…?丁髷の人が出てくるので江戸時代が舞台か。同じ人間の暮らしとは思えない。だいぶ昔の作品だが読みやすく、1日で読破。しばらくは吉村昭さんの本を読もうと思う。
2投稿日: 2022.08.08
powered by ブクログ話題になっていた本を友人が譲ってくれて読む機会に恵まれました。 特に時代は明記されていないものの「藩」という表記が見られることから江戸時代だと思われる。 「お船様」という貧しく、小さな漁村にとっては恵みの行事は、実は船をわざと難破させて荷物を強奪する(ときには殺人も犯す)という現代からすると「!?」な行為なのだが、描かれている時代と村から見た立場ではそこに罪の意識がすがすがしいほどになく、一切のためらいも疑いもなしに「神様のお恵み」のように扱われている。 ところどころに民俗学っぽい表記も見受けられ、祈祷?には妊娠中の女性が用いられ、性についての記述も見られるあたりもこの物語の緻密度を上げていると思う。 お船様により恵みを与えられてきた漁村に、ある奇妙な船が流れ着くところからこの村の不幸は始まる。 主人公の少年は、年季奉公に出た父親がいる。 父親不在のたった3年間。されど3年間。 激変した少年の人生とこの村の「お船様」の行方がどなるのか、知りたいものである。 不思議なことに次々不幸な出来事がおこる物語なのに、なぜか私が読んで感じたのは、すがすがしさだった。名作である。
2投稿日: 2022.07.26
powered by ブクログ淡々と語られる「お船様」の実態、天から打ち下ろされた疫病の猛威、東北地方の寒村に起こる過酷なまでの不幸は実際起こったものなのだろう。作者の記述にリアリティを感じたのは私だけではあるまい。
4投稿日: 2022.07.19
powered by ブクログ信仰とは、外部の人間から見たら、根拠がなく滑稽にも見えるものかもしれないけれど、本人たちにとって祈りは希望なんだよね。
1投稿日: 2022.07.18
powered by ブクログ何気なく食事しているが感謝の気持ちを忘れずにいただくことを思い出させてくれた。それから、一生懸命働こうと思った。
1投稿日: 2022.07.10
powered by ブクログ2022/6/20読了。 民俗学的関心を刺激する。前時代の閉塞的な漁村の中の常識と雰囲気が硬質な文体で有り有りと描き出されている。
1投稿日: 2022.06.20
powered by ブクログ豊かな現代との違いに戸惑う一冊。こんなに過酷な生活なんだから、お船様に対する犯罪なんて、大したことじゃないような気もしてくる。なす術もなく運命に翻弄される不幸。
5投稿日: 2022.06.16
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
最後の最後で畳み掛けてくる残酷な展開に、泣いてしまいました。 村ぐるみの犯罪の代償とはいえ、あまりにもむごくて涙が…。 作品の舞台となった村は、閉鎖的ですごく貧しくて。 今日の食べ物にも困るくらい貧しくて、慢性的な貧しさが続いてきた村の生きる術が「お船様」だったのだろうと思う。 許されるようなことではないけれど。 ずーっと暗くてずーっと不穏で、明るい場面も刹那的に感じられてなんだか悲しかった。 すごい本でした。
1投稿日: 2022.06.12
powered by ブクログ生きるために罪を犯すことと、それに対する因果応報の話。 主人公が幼い少年なので、成長につれ読者と一緒に貧しい漁村の恐るべきしきたりを知ってゆく。夜にわざわざ塩を焼く仕事があること、それが近くを通った船を誘って破船させ、積荷を奪うためのものであること。この漁村にはわざわざ縁起を担いで船の転覆を祈願する儀式(妊婦がお膳を足でひっくり返すというもの)まであった。 このあたり、どういう心持ちで読めばいいのか、多少困惑させられる。年単位の出稼ぎや身売りが少なくないほど貧しい村で、生きるためには仕方がないという気持ちと、船をうまく誘えずがっかりする村の様子に鼻白む気持ちと。これは暦とした村ぐるみの犯罪であるが、その善悪の価値観すらゆらぐ気がする。 そして、最後はこの生業が招いた恐ろしい災厄。主人公にとって悲劇的な結末となるが、遠からずそうなるべきだった、という妙な腑に落ち感がある。母親が終盤妙にいきいきとしていたのになぜか共感した。苦界を生きることからの解放、ということもあるのではないか。
1投稿日: 2022.05.26
powered by ブクログ2022年本屋大賞発掘本 ところで『破船』あっちゅー間に読了 195ページくらいからの恐ろしさは筆舌に尽くしがたいが、お船様による疫病は今作において一つのヤマではあるがメインではないと感じた そして相当稀だろうが私ラストぼろぼろ泣いてしまったよ。なんかもう感情のやり場がなく。9歳ですよ、伊作は。あと母の強さ。 9歳と書いたけど、それはスタート時点の話で、最後に伊作は11歳になってます。めぐりゆく四季と、過酷な労働。年端もいかぬ子が、一家の大黒柱として働かざるや得ない村の状況。私は村から出たいの!とか、学校に行きたいとか、言い出す子なんかいるわけない。だって知らないんだもの、他の生活を。 コミュニティとしてのありようと、それをそのまま受け入れ、粛々と暮らす人々の姿がすごかったです。言い方がとても悪いだろうけど、アリの巣のような、独自で厳格なルールと統制を感じました。すさまじい不測の事態に対する、恒常性のすさまじさ。すさまじさVSすさまじさ。 本屋大賞授賞式のスピーチが本当に素晴らしかったです。 おめでとうごございます!
2投稿日: 2022.05.25
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
とても淡々と語られるのに、背中が薄ら寒くなるような感覚を覚えた。お船様にしろ、村の行く末にしろ。村が閉ざされているからこそできたこと、閉ざされているからこそ招いてしまったことに、胸がふさぐ気持ち。
1投稿日: 2022.05.25
powered by ブクログ超発掘本の帯に惹かれて手に取った本。 秘境の地の貧しい生活の中、質素に逞しく生きる人々の生活に、儀式をしてまで到来を望む神様の恵の様なお船様の存在は果たして本当に恵みと呼べる物なのか。悪と分かっていても手を染めなければ生きて行けない村の人々の微妙な心情が切なく思える。最後のお船様は、私には祟り神様の様に感じた。
1投稿日: 2022.05.14
powered by ブクログ江戸時代、ある寒村で暮らす少年が主人公の物語。漁業を日々の糧として暮らす人々は、毎日食べていくだけでも精一杯なのだが、たまに神の恵みにあい、生活が潤う事がある。それが、岩礁で座礁する船がもたらす物資であり、その事は村の大きな秘密である。そしてある日。。。 地味だがかなり惹き込まれるストーリーと展開であり、ボリュームも適当で読みやすい。また、当時の情報から遮断された地方農村の暮らしぶりや庶民の生活、感情も生生しく伝わってくる。 運命に翻弄されながらも日々生き、老い、死ぬ。そういうどうしょうもない無力さを再認識する良作。
1投稿日: 2022.05.08
powered by ブクログ本当に怖いと思った。 人間の冷酷さとそうしなければ生きて行けない無情を感じる。 お舟様を待ち侘びる心境、歓喜と絶望の振幅は読んでいて辛くなるほどリアルであった。 最後、主人公の父の凱旋帰還のシーンは涙もの。
3投稿日: 2022.05.07
powered by ブクログ貧しさはこれほどまでに人を蝕むという 辛くて残酷な話だ 家族を飢えさせないために 誰かが数年期限で身を売らなければならない そんな村に訪れる御船様は 村民の祈りにもなる はたして船が船がもたらすのは 祝福なのか災いなのか
1投稿日: 2022.05.05
powered by ブクログ本屋大賞の超発掘本ということで手に取った。吉村昭は長英逃亡を過去に読んだことがある程度。 寒村(このように書くだけで貧しい感じがする)の人々の暮らしと、その村に伝わるお船様という難破船の積荷を収奪する風習、その結果としての悲劇が描かれる。 それにしても、吉村昭の文章の研ぎ澄まされ方。その文章から伝わる村の人々の生活。感情。無駄な修飾のない文章と、そこからイメージが立ち上がることのすごさ。適当に引用すると、 「かれは、舟をとめると碇をおろし、鉤に餌をつけて糸を垂れた。釣れるのは小魚ばかりだが、干したものを冬期の保存食にする。糸をつかむ指に反応があるたびに、呼吸をはかって手繰る。魚をのがすことはほとんどなかった。磯吉は、舟底ではねている小魚に手をふれさせたりつかんだりしていた」 という感じ。それでいてストーリーも秀逸。今さらながらではあるけれど、著者の他の作品も読まないとと思った。
2投稿日: 2022.05.04
powered by ブクログ2022年本屋大賞発掘本。江戸時代の寒村を舞台に、村が生き残るために昔ながらの策を実行している。それは、夜に近くを航行する商船を塩焼きの炎で浜におびき寄せ、座礁させて積み荷を奪う“お船様”。いけないことではあるが生きるためには仕方がないこととして認識されている。実際に、お船様のおかげで米を食えたり、人をきつい労働の出稼ぎに出すこともなくなる。生き延びるための犯罪なのだ。ある時、赤い服をまとった死人ばかりの船がお船様として村に漂着する。その服を奪ったばかりに村は天然痘が蔓延る。お船様の功罪と同時に、絶望的な状況に恐怖した。
1投稿日: 2022.04.27
powered by ブクログ超発掘本!って帯が気になって購入 たしかにそんな帯がなかったら 読もうとは思わなかった本 しかしその帯がハードルあげちゃって ちょっと期待外れでもある 最初からずっと不穏 終始不穏 不幸も災難も事件も 淡々と過ぎ去っていくのが 腹のそこからじんわり冷えてく感じ 心はまったく休まらないので 弱ってる時に読むのはおすすめしない 興味深い内容だし かなり読みやすいので 星は3つ!
1投稿日: 2022.04.26
powered by ブクログ孤立した島で、父が身売りをした3年間にあった家族の話。 島に破船した船を「お船様」と呼び、積荷や船の材料までをも島の蓄えにする。島、独特の習わしがあり普通では犯罪となる事も神事として行われる。現在の暮らしを考えさせられる本でした。
1投稿日: 2022.04.24
powered by ブクログ生きるということは、これほどまでに過酷なことなのか。現代人には想像もつかない喜怒哀楽がここにある。この小説の中で「船」に例えられているものが運命かもしれない。思わぬ幸運に恵まれることがあれば、疫病=コロナやウクライナ戦争に愛する人を奪われることもある。でも作者は希望=父を与えてくれた。伊作に幸あれと願う。
1投稿日: 2022.04.22
powered by ブクログ海に囲まれた、孤立したある村。村人たちは漁で獲った魚と海水から作った塩を隣町に売りに行き、穀物や米などと交換してもらいながら生活をしていた。しかし一年のうちで漁ができる時期は限られるため、金の工面がつかず家族を隣接する村に年季奉公に出さざるを得ない家がほとんどだった。 困窮を極める生活の中、村人たちは数年に一度の「お船様」の訪れを心待ちにする。村の近海で座礁した船を回収し、残された積荷を頂戴し、船を解体して木材にする。村に有り余るほどの恵みをもたらすとされる「お船様」だが、実際は船に残っていた水夫(かこ)を証拠隠滅のため打ち殺したり、わざと船が座礁するように仕向けたり、いわば村ぐるみの犯罪だった。そしてある年、待ちに待った「お船様」が訪れるが、この船はによって村は思いもよらぬ厄災に見舞われることになる。 どんよりとした不気味さがまとわりつく、どこまでも救いのない物語だった。読んでいる間ずっと、この不気味さの正体はなんだろうと考えていた。 不気味さの根源のひとつはもちろん「お船様」の存在だ。その残酷な実態とはかけ離れた、妙に神秘的な呼び名(タイトルではその真の姿を捉え「破船」とぶった斬っている)。船の転覆を祈願して毎年執り行われる、妊娠した女が村長の家で食膳を蹴り上げるという奇怪な儀式。願いが叶えば村人総出で船を回収し、水夫を殺し、狂喜乱舞で積荷を分配する。生きるためには仕方ないと割り切っている彼らの、罪の意識の欠如に戦慄する。 もうひとつは、村人がみな徹底した「役割分担」の中で生きていること。男は漁、女は家事・出産・育児、子どもは親の手伝い。結婚と出産は新たな労働力確保の手段でしかない。病や怪我で働けなくなった大人は「口べらし」のため食料を十分に与えられなくなって死ぬ。死んだ人間は「魂帰り」をして胎内に戻り、嬰児となって蘇るとされているため、死を長期間嘆き悲しむようなこともない。淡々と火葬され、埋葬される。昔からの風習が強く根付いたこの村では、みなが共同体の存続のために自らのなすべきことを何一つ疑わう、無心にこなしていく。家族を身売りに出すことも、「お船様」にまつわる人道に反した行為も、すべて「仕方ない」こととして片付けられる。思考停止。絶対服従。そこに反論や希望、自我の入り込む余地は一切ない。 物語の終盤、主人公の伊作が感情をあらわにするシーンが二箇所ある。とある理由により、母と弟に今生の別れを告げねばならなくなったときと、年季奉公に出ていた父親がおもむろに帰還したときだ。冒頭からじわじわと読者の心を浸食していく鈍い絶望感の中で、最後の最後のほんの数ページに、この物語で唯一とも言える感情の爆発が集約されているように思えた。別れの絶望、再会の歓喜。しかしその喜びのあと、奉公に出発したときは五人いた家族が伊作ただ一人になってしまったことを、伊作は自らの口から父親に伝えねばならない。そのことに思い至ると、これも決して素直に歓喜とは呼べないのだと呆然とする。 最後に、伊作を遺し村を去ることになった母親が荷造りをする場面で、このような記述がある。 --- 伊作は、母の動きを眼で追った。あばたのひろがる母の顔には、不思議にも悲しみの表情はない。眼の光は澄み、穏やかな笑みに近いものすら口もとに浮んでいるようであった。(p.229) --- この母親が笑ったり幸福そうにしたりという描写は、ここ以前にひとつもない。奉公に出た父親の「誰も死なせるな」という言いつけを守ることだけを考え、伊作にも常に厳しく接した。「お船様」の到来で一時的に食糧や物資が潤ったときも、この先また何年も船が来ない可能性を恐れて生活水準を変えることはなかった。その彼女が、自らにこれから訪れる宿命を受け止め、なお穏やかな笑みをうっすらと浮かべている。有り余るほどの米を手に入れたときも、消費を抑えるため粥しか作らなかった彼女が、このときばかりは硬い米を炊き、握り飯を作っている。わたしはこの物語の不気味さの根源の一つとして、村人たちの罪の意識の欠如を挙げた。けれどこの母親の様子を想像してみると、実はずっと心の根底には深く深く罪の意識を抱えながら、生きていくためには「仕方ない」と蓋をしてきたけれど、ついにそこから自由になれると思ったが故に、あのような穏やかな表情が浮かんだのかもしれないと感じた。 この本を読み終えたのは昼頃で、そのときはただただ茫然自失という感じだった。夜になってもう一度最後の場面を読み返したら、どんな残酷な運命も、最終的には「仕方ない」と諦める習慣が染み付いてしまった伊作のいじましさと健気さに胸が苦しくなって、思わず少し泣いた。
2投稿日: 2022.04.16
powered by ブクログ江戸時代、廻船で荷を運ぶ。天候に左右される運輸。難破船はどうなったのか。海の藻屑になるほかにこんな事があったのか。島の貧しい小さな離れ寒村。生きていくための戒律が宗教的。お船様と呼ぶ。この時代飢饉も大概だが、これは言葉を失う。情報も知識も教育も生きていくには必要なのだ。 自分は図書館で借りた本で読んだ。1982年刊版。文庫版を手に入れよう。
1投稿日: 2022.04.15
powered by ブクログ昔は漂流船・難破船は発見者による略奪・捕獲の対象になると考えられていたという。文中から法整備がなされた中世以降の話だと思われるが、こうしたムラ社会の生き残りをかけた考え方、行動、風習が悍ましい...。終盤の悲劇には絶句...。
13投稿日: 2022.02.02
powered by ブクログ良質な映画を見終わったような読後感。 過酷という言葉では表現しきれない絶望感。 お船様への希望と、恵みを得た人の堕落。 病に対する無力さ。 生きること、生き抜くことは厳しいけれど、それでも生きていかねばならない時、自分なら耐えられるだろうか、そんなことを考えさせられた。 ページを閉じた後も、飢えの心配をしなくていい身分に、環境に、しみじみと幸福を感じた。
11投稿日: 2022.01.15
powered by ブクログこのレビューはネタバレを含みます。
厳しい環境にある漁師村のお話。あとがきにもあるが民俗学的な内容がいくつも含まれている。村全体の犯罪行為であるお船様。家族を失う結果になる山追いなどなど。 かつての日本での地方における生活、暮らし振り、考え方などが分かる。特殊な例であるかもしれないが。
3投稿日: 2022.01.11
powered by ブクログいただき本 大好きな吉村昭さん。 お船様、赤い服に猿のお面。天然痘。 以下の解説文がこの本の全てです。良書。 読者がここに読むものは、簡明で無駄なく、まるで硬質な文体がそぎおとすように刻みあげてゆく、かつての漁村の過酷な不幸の物語である。略 読者は、判断の自由な領域で、この忘れがたい作品の内実を読みとってゆくことができるのである。
17投稿日: 2021.11.20
powered by ブクログ「お船様」という題材からして面白い。 残酷な出来事が、閉鎖空間の中で行われるから、読んでいると淡々と納得させられる。自分も洗脳されているようで、振り返ってみると少し怖い……。 でも「ここを出ると生きていけない」とか、食べ物が極限まで少ないとか、わざとではないにしてもあの村は洗脳の条件は揃ってるから仕方ない。 貧しい村だから、生きるため以外の事が極限まで削ぎ落とされていて、何のために人間は生きてるんだろうって何度も考えさせられた。
2投稿日: 2021.11.12
powered by ブクログ善悪の前に、生きて行くためにはやむを得ない行為… そして、当時としてはこれもやむを得ない感染爆発… コロナ禍の今、人間の本質と感染症との戦いは変わらないことを痛感。 舞台がどこなのか?みんな気になるのは同じなんだとNetで知った…
1投稿日: 2021.09.18
powered by ブクログ「破船 吉村昭 新潮文庫 昭和60年1985年」図書館で借りた。漫画家の東村アキコがpodcastの中でオススメとして紹介したいたので読んでみた。全体的に暗い。貧しい漁村の話。ホラー小説よりも怖い読後感。物凄く面白かった。日本海側の漁村はこんな地域が本当にあったのではないかと思わせる内容。
1投稿日: 2021.07.03
powered by ブクログ実話を元にしたフィクションだそうだ。 中盤まではゆっくりだが、終盤から物凄い急展開で目が離せなくなる。 道理的には良くないことと言え、破船を待ち構える貧しい人々の生活や思いが丁寧にかつ淡々と描かれている。 彼らは自分たちの行いが良くないことだという認識は一切無さそうだ。 「お船様」というパワーワードが印象に残る。
1投稿日: 2021.06.30
powered by ブクログ吉村文学を初めて読む。本作はノンフィクションとのことだが、妙にリアリティがある。江戸時代の寒村の貧困の淡々とした描写が本当にリアルで、臭いや感触が伝わってくるからか。 村にとっての最大のイベント「お船様」(笑) この響き、一回聞いたら忘れられなインパクトだし、お船様に目をギラギラさせる村民の熱度が文章から伝わってくる。 何の救いもないラストもあいまって、貧困とは何の救いもない身も蓋もない現実を見せてくれる本作。大好きな作品です。
1投稿日: 2021.05.21
powered by ブクログ淡々と、淡々と、語られていきます。 単純に恐ろしい物語ではなく、静かに、鮮明に、人の命をむき出しにされている名作です。
2投稿日: 2021.05.19
powered by ブクログ僻地のある漁村では「お船様」の行事があった。 岩礁で破船した船から積み荷をはじめ、何もかもを奪い取るのだ。 お船様を待ち焦がれ、誘い込むために毎年塩焼きの火まで焚く、というその風習がおぞましく感じてしまう。 だがそれは、生きていけない程の貧しさから生まれた風習なのだ。 そんな村の不安を孕んだ日々が、無駄なく、でも目に浮かぶように描かれていて、どんどん引き込まれた。 後半はその不安が現実になり、運ばれてきた厄災が、まさに今の世界にも通じるところがあって、忘れられない作品になった。
7投稿日: 2021.05.08
powered by ブクログ「お船様」の奇習も不気味だが、終盤、疫病蔓延の描写がリアルでゾッとする。日本海沿岸の伝承を基にしたという、作者ならではのフィクション。想像力がすごい。
5投稿日: 2021.01.23
powered by ブクログ羆嵐の時にも思ったが、本の残り二割からの急転直下が素晴らしい。ずっと灰色の世界を見てきたところへ現れた赤が不気味でしかたなかった。
1投稿日: 2021.01.04
powered by ブクログ吉村昭と言えば史実に取材した記録文学の雄だが、これは完全なるフィクション(多分)。時代設定は江戸後期くらいか、貧困に喘ぐ漁村集落の暮らしを季節の中に描く一方で、集落に代々伝わる「お船様」と呼ばれるモノが実は座礁した船からの簒奪であることが物語も早々に明らかにされる。そしてその「お船様」によって引き起こされる凄惨な事件が、吉村昭らしい淡々とした筆で語られる。
1投稿日: 2020.11.28
powered by ブクログ幸福も、災厄も、どちらも呼び寄せる「船」。 しかしそれに頼らざるをえない、この時代のこの地域の人々。 展開も描写もとても上手い。 感染症は昔から問題だったわけだ。
2投稿日: 2020.11.03
powered by ブクログ人は昔からウイルス感染と戦ってきたけれど、無知と貧困が悲劇を増大させる。この結末は悲しいの一語に尽きる。作者の淡々とした書きぶりに、人間の無力さを思い知らされる。
1投稿日: 2020.10.04
powered by ブクログおそらく舞台は江戸中期以降の日本海に面した寒村。米もとれず漁も存分とはいかない貧しい村では、海沿いで荒天の夜に塩焼きの火を炊く。それは塩づくりにかこつけて海をゆく船をおびき寄せ、船員は殺し積荷を奪って生活の糧にしていた。それでなければ生活が立ち行かない。口封じに船員を殺すことが常道でありながらも、船の到来を「お船様」と呼んだり船が来るよう神に祈るしきたりなどからは、半ば神の恵みとして認識していることがわかり、それって若干のご都合主義にも思えるが、生きるためにしかたないことに思える。そんな村に2年かけて2件の「お船様」が来たことで、幸せと不幸があざなわれた縄のように村人たちを翻弄する。 よそから隔絶されたある種原始的な村人たちの生き方からは、生命をつないでいくことへの思いの強さがうかがえる。力のある男、多産そうな女がもてはやされたり、親は何としても子を生かそうとし、そのために再び帰れるともわからない年季に出たりする。そうした命を何とかしてつないでいかなければという思いが、終盤の村おさの決断にもなる。 親子だったり夫と妻だったりといった目の前の愛しい人との別れを悲しくともつらくとも受け入れ、村や一族のゆく末のことを考える。子のため子孫のためには自分の身を平気で投げうつ覚悟……いや、おそらく覚悟というほどもなくそれが当たり前のことなのだろう。翻って、親のエゴのような事件で子どもが虐待されたり命を失ったりする現代。コロナ禍のなか、わが身を守ろうとしてか他者を攻撃したり確かな根拠もなく非難したり排除したりするような時代。生き方の真剣さとして比べようもないけど、何だか現代の苦さを感じてしまった。 吉村昭の書いたものは初めて読んだけど、ストーリーの面白さもだけど危なげのない筆致ですいすい読んでいける。やっぱり小説の神髄って三人称で書いてこそだと思う。本物の小説を読んだって感じのほどよい満足感。
1投稿日: 2020.09.20
powered by ブクログこの小説は怖い、暗い、悲しい。ホラーではなく、実際日本の貧しい漁村であった風習、掟の厳しさ、怖さが綿密な取材によって再現されているからなのだ。 船が座礁することは悲劇だか、その破船から掠奪し、辛うじて生きることが出来る人々もいた。 豊かな世界の一般常識でいえば、当然「罪」とされることが、その村では神仏の恵みなのである。 そうして生きている共同体の絶対的な掟。それは個人よりも共同体を守り継がねばならないということ。それが悲劇に悲劇を重ねる。 しかし、ただ悲劇と思えない。魂の強さを感じる。 人間の生命も神も輝かしくて、正しいものだと思っていた自分がお目出度い人間だと思った。 本当は人が生きていくのは、もっとドロドロしたことなのだ。そんなことは、実体験としては知らずに生きていくのが幸せであるが、知識としても知らないままでいることも罪のような気がしてきた。 読んで良かった。
32投稿日: 2020.08.25
powered by ブクログこの世界は灰色だ。そこに灯される紅色。呼び寄せられる紅色。どちらも悲愴に満ち満ちている。 『お船様』をまつ貧しい漁村。 年季奉公で身を売り村を出て行った父親の代わりに家を守り励む少年。 貧しさはこんなにも人の心や言動を殺風景にし、思わぬ豊かさはこんなにも満ち満ちたものにするものなのか。誰が悪いわけでもない。 最後は鳥肌がたった。
4投稿日: 2020.08.13
powered by ブクログある漁村の民俗風習である、座礁した船の荷物をせしめる、破船。そのために、火を焚き誘導し、神仏にも祈る。恐ろしい題材。実在した村が、あるのか。
3投稿日: 2020.06.13
powered by ブクログ生きるために苦しみ、苦しむために生きる。 そこに、生きる意味はあるのか。 貧しい漁村で起こった、悪夢の様な出来事。 生き残った者たちは、何を見て、何を感じたのだろう。 まるで、贅肉を削ぎ落としたかのようなストイックな文章が心に響く。
3投稿日: 2019.07.12
powered by ブクログ惨惨惨・・・・。 吉村昭さんの作品ということは、フィクションではあってもかなりの部分が事実や記録に基づいているのだろうと推測。 藩船がどうたら…ということは、江戸期のお話だということ。舞台となった漁村の貧しさ、貧しい中で必死に生をつないでいく日々。自ら破船を誘い込み、乗員を殺めることすら「天の恵み」と言わなければならない生活。 その一方、江戸や京都の都市部では、衣食住に困ることなく綺麗な着物に身をつつみ華やかに暮らす人々もいる・・・。 そんな一握りの人たちではなく年貢に汲々とした農村部ですらが、ここに描かれる人々から見たら極楽のような暮らしなのだろうと考えると、身につまされる。 ★3つ、7ポイント半。 2018.12.02.新。
3投稿日: 2018.12.05
powered by ブクログ暗い。ものすごく暗い。でも、どんどん引き込まれる。 人々の暮らし、村のおきて、自然の情景を、感情を差し挟むことなしにひたすら淡々と描写し、その中から過酷な運命に翻弄される人々の姿を浮かびあがらせていく。登場人物のひとりひとりに感情移入させられるということではないのだけれど、物語全体がしっかりと心に訴えてくる。何だかチヌア・アチェベの「崩れゆく絆」を読んだときの感じに似ている。舞台設定は全く違うのだけれど…… 苦しみながら生きていくこと自体が目的のような人生にどんな意味があるのだろう。共同体(あるいは人間という存在自体)が業のようなものを背負っていて、それでもそれを絶やしてはいけないのは何故なのか…… 結末には、暗澹たる気持ちにさせられた。
9投稿日: 2018.12.01
powered by ブクログ世の中と隔絶した名も無き漁村を舞台に描かれる、江戸時代の極貧生活。わずか17戸の小さな貧村では、夜の岬で塩焼きという風習が行われていた。しかしその本当の目的は、遭難した船をおびき寄せ座礁させるためものであった。 口減らし、年季奉公という名の身売り、死を意味する山追いなど、一般庶民がまともに食えない時代である。遭難船は「お舟様」と呼ばれ、村にとって恵みをもたらす一大慶事であった。前年に、大量のコメを積んだ「お舟様」によって潤った村が、2年連続で新たな「お舟様」を迎えた。しかし、船には積荷はなく、20数名の乗船者は皆一様に、謎の赤い布を身に付けて死に絶えていた。村長はその着衣を村民に分配する。しかし「お舟様」は村に絶望的な厄いをもたらす事となる。
1投稿日: 2018.10.08
powered by ブクログ二冬続きの船の訪れに、村じゅうが沸いた。しかし、積荷はほとんどなく、中の者たちはすべて死に絶えていた。骸が着けていた揃いの赤い服を分配後まもなく、村を恐ろしい出来事が襲う……。嵐の夜、浜で火を焚き、近づく船を坐礁させ、その積荷を奪い取る――僻地の貧しい漁村に伝わる、サバイバルのための異様な風習“お船様"が招いた、悪夢のような災厄を描く、異色の長編小説。(裏表紙) 災厄は、約束されていたようにも思います。 超常現象や過剰な描写はないにもかかわらず、やはり、怖い。 …本文には全く文句なく素晴らしいのですが、解説がストレートにネタばらしをされているので、少し注意が必要です。
3投稿日: 2018.07.31
powered by ブクログ生死を天命に委ねるしかなかった時代。あまりにも過酷な世界を、それでも懸命に生きる人々の姿に心を揺さぶられる。
2投稿日: 2018.07.21
powered by ブクログこれは、フィクションのようだけど、過去、日本の各所の貧村で本当に起きていた話だと思わずにはいられなかった。今見ると変てこに見える風習が、伊作の村では日常生活の中に必然として行われていて違和感を持たせない。つながってない共同体で生きるのが昔は普通だった。死後、村の者として再び生まれ変わることを望む伊作を、今の我々がこの広大な空間をもてあましていることを考えると、視野が狭いとは言えない。3年間同じ繰り返しの中で人は少しずつ成長し、変化が生まれる。これが伊作の成長物語だったら良かったのに。母と弟と2人の妹を失っても、日々は繰り返されるのだろうか。父と伊作はどうなるのだろうか。
1投稿日: 2017.01.28
powered by ブクログ貧しい雪国の漁村。苦しい生活の中、村民たちは難破した船から積み荷をかすめ取ることを生活の糧としていた。10歳の少年の伊作は、奉公に出た父の帰りを待ちつつ、母や幼い兄弟たちのため漁に励むが… 吉村さんの作品は、派手さはなくとも引き込まれます。貧困にあえぐ村の描写、日々の生活、漁師として成長していく伊作、いずれの描写もしっかりできています。こうした確かな描写が積み重なっていくからこそ、自然と読者は作品の情景を想像し引き込まれていくのでしょう。 村では難破した船を座礁させるため、岸で火を焚いています。この火に誘われた船が沈んだところを村民たちは、狙っているのです。今の時代から考えるとひどい話ですが、それまでの村の描写を読んでいると、生きるためには致し方ないとも思わされます。そうした風習や民俗の異様さも、面白く読めました。船から奪った積み荷で村人たちが喜びに沸く場面も、そうした当時の生活の厳しさを感じさせられます。 三人称で描かれる吉村さんの感情を挟まない抑制された筆勢は、村の行く末を厳しく描きます。自業自得といえばそうかもしれないのですが、でも単にそれで片づけられない悲しさも感じさせる結末です。なぜなら彼らの生活が一時でも貧困から逃れるためには、船から荷物を奪うからしかないのです。生きるためにはそうせざるを得ないのです。 船が流れ着いたとき伊作は、これで奉公から帰ってきた父に米を食べさせることができる、と喜んでいました。そうした感情を読者は否定しきれないからこそ、厳しい結末は読者の胸をより深く強く打つと思います。
4投稿日: 2016.07.10
powered by ブクログ秀作。吉村昭の著作の中は、さらっと読めなくて、時間のかかるのがあるが、これもその一つで、描かれた情景を噛みしめて読ませるものがある。本作品は、ある島の孤立した貧しい村の話。小さな共同体が、「お船様」を含めて、定められた秩序を守って生活を送る。「霊帰り」などは、豊かさよりも世代を途切れさせない、人間の本能に従う営みを感じさせる。2016.7.9
1投稿日: 2016.07.09
powered by ブクログ羆嵐で吉村さんにはまり二冊目です。 引き込まれてぐいぐい読んでしまって想像もしてなかった結末に呆然。 お話は★4.5という感じなのだけど救いがなさ過ぎて圧倒されすぎて★3つ。 すごいお話でした。私には辛かった。
0投稿日: 2016.01.20
powered by ブクログ閉鎖的で孤立した貧しい漁村が舞台。 毎日が餓死との背中合わせで皆は生きていく。そして奇妙な風習だらけ。嘗て日本の村ではこういう事が普通にあった事を考えるととてもやるせない気持ちになる。可哀想の一言で片付けるには余りにも申し訳ない気持ちだ。裕福な現代人として生まれてきた今、改めて感謝の気持ちを持って必死に生きなければと痛感した。しかし切なくて悲しいなぁ。。。この作品。
0投稿日: 2015.10.24
powered by ブクログ以前吉村昭の「三陸海岸大津波」を読んだが、その前にも「漂流」を読んでいたので、この「破船」というタイトルから難破した船を主題にしたストーリーかと思ったら全く違った。 ある陸の孤島のような貧しい漁村の民が、近海で難破した船の積み荷をあてにして、奪った荷や船の建材で暮らしをつないでいく。それを「お船様」と呼ぶ。しかしいつも難破船があるわけではない。何年もお船様が来ないこともある。 ある年「お船様」が来て、村に多くの米や木材などをもたらした。村は潤い、人々は満たされた。そして次の年も「お船様」が来た。ただ普通ではなかった。難破船ではなかったが、乗組員たちは皆赤い衣を着て死んでいた。村人たちは死人から珍しい赤い衣を奪い、舟を沖へと返した。衣は女子供に与えられた。 半月もして異変が起き始めた。高熱を出す者が出始めたのだ。その後吹き出物が出てきた。天然痘だった。あのような船は、どこかの村で発生した天然痘患者を、まとめて海に捨てた船だったのだ。村での罹患者は治っても山に捨てられ、村は廃墟のようになった。 実在の話なのだろうか。吉村は三陸に詳しいので、この話の題材を三陸沿岸で得たのかもしれない。あるいは柳田国男の遠野物語などから着想したのか。貧困のために「身売り」をする話や「夜這い」「山追い」など出てくるが、昔は貧しい地域に実在した風習だ。解説にもあるが、そのあたりを上手く織り交ぜ、緊張感を失わずに展開するストーリーは吉村の真骨頂なのだろう。「因果応報」とも言える結末に驚愕し、妙に納得もした。
2投稿日: 2015.04.09
powered by ブクログ近代国家の道のりを歩み始める前の日本の閉鎖した貧しい漁村の物語。 伊作というまだ年端もいかない主人公の目線で淡々と語られるその生活は、現代社会で暮らす我々には想像もできない過酷なものであるが、あたかも本当に当時の人間が語っているような自然な語り口のリアリティーにより違和感なく読者はその生活に入っていく事が可能となる。 自然のリズムに身をゆだね、そのもたらす恵みにより細々と命をつないでゆく人々。 生活は厳しく、身売りも普通に行われている。 生きるための非情な選択として灯火により交易船を岩礁地帯に誘い込み座礁させ積み荷を奪うという犯罪行為を村ぐるみでおこなっている。 これらの村の暮らしが丹念に無駄な情感を排した文体により語られる事により、物語にリアリティーを与える事に成功している。 異なる時間と世界を体験させてくれることが小説の醍醐味と言えるのならば、まさにこの本はそれを体現しているといえる。
3投稿日: 2015.01.21
powered by ブクログ海沿いの寒村で暮らす人々が貧しさから抜け出す為に、冬の荒波の岸壁で毎夜塩をとるために海水を煮詰める。 実はその焚き火は沖を行く船を惑わせる灯りで… 吉村昭は実際の記録を元に物語を書く作家なので、実際にあったと考えると背筋がヒヤリとする。
1投稿日: 2014.11.23
powered by ブクログ夜の海岸で焚き火をする。暖をとっているのではない。夜空を楽しんでいるのでもない。 獲物がくるのを待っているのだ。物資を積んだ船が罠に落ちるのを。 ある日、船がやってくる。赤い布を着た人間と災厄を載せて。
1投稿日: 2014.07.05
