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わたしたちが孤児だったころ
わたしたちが孤児だったころ
カズオ・イシグロ、入江真佐子/早川書房
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総合評価

129件)
3.8
26
44
34
4
4
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    楽しい優しい思い出。ノスタルジア。 どこまでが事実でどこからが想像か。 クリストファーは上海の街を目隠し状態で動き回る。固く信じている事実は本当に事実なのか。 全文は www.akapannotes.com

    0
    投稿日: 2025.08.02
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    味わい深い作品ではあるが、いまひとつ、響かなかった。 読者に何かを隠しているかのようなミステリアスな文体。 徐々に分かる真相。 戦時下の上海という舞台。 とてもいいんだけれど。

    0
    投稿日: 2025.05.02
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    勧められて!久しぶりにカズオ・イシグロ(といって他にたくさん読んでいるわけではないのだけれど) 以前『わたしを離さないで』を読んだ時にも受けた、どこか紗がかかっているような世界、全てが語られない物語感、少し邂逅してすれ違っていく個々人の人生(サラ~~)というものに、カズオ・イシグロ…ってなっていた笑。それからどうしてもクリストファー/アキラが著者本人が投影されるように感じてしまう~ どうして・何をクリストファーは解決しに上海に戻ったのかや、アキラが本当にアキラだったのか、そういったことは語られない。漠然としているだけ。 アガサ・クリスティーの小説をどこか読んでいるような、探偵ものなのは趣向が面白かった。 ぼくたち子どもは、あの木製の羽根板を留めつけている撚り糸のようなものなんだ、とアキラは言った。日本人の僧侶からかついてこう聞いたことがある、とアキラは言った。ぼくたちは気づかないことが多いけれど、家族だけではなく、全世界をしっかりとつなぎとめているのは、ぼくたち子どもなんだ、と。もしぼくたちが自分の役割をきちんと果たさなかったら、羽根板ははずれて床の上に散らばってしまう、と。(p.127-8) 到着したときからわたしが大きな衝撃を受けていたのは、ここにいる誰もが、自分たちがどれほどの非難に値する存在かを認めることを拒否しているということだった。…文明世界全体を巻き込もうとしている大混乱の中心であるここには、否認というお粗末な共同謀議が渦巻いているのだ。責任の否認、それはどんどん内向し、ひどくなっていっているのに、一種思い上がった自己保身の中で自らを誇示している人々にわたしは何度も遭遇した。(p.273) 孤児であり、探偵であるクリストファーが語ることは、単純に上からのお説教ではないように作られている。ものの、もう少し力強い感情として伝わってくるような文章・内容でもよかったのではないか、と思ってしまう。 「…あたくしにわかっているのは、あたくしが何かを探しながらここ何年も無駄にしてしまったってことだけ。もしあたくしがほんとうに、ほんとうにそれに値するだけのことをやった場合にもらえる、一種のトロフィーのようなものを探しているうちにね。でも、そんなものはもういらない。今は他のものが欲しいの。温かくてあたくしを包みこんでくれるようなもの、あたくしが何をやるとか、どんな人間になるとかに関係なく、戻っていけるものが。ただそこにあるもの、いつでもあるもの。ちょうど明日の空みたいに。そういうものが今は欲しいの。…」(p.358) 昔日に、「あたくしの愛情、エネルギー、知性ーといっても大したものじゃありませんけどーのすべてを、ゴルフかシティで再建を売ることに夢中になっているようなつまらない男性のために無駄に使いたくないの。結婚するとしたら、ほんとうに何かに貢献するような人でなくっちゃ。つまり、人類に、というか、よりよい世界に貢献するという意味でよ。すごい夢でしょ?」(p.84)と言っていたサラ…自分自身ではないのは時代設定が故か。 そうして最後に、「…今はお仕事をすべて終えられ、最近、わたくしが当たり前のことのように受け取っている幸せな生活や伴侶に、あなたも恵まれていらっしゃることを願うばかりです」(p.529)という手紙が最後になる感じは、たまらなく、好きだった。

    2
    投稿日: 2025.03.31
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    とても長いとても良い作品。ちょっと時間掛かってしまったが、途中で見失なうことなくなっ。ラストのお母さんと再会する場面は 遅いホント遅いから 孤児だったマフィンの為だけに中国人に奴隷になって生きるしかないお母さんが哀れ過ぎる、孤児だったマフィンではなくなっ。戦争が悪いと言えばそれまでだけど、やっぱ叔父のイギリス人かな地獄に堕ちなきゃならないのは。マクドナルドの立ち位置がわからないのと危険な戦闘地帯をいるわけがない両親を探してアキラ似の日本人と一緒にいる所もわからないのと娘のジェニファーの存在がどこに向かうのかと1番わからないのは解説が一言も入ってこないって事 カズオイシグロの読みたいの読めたので時間があればまた読もうかな

    17
    投稿日: 2024.11.16
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    そうか、クリストファーも、サラも、ジェニファーも孤児なんだな 解説の通り、最後の1ページのための物語。主人公の行動がだいぶおかしかったりするけど、読み終わるとそんなことは忘れてしまう。面白かった。 カズオイシグロ6冊目

    0
    投稿日: 2024.10.10
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    このレビューはネタバレを含みます。

    カズオ・イシグロらしい記憶を辿る旅。 過ぎ去ってしまった時への郷愁、おぼろげであり、夢のようであり、心に確実に刻まれた感覚、忘れがたいのに指の間からこぼれ落ちていく切なさ。 近未来のSFだったり、中世ヨーロッパだったり、どこが場面だったとしても、その通奏低音は変わらないのだが、今回は探偵の物語。戦前、戦中の上海租界とイギリスを舞台が舞台。 前半、なかなか進まない中にも主人公の自我の強さ、探偵小説としては楽観的な展開に(探偵小説ではないのでそれ自体は構わないのだが)、後半の展開はスリリングというより目を閉じたくなる内容で、ゆっくりとした展開のうちに自分がどれだけ主人公に感情移入していたかに気付かされた。 稀有な作家、これにて全作品を読破。次作も楽しみで仕方ない。

    1
    投稿日: 2024.08.17
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    主人公は探偵。飛ぶ鳥を落とす勢いで難事件を解決していく若い探偵。 なのだが、この小説は探偵小説ではない。 ハードボイルドではある。でも、探偵小説ではない。 主人公が、探偵になったきっかけになった事件を解決しに上海へ向かう。 でもそこで繰り広げられる彼の探偵然とした行動はすべて、読者からすると「え・・・この人本当に探偵?」という行動でしかなく、すごく不安な気持ちにさせてくる。この読者の感情の導き方は、すごい。 ただ一応、すべての謎は明らかになる。 明らかになった内容も、まあ、わりとすごい。 このあたりは、読んで「ああ」って思って欲しい。 物語自体には賛否あると思う。 私もこの本のストーリーが面白かったか?と聞かれると、「んー、つまらなくはないけども」という曖昧な回答になる。 ただ、すべてを読み終えて頭の中でいろいろと整理していると、この小説のテーマは「記憶」なんだろうなと。 タイトルも、そう。この小説は、主人公が過去を思い出しながら記述する形で書かれている。そしてその中の登場人物の多くも、自身を回顧しながら語るシーンが多い。 それぞれに、それぞれの記憶があり、その上でそれを語る今がある。 そういう構図になっている。 その構図から導かれる結論は・・・・みたいなのは、今はよくわからない。 でも相変わらず、カズオ・イシグロは、一筋縄ではいかないものを書くなあと。

    9
    投稿日: 2024.02.20
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    カズオ・イシグロの本を読むのは、これで7冊目になる。流石に少し、信頼できない語手にも飽きてきた。文庫本末尾の解説を読むに、おそらく初読の方であれば、この本に没入することもできたのだろうが、読み慣れてしまった人間にはそれができない。カズオ・イシグロという、書き手そのものの存在がノイズとなってしまっているのだ。 だが、それだけが彼の作品の魅力ではない。たとえ、初読者の感動を得ることができなくとも、彼の作品の中には等身大の人間がいる。それは、主人を亡くした執事や、敗戦国の画家という形で現れるが、彼らに共通している無常感こそが、私が真に求めるものなのだ。 信頼できない語手というのは、客観的現実を受け入れられずにいる彼らの内面を、主観的に描写したテクニックに過ぎない。このテクニックにより、読者は語り手の目線で世界を眺め、その歪さに時折気付かされながらもページを捲り続けることができるのだ。それは、語り手本人の世界への対し方と類似している。読者は、まるで役者のように、語り手の立場になって想像上の劇に参加することができるのだ。そこから得られる没入感は、中々他の小説からは得られない。 先ほど述べたように、カズオ・イシグロの作品の特徴は、この信頼できない語り手と、その無常感である。まるで、イギリス国民が大英帝国の栄光を懐かしむように、彼らはノスタルジックに浸るのだ。その様子は、客観的に見れば無様で見苦しいものだろうが、信頼できない語り手は読者を自分の味方にしてしまう。その瞬間、読者は当事者の目線から、盛者必衰の理を眺めることができるようになるのだ。そこに現れる物悲しさや、客観的現実を受け入れた後の清々しさからくる、一種のマゾスティックな快感は、ほろ苦い後味を読後に残してくれる。

    1
    投稿日: 2023.12.17
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    カズオ・イシグロの作品で初めて読んだもの。全部繋がってはいるけど、長かった。ジャンルをつけがたい不思議な作品。かなり読み進めて、ようやく物語が動き出した感があり、どこか欠けてもダメなんだろうけどやっぱり長かったなという印象。とにかく主人公のクリストファーにいらいらしてしまう。人間らしい作品。みんな思い込みで生きてるよな、いいわけいいながら生きてるよなを、突きつけられた。

    0
    投稿日: 2023.11.23
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    何でもない生活の描写や子供の頃の思い出話で惹きつける流石の筆力。でも回想が幾重にも重なり時系列が迷路のようで読みにくい。流れに身を任せて読み進めると段々と情景が浮かび上がる。長くも感じるが、最後の怒涛の展開は止まらない面白さなので耐えて読み切りたい。

    0
    投稿日: 2023.09.28
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    コロナ感染ひきこもり生活中、3,4,5日目で読んだ。少し読んでは寝たり、映画を観たり、ドラマを見たりしていたから記憶がいろいろと入り乱れている。サラとの関係も気になるところではあるが、何よりもアキラとの場面がもっとも印象深い。7歳や8歳の少年が、イギリスと日本を代表しているところがおもしろい。どちらが我慢強いかとか。アキラが日本には二度と行きたくないという気持ちになったのが何とも残念だ。戦後80年近く経ついまでも似たようなことが起こっているだろうから余計に。2人が中国人の部屋から瓶を盗んで、戻しに行く話があった。そのとき、父がいなくなったために、結局、アキラのところに向かうことができなかった。サラとマカオに逃げようとしているときもそうだった。両親が幽閉されている家を見つけ出すために、結局約束を破ることになった。両親がいなくなってから何十年も経っているというのに、どうしてずっとそこにいるというふうに思い込んでいたのだろう。そして、その家を探しているときに出会った日本兵は本当にアキラだったのか。それとも幻想だったのか。最後に、相手がどのような状態であろうとも、母親と再会できたのは良かった。そしてサラの後日譚。きっと怨んでなんかいなかったと思う。重厚な映画を観ている気分で読み終えることができた。カズオ・イシグロを読むといつも、躍動感のようなものはあまり感じないが、厳かな雰囲気を味わうことができて、大切な時間を過ごすことができる。そういう意味で僕は、本書は前半の方が好きだった。クリストファーがロンドンにいて、幼いころの上海を思い出しているところが。

    0
    投稿日: 2023.07.24
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    230609*読了 カズオ・イシグロさん贔屓なところもあるのだけれど、いいものはいい! 「わたしたちが孤児だったころ」なんてタイトルをわたしならつけなかっただろうな。センスがすごい。 当時の中国を、上海を知らないから、こうだったと言われればそうなのだろうと受け入れてしまうのだけれど、それにしても怖い。 鬼気迫る場面ですら、どこか落ち着いた空気を感じてしまうのもカズオ・イシグロさんならではで、そこが好き。 探偵なんて職業が当時は存在していたのだろうか。さすがイギリスという感じもするが。 現実的かどうかよりも、この雰囲気に惚れる。切ない、苦しい、胸が締め付けられる、でも読まずにはいられない。そんな小説でした。

    1
    投稿日: 2023.06.09
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    2023年5月21日読了。少年時代上海で両親が失踪した記憶を持つクリストファーは、長じて探偵となり共産党・国民党・日本軍が激しく戦闘を繰り広げる上海を訪れるが…。現在進行形で戦火をかいくぐる様子が描写されるのは従来のイシグロ作品と異なった印象を受ける。「少年のころ何が起きたのか?クリストファーは何を引きずっているのか?」の謎を後半まで引っ張るあたりこの作者の小説の巧みさを強く感じる。子どもの頃、周囲の人々や事件に対して働きかけができず傍観するしかなかった、という誰にでもありうる記憶を著しく刺激する小説だ…。再会した親友アキラがどのような人生を過ごしてきてその後どうなるのか、そもそも彼は本当にアキラだったのか・あるいはアキラは実在したのか?というあたりぼかされているような気もするが、自分の目から見た一面でしか事実を把握することはできない、というのも人生なのか。

    2
    投稿日: 2023.05.21
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    このレビューはネタバレを含みます。

    『日の名残り』『わたしを離さないで』の著者、カズオ・イシグロ氏の作品。 10歳で両親が謎の失踪を遂げた主人公クリストファー・バンクスは、成長し名探偵としての名声を獲得した後、両親の失踪事件を解決するために立ち上がります。 あらすじからすると探偵小説のようですが、探偵小説ではありません。しかし前半は美しい文章と、過去の回想から浮かびあがる様々な事実にワクワクです。 …が、後半は突如として支離滅裂な行動を繰り返す主人公、品のない使い古されたチープな不幸、ありきたりで悲惨な結末にかなりうんざり。(世の中とはそういうもの、という作者のメッセージ!?) 『わたしたちが孤児だったころ』の「わたしたち」とは誰を指すのか等々、作者の意図を色々と妄想しては、考察ブログ巡りを楽しめる一作です♪ ※※※ここからネタバレ含みます※※※ この小説、イギリスの方はどんな風に感じるのでしょう。 母親の犠牲の元に生活の安寧と仕事の名誉を獲得していたクリストファー、体調不良を隠していた母とバスに乗ることを楽しんでいたサラ、アヘン貿易で得た富で生活していたクリストファーの母親…この物語は、他人の犠牲の上に成り立っていた“箱庭”で幸せに暮らしていた人たちが、その後「なにか価値のあることを成し遂げなければ」という強迫観念に近い思いに縛られて苦しむ話に読めました。(この“箱庭”から出ることが“孤児になる”ことなのでしょうか。) 作中に出てくるアヘン貿易をはじめとして、イギリスには多くの他民族の権利と尊厳を犠牲にして富を得てきた歴史があります。そんな“箱庭”に暮らしてきたイギリス人は、同じような葛藤を抱えているのでしょうか?まぁ、日本の歴史も大概ですが…。 などと妄想を膨らませて楽しめるという点では素晴らしい作品でした。読み終わった後の考察ブログ巡り含めて楽しめる一作だと思います! ※個人的には『わたしを離さないで』のほうが静かに心を抉られる感じで好きなので☆3

    10
    投稿日: 2023.05.16
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    内容には没入しスラスラ読めたにも関わらず、理解がなかなか難しいという、その対比が珍しい本であった…。 最初に、説明されてない過去の事象を簡潔に語り、読者に「ん?なんのことだ?」と思わせてから、詳細にその出来事の叙述に入るのは、単に英語(結論を先に言う言語)が原作だからなのか、これがカズオ・イシグロの独特の文体だからなのか、よくわからず。 最後に怒涛に物語が終結したが、「ふーーむ….??」という感想。巻末の古川日出男さんの解説で、なんとなく理解したような気になる。 ただ、全ての描写が詳細で、前半のノスタルジックな子供時代の上海の描写も、戦闘が行われている大人時代の上海の描写も、あたかも今自分の目の前に世界が広がっているかのようであった。 掴もうとしても掴めない小説であったにも関わらず、またカズオ・イシグロの別の作品が読みたくなってしまう、なんだか中毒性のある作家さんだなぁ、と。

    1
    投稿日: 2023.04.17
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    カズオイシグロに限らずどんな作品であれ、面白さがイマイチわからない場合は、書かれていないことに思いを馳せたり、自分の感度の鋭さ、想像性、ベースとしている考え方にフォーカスし点検して、世界は、人は多様なのだという考えを意識して当たってみると新たな発見があると思う。 ■ 自分の考えを述べると同調か嫌悪で終わってしまい、議論してよりよくしていこうという人間がかなり少なくなったと思う。 ■ 読んでいて 「フォーカスすればするほど、それはよく理解できるけど、その周囲は見えなくなる。大事だと思うものや必要だと思うものをすくったとする。でも、すくった指の間から零れ落ちたものの方にこそ価値があることが多い。」 という養老孟司の見方を思いだした。

    1
    投稿日: 2023.04.05
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    もしも母と父が生きていたら、ではなく母も父も生きている、という他人からしたら幻想にしか思えない奇妙な思い込みとも言えるようなものに生かされている男の話に感じた。クリストファーにあったさびしさはサラにもあって、二人の共通点は孤児であることをはじめ少なくないものの、サラの方がしかと現実を見据えていたからこそ、生活のさまざまな場面で辛くさみしい思いをすることになっていそうだった。泣いたのは一度だけだ、みたいな描写もあったけど、クリストファーがそういう意味で辛くなったのは、少年の頃に居なくなったと分かった後の少しの間だけで、あとはもう生きていると少年の頃のままに確信をして、両親の不在に立ち向かう、彼の生きる目標と言っても過言ではない強烈な願望で物語が進んでいった。しかしこれを後々の地に足をつけたクリストファーが書いているというのが、客観性や多少の読みやすさを加えている部分だった。

    2
    投稿日: 2023.03.24
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    『クララとお日さま』読んだ後、カズオ・イシグロの積読あったよなと取り出して読んだ一冊。イシグロの祖父が上海で働いていて、その縁もあって上海を舞台の小説を書いているよって教えられて買ったもの。 ホントは、純粋にミステリー小説としても読めるんだろうけど、話に出てくる上海の租界の様子を想像しながら読み進めた。そうなんだよね。日中戦争の時、上海の市街も戦場になったんだよね。 途中で出てくるキャセイホテルは今の和平飯店。ここも聖地巡礼しておかないと。 最後、親子愛が隠れたテーマなんだなと気づき、ちょっとほろっとした。

    1
    投稿日: 2023.03.16
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    このレビューはネタバレを含みます。

    主人公も、その周りの人も身勝手だなあと思う場面が多かった。遠回しに「今は時間がないので話しかけないで」って言ってるのに、また遠回しに「いやこれは重要なことなんですから」と柔和な言い回しで反論しながら話し続けたり、重傷の親友を自分の目的の為に引っ張り回したり…。話の本筋ではないけど、遠回しな言い方そのものや、遠回しに柔和に言えば相手の都合を考えなくていいって思っていそうな傲慢さにイライラしてしまった…。もっとお互いはっきり言えばいいのにと思ったけど、それは私が子供すぎるのか、文化の違いなのか。同作家の「充されざる者」を思い出した。

    1
    投稿日: 2023.02.28
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    子どもの頃思ってた事。母親がかけっこで自分を追い越してちょっと不機嫌になるところとか、どうしてこんな風に綺麗に思い出せるんだろう。イシグロの繊細で、今感じたばかりのような感情の描写が好きだ。 非常にヘビーな内容。命懸けで戦地を彷徨うシーンは、後ろから闇が追いかけてくるのに走っても走っても進まない悪夢のよう。時空がぐにゃりと曲がった表現が上手いなぁと改めて思う。

    3
    投稿日: 2022.07.27
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    タイトルは魅力的なのに、裏表紙のあらすじ紹介がイマイチ気に食わなくて手に取らずに来たものの、食わず嫌いもよろしくないと思い手に取った一冊。 あらすじ紹介より面白いです。 「冒険譚」なんて紹介されているけれど、どちらかというと主人公が不条理さに巻き込まれていきながら、最後は何とか抜け出して戻ってくる、というほうがよいかと。 とにもかくにも、予想より面白かった一冊です。

    1
    投稿日: 2022.05.16
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    このレビューはネタバレを含みます。

    今回はロンドンと上海。 大戦中の上海の様子が、生々しい。日本の侵略が書かれていると同時に、イギリスが犯したアヘン貿易についても書かれている。 『わたしたちが孤児だったころWhen we were orphans 』のタイトルにある孤児とは、両親が行方不明になるまでの子供の頃までではなく、父の死と母に会うまでの時間も含まれているのではないだろうか。 危険な地域に両親を探しに行くときは、中尉やアキラに止められても、語り手の頭を占めていたのは、戦争ではなく両親だった。 カズオ•イシグロの作品には、何度も同じセリフがでてきたり、自分がされたことを結局は自分が他の人にすることになるという設定が多いように思う。孤児のジェニファーに、語り手はかつて自分が大人たちにかけられた言葉と同じように話してしまう。 わりと長い小説だったけれど、いろいろな焦らしや真相を出すタイミングがうまくて、面白かった。

    0
    投稿日: 2021.10.30
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    10歳で孤児となった主人公が、大人になってから行方不明の父母を探す話。子供の頃の回想を挟んで、両親に関する真相が徐々に明るみになっていく。タイトルを見ると過去にフォーカスされた話かなと想像してしまうが、この作品はむしろ、過去と決別し新たな生き方を模索する主人公の姿が最終的に描かれている。長編でなかなか核心に迫らないもどかしさはあったが、イシグロの他の作品と比べると、リアリティー性が強く、話に入り込みやすかった。

    24
    投稿日: 2021.10.24
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    カズオイシグロ作品を読んだのは、「わたしを離さないで」に次いで二作目。 ミステリーに分類されてもされなくても違和感無し。結末はえげつない。 表題が少々謎めいて聞こえる。「わたしたち」とは誰と誰のことなのか? 「だった」と過去形なのは、いつ孤児でなくなったということなのか? 素直に読めば、クリストファーとジェニファー?それぞれ実の親と育ての親を見つけたのだから孤児でなくなった、ってことか? 終盤クリストファーはアキラらしき日本兵と遭遇したが、本当にアキラだったのか? そんな偶然はあるわけないし、描写的にも別人かと思う。 クリストファーが、盲人の俳優宅っぽい家を見つけたと思い込もうとする辺りは狂気の真ん中にいる感じだ。

    5
    投稿日: 2021.09.29
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    日常がもっと好きになるような小説だった。その時代の空気感、時代感が伝わってきた。自分自身の理想の世界を作り上げるために生きていたっていいじゃないか。どんな現実にぶつかってもそれが自分の信念なら変える必要はないと、自分の人生観を考えさせてくれた作品だ。

    1
    投稿日: 2021.05.14
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    カズオ・イシグロさんの本はこれで3冊目。どれも一回読んだだけでは真意にたどり着けた気がしない、そんな底なし感がある。 この本は少年の頃、両親と引き裂かれた主人公が探偵となり、再会を果たすべく戦火の故郷を傷だらけになりながら彷徨う話だが、結局僕はどこで入り込んで良いのか分からなかった。面白くない、という意味ではなく、隙がない、そんな感じ。 入り込みどころを探ってるうちに、急激に話がエンディングに向かって進行していく。そしてまたいつから読み返そう、そう思わせて終わっていく。前に読んだ2冊も同じように感じたことを思い出してしまった。 自分の読解力のなさ、歴史に対する知識のなさ、それが本当に腹ただしい。

    1
    投稿日: 2021.05.05
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    6年ぶりの新作『クララとお日さま』も話題のカズオ・イシグロ、2000年の作品。長編第5作にあたり、このあとが2005年の『わたしを離さないで』。 大戦前夜の1930年ロンドンから、おそらく20年以上前の上海、租界の少年時代を回想するところから物語が始まる。 カズオ・イシグロに慣れた身にはそれが「信頼できない語り手」であることは百も承知。彼の語る思い出が本当にあったことなのか、彼の語る印象は彼自身だけのものなのか、つねに疑いながら読んでいくことになる。 (今回はわりと親切で同級生たちの印象と自分が抱いていたイメージが違うとか「わたしはまちがえて覚えているかもしれない」など、あちこちに「信頼できない」という警告がされている。) カズオ・イシグロの文体は原文がよほどシンプルなのか、日本語訳で読んでいてもとても落ち着く。子供時代の回想をはさみつつ、「昨日の出来事」やら「数週間前」のことがつづられていくのでストーリーは遅々として進まず、はたして過去の真相がなんなのか、主人公が探しているものはなんなのか、よくわからないままゆっくりと展開していくのだが、それはそれで心地いい。 上海へと舞台が移ってからの後半は村上春樹的なハードボイルドというか、『不思議な国のアリス』的なファンタジーというか、ここらへんの主人公の行動は混迷していてよくわからないし、謎解きも不十分なのだけど、本作の主題はそこにない気もする。 「孤児」である「わたしたち」とは誰なのか。主人公クリストファーはまちがいないとして、サラをさしているのか、ジェニファーなのか、アキラなのか。それとも古川日出男の解説にあるように「わたしたち」はみな「孤児」なのか。 以下、引用。 お客様はふつう若い男性で、『たのしい川辺』でしか知らないイギリスの小道や牧場、あるいはコナン・ドイルの推理小説に出てくる霧深い通りなどの雰囲気を持ちこんできてくれたからだ。 「ああ、クリストファー。あたくしたち二人ともどうしようもないわね。そういう考え方を捨てなきゃいけないわ。そうじゃないと、二人とも何もできなくなってしまう。あたくしたちがここ何年もそうだったみたいに。ただこれからも寂しさだけが続くのよ。何かはしらないけれど、まだ成しとげていない、まだだめだと言われつづけるばかりで、それ以外人生には何もない、そんな日々がまた続くだけよ。」 「あたくしにわかっているのは、あたくしが何かを探しながらここ何年も無駄にしてしまったってことだけ。もしあたくしがほんとうに、ほんとうにそれに値するだけのことをやった場合にもらえる、一種のトロフィーのようなものを探しているうちにね。」 「大事。とても大事だ。ノスタルジック。人はノスタルジックになるとき、思い出すんだ。子供だったころに住んでいた今よりもいい世界を。思い出して、いい世界がまた戻ってきてくれればと願う。だからとても大事なんだ。」 「そう思っていました。彼のことを幼友達だと思っていました。でも、今になるとよくわからないのです。今ではいろんなことが、自分が思っていたようなものではないと考えはじめています」 「今から思うと子供時代なんてずっと遠くのことのようです。」「日本の歌人で、昔の宮廷にいた女性ですが、これがいかに悲しいことかと詠んだ人がいます。大人になってしまうと子供時代のことが外国の地のように思えると彼女は書いています」 「あの、大佐、わたしには子供時代がとても外国の地のようには思えないのですよ。いろんな意味で、わたしはずっとそこで生きつづけてきたのです。今になってようやく、わたしはそこから旅立とうとしているのです」

    1
    投稿日: 2021.03.14
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    上海の租界に暮らしていたクリストファー・バンクスは十歳で孤児となった。貿易会社勤めの父と反アヘン運動に熱心だった美しい母が相次いで謎の失踪を遂げたのだ。ロンドンに帰され寄宿学校に学んだバンクスは、両親の行方を突き止めるために探偵を志す。やがて幾多の難事件を解決し社交界でも名声を得た彼は、戦火にまみれる上海へと舞い戻るが…現代イギリス最高の作家が渾身の力で描く記憶と過去をめぐる至高の冒険譚。

    0
    投稿日: 2021.01.21
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    このレビューはネタバレを含みます。

    幼少期を上海の外国人居留地・租界で過ごしたイギリス人のクリストファーは、今やロンドンの社交界でも噂の名探偵。彼が探偵になった理由は他でもなく、かつて上海で行方不明になってしまった両親を探しだすためだった。父、母、フィリップおじさん、そして隣の家に住んでいた日本人の友だち・アキラとの日々を回想しながら、遂にクリストファーは真相解明のため再び上海へ向かう。しかし、かつての〈故郷〉は戦火に飲み込まれつつあった。 古川日出男の解説がめちゃくちゃ上手いのであれを読んだ後に付け足したいこともないくらいだけど、この小説を読んでいて、昔からずっと考えていることを思いだしたのでそれを書きたい。 児童文学に孤児の主人公が多いのはなぜだろう、と不思議に思っていた時期があった。名作と呼ばれる作品が書かれた頃は今よりもっと孤児の人口が多かったからとも言えるだろうし、また子どもを主人公として動かすのに大人がでしゃばらないほうがよいという作劇上の理由もあると思う。 でも私は(日出男も書いているように)、人は子ども時代に一度は精神的な孤児になるターニングポイントがあるのだと思う。それは一番近しい存在であるはずの家族、特に親が〈他者〉であることに初めて気づいたとき、子どもを襲う感情ではないだろうか。 我々はある程度の年齢まで親が語る世界を全世界と思って育つ。親がいない人も子ども時代に最初に信頼した人の影響は強く受けるだろう。親が語る視点を唯一のものとし、自分が見る世界と同一視していた子どもは、しかしどこかの時点でそれが唯一でも至上でもないことを知るはずだ。その失望、絶望、孤独、不安、不満が私たちを"孤児"にする。崩れてしまった世界をもう一度立て直すためには、自分と親は違う人間だということを飲み込まなければならない。そうした精神的な過渡期に、孤児を取り囲む世界のあり方を書いた児童文学が求められるのだろう。という仮説がずっと私の頭の中にあったのだった。 しかし本書の語り手クリストファーは、逆に孤児になったがために親、特に母が語る世界と適切な距離を取れないまま大人になってしまった。上海の記憶と両親をめぐる未解決事件は彼のなかで大きく膨らみ、人生すべてをひっくり返すドラマティックなものであるべきだと彼は考えるようになった。人びとに自分を認めてもらうために。 クリストファーは同じく孤児で、社交界での地位を人一倍気にしているサラを最初軽蔑しているが、彼自身も名声に固執している。解決した事件を自慢げに語る口ぶりはポアロのようで笑えるが、誇張癖の裏側には精神的に不安定な少年期を送ったことが見てとれる。壮年になり、引き取った孤児のジェニファーから思いやり溢れる言葉をもらえるようになったにも関わらず、亡きサラからの手紙を自分に都合よく解釈しようとするラストはとても切ない。罪悪感に蓋をして、身勝手な自分を棚に上げて、過去のよいところだけを何度も夢みる。『ロリータ』のラストで感じたような孤独と寂寥感。人はそれぞれ自分に見えている世界を生きるということの、祝福と悲哀。 『わたしを離さないで』の一つ前の作品なだけあり、全体の構成はとてもよく似ている。『わたしを離さないで』のほうがよりブラッシュアップされ、洗練されているが、本作のミステリーあり・ラブロマンスあり・ユーモアあり・市街戦ミッションありのサービス多めなイシグロも好きだ。ちょっと下世話なゴシップ要素を取り入れても品が良くなってしまうところも、私には美点に感じられる。 また、この小説はメタ探偵小説としても面白い。上海の租界という設定は古き良き探偵気分を盛り上げるし、アキラとクリストファーの探偵ごっこもリアルな子どもの世界の嫌さを書いていて(笑)楽しい。作中で幼いクリストファーが大人から言い含められる場面もあるが、ホームズやピンカートン作品のように現実の世界にもたったひとつの揺るがぬ真実があり、それを暴いて秩序を取り戻すことができると信じることは、それ自体とても幼稚な考えではある。けれどクリストファーにはずっとそれが〈世界〉だったのだ。日中戦争がまさに勃発した瞬間の上海にいてさえ覚めないほどに。その幻想と現実の狭間を覗き込むとき、笑いと涙が共に浮かんでくる。

    1
    投稿日: 2020.11.09
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    このレビューはネタバレを含みます。

    わたしたちが孤児だったころ。カズオイシグロの本のタイトルは、いつもこれしかないと思わせるタイトルをつけてくれる。 この本には、主人公は勿論、幾人の孤児が登場する。サラ、ジェニファーを含む3人が主に指している人物だと思うが、要素として日本人としてのアイデンティティが今一つ持てずにいたアキラも精神的には孤児だし、犬を助けて欲しがった少女は、戦争で散っていった民間人の遺子である。アキラと思われる日本兵の子供も孤児になってしまうかもしれない。 そして、孤児達は、様々なバックヤードや性格違いがあるものの、根底の心根にあるものは非常に似通っているように思える。 現実から目を逸らし、答えのみつからない幸せや真実を追い求める。あるいは、自身は大丈夫であるという振りをする。そのこと自体に本人は気付いていなかったりする。 後半は特に顕著で、クリストファーは、一歩引いてみると、あまりにも幼稚で幻想的な冒険譚を繰り広げる。戦争という超現実の真っ只中で。 「慎重に考えるんだ。もう何年も何年も前のことなんだ。」 空想に遊びふけっていた子供時代を未だ抜け出せていないのだ。 悲劇的な真実が明らかになった後、20年後になって、冒険譚は一応の幕引きを迎える。 そして、上海だけが故郷といっていたクリストファーは、ロンドンも故郷として馴染んできた、残りの人生をここで過ごすことも吝かではない、という。 1人の虚しさを思い出すようになる。反面、昔の栄光に追い縋っている面も見られる。子供から大人へ、成長する瀬戸際なんじゃないかなと自分は解釈した。 ここからどうなるかは、クリストファー次第。

    0
    投稿日: 2020.10.17
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    イギリスと上海(中国)の間を行き交い、事件解決と共に、アイデンティティを追求する男の物語。 「戦争」が絡む文学を手にすると、そこに人間への希望と失望を必ずやみることになる。 そして、戦争と平和が、こんなにも「隣人」であることに衝撃を受ける。 本を閉じたとき、嗚咽ではなく、心の襞を静かに潤わす涙が出た。

    5
    投稿日: 2020.03.17
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    カズオイシグロを読んでみよう!と手に取ったものの、語り口に馴染めず読了ならず。原文で読めばおもしろいのかな...

    0
    投稿日: 2020.03.16
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    このレビューはネタバレを含みます。

    後半からは、一気に最後まで読みました。 というより、読まずにはいられませんでした、先が気になって。 どういったらよいかわからない気持ちです。 幼い日の、当時の自分には責任はないし、気付くはずもない小さな判断が自分と周囲の人の運命を変えてしまったかもしれないという罪悪感、無力感。 正義感、責任感、向上心、愛情を持っていたからこそ訪れてしまった家族の悲劇、知人の悲劇、世の中の悲劇…。そして、それを利用して生き延びる人々もいる。 ひとつの事実によって、これほどまでに、自分の思い出や自尊心や家族や知人への印象・想い、経験したことの意味が変わってしまうということがあるのでしょうか。 自分がこの主人公だったら、事実を知った後、どうやって自分を保って生きていけば良いのかわからない。自分の責任ではないけれど、自分の人生を全否定したくなる瞬間がありそう。 ただまさに、命をかけて自分を愛してくれた人がいるんだという事実、これひとつが主人公の生きていく支え、であるとともに、だからこそ、その人が一生苦しむことになってしまった悲しさ。 主人公の寂しさはわたしには想像を絶するものでした。

    1
    投稿日: 2019.11.24
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    上海の租界に暮らしていたクリストファー・バンクス 10歳で両親が相次いで謎の失踪 ロンドンで大人になった主人公が探偵として名をなし ついに両親疾走の謎を解くために中国へと向かう やがて明かされる残酷な真実 淡々とした文章で読むのがつらい。 探偵ってこんなに権力あるの?という疑問や 主人公の突っ走りすぎる性格にイライラしたり。 シーーンとした読後感

    0
    投稿日: 2019.06.26
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    カズオ・イシグロの、何というか静謐を湛えたような独特の文体が好きで、これまで『日の名残り』や『私を離さないで』、『忘れられた巨人』を読んできた。久しぶりに彼の手による著作を手にしたわけだが、その語り口は独特で、物語は時に淡々と、時に波に揺られるように、あるいは時に劇的に進められていく。 上海で生まれ育ち、しかし幼くして両親と生き別れ、イギリスにいる伯母へ引き取られ、長じて探偵業を営んでいる男が主人公。タイトルにあるように、この主人公の境遇である“孤児”がテーマだと思うんだけど、「これがそうです」といったような感想は持ち得ない。しかし、読書中は常に読み進められずにはいない感覚で(このあたりは村上春樹と共通したものがある)、500ページ強の長さも気にならなかった。読後は、ほのかに暖かい気持ちと、少しの喪失感を味わう、そんな小説だ。

    2
    投稿日: 2019.05.12
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    とても興味深く読んだ。 第一大戦後から第二次大戦後までの時代を描く、主人公の私立探偵の第一人称視点の物語。 列強に植民地化(租界)された上海で生きる主人公クリストファー・バンクスとその日本人の友人アキラ。 両親が突然行方不明となった主人公はイギリスに戻り、私立探偵として名声を得るが、生涯の任務として自分の両親を探し続ける。最後には両親の失踪の真実を知る。 主人公が過去を回想していく形で物語は進んで行くが、ロード-ムービーのようで先の展開が全く読めない。 著者カズオ・イシグロの出自も影響しているのだろうが、日本人とイギリス人の交流というか、イギリス人がどのように日本人を見ているかを垣間見ることができる。 カズオ・イシグロの読んだ著書は、少しSFがかった『私を離さないで』、イングランドの古代・アーサー王時代の少し後を描いた『忘れられた巨人』と租界時代の上海を描いた本作とで3冊目だけれども、いずれも時代も話も全くかけ離れていて非常に面白い。 本作は少し村上春樹の著書に似ているかな。

    11
    投稿日: 2019.02.12
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    カズオ・イシグロの小説を読んでいるときのこの胸をしめつけられる感じは結局なんなのだろうか、と考えてみると、個人的にはやはり「取り返しのつかない過去」について、否応なく気づかされることの切なさではないかと思うのだ。 「日の名残り」にせよ、「私を離さないで」にせよ、描写は基本的に「回想」なのだが、その中で頻繁に「あれは今思えば」とか「後で考えてみると」といった説明が差し込まれる。そしてそれがストーリーを追うごとにひたひたと積み重なっていく・・・ 「わたしたちが孤児だったころ」は第二次大戦期前夜に上海で少年時代を過ごした主人公が、かの地で次々と失踪した父と母とを探す物語。孤児として母国イギリスに戻り、探偵として社交界で名をなし、運命に導かれるように再び上海の地に辿り着く。  この小説家の書く作品は毎回おそらく核心部分は同じだと思うのだが、うすい靄がかかったようにそこに容易にたどり着くことができない。こと本作に関しては、主人公が引き取った孤児のジェニファーに語りかける以下のセリフがもっともそれに近いものではないか、という気がした。 「時にはとても辛いこともある。・・・(中略)まるで、全世界が自分の周りで崩れてしまったような気になるんだ。だけど、これだけは言っておくよ、ジェニー。きみは壊れたかけらをもう一度つなぎ合わせるというすばらしい努力をしている。・・・決して前と同じにはならないことはわかっている。でも、きみが自分の中で今それをがんばってやっていて、自分のために幸せな未来を築こうとしているってことがわたしにはわかっている。わたしはいつもきみを助けるためにここにいるからね。そのことを知っておいてほしいんだ」(入江真佐子訳、ハヤカワEpi文庫)

    0
    投稿日: 2019.01.03
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    翻訳物は苦手ながらノーベル賞を受賞されたカズオ・イシグロ氏の著作ということで一冊くらいは読まなくてはと購入。 ロンドンの名探偵の設定からなかなか馴染めず読了まで時間がかかってしまった。 後半からは物語として面白くなってきたが、探偵である必然性が感じられなかった。 原文で読めれば深い部分まで共感できたのかもしれないが和訳がすとんと理解しにくかった。 前半の霧に包まれたような不可解な点が後半で解決に向かうのだが「母を訪ねて三千里」の戦中版のような気がした。

    0
    投稿日: 2018.12.14
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    不思議な感じの小説である。主人公と周りの世界とのズレを匂わせながら展開していき、上海での両親探索にて主人公は異世界に入り込む感じになる。でも何事もなかったように終わる小説。 前に読んだ「日の名残り」も、同じく一人称独白振り返り式だったが、そちらは主人公のズレがエンディングで明らかになるのとは本書は一味違う。

    0
    投稿日: 2018.11.05
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    カズオ・イシグロの「わたしたちが孤児だったころ」は、私立探偵が主人公だ。しかし、ミステリー小説ではない。幼いころに両親が行方不明になった主人公が、その謎を追いかけてゆく中で、わたしたちは決して孤児ではない、誰もが愛されているし誰かを愛さずにはいられない、という人生の真実を目の当たりにするという物語である。

    0
    投稿日: 2018.11.03
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    父親の本棚から借りてきました。 本作品もはじめは和やかでほほえましく、幼少期の思い出は牧歌的でさえありノスタルジックな気分で読み進めていました。 が、上海に戻ったあたりから雲行きが怪しくなり、アヘン戦争という罪の現実や両親の誘拐の真実が解き明かされ、主人公が一気に闇に呑みこまれていく様に読む手が震えました。 こういう手法はカズオイシグロならではですね。 真実を知る前までの幼少期からの美しい思い出や、イギリスでの社会的地位とそれに伴う安定した生活から一転するこのコントラストは、本当に衝撃的なのです。 両親を巡る真実は一見すると陳腐にも感じますが、悪のからくりとはその程度の日常のすぐ隣にあることが怖く、更にアヘン戦争におけるイギリスの責任は重く、便乗する世界も(もちろん日本も中国国内も)許し難く、戦時中はどこにでも悪が隣りにいるという現実にはぞっとしました。 そしてあれだけの生々しい戦闘シーン・・・衝撃的で映像が頭から離れない一方で、幼馴染も偽物に感じたし、それどころかあの一連の出来事は彼の妄想かとも思ったり、概念的な悪と現実の暴力の境目がつかなくなる自分がいました・・・ しかし、そんな現実を知りつつも子供には虚構の美しい世界を見せ続けようとした母の愛が、幼馴染との美しい故郷の思い出が、主人公の生きる力になり養女を愛する原動力にもなっているではないかと気づいた時、理不尽なだけではない優しい世界を感じられたので、最終的な読後感は悪くはなかったです。

    0
    投稿日: 2018.10.01
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    幼い日、アキラと遊んだ世界は永遠に閉じ込められる? 1900年代初頭、上海の租界で父母と暮らすクリストファーは突然の父母の失踪によって一人イギリスの伯母の元に戻りケンブリッジ大を卒業し探偵業となる。 1937年、父母の失踪の謎を解くべく再び上海に戻るが、物語は日中戦争、国共内乱に影響される租界と、幼い日々の隣人アキラやイギリスでの回想が交互に描写される。 イギリス時代に出会った女性サラ、寄宿学校の同級生、そして日本の兵隊となったアキラ、と偶然の出会いが物語をグイグイ進展させ、次はどういう展開とイシグロ作品初めてのドキドキ感がした。 幼い日々に失ったからそこまで父母に執着するのか? そして意外な父母の顛末。求めてたものは幸せだと思っていた幼い日々そのものか。最後は60歳位になろうとするクリストファがイギリスで一人居る場面だが、日本とイギリス、上海とイギリス、イシグロ氏自身の影も少し感じた。 同い年の隣人アキラとの互いの家での遊びの描写、また青年期のサラとの出会いややりとりなどがとても生き生きとした描写だった。 現在と過去の回想の交互の描写は、それまでのイシグロ氏の作品に共通するものだが、現在が戦乱、そして過去もアキラの屋敷の中国人の召使の部屋に忍び込む場面など薄暗い画面を想起させられ、全体に雨の降った昔のモノクロ映画をみている感がした。

    0
    投稿日: 2018.08.28
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    これは驚いた。今年一番の当たり本。 時は1920〜30年代。イギリス人の探偵クリストファー・バンクスはロンドンの社交界で有名になっていく敏腕な探偵。彼は幼少期を上海の租界で過ごし、隣に住んでいた日本人アキラとよく遊んでいた。健やかに育っていたはずの子供のクリストファーはが、とある日を機に両親から引き離されてしまう。ここから話が急展開。。。 人種、恋愛、戦争、子供の成長、自我、アヘン、そして親の愛。色々なものが詰まったサスペンス小説。

    0
    投稿日: 2018.08.19
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    ハードボイルド探偵が、上海で失踪した自分の両親を探す。 全く普通の探偵物語と思いきや…あれれ?という展開に。 そう、孤児であることで得られた想像力が、私たちを冒険に誘うのだ。 もちろん、カズオ・イシグロさんならではの残酷な展開ではありますが、 私は息子がいるので、真相をめぐるお母さんの気持ちに、涙。 ああー古川日出男さんのあとがきが全て。 「あなたは孤児になるために、この本を読むんだよ」 …なんと奥深い!

    1
    投稿日: 2018.07.13
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    子供時代を過ごした故郷の記憶。長い間故郷から離れて過ごしていると、それらの記憶が自分の基礎を形作っているのだと実感する。故郷の風景、感触、におい、手触りがふとしたきっかけで潜在記憶から立ち上ってくる。今の生活が苦しかったり不本意だったりすればするほど記憶は美化されていく。子供時代へのノスタルジーを心の拠り所にするために。 記憶の中の美しい故郷を失いたくなければ、今現在の「現実の」故郷は見ない方がいい。破綻や失望が待っているだけだ。 というお話だったんだろうか?と、読了して数ヶ月経ち、そう思えてきた。主人公の故郷は、第二次大戦前の上海の租界地という特殊な場所だ。どうしようもないほど世俗的で、世間の問題から目をそらしている人たちのすみか。ここを「故郷」と呼ぶような人はいるわけがないだろう、と思えるのだが、主人公にとっては紛れもない唯一の「故郷」なのだ。子供時代の瑞々しい描写と、主人公が長じて上海に戻ってからの荒唐無稽なストーリー展開の対比は、「記憶の中の故郷はそっとしておけ」というメッセージだったのだと勝手に解釈している。

    0
    投稿日: 2018.05.22
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    このように思っていた、でも実はそうじゃなかった。著者のいくつかの作品に通底する真実の残酷さ、人間の曖昧さがこの作品にも表れている。優雅な上海租界の少年時代と対照的な30年代の日中戦争の悲惨。こんな時代にあって主人公が奮闘する目的や生きる意味の重さが、ラストの山場、幼馴染のアキラとの再会シーンに凝縮されているように思えた。最後にはやはり涙が滲んできた。

    0
    投稿日: 2018.05.13
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    カズオ・イシグロの作品は二作目。イシグロ氏は、記憶や過去の回想にこだわってるのかなぁ〜。独特な印象。 ミステリーではないけれど、探偵として名声を得て、自分の過去の謎を追って行く物語。 第二次世界大戦を挟んだ残酷な物語。 良かったなぁ〜。

    0
    投稿日: 2018.04.03
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    このレビューはネタバレを含みます。

    何とも言えない読後感です。 最後に主人公が孤児になった真相が明かされるのですが、その現実(フィクションですが)が残酷… (2、3日、気がつくとそのことを考えていました… 酷い話だが、こういうこともあったのかもしれない。) 少年時代を回想する前半は、 セピア色でノスタルジック&オリエンタル。 イシグロ氏の本は今回が初めてですが、 今まで何となく幻想的な作風の作家だと思ってたから、 そっかこういう感じか、と。 しかし大人になって探偵になった現在の、後半は、 ヴィヴィッドな感じでした。迷彩色も入ってる(戦争の時代なので)。 西欧人が統治していたきらびやかな租界の街と、 市井の中国人庶民が暮らす、「押し入れほどの大きさの家」が並ぶ狭い路地裏。 そして主人公が結構矛盾した性格だった。 自分が思う自分と、他人が思う自分の像にギャップがある。 思い込み?独りよがり? 孤児として生きてきて、 自分の世界を強固にしなければ生きていけなかったのかな、と。 サラは他人を傷つけてきた(踏み台にしてきた)罰を上海で受けて、それでやっと幸せになれたのかな。 大人のアキラは本当にあのアキラだったんだろうか。だとしたらこの後もずっと主人公との交流が続くといいな。 正気を失ってしまったお母さんが哀しすぎた。 最後のお母さんの鼻歌に涙。。。

    1
    投稿日: 2018.02.07
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    子供時代を上海で過ごしたイギリス人のクリストファーは10歳のころ突然両親が失踪する。その後イギリスで不自由なく過ごし、探偵となり両親の謎の失踪の理由を突き止め両親を探し出そうと奔走する。失踪当時は中国にアヘンが入り国民がそれに犯されていたころで、父は別の理由でいなくなり、母はアヘンに対する活動からある中国人に拉致されるがそれと引き換えに息子が何不自由なく暮らせるだけの資金提供をしてもらう。母として気がかりは息子のことだけだった。母はひどい仕打ちを受け晩年は正気を失うがそれでも息子のことだけは気にかけていた。クリストファーはある施設にいる母を探し出すが、そこでの暮らしに満足している様子の彼女をそのままそこに残すことを決める。母の我が子への愛とはここまで深いものだと私自身納得できる。

    0
    投稿日: 2018.02.03
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    正直なにがなんだかわからんかった。 私の理解力がなさすぎるのか!? 「わたしを離さないで」が良かったので、読んでみたのだけど・・・ それもいま再読するとわからないのだろうか? うーん

    0
    投稿日: 2018.02.01
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    『わたしたちが孤児だった頃』も素晴らしい作品でした。 彼の作品の特徴として、これが何に関する話か、最後まで読まないと分からない、ところじゃないかと思いました。 主人公が、がんばったり、腐ったり、横道にそれたり、弱さを抱えながら、それでも戦っているものが、世界そのものだからこそ、広範すぎてつかみどころがないのでしょう。 解説で古川日出男さんが書いていた、彼がそれをする理由は、それよりほかないから、というものでした。 懸命に生きると言うことは、孤児であることなんですが、最後に彼は孤児でなくなりました。 これも必要なことなのかもしれません。 タイトルの、「わたしたち」というのも、複数形にはっきり意味が込められていますね。 逃げたおやじも、戦った母も、やはり孤児だったのでしょう。 いやはや、ともかく素晴らしい話でした。 スケールがどんどん広がっていて、元々すごかったですが、この作品で、世界的作家への階段をさらに何段も飛ばしてのぼっていった感じがします。 子育てに関しても考えさせられる本でした。 ともかく、スケールの広い、世界全体を含んだ本でした。

    0
    投稿日: 2018.01.17
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    ノーベル賞受賞ということで。 次の章を読むと突然主人公が有名になった(というのを察する書き方がされていた)り、女性と出会ったり分かれたり、時間の経過と流れが掴みづらかった。 謎の思い込み、最初の章と最後の章を読むだけであらすじが分かる。再会までの空白が気になってモヤモヤする。

    0
    投稿日: 2018.01.17
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    父がいなくなり母もいなくなったクリストファー。彼の目から見た世界を語る。 なぜ「わたしたちが」なんだろう?「わたしが」でないのはどうして? とずっと思いながら読んでいた。両親とともにいた可もなく不可もない子供時代を過ごしたけれど、今更ながら心のどこかに一人ぼっちの世界があるんだと思った。

    0
    投稿日: 2018.01.04
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    『わたしたちが孤児だったころ』読了。記憶の揺らぎというか自己編集というか、本作でも過去を信頼できない語り手が回想。戦前の上海育ちであるイギリス人探偵に、なぜか懐かしみを覚えるマジック。わたしたちは執事であり、介護人であり、孤児なんだな、カズオ・イシグロの世界に浸かってしまえば。

    0
    投稿日: 2018.01.03
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    後半の父母を探しに戦闘中の街の中を行った所がダメ。 まず中国軍士官が父母探しにあそこまで協力しているのに、クリスの言動は利己的過ぎる。 そして一番の?は、上流階級(なはず)のアキラとの邂逅シーン。 キーパーソンであり、且つ上流階級である彼が、あの場面で一兵卒として再登場するのがどうしても解せない。 またお母さんを発見した経緯も有耶無耶だし、イギリスに引き取らないのもクール過ぎる(それこそが孤児故の発想!?)。 とにかく物語には引き込まれたが、その流れが尽く自分の意に反したので読後感は非常によろしくない残念な作品

    0
    投稿日: 2017.12.09
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    大好きなカズオ・イシグロ。 『日の名残り』を読んで以来、夢中になり順番に読んで来ました。 これで彼の物語で翻訳され本として出版されているものは全て読んだことになります。 『わたちが孤児だったころ』は正直、私にとっては難解で読み終えるまでの時間が1番かかった物語でした。 カズオ・イシグロの物語は全容がけっこう読み進めないと見えてこないという印象が強いですが、特に今回は本当に最後の最後まで良く分からず・・・ ただその分、残り十数ページで全てが繋がりはじめた時の快感は格別でした。 最後のページの最後の行を読み終えた瞬間、主人公が物語の中で見てきた風景や彼の子どもの頃の思い出が、まるで自分がかつて経験したかのように次々と思い出されて行くのには驚きました。 しばらく時を置いてからもう一度読んだら、また違う受け止めかたができそうな一冊です。

    1
    投稿日: 2017.12.09
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    大人はこれでよかれと思って隠したことで子供はずっと悩む。知れば胸が悪くなるようなことであっても、知っていることは幸せなのだ。

    0
    投稿日: 2017.11.27
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    2冊目のカズオ・イシグロ。 翻訳のせいかもしれないが、暗いわけではないが明るくなく、紗をかけたような少し現実から離れた感じのする文章。 そして大人とは思えない奇妙な行動。まるで子供が探偵ごっこをしているかのような感じを受けます。 周りの描写は緻密だが、肝心の部分はぼんやりとしか書かれていない。モヤモヤしながらも常に興味をひきつつ、ここでやめられないと読み進んでしまいます。 最後の急展開はお約束のようなものでしょう。読んだ後は少し切ない気持ちになります。 舞台となった時代の上海の雰囲気がある本でした。

    0
    投稿日: 2017.11.20
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    父母と離ればなれになった遠い記憶をたどりながら、異国である生誕地・上海を想うイギリス人探偵。日本人の幼友達との良き思い出や、魔都に潜む闇も思い出される前半から、両親の消息を追って戦地となった上海に乗り込む後半は雰囲気がガラッと変わる。記憶とは、故郷とはそれぞれどんなものなのかと自分を振り返っても考えてみる。

    0
    投稿日: 2017.11.19
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    現在はイギリスで有名な探偵になっている主人公のクリストファー・バンクスは、年少の頃、疎開地である上海で過ごしました。第2次世界大戦の引き金となった日中戦争の前後。 父と母の想い出と日本人の友達、アキラとの回想シーンが物語の核を成します。カズオ・イシグロの作品はこれまで読んだ限りでは、過去のシーンがその都度物語を紡いでいくスタイルですが、今回は現実と回想が重層を成しており、モヤモヤとしたままあの事は何だったのか…と幾度も振り返ってしまいました。終わり近くになって、父母が何故いなくなってしまったのか、そのキーマンであると思われたフィリップおじさんの告白がそれまでの想い出を塗り替えることになるのですが… 晩年の母と子の再会は、目の前にそのシーンが浮かぶようでした。孤児だった愛称パフィンが欲しかったのは、何と言っても親に愛された記憶。

    0
    投稿日: 2017.11.12
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    「ほほぅ、ノーベル文学賞はカズオイシグロという人か。なになに?本が売り切れじゃと?たしかうちに1冊あったな、どれどれ」 という感じで読み始めた本書。以前、途中で挫折したのを思い出す。 今回はがんばって最後まで行き着くが、これ、そんなにいいか?主人公の「母恋」話だが、主人公の行動に賛成できないし、文章表現も響いてこない……。 全作読んでいる友人いわく「上手な村上春樹」だそうだが、「下手なフィッツジェラルド」というのが自分の印象。 好きな人にはいいんだろうなぁ。「ノーベル賞受賞につられて買った」というだけの人の本がこれからブックオフに山積するのであろうなぁ。

    0
    投稿日: 2017.10.29
  • 伏線が破たんしたのかと思うくらい…

    後半は展開が読めませんでした。完全にマジックリアリズムを使うのかなと断定しそうになったのですが…。読んでみればわかります。 後半の展開は東洋人の暗い劣等感を刺激します。ただ、冷戦後の中国の発展を知っていたら書けないような作品でもあるかもしれません。 日本人の青年の暗い最後を考えると、”わたしたち”というのは著者も含めたすべての日本人の暗い劣等感を投影しているのかとも思えます。 この作品ではミステリーと文学の融和が目論まれたのでしょうが、そのどちらか一方に期待すると少し拍子抜けするかもしれません。 前半はぐいぐい読ませるのですが、後半はあまり期待しすぎないで読むくらいがちょうどいいのかも…。 ”世界の危機”に”探偵”が立ち向かい、”過去の因縁”が全て混ざり合い、”愛と世界のハードボイルド”を燃やしつくし、”真の巨悪”の手から”大切なもの”を”取り戻す”。 そんなストーリーを文学として読みたくなったら買うのがよいでしょう。

    0
    投稿日: 2017.10.28
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    このレビューはネタバレを含みます。

    これを書いていたら、カズオ・イシグロさんが先程ノーベル文学賞に選ばれてびっくり。おめでとうございます。 この小説は、一言で言うと痛くて悲しいけれど少し希望もある不思議な回想録。 主人公の記憶の曖昧さや、思い込みや現実との乖離が気になりながら静かに引き込まれて行った。 同級生との会話の齟齬から始まり周囲からの歓迎ぶりや賞賛…上海での戦場シーンは特に何かがおかしくて、幼なじみとの邂逅シーンでは、実はアキラではなかったのかもと呟いている。 再会を熱望していたのは事実だろうし、一度は見かけた気がしているし、ならば戦場で出会った人物がアキラではなくて彼の妄想だったとすれば、怖いながらも痛く悲し過ぎた。 《両親を探し当てた後に開かれる予定の式典》は特に疑念でいっぱいだったが、まんまとイシグロの術にハメられ、結局、そんなものは開催される筈もなく、彼の妄想だと後から気付いた時にはゾッとした。 終盤、それまでの品位ある静謐な雰囲気から一変、唐突な叔父さんの独白はやり切れず、そこまで言うのかとおののいた。 終始彼の頼りなさや勘違いを感じていたけれど、それはある種の自己防衛本能で、叔父さんの衝撃の独白の前ではアリだと思えた。 とはいえ実のところ彼はそれを静かに受け止めたのかもしれない。母との辛い再会も彼の受け止め方は彼らしく、ずっと愛されていたことの方が大事だと考えるところが素直に素敵だと思えた。そして養女ジェニファーが最後の希望となり救われた。 読後、不思議な余韻が続いた。1930年代の美しい上海租界の情景が鮮明に浮かび戦場のシーンを除けば全体的にとても美しかった。 残酷過ぎた『わたしを離さないで』を超えて、カズオイシグロワールドを堪能した。

    4
    投稿日: 2017.10.05
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    主人公であるクリストファーバンクスによって物語が語られていくが、主人公はいつでも未来にたっていて過去のある時点がその時によって語られていく。探偵らしいが、事件そのものが語られることはない。行方不明になった両親の行方を追い、故郷の上海へと渡るが、そこで新たな事実と出会う。その事実は本当にマジで容赦ない。今でもたまに思い出すくらいどうしようもない。わたしを離さないででも思ったが、カズオイシグロ凄すぎる。

    0
    投稿日: 2017.02.06
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    カズオ・イシグロのわたしたちが孤児だったころを読みました。 イギリス人のクリストファーは上海の租界で貿易関係の仕事をしていた父と美しい母とともに子供時代を過ごします。 ところが、父と母は失踪したのか誘拐されたのか突然失踪してしまいます。 大人になって探偵で名をあげたクリストファーは父と母が失踪した真相を探るため戦争中の上海に戻ってきます。 そしてそこで明かされた真実は驚くべきものだったのでした。 カズオ・イシグロの小説は面白いのですが、背景を丹念に描きその積み重ねで事実を語るという手法なので、通勤電車で細切れに読んでいるkonnokの読書法とは相性が悪いなあ、と思ったのでした。

    0
    投稿日: 2017.01.17
  • 探偵が主人公の純文学

    読んでいて、やられたと思ったところは、主人公が探偵なのにラスト以外推理を披露しないところ。 良い文章でじっくりと主人公の日常が描かれている。 なんでこんなラストにしたのかという不満はあるものの、それ以外の文章が素晴らしい。

    1
    投稿日: 2016.08.06
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    一貫して、主人公の語りで綴られるストーリー。 子供時代を過ごした上海の租界でのキラキラした思い出。 父と母の失踪。 大学卒業後の探偵としての成り上がりと、社交界での華麗な日々。 そして、上海に戻って、父と母の事件を調査する様子。 哀しい結末。 ストーリーの流れだけを見ると、冒険小説のようだけど、実は全く違っている。 予備知識なしで、ワクワクドキドキを期待し読んでいたので、少し戸惑った。 まず、主人公は、推理をしない。びっくり。 また、主人公は、人間誰しもがそうであるように、記憶を自分の都合のいいようにつくりかえているようで、ところどころ、後半はかなりの部分に違和感が出てくる。 幼少時代のオールドチップ論争からはじまり、クン警部の伝説化、自分が名探偵だというのも少し疑わしい気がする。 極め付けは、両親の誘拐から20年近くたっているにもかかわらず、まだ生きていて同じ場所に幽閉されていると信じきっているところ。 さらに、その事件の解決が世界を救うことになると、自分だけでなく全ての人が信じていることを信じているところ。 アキラとの再会。 これには、孤児という拠り所のない立場の主人公が、自分の内的な世界に居場所を求める悲しさがあった。さらに、フィリップおじさんとのラスト近くの会話で、世界が美しいものではなかった、と知るところは主人公に追い撃ちをかける。 主人公の世界が崩壊してしまうかと思ったけれど、母親や養子にとった家族の存在が、心をつなぎとめ、その時、孤児ではなくなったのだと感じた。 結論、なんだかよくわからないけれど、深い余韻が残る作品でした。

    2
    投稿日: 2016.03.17
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    このレビューはネタバレを含みます。

    3冊目のカズオイシグロ。 読了後、頭を殴られたような衝撃を受ける。 小さい頃、失踪した両親を捜す為に探偵になったイギリス人男性が主人公の探偵小説...と思って読んでいた。 大人になり、イギリスで探偵として成功している現在から、幸せな上海での子供時代を振り返る前半。満たされた、美しい、懐かしい少年時代。優しい両親と、アキラという日本人の男の子との大切な思い出。どこか歪んだ印象を受けるけれど、両親が失踪した事を覗けば、幸せな少年時代。そして、探偵として順調にキャリアをつみ、充実している現在。少々退屈してきた頃に、主人公は両親を捜す為に上海へと旅立つ。 この辺りから「オヤ?」と思う。 主人公の語る事と、実際におこっている事との違和感。ドロドロと醜い姿を現そうとする現実を、決して見る様子の無い主人公から、コミカルな印象すら受ける。 終盤、戦場となっている貧民街に突入しても、その態度は変わらない。倒れている日本兵を、特に根拠もなく幼なじみと決めつける態度。そういえば、何十年も前に失踪した両親が、幽閉されているってどこに根拠が?両親が助け出された後の式典って一体なんなの? ...ちょっと気づくのが遅かったかな。このアタリから物語の中の違和感が突然形をなしてきて、ゾクゾクッ鳥肌! 上海に両親を捜しにきてから先は、一気に読み進めてしまった。少し落ち着いたら再読したい。今度は主人公の言う事は鵜呑みにせずに...。

    1
    投稿日: 2016.03.10
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    行方不明の両親を捜す男。 探偵になり、魅惑的な女との絡みが面白かった。瓦礫のなかを捜す場面が思い出されるが、 途中、これは男の夢の中では?と感じたのは、自分が戦争を経験していないことからくるのだろう。 家族で住んでいた家は、いまは違う家族が長らく住み続けていた。 家 という建物の意味以外の大きな価値は、そこを離れてから感じるものかもしれない。

    0
    投稿日: 2016.03.10
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    この本で、本の読み方が一つ身に付いた。書かれていることを全てと思わず、語られていないところにこそ作者の意図があるということ。

    0
    投稿日: 2016.01.14
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    ああ。静かに感動した。 語り手の記憶に基づいて進行し、徐々に真相が明らかになる。 何事よりも自分の「仕事」に徹する様は、「日の名残り」の執事と重なる。

    0
    投稿日: 2016.01.13
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    カズオ イシグロの小説 私を離さないで が日本でテレビドラマ化されるらしい。そんな事もあって、本棚を覗き、この本を手に取った。 彼の世界観を語れる程、私は彼の著作を読み込めてはいないかも知れない。しかし、何か共通する底流のようなものが、あるような気がしている。孤児というキーワードは、大人が押し付け抗えない運命により、子供が置かれた状況だ。運命による無力感は、子供だけではなく、戦争状態に置かれた大人、組織の利害の渦中に置かれた大人にも生じる。そう、大人であっても、孤児同様、抗えない運命に左右されるのだ。この事が、日系英国人としての運命を背負ったイシグロの醸す雰囲気の原点なのかも知れない。 我々は、より大きなものの利害により、自らの選択肢を狭められ、時に選択を強制される。両親の選択、叔父や友の選択。選んでいるようで、実は選ばされている。この物語のどこに救いがあるというのか。いや、あった。物語の最後、彼は自ら孤児を引き取り、暮らしを選ぼうとするのだ。ようやく初めて、タイトルの通り、孤児は過去形になるのである。

    1
    投稿日: 2016.01.12
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    カズオ・イシグロの想像力は現実の枠を超える。そのことは「私を離さないで」を読んでよくわかったのだが、本作でも子供時代の探偵ごっこそのままに探偵になった男が登場する。彼が戦火の上海で20年前に行方不明になった父母を探し始めるに至り、この小説は「私を離さないで」のような妄想を籠めたフィクションなのか、それとも現実の範疇に収まる話なのか、が気になってくる。結果はここには書かないけれども、彼の想像力の巨大さに今回も圧倒されてしまった。その意味で、期待を裏切らない一作だったと言える。 思えば、カズオ・イシグロ自身が子供時代のごっこ遊びをそのまま頭の中に抱えているのかもしれない。 「ノスタルジックになるっていうのはすごく大事なことだ。人はノスタルジックになるとき、思い出すんだ。子どもの頃に住んでいた今よりもいい世界を。」 (444ページ)

    1
    投稿日: 2015.12.13
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    上海で暮らし、10歳のある日突然孤児となったクリストファーがロンドンで有名な探偵となり、両親の行方を追う。 両親がいなくなった時から、まさに孤児のように目の前の厳しい現実と向き合って強く生きてきたクリストファーがたどり着く事実は辛く悲しいものだった。 しかし、そこには母の長年絶えることのなかった愛情があった。 母と自分の消えることのない繋がりを見出すことができたクリストファーは、ついに孤児であることをやめることができたのだ。 切なくて美しい話だった。

    0
    投稿日: 2015.12.03
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    500頁超をすらすらと読ませるのはすごいし、最後の謎解きもある。ただ、終盤の主人公やそれに応ずる周囲の言動、物語の展開にはやや不自然さを感じる。作者としてはそれも承知の上なのだろうが、何だかすっきりしない。

    0
    投稿日: 2015.08.12
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    新作『忘れられた巨人』に続いて、カズオ・イシグロの旧作『私たちが孤児だたころ』を読む。主な舞台は戦前の上海、数奇な運命を経て探偵になった男を主人公にしたハードボイルドものの体裁を取っている。もちろん素直なエンタテインメントではなく、全てがイシグロらしい「記憶」のドラマとして描かれている。 しかし話の展開は緩慢で、一体何を描きたい作品なのかよく分からず、530ページの内478ページまでは「こりゃイマイチだな」と思っていた。ところが最後の50ページで激変。長い物語に隠されていた残酷な真実が、堰を切ったように溢れ出す。そこまでが長くて少々イライラさせられただけに、終盤の感動は強烈極まりないものだった。 そのような構成なので、終盤の展開や作品の核となる事について具体的には語れない。言えるのは、様々な人の様々な「喪失」が描かれているということだ。イシグロと村上春樹は互いに敬愛の念を抱き、共通した作風を自覚しているようだが、村上春樹に似ているという点では、本作はダントツだ。「カズオ・イシグロ版『羊をめぐる冒険』」などという言葉が、ちらりと頭をかすめる。 『日の名残り』や『わたしを離さないで』ほど完璧な作品ではないにせよ、紛れもない傑作。カズオ・イシグロという素晴らしい作家と同時代に生きられたことを、心から嬉しく思う。

    0
    投稿日: 2015.07.21
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    このレビューはネタバレを含みます。

    イギリスで高名な探偵として活躍する主人公が、過去の両親誘拐事件の真相を暴くために上海で動き始める。 自分の記憶と他人からの自己評価の相違で、主人公の洞察力の弱さが垣間見れるので、実はそんなに凄腕の探偵というわけではないのだなと察せられたけど、後半になると本当にそのとおりなグダグダっぷりだった。 特に両親の幽閉場所に向かっているときには、疲労を考慮したとしても、探偵とは思えないアホ丸出しの言動の数々。どうしたんだクリストファー。 面白いと感じる部分もあったけど、最後までうまく馴染めなかった。

    0
    投稿日: 2015.06.25
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    このレビューはネタバレを含みます。

    これを「探偵物語」なんて言わないでほしいなあ。 主人公が大人になって探偵という職業を選んだ、って ミステリじゃないんだから。 ミステリじゃなくて探偵が出てくる辺り、 ポール・オースター初期作品を思わせますが こちらはニューヨーカーじゃありませんから~ 解説氏も書かれていましたが 読み終えた途端にもう一度最初から読みたくなる、 というか読み始めてしまった、ちょこっとだけ・・・ もうちょっと、出たくない世界でした。

    2
    投稿日: 2015.03.23
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    上海の租界(外国人居留地)で暮らしていた少年クリストファー・バンクスが、両親の相次ぐ失踪のため親戚を頼りロンドンの寄宿学校に入ることになったのが10歳の時。 大学卒業後はかねてからの夢だった探偵となり、数々の難事件を解決しながらも心の中ではいつか両親を探しに上海へ渡ることを考えている。 クリストファー〈パフィン〉の一人称で語られるこの作品は、タイトルでもわかるとおりある時点から過去を振り返って書かれている。 それなのに過去にわからなかったことはわからないまま、謎のままに物語は進み、そのくせパフィンの思考の流れそのまま、過去の記憶は必ずしも時系列に添っているわけではなく、行ったり来たり飛ばしたりする。 少年時代、上海で隣人である日本人少年とどのように遊んでいたか。 探偵としてどのように社交界で認められていったか。 寄宿学校の学友たちの前で、どのように自分を取り繕っていたか。 現在の彼がどのように暮らしているのかの記述がないままに語られる過去は、幸せだったはずの少年時代も含めてなにやら不穏で不安定である。 ただし、母と、日本人の友人アキラに関する記憶は、不安定でありながら美しい。 彼の人生で幸せだったころの記憶なのだろう。 だとすると、今の彼は。 彼が両親を探しに上海に戻ってきたのは、第二次世界大戦がはじまる数年前という時代。 日本と中国はすでに戦っており、中国は国民軍と共産軍に分かれて抗争中。 この時代については、学生時代に森川久美の「蘇州夜曲」や「南京路で花吹雪」を読んでいたので、割とイメージが浮かびやすかった。 今話題の「ジョーカー・ゲーム」もこのあたりの時代の匂いがするが、どんなもんだろう。 未読なのでよくわからないけど。 ロンドン時代の難事件の具体的な描写はない。 上海で両親を探す時も、主人公の行動がどう両親の事件につながっているのかは直接的に書かれていない。 ロンドン時代の彼の言動にも、若干の引っ掛かりはあった。 しかし上海に戻ってからの彼の言動には、そして彼を取り巻く周囲の人の言動にも多々違和感を持たざるを得ない。 これは本当に彼が見聞きしていることなのか、願望なのか、妄想なのか。 “実を言えば、ここ一年ほど急激に過去の思い出で頭がいっぱいになってきていたからだ。そうなったのは、子供時代や両親の思い出が、最近ぼやけはじめたのに気がついたからだった。ほんの二、三年前なら自分の心の中に永遠に染み込んでいると思っていたようなことが、なかなか思い出せなくてじたばたするようなことが最近何度もあった。言いかえれば、年を経るごとに、わたしの上海での生活はぼんやりとしたものになっていき、ついにいつの日にか残っているものといえばごくわずかのあいまいなイメージだけになってしまうのを認めざるをえなくなってきたということだ。” 本人ですら曖昧と認めざるを得ない過去の記憶を実際に追いかけて、辿り着いた真実は。 主人公の母が彼にしたこととは、自分の子どもにいつまでもサンタクロースを信じていて欲しいように、きれいなものだけで世界を飾っていたこと。 しかし少年はいつかは大人になる。 その狭間の時に母から離されてしまったパフィンは、サンタを信じていたかったのではないだろうか。 サンタの不在に気づいた後も。 パフィンが引き取って育てていた少女ジェーンも、そういえばちょうど同じ年頃にパフィンと離ればなれになるのである。 なぜならパフィンが上海に行ったから。 上手に大人になるには、親が築いたサンタの世界をそれと受け止めつつ、自分で現実の世界と折り合いをつけていかなければならないのだろう。 だとするともう一人の孤児。折々でパフィンの人生に関わりを持ったサラの行動も、そういうことだったのかと合点がいく。 とかなんとか思っていたのに、最後の最後に私が思い浮かべたのは森鴎外の「山椒大夫」だったりする。 ずっと主人公目線で読んでいたはずなのに、最後に母目線になってしまった。

    0
    投稿日: 2015.02.05
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    カズオ・イシグロさんという、日系のイギリス人の小説家さんの本です。2014年現在60歳くらいの男性のようです。 お名前は完全に日本人なんですが、まあ、何はともあれ母語は英語のようです。これも、翻訳本です。 正直、名前しか知らなかったんですが、「読んだことのない現在進行形の作家さんを読んでみたいな」という思いもあって。ほぼ予備知識なしで読みました。 不思議な小説、面白かったのは面白かったです。ラストの喪失感っていうか切ない感じが辛かったですけど。 英語版が発表されたのは2000年だそうなんで、もう14年前の小説になるんですけどね。 お話は、 ●1930年代の、ロンドン。主人公のクリストファー君(20代)は、両親がいないけど、財産に恵まれた若者で、教育を受けて、志望通り「探偵」になっています。 ●そのクリストファーさんの回想で、15年?20年前?子供だった頃。両親(イギリス人)と上海に居ました。支配者階級イギリス人一家のリッチな日々。父は、英国商社マン。母は敬虔な慈善家で、アヘン撲滅運動をしている。なんだけど、実は夫の会社、ひいてはイギリスが、上海に中国に、アヘンを売りまくっているという矛盾。 ●それから、その上海の子供時代、隣家の裕福な日本人家庭の「アキラ」という名前の同年配の子との友情。 ●その上海時代、父が蒸発する。そしてやがて母も蒸発する。孤児になり、独り英国の伯母のところへ。 ●そんな思い出が続きながら、20代の主人公は探偵になり、かつての上海の両親の失踪を調べている。なんとなく確信を得て、上海へ。久々に上海へ。 ●日中戦争泥沼の時期の上海。腐敗した支配者階級、悲惨な戦争。アキラと、物凄い偶然の再会。両親の失踪の真実を知る。 ●大まかに言うと。父は愛人と逃げただけだった。母は中国人のマフィアにさらわれて妾になっていた。クリストファーの安全と財産、それと引き換えに母は自死を思いとどまっていた。なんて悲しい事実。 ●どーーーんと月日が過ぎて、淡々と初老になってロンドンで暮らしているクリストファー。母とは戦後に再会。だが、母は心を病んで、息子を判らなかった。 ■と、言うお話が、クリストファーさんの一人称で語られます。これ、大事ですね。客観的には語られません。 ■で、少年時代の豊富な細かい想い出、20代のロンドン~上海時代の恋愛、引き取った孤児の少女との触れ合い、が、入ります。 あらすじ、枠組み、で言うと、そういうことなんです。 なんだけど、あらすじではわからない「味わい」について言いますと。 ●主人公は孤児なんだけど、どうして孤児になったのか、判らない。本人にも判らない。犯罪の匂いがする。 ●主人公は、シャーロック・ホームズに憧れて、探偵になる。 ●そして、両親の蒸発の謎に迫っていく。 と、言うあらすじなんですけど。なんですけど、細部が無いんです(笑)。 犯罪捜査の細部が、無いのです。 だから、なんていうか、「犯罪娯楽小説」「探偵娯楽小説」「冒険娯楽小説」では、無いんですね。 兎にも角にも、主人公の青年の心理、内面。その震え、動揺、高揚。そういう面白さなんです。 それで、この小説は、戦争が描かれます。第二次世界大戦。まあ、厳密に描かれるのは上海での日本軍対中国軍の戦闘です。 そして、この小説は、「支配体制権力が行う、人種差別的な、構造的な悪事」「それを、見逃して、目をつぶって、白々しく上品に暮らす人々」が描かれます。 そして、その中で小説として起こることは、やりきれないほど辛く、悲しく、絶望的で、救いがない。そういう、隠された事実だったりします。 子供時代の、美しい無邪気な想い出が無残になります。 ま、つまり、そういうことなんだろうなあ、と。この小説で渡したかった後味っていうか。 そういった、怒りや批判を含んだ、喪失感というか、無力感というか。 そこに至る絶望感とか、感傷とか。 だから、正直、全部一人称なんで。どこまでが物語的に事実なのか、疑問も抱けるわけです。 主人公のクリストファーが、そう思っている。そう思いたかった。そう妄想している。だけかもしれない訳です。 特に、上海の戦場、幼馴染のアキラと偶然邂逅するくだり。あまりに偶然。この、上海戦場放浪のくだりは、全体に、どこまで事実かわからない。 なんだけど、この小説の中でも、ぐぐっと読ませます。くらくら眩暈がするような。主人公の意識と一緒に、戦場という悲惨さの中に、読んでる気持ちも叩き込まれます。 なんかもう、そうなると、ジジツなのか妄想なのかという境目は、どうでもよくなるような気もします。 そういうことなのかなあ、と。 そして、小説全体に、東洋人でありつつ英国人である、という作者の業なのか、なんとなく、感じたこと。 西洋白人社会、つまり19世紀的な先進国の、物凄く深い罪悪。暴力性、残虐性。被差別対象としての東アジア人。その東アジア人が被害者から加害者へと乗り換える。その際の、復讐的とも言える暴力性、残虐性。…救いのないループの中で、らせんに織り込まれた20世紀前半という歴史。そんなタペストリーを見せられたような気がします。 うーん。そんなこんながかなり、意図的。戦略的な気がするんですよね。 この小説家さんは、小説とか、言葉とか、意識とか、歴史とか、物語とか、そういうことに凄く意識的な気がします。 それは、「面白いために必須な条件」な訳ではないんですけどね。 何ていうか、右手が、「右手である」ということに意識的になってみると、ちょっと違って見えて来ちゃうみたいな。 そして、いちばんなことは、文体的に?語り口というか。とても落ち着いていて、品があると思いました。クドいケレンもない。あざとさも無い。 こういうのって実はすごいことだし、大事なことです。半分は翻訳の問題ですけどね。僕は好きでした。 1930年代、20年代くらいの、上海。 演劇「上海バンスキング」の世界な訳ですが。 この西洋と東洋、貧困と富裕、混濁と美しさのような街並みが、くどくどと描写されるわけでもないのに、 すごく印象に残ります。 そういうのって、文章を読む醍醐味ですね。 この小説家さんの小説は、いくつか映画になっているそうですけど、絶対にこの持ち味は、厳密に言うと映画に移し替えられるものではない、と思います。 村上春樹さんとか、そうですよね。 (伊坂幸太郎さんの小説も、好きなんですが、何故だか映画化作品は、マッタクと言って良いほど、そもそも見ようという気になれないんですよねえ…。閑話休題。) …って、この本。 手放しで褒めるって感じにもなれないんですけどね。 そんなこんなで、大まか言うと暗いです(笑)。 キッチリ美しく、均整に心地よいのですけど、一方で暗い(笑)。ユーモアも、まあ、無いですねえ。 暗いというか、痛い?美しいのに痛くて悲しいかんじですね。 なんですけど、ホントに知的で素直で読み易い語り口。 主人公が、何をどう感じているのか、という興味で転がしていく、話の運びの巧みさ。 考察と知性と感傷が充満充実した、全体の構成。 うーん。なんて言えばいいか。本格派。スバラシイ。 大好き!とは言いませんが、またいつか別の小説を読んでみたいですね。何より、同時代の人なので。次回作、最新作で、今のイマの世界をどう感じて何を語るのか。楽しみですね。 「わたしたちが孤児だったころ」。原題の、まあ直訳なんですけど。この直訳感、微妙に日本語的に居心地が悪い感じが、この本にはふさわしいなあ、と思います。 素敵な翻訳タイトルだなあ、と思います。

    10
    投稿日: 2014.06.22
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    ノスタルジックで美しい前半と、ビターな結末がとても感動的。安易な癒しはなく、クールな残酷さが後に残るすごい小説だった。

    0
    投稿日: 2014.05.30
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    このレビューはネタバレを含みます。

    非常に不思議な読後感を味わえる小説。 主人公が成長して探偵として活躍する現在と、幼少のころの両親や幼馴染たちとの思い出がイギリスと上海を舞台に語られる。そこには旧友の、両親の、そして現在の恋人の、という具合に様々な人々との個人的体験が重層的にちりばめられていて、極短い短編小説がいくつもいくつも連なっているという風に読むことができた。むしろ通常の小説であれば物語の肉付けとも言えるそれらの「短編」的エピソードが醸し出す雰囲気こそ、この小説の骨格となっているような感覚さえ覚える。 そして何より不思議に感ずるのは、物語の後半、上海に戻った主人公が体験する幼馴染と邂逅する場面。重い現実感のある夢のような描写で、エンターテイメントを期待する読者を全く別の地平へと連れ去ってくれる。 こんな小説には滅多に出会うことが出来ないと思う。

    0
    投稿日: 2013.12.22
  • 不思議な小説

    なんとも不思議な小説です。主人公と周りの世界とのズレを匂わせながら展開していって、いよいよ上海にて主人公はまるで異世界に入り込んだかのようになります。でも結局なんというかオチがないって感じなんですよね。じぶんの読解力不足かもしれんのですが。 以前に読んだ「日の名残り」も一人称独白振り返り式でしたが、そちらがエンディングできれいにオチるのとは一味違います。

    1
    投稿日: 2013.11.06
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    このレビューはネタバレを含みます。

    ミステリーしたての長編小説。500頁超に及ぶが、長い長い助走を経た最後の50頁にこそ、カズオ・イシグロの小説のエッセンスが詰まっている。読み終わって、その寂寥感の中にしみじみとした感動に浸れるのは、まさにカズオ・イシグロだ。

    0
    投稿日: 2013.09.27
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    後半の主人公は「信用できない語り手」で、虚実が分からない世界へ迷い込んだかのようだった。 アキラとの再会シーンは狂気すら感じる。 「わたしを離さないで」は胸に沁みたんだけど、こちらは今一つはっきりしない感じ。

    0
    投稿日: 2013.09.25
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    このレビューはネタバレを含みます。

    行きの飛行機の中で読み始め,帰りの飛行機の中で読み終えた. 過去のことが記憶という媒体によって徐々に明らかにされていく.翻訳のよさもあるのだろうが,読者を物語(=歴史)の完成までずっと引きつけて離さない手腕はすばらしい. ただアキラとの再会前後の部分はあまりよくない.ストーリーが現実的になると,小説は希薄になって現実感を失うような不思議な感じ.これも作者の意図なのかもしれないが. 最後のフィリップ叔父の告白は人間の業を感じさせて重く,そして虚しさも感じさせる. 戦前の上海はパール・バックの「大地」と重なった. さて,私は★をつけるとき再読するだろうかを基準にしてつけているが,この本は迷う.初読のときは,明らかにならない事実への興味から,飽きずに読めるのだが,再読するとしかけはわかっているわけで ...

    0
    投稿日: 2013.07.08
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    探偵が主人公だけど、事件の内容はわからないところがカズオ・イシグロの作品だと思う、なんとゆーかすごく風呂敷は広いんだけど書きたいことはある人物の心の動きなんだよなーと思う。

    0
    投稿日: 2012.12.31
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    読後は痺れてしばらく放心してしまった。抑制がきいた、正直な独白形式はこれまで通りだが、少年時代の親友アキラとの再会シーンだけは別格。イシグロの新たな面を見たようだ。また、孤児をめぐる人物の再帰構造も魅力を増している。自分と人の人生の幸不幸を安易に結論づけて語るまい、と思った。

    0
    投稿日: 2012.11.21
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    久々に重厚な小説を読んだ。今まで何冊かカズオ・イシグロの本は読んできたけれども、一番長いし、一番重量感もある。この人の本はそれぞれの長編が全く違う輝きを放っているのが魅力だけれど、本作も今までの本とは全く違った位置にいるもので、驚かされた。底知れない幅の広さだなあと。冒険の色が強く、次に何が起こるのか分からない。この人の本は今まではゆっくりと時がながれてその世界を堪能したい本ばかりだったけれど、この本はもう、次から次へとページをめくらなければならない、焦燥感を感じるものだった。早く続きが読みたいというわくわく感と、どこから湧き上がってくるのか分からない恐怖感。翻訳の関係もあるのかもしれないけれど、ふわふわとして実体の定まらない恐怖感みたいなものがあった。特に主人公について、どういう人間か大方掴めたと思った瞬間に崩され、ついていけなくなる感じ。これは翻訳の関係なのか、カズオ・イシグロが作り出した狂気の沙汰なのか、見極められない、と思いながら読んでいた。 この本では、孤児というのが一大テーマで、それは実際に現実的な意味での孤児というだけではなく、もっと精神的な、人間の心のなかにおいて、孤児という存在は作られてしまっていく。その人間の心の悲しさを一番的確に表したのが孤児という言葉で、心に残る大きな重石のような、そんな本だと思った。もう一度読めばもっと深いレベルで色々なことが見えてくる、見えてきやすい本。もう一度読みます。

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    投稿日: 2012.10.16
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    探偵が主人公の冒険譚のため、前半は一見カズオイシグロっぽくないエンターテイメント性がある。だが、物語が少年時代の回想に映ると、いつものカズオイシグロ。 とはいえ物語は、主人公の探偵が、少年時代に失踪した両親を探す話。心情を端正に描くより、スピーディに物語は展開する。ハードボイルドな調査シーンは一切なく、腕利きの探偵のはずがむしろ凡人に感じてしまうくらい。 最後に明かされる真実に、心が打ちのめされる。それでもかすかにロマンと希望は残る。

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    投稿日: 2012.10.08
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    世界から一歩引いたような語り口は「わたしを離さないで」と同じでした。 もう悪夢のような内容で、個人的にはそういうのが好きなのですが、バンクスが情緒不安定過ぎて読み手として心の置き場に困ります。 あと、重要なところをあえて書かない手法なんでしょうが、私はそこをもうネッチネチほじくったものが好きなので、ちょっと物足りない。サドや大江健三郎みたいに執拗にほじくって欲しい。 12.03.09

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    投稿日: 2012.03.09
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    上海の租界で育った名探偵クリストファー・バンクス。孤児であった彼は、大人になり、両親を探しに再び戦禍の上海に赴くが…〉 カズオイシグロ。 正直今回のは(カズオイシグロにしては)あんまりでした。不確かな語り手の記憶の手法はいつも通りでしたが、あまりに名探偵であるクリストファーが迷探偵な気がして… でもラスト50ページは凄まじい。真実とは時に残酷なことを見せつけられた。 たぶんこの本から、「取り返しのつかない過去への後悔と正当化」から「どうすることもできない真実の受容」へとテーマがシフトした気がする。

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    投稿日: 2012.03.05
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    「わたしを離さないで」が面白かったのでこちらも読んでみた。 が、後半の戦闘シーンにいまいち入り込めず、なんだか非現実的だなあ、という印象で終わってしまった。 長い年月を凝縮した物語の構成自体は良かったのだけれど。

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    投稿日: 2012.02.04
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    いつ面白くなるのかとワクワクしてたのに、結局よく分からなまま終わった。サラとかアキラとかジェニファーとか、重要な鍵を握るかと思いきやあっさり消えて行くし。もしかしたら主人公で語り手のクリストファーが夢か幻を見てて最後にあっと驚く紐解きがあるかと思ったり。 とにかく何が言いたいのか、何かを言うためにこれほどの文字が必要かと疑問を感じさせられた。

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    投稿日: 2012.02.02
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    結構、読了まで時間がかかりました。 ドラマチックな展開・表現をあえて静かで忍耐強く書いた作品でした。

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    投稿日: 2012.01.15
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    本日読了。列強各国が自国の利益のために中国大陸各地に租界を築いていく、そんな混沌とした時代を背景とした、記憶とノスタルジアを巡る物語。回顧される記憶は、カメラのレンズで捉えたかのように、生々しく精緻に描かれる。一方でその記憶は、あまりにも残酷な「物語的偶然」に支配されている。物語後半、租界外の路地における絶望的な彷徨の描写は、物語である事すら拒否するように、あまりにも夢幻的。夢か現実か、記憶か空想か、それを解き明かすことは全く無意味だろう。「私」が、「孤児であった」ことを振り返り、この世界と折り合いをつけ生きていく上で、記憶も空想も夢も記録も全て混ぜ合わせゆすり出来上がった物語(それは失われたものを必死に取り戻そうとする痛切な思いの純化物と言ってもいい)を、自らに語る必要があるのだから。世界大戦前夜の不穏な租界を舞台にした小説といえば、横光利一の「上海」が思い浮かぶ。横光の描く上海は日本人が「外界」として見た国際都市であり、常に俯瞰的視点で描かれているために、物語として楽に読めるが、イシグロの本作は、哀切の極みで、非常に胸苦しい。

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    投稿日: 2012.01.04
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    このレビューはネタバレを含みます。

    「私を離さないで」よりも好き。 イギリス人でありながら、上海の租界で幼少時代を過ごした主人公。両親を失ってからは、イギリスの叔母のもとへ引き取られる。最初は「上海のこそが自分の故郷だ」と思っていた彼も、だんだんとイギリスが自分の家だと感じるようになってくる(イギリスに「帰る」という表現を使うようになる)。 上海は止まることなく変わり続ける。故郷の面影はどんどん消えてゆく。上海で彼が昔住んでいた邸宅も、他人の所有物となり何度も改築されている。第二次世界大戦後には「租界」というものすらなくなってしまう。彼自身の名前も変わる。加えて彼の今の地位は、実は母の犠牲の上に成立したものだった。探偵なんて何の役に立つ?そんな夢物語がここまで続いたことが奇跡だ……謎を解き明かされたとき、彼は人生を全否定され、アイデンティティを揺るがす。 私はイシグロ作品を今までに「日の名残り」「私を離さないで」の二作読んでいるが、これらに比べてこの小説は一層「信用できない語り手」色が強いように感じた。明らかに無茶な主人公の行動を追いながら、本当に彼はそう思って動いているのか?それは真実なのか?と、何度も不審に思わされた。 特にショックを受けたのは、アキラと再会したと思っていたが今となってはそれも本当だったのかよくわからない、と主人公が発言した場面。このあたりでは、読者もかなり多くの不完全燃焼や不安要素を抱えながら読み進めていることだと思う。それをさらに混沌とした非現実へ陥れるような主人公の発言には、胸がつまるような心地にさせられた。 良い意味で、もやもや感が残留するような読後感だった。 アヘン貿易や第二次世界大戦前の上海のようすが多く描かれているので、背景知識をもっとつけてから再読したい。

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    投稿日: 2011.11.28
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    自分が日常を生きているこのなんでもない瞬間にも、 世界のどこかでいろんな人にいろんなことが起きていて、 どこかで、重なったときに、 そのときどうしてたとか、実はこんなだったとか。 それは当たり前のことなんだけど、 こんなに不思議なこともないなって思った。 あんまり関係ないことだけど、この本は面白かったです。 やっぱりこのひとは好きだ。

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    投稿日: 2011.11.14
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    このレビューはネタバレを含みます。

    テーマがよくわからない。 幼いころに孤児となった主人公の生涯かけてのカタルシスを追う物語か。 エピソードを積み重ねていく形で物語は進行していく。ひとつひとつが何かの伏線となっているわけではなく、ぶつぶつと途切れる感じのエピソードなのだがなぜか引き込まれる。 終始どこか不安定な雰囲気は漂っているのだが、上海に入ってから、特に両親の幽閉場所のヒントを握ってからの展開がなんだか夢でも見ているかのような非現実感。あのあたりは混乱し、あんまり好きでなかった。 受け止めるのが難しいと感じた物語。

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    投稿日: 2011.10.30
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    このレビューはネタバレを含みます。

    本の最初の3/4くらいは いくつかとても心に響くシーンや セリフがあったものの、 けっこう退屈だな~と思いながら 読んでいたけど 残りの1/4が、とても素晴らしかった。 特にお母さんとの最後のシーンが感動した。 ただ、カズオ・イシグロの作品は どれも奥が深くて、この作品にしても 本人のインタビューやさまざまな書評を読むと 私が読み切れていない部分も多々あって その辺を考えて読んだら もっと評価は高くなるのかも。。。

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    投稿日: 2011.10.12