【感想】パンデミック新時代 人類の進化とウイルスの謎に迫る

ネイサン・ウルフ, 高橋則明 / NHK出版
(13件のレビュー)

総合評価:

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ブクログレビュー

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  • Tomota

    Tomota

    感染力と致死性が高いウイルスは、人間にとって脅威だ。この微生物は、一体どのようなものなのか?なぜパンデミックを引き起こすのか?気鋭の生物学者が、ウイルスの謎に迫る書籍。

    ウイルスは、19世紀後半に発見された。ウイルスはラテン語で「毒」を意味し、既知の微生物の中で最小である。110年前に発見されたばかりなので、まだわからないことが多い。

    ウイルスは、あらゆる細胞生命に宿っており、海にも陸にもどこにでもいる。その数は膨大で、海水1mlあたり2億5000万のウイルスがいた、との研究報告がある。

    ウイルスは、既知の生物の中で最も頻繁に変異する。そして大量の子孫を作ることで、親よりも強い子どもが出てくるチャンスを増やす。それによって、新薬に勝つ可能性が高まり、種の異なる宿主に飛び移る能力も獲得しやすくなる。

    SARS(重症急性呼吸器症候群)は、2003年に香港を訪れた中国・広東省の男性(スーパースプレッダー)から拡散した。香港の人口密度は高く、野生動物を食べる習慣のある広東省からの交通の便も良い。
    このような、高い人口密度、野生動物などが持つ微生物との接触、効率的な交通網が重なる時、新しい病気が現れやすい。

    現在の畜産は、大規模な飼育場に多くの家畜を詰めこむ形で行われている。この「工場畜産」は経済効率がいい反面、微生物に大きな影響を与え、パンデミックのリスクを高める。

    これからはパンデミックの脅威がますます強くなる。これまで出会わなかった微生物同士が遭遇し、遺伝情報の組み換えが行われ、新しい病原微生物が生み出される可能性がある。
    新しい感染症の波を予測し管理する方法を学ばなければ、私たちは手ひどく打ちのめされるだろう。
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    投稿日:2021.10.06

  • Sig Sugito

    Sig Sugito

    このレビューはネタバレを含みます

    2012年に翻訳出版(原著は2011年)された本書は、現代社会がパンデミックのリスクの高い状況にあるという警告の書であった。ここで指摘されてきたことをないがしろにしてきた様々な利害関係者(ステークホルダー)の危機感のなさがコロナ禍を助長したと言えるだろう。2000年代に入ってからも、今回のCOVID-19(SARS Cov-2)のパンデミック以前にも、SARS(SARS Cov-1)やN1H1インフルエンザのパンデミックがあり、各国は対策に追われたはずだ。しかし、喉元すぎれば熱さ忘れるのとおり、根本的な問題、パンデミックを引き起こすモニタリングシステムの構築が蔑ろにされて、当面の解決で収束してきたことが、今回のような結果を生んだと言える。そして、今回もまた同様の結果となる可能性が高いのではないだろうか。

    本書では様々な事例が引かれてたいへん参考になる。最終章にリスク・リテラシーという言葉が挙げられているが、まさに、だれもがこのリスクに対するリテラシーを向上していかなければならないとおもう。また、世界的な感染症モニタリングシステムの構築など、対策として様々な提言が記されている。たとえば、携帯電話の普及を前提としたテキストメッセージをつかった危機報告システムの提言などだが、これは、SARSの経験を生かした台湾ぐらいだったようで、我が国のSARS以来の諸施策屋COVID−19に対する対策をみると、Cocoaはその典型であろうとおもうが、本書でふれられるようなことは考えられたとは思えないことがわかる。さらにいえば、我が国のみならず各国も濃淡はあるものの事前に対応してきたことは、おそらく不十分であったかと思われる。

    本書が優れているところは、専門的な用語を最小限にして誰にもわかるように描かれているということだろう。まさに、リスク・リテラシーの必要を踏まえて政策立案者・制作実行者のみならず、我々一般の人々にも理解が進むように描かれているといえよう。ロックダウン下のイギリスでは、ネットでブームに火が付いたことを理由に、2020年になって日本でも復刊され、多くの人が読んだことは、まさに、ホットなトピックであったことが知れる。しかし、「緊急復刊」されること自体、まさに、本書で述べられていることが実践されておらず、さらにはリスク・リテラシーの向上が見られなかったことの証左であると思われる。

    https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000203.000018219.html

    本書では、ウィルスが生命であるかどうかの議論をおいて細菌やウィルス(遺伝子を持つが他の生物の細胞内で自己複製をする)、プリオン(タンパク質の一種で遺伝子をもたない)もふくみ、感染症を引き起こす存在全てが、取り上げる対象となる。人間はややもすると、自身が自律的に生きる生物であると思いがちだが、腸内菌叢を例に上げるまでもなく、一人では生きてはいけないこと(物質的にも、精神的にも)を忘れがちである。同様の意味で感染症の原因となる細菌やウィルスやプリオンもまた、他の生物との関係の中で存在していると位置づける。

    ウィルスは他の生物の細胞に侵入して初めて次世代を残すので、いかにして細胞内に入り込むかが、彼らの次世代の再生産にかかわる。そのために、細胞の受容体(レセプター)と適合する部位(スパイク)を持つことがキーポイントとなる。レセプターを鍵穴、スパイクを鍵と考えたらわかりゃすい。細胞の持つ免疫反応は、異物の侵入に対して同様の機序をもち、単純化して言えば、レセプターを作り変えることによって、異物の細胞への侵入をふせぐ、あるいは、異物を排除する特別な細胞(たとえば、キラーT細胞)があえて、異物とレセプターを通じて結合して排除する(分解する)といった一連反応が免疫反応といえるだろう。しかし、ウィルスは遺伝子の変異性を利用して、再侵入をこころみる。ウィルスが再生産されるとき、スパイクの形状が様々な形を持つ多様な変異をもつ次世代が誕生する。昨今、COVID-19の変異型の感染が新たな感染の波を引き起こしていることがまさにその典型といえる。

    次に本書で取り上げられるのは、人類の進化史の問題である。人類は霊長類の一員であるが、最も近い親類である霊長類はチンパンジーとボノボだが、彼らが熱帯の密林を生息域としているのに対して乾燥したサバンナに生息域を移したのが我々の祖先である。密林はいわば、感染症の巣窟(感染源が多様に存在するということ)であるのに対して、乾燥しているサバンナは感染源は相対的に少ない。乾燥した地域に出たことが、感染源に接触することを減少させ、免疫反応によって多様な感染源に対応する機会を減らせることになった。チンパンジーとボノボ、そして人類は他の動物を狩猟する雑食性のどうぶつである。他の動物の血液や体液と接触することになる狩猟は、他種の病原体からの感染のリスクも大きい。人類は、乾燥地帯に出たあと火を使うことを知った。加熱は食物に付着する微生物を殺すので、さらに、感染の機会を減らした。また、環境変化による人口のボトルネックをへて、人類は遺伝的多様性を減らした。

    そうした人類が、定住をはじめ、家畜を飼い始めた。ボノボやチンパンジーと分岐して依頼歩んできた道とは逆方向に向かい始める。定住による集住は感染蔓延の機会を増やす。家畜を飼うことによって動物からの感染症の機会を増やす。いわば、人類は、せっかくの感染の機会の現象をわざわざ増やす道へと戻っていったのだ。

    著者は、モニタリングのリソースとして、世界のハンターたちの感染状況をつかっているという。そのことを通じて、いち早く、新たな感染症の発生を完治し、対処法を見出すだけでなく、世界に警告を発するそうしたシステムを構築することが願いだという。

    しかし、世界各国の政府は、そうした立場に立たない。むしろ、場当たり的な対応をとってしまう。コストとリスクの帳尻を考えるからだろうか。また、政府の科学的なリテラシーも不足しているし、とうぜん、一般の人々のリスク・リテラシーも不足している。コロナ禍は起こるべくして起こったとしか言いようがないかもしれない。

    今からでも遅くはないとおもう。本書を読んでリスク・リテラシーをたかめ、政府の施策を変えさせなければならない。

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    投稿日:2021.03.14

  • けろ姫

    けろ姫

    著者のネイサン・ウルフは
    「ウイルスハンター」と呼ばれるアメリカの生物学者。
    生物学のインティ・ジョーンズのような存在だ。

    彼はアフリカやマレーシアなどでの現地調査を経て 
    パンデミックの防止のため
    終身在職権を持つUCLAの教授職を捨て
    「世界ウイルス予測」(GVF)を立ち上げた。
    2019年にはこの組織をMetabiotaという組織に
    シフトさせている。
    https://metabiota.com/

    新型コロナのパンデミックの最中にいる今
    2011年に刊行されたこの本を読むと
    世界がいかに手を打ってこなかったかがわかる。

    ウルフたち研究者の警告にも関わらず
    世界諸国はパンデミック防止に失敗したのが
    現在のこの惨状だ。
    これはいまや世界の喫緊の課題となった
    環境問題とも相通じる。

    この本が面白いのは
    野生動物に由来するウイルスが
    いかに広がり 人間を脅かすようになったか
    人類の歴史との生物学的な関係が
    わかりやすく書かれているからだ。

    チンパンジーは肉食で
    他の小型の猿や 
    時には人間の乳児までを捕獲して食べるが
    それはたんぱく源として チンパンジーを含む
    野生動物を狩って食べないと生きていけない
    アフリカの貧しい人々の姿と重なる。

    動物はそれぞれの微生物ワールドを持っているが
    それらを殺し 血液に触れ 食べることで
    他の生き物に取り込まれる。

    かつて 人間が家族と森で暮らしている時代は
    たとえウイルスに感染しても 
    その中で完結するので
    感染が拡大することはなかった。

    しかし やがて人間は森から草原に出て
    農耕を始めると集団が拡大する。
    火を使うようになり 動物の飼育も始める。
    他集団との関わりができると道ができる。
    やがて 移動手段が発達し
    人とともにウイルスは
    その住処を急速に拡大させていく。

    つまり文明の進歩こそが ウイルス感染を
    拡大させたわけだ。
    コロナ禍で「集まること」「人と接触すること」が
    禁じられ 警戒されている現状を見ると
    人間がもう後戻りできない危険ゾーンに
    入ってしまった絶望感を感じざるを得ない。
    環境問題も然り。

    ひとつ気になったのは ウルフ氏がウォッチしてきた
    国として中国が上がっていないことだ。
    今回の武漢での発生をどのようにかんがえているのか
    知りたいのだが 残念ながら
    そのような記事は見当たらない。

    だが先月のWIREDの記事にウルフ氏が登場している。
    「パンデミックから経済を守ることはできる。
     なぜそれができなかったのか」
    https://www.wired.com/story/nathan-wolfe-global-economic-fallout-pandemic-insurance/
    ウルフ氏は自身の試みが失敗に終わる可能性を
    認めているが めげずに
    これからも活動を続けてほしいと願うばかりだ。

    コロナ禍の最大の問題は
    「感染防止か経済か」に尽きるとも言えそうだが
    すべては自業自得。私たちが作りだしたものだ。
    バイオテロやバイオエラー
    (謝ってウイルスが研究所などから漏れること)の
    危険も常にあるという。
     
    研究者たちは今も
    アフリカや東南アジアで
    命をかけて現地調査を行っている。
    ウルフ氏も調査の中で
    3度もマラリアに罹ったという。
    その情熱と献身的な姿勢は感服の念に堪えない。
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    投稿日:2020.07.17

  • coffeephile

    coffeephile

    このレビューはネタバレを含みます

    新型肺炎のコロナウイルスのニュースで持ちきりなので、たまたま目に入った本書を読んでみたが、文句なしに面白かった。
    著者は、アメリカのUCLAの終身在職権の教授職を辞して、パンデミックを防ぐためのGVFなる組織を立ち上げた人物だ。

    なぜ、パンデミックは起こるのか。多くのパンデミックは人間とかかわりの深い哺乳類、とくに霊長類から種の壁を乗り越えてやってくるという。著者はもともと霊長類に興味があり、もともと霊長類の感染症から研究の世界に足をふみいれただけあり、チンパンジーの観察の話がでてくる。チンパンジーは、他の種の小さな猿を狩って捕食するのだ(ちなみに狩りをする類人猿はヒト、チンパンジー、ボノボのみで、系統的に少し離れたゴリラやオランウータンは狩りはしないらしい)。著者の眼前でおこったそれは、まさに微生物が種を超える絶好の機会だった。チンパンジーが、その猿の血液、体液や臓器と直に触れているのだ。
    実際、アフリカでは霊長類を含む野生動物を狩って食べる習慣がある。現在全世界に感染者がいるHIVも、その遺伝子配列から元を辿ると、ある2種の猿が持っていたSIV(Sは猿を意味するSimianのSで、HIVのHはhumanのHだ)にいきつくという。過去のある瞬間、その2種の猿を捕食したチンパンジーがおり、そこで2種のSIVウイルスが組換えを起こした。その組換えを起こしたウイルスはチンパンジーの間で広がり、やがてチンパンジーを狩った人間に血液を介して感染、やがて全世界に拡がっていく…。これが起きたのはまだ100年ほど前だと考えられている。つまり、今この瞬間も、未知のウイルスがヒトに飛び移っているのかもしれないわけだ。
    著者は、野生生物と接触する人たちを監視する(文字通り見張るというわけではない)ことで、パンデミックを事前に抑え込めると考えている。著者が行ったのは、アフリカのハンターたちの協力を得て、彼らの血液を集め、サルのウイルスに感染しているかを調べてみることだった。著者の予想は当たった。猿に感染するウイルスSFVは、ヒト以外の類人猿にそれぞれ固有の種として存在している(どうやらヒトは、進化途中で絶滅寸前まで個体数を減らしたことがあるので、そのときに、全個体が感染して免疫を獲得したことで、ヒトに特異的なSFVは消滅したと考えられる)。一般的にヒトには感染しないはずのこのウイルスに対する抗体を持つ人がアフリカのハンターに見つかったのだ。そして、ゴリラのSFVはゴリラを狩ったことのあるハンターだけから見つかったことから、狩りを通じてヒトに乗り移っていることはまちがいないだろう。また、ヒトに白血病を引き起こすウイルスHTLV1、2は、サルのSTLVに対応するが、ハンターの間では人では感染しないはずのSTLV3に感染している人がいることがわかった。さらにまだ未知のSTLV4に感染している人まで見つかったのだ。
    著者はこのような事例をあげ、監視が重要だと説く。それはウイルスそのものだけでなく、ソーシャルメディアの人々の発言や、薬の購買記録などからでも局所的なパンデミック(アウトブレイク)を察知できると説く。

    ここまで紹介するとウイルスはパンデミックを引き起こす恐怖の対象でしかないように思われるかもしれないが、著者は人間に対してメリットのある利用法にも触れている。あるウイルスはがん細胞に特異的に感染し、がん細胞だけを殺していく。人にひろく感染しているGBVというウイルスは病原性は認められていないものの、HIV感染者の寿命を延ばしている可能性があるという。

    訳者もあとがきで記しているが、ただウイルス感染症の話にとどまらず、ウイルスを利用する寄生バチの話題など、生態系を大きくとらえ、共生関係を興味深く描いている本書はとても興味深く、お薦めである。

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    投稿日:2020.02.11

  • racdog

    racdog

    パンデミックの話はそんなに頁を割いてないものの、類人猿の猿狩などいろいろ知らない知識が詰まっていて面白い

    投稿日:2013.05.28

  • Good1225

    Good1225

    ウイルスの人間への影響がとてもわかりやすく説明されている。HIVの歴史が比較的簡単な相互作用、中央アフリカでチンパンジーがサルを飼ったことがはじまりだと走らなかった。

    ウイルスは動物、人間を移動しながら繁殖していく。動物の身体では無害だったが、人間の身体の中に入ると、害を及ぼすこともあるみたいだ。動物を生で食べることの危険性がよくわかった。他の動物と接触することは、新しいウイルスが人間の身体に入る可能性を高くするのだ。複数のウイルスが身体の中で出会い、遺伝子を交換する機会を増やす。ウイルスが遺伝子を交換する方法は2つある。遺伝情報を直接変えること(変異)と、遺伝情報を交換すること(遺伝子の組み換えと最集合)だ。変異は、遺伝的に新しいものを作るための重要なメカニズムで、確実だがゆっくりしている。一方、後者の遺伝子組み換えと再集合は、まったく新しい遺伝的特質をすばやく得る能力をウイルスに与える。HIVは寄せ集めのウイルスだ。2種類のサルのウイルスが、ある時一匹のチンパンジーに感染して、体内で遺伝子組換えが行われ、HIVの祖先が生まれたのだ。

    深い内容がとてもわかりやすく説明されていてとても満足。
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    投稿日:2013.05.26

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