【感想】敵の名は、宮本武蔵

木下昌輝 / 角川文庫
(5件のレビュー)

総合評価:

平均 4.4
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  • 面白すぎる武蔵の話

     武蔵と戦い敗れ去った剣豪たちは数多い。本書は彼等の視点から見て、宮本武蔵の実像を語っているところがユニークである。345頁の長編であるが、読み易く天下無双の面白さのためか、あっという間に読破してしまった。

     著者の木下昌輝氏は、ハウスメーカーから脱サラしてフリーライターとなり、2012年に『宇喜多の捨て嫁』でオール読物新人賞を受賞している。また同作は直木賞候補になり、その他数々の文学賞も受賞している。
     さらに本書『敵の名は、宮本武蔵』でも、直木賞・山本周五郎賞・山田風太郎賞の候補作になっているという。

     本書は7つの話に分割されているのだが、決して時系列順ではないところが、本書のミソとなっている。まず鹿島新当流免許皆伝の有馬喜兵衛が、13歳の少年武蔵と戦うことになった経緯に始まる。
     そして第2章は、牛馬同然に売買され蔑まれていたシシド(吉川英治の小説では宍戸梅軒)が、鎖鎌の達人として山賊の頭領になり、武蔵により成敗されるまでの儚く悲しい物語となる。

     さらに第3章では4代目吉岡憲法こと吉岡源左衛門が、武蔵との試合を通して「憲法染」と呼ばれる黒褐色の染物を発明し、家伝の一つである染物業に専念するまでを描いている。このあたりは吉川文学には登場しないが、こちらの成り行きのほうが史実らしい。そして武蔵も憲法との戦いを経て、剛力だけだった剣に優しさを匂わせるようになるのである。

     その後武蔵は神道夢想流杖術の流祖である夢想権之助や、自身の弟子である幸坂甚太郎との戦いを経て、巌流津田小次郎との試合へと導かれてゆく。なお吉川文学の佐々木小次郎は架空の人物であり、古文書によると巌流島での決闘相手は、津田小次郎という年老いた剣士のようだ。本書は史実に沿って巌流津田小次郎として、架空の物語を創りあげているところが面白いのである。

     さて本書がさらに俄然面白くなるのはこの辺りからである。まず巌流津田小次郎の出自というか、その悲運に満ちた生涯に心が痛む。そして武蔵の父・無二のさらに悲しき生き方に遭遇し、ここではじめて本当は彼が裏の主人公であることを確信する。
     これだけでも、嫌というほど面白いのだが、このあたりで今まで少しずつ疑問に感じていた部分が、時間を遡って順次完全解明されてゆくのだ。まさにこれはミステリー小説の収束技法だと言っても良いだろう。それにしても、緻密に調査した事実をベースにしながら、これだけの嘘(創作)を捻り出した著者の力量は計り知れない。
    続きを読む

    投稿日:2021.01.12

ブクログレビュー

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  • きゃんた

    きゃんた

    刀剣家だけ集めたバキみたい。強者がどんどん出てくる感じがたまらない。飛刀の間やら、二刀流やら中二心をくすぐられる描写も多くもう一度読みたい。途中ストーリーがよく分からなくなる部分があるが、ラストで全て察されて驚かされる。続きを読む

    投稿日:2023.06.15

  • aiaitaro8

    aiaitaro8

    史上最強(であろう)剣豪宮本武蔵の小説。単行本を図書館で借りて読んで大興奮。文庫化されたので改めて購入し、再読。やはり面白かった。宮本武蔵の物語ではあるが、しかし、宮本武蔵その人を直接描くのではなく、宮本武蔵と立ち会った武芸者、鹿島新当流有馬喜兵衛、鎖鎌のシシド、吉岡憲法、巌流津田小次郎、父新免無二等の眼を通して宮本武蔵を語る。各編短編小説として、それぞれの武芸者の人生、壮絶な立ち会いの空気感を伝えて痛快。であるとともに、全編を通して新免無二の大河小説でもある。当初鬼のように恐ろしかった無二が苛烈に武蔵を鍛え奸計を用いて追い込んでいった事情が分かるにつれ、次第に同情、その末路が哀れで涙を誘う。それぞれ独立した短編として完成しつつ、細部で一編一編を繋げてみせる手腕が鮮やか。最後の黒猫の描写には舌を巻いた。木下昌輝見事!続きを読む

    投稿日:2022.05.07

  • wisteria0609

    wisteria0609

    武蔵自身を描かずに武蔵を描く。
    読んでいて、登場人物の苦悩や葛藤が伝わってきて、一緒に苦しくなった。良い作品だ。

    投稿日:2020.03.22

  • つぐみ

    つぐみ

    宮本武蔵の小説ですが、武蔵に負けた人間の視線のみで書かれていて面白い。
    本当に史実のアレンジが上手い作家さんであると毎度思います。

    投稿日:2020.03.15

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