【感想】生命科学クライシス

リチャード・ハリス, 寺町朋子 / 白揚社
(4件のレビュー)

総合評価:

平均 4.3
2
1
1
0
0

ブクログレビュー

"powered by"

  • yuifu

    yuifu

    医学生命科学における再現性の問題について、現場レベルの要因から研究者コミュニティの置かれた構造的要因まで幅広く分析した本。
    膨大なインタビューや文献調査に基づき、再現性のなさの原因だけでなく、再現性を向上させるための多様な施策についても紹介している。
    「だから医学・生命科学はダメ」という内容ではなく、きちんと研究を人類の未来につなげるための可能性を高めるための本。
    続きを読む

    投稿日:2024.03.17

  • ぽんきち

    ぽんきち

    生命科学・生物医学は現在、大きな発展を遂げ、その研究成果は社会に大きく貢献してきた。あるいは、してきたように見える。
    なるほど、生物の設計図ともいえるゲノムの解読は進み、新しい診断検査や治療法も生まれている。優れた薬や公衆衛生上のアドバイスも得られる。
    だが一方で、例えばアルツハイマー病や転移がん、ALSをはじめとする神経疾患の原因や治療については思うように研究は進んでいない。
    こうしたことの理由となっているかもしれないのが、本書で取り上げられる、生命科学研究全体の諸問題である。

    研究は科学雑誌に載ることで一定の評価を得る。
    だが、雑誌への掲載は研究の「正しさ」を必ずしも担保しない。
    多くの人に引用されるような影響力の大きな実験であっても、もう一度行って同じ結果が得られる「再現性」がない場合も実は多い。別の研究室で行う場合だけでなく、その研究を発表した研究室でさえ、再現できない例もあるのだ。
    これにはさまざまな要因がある。実験に用いられる細胞株が、元のものとは変わってしまっている場合。用いる抗体などの物質が、定義されている性質を持っていない場合。血清など、複雑な構成要素を持つ試薬のロットの違い。研究者自身が期待する結果に引きずられてしまう場合。
    再現性に問題がなくても、例えば細胞での結果を個体に適用できるのか、マウスでの結果はヒトでの結果に当てはまるのかという問題もある。
    統計処理の十分な知識がなく、解釈が誤っていると思われる例も多い。
    誤った論文の誤った結果を前提にして、さらに誤った研究が計画され、誤った結果をさらに生じることもある。
    研究不正など、明らかに意図的なものでなくても、「落とし穴」は数限りなくあるのだ。

    研究の難しさの根底には、生物自体の複雑さもあるが、生物医学研究の構造的な問題もある。
    研究は、多くの研究室によりそれぞれバラバラに行われる。各々独立した研究室が公的な資金をめぐって競争状態にある。また、個々の研究者もそれぞれ成果を上げなければよいポストは得られない。
    それにはなるべく多くの論文を書かねばならない。たとえ発表後に誤りに気が付いたとしても、それを認めればキャリアに傷がつく可能性もある。
    だがそうして誤った論文が撤回されなければ、誤りの上に誤りが築かれることになる。結果、疾患の解明など、真のゴールは遠ざかる。

    本書は、生命研究にかかわる絡まり合った問題を丁寧に解きほぐしていく。
    著者の丹念な取材あってのことだが、同時に、本書の執筆に関わった研究者たちの協力的な姿勢も印象的である。
    大部分の研究者は、不正やズルで利益を得たいわけではない。真実に近づきたいのだ。

    終章で2つの視点が提示される。
    1つは、雑誌に発表される多くの研究は、長期的に見れば誤りであること。それらの研究に価値がないわけではなく、それを議論することで先に進むことにつながる。結局のところ、生命研究は「得体のしれないもの」に向き合っているわけで、進むべき方向がわかっているわけではないのだ。そうした意味で、個々の研究者・研究室の個々の成果というよりも、大きな流れとして生命医学の解明に向かっていくという視点が大切であることになる。研究法の研究のようなメタな視点もさらに重要になっていくだろう。
    もう1つは、生命医学研究の進展を加速させるために、逆に、生物医学研究のペースを落とす必要があるのではないかという点。それにより、「量」よりも「質」を追求することが可能になるのではないか。
    いずれも一朝一夕で達成されることではなく、おそらくは制度自体の改変も必要になってくるのだろうが、著者の論調はどこか明るさも感じさせる。それはこの問題に携わる多くの科学者たちが、問題に前向きに取り組もうとしていることによるのだろう。
    続きを読む

    投稿日:2019.10.23

  • kkc06173

    kkc06173

    生物医学研究の危機=再現性の危機
    <原因>
    ・お粗末な実験計画(実は基礎研究に欠陥があった!)
    ・実験材料が悪い(培養細胞の汚染=誤認細胞株、他に効かないモノクロナール抗体)
    ・解析の誤り(バッチ効果=ノイズを意味あるものと誤認、pハッキング=統計的検定を繰り返す、ハーキング=実験を行ってからデータに合う仮説を立てる)
    <背景>
    研究競争が熾烈で、研究者に尋常ならざるプレッシャーがかかる。たとえ研究を手抜きしても、有名な雑誌に一番最初に発表した研究者のみが報われる。
    続きを読む

    投稿日:2019.10.14

  • honnyomimann

    honnyomimann

    このレビューはネタバレを含みます

    生命科学は窮地に追いやられている.
    それは故意/悪意があるようなものではなく,実験の厳密性/再現性が担保されない研究やちょっとのミス(例えば取り扱う細胞株の誤認)により台無しになる実験があまりに多いからである.


    ヒーラ細胞:研究室に群がる雑草

    pハッキング 

    HARKing

    探求研究と確認研究

    創薬は博打だというのがよくわかる.
    博打どころか,重箱の隅をつつくような(でも人類への貢献が大きい,例えば癌治療のような)研究プロジェクトで結果を出すことがいかに難しいかがわかる.
    実験用のマウスは同じ研究棟で厳重に飼育されていてもそのマウスが入っているプラスチックケースが光源に近いところにあるかどうかの違いだけで,ストレス→免疫に影響が出る
    特定のがん細胞を取り扱うためにシャーレでその細胞株を培養してもちょっとのミスで異物が混入したり,違う細胞株と取り間違えてしまい,挙げ句の果てには研究成果としてしまう.
    果てやP値ハッキングやハーキング(結果が出てから過程をコジツケる)という結果が欲しい研究者のバイアスも働く.

    生命科学に限らず,学術界全体が脆いシステムで動いており,悪貨(研究)が良貨(研究)を駆逐するということが起きているのではないか.
    複雑・高度化する研究内容,ライバルを出し抜いて少しでも早く論文にしようという手抜きや捏造にもつながりかねない悪いインセンティブ,発表論文に誤りがあったときに,それを取り下げることや過ちから業界全体の改善に役立てようとするインセンティブがない業界構造,予算確保

    現代の学術界だったらダーウィンの進化論は絶対発表されることはなかっただろう.

    レビューの続きを読む

    投稿日:2019.05.31

クーポンコード登録

登録

Reader Storeをご利用のお客様へ

ご利用ありがとうございます!

エラー(エラーコード: )

本棚に以下の作品が追加されました

追加された作品は本棚から読むことが出来ます

本棚を開くには、画面右上にある「本棚」ボタンをクリック

スマートフォンの場合

パソコンの場合

このレビューを不適切なレビューとして報告します。よろしいですか?

ご協力ありがとうございました
参考にさせていただきます。

レビューを削除してもよろしいですか?
削除すると元に戻すことはできません。